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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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浩太の強がり

「どうだった、浩太?」



電話を終え、テントを出て来た所で呼び止められる。

俯いていた顔を上げると、そこには先に電話を終え、外へ出ていたらしい祐樹が、期待と不安を浮かべた表情で俺を待っていた。

隣には杉崎先生も立っている。

そんな二人に、俺は苦笑いを浮かべながら首を小さく横に振ってみせた。

俺の仕草を見て、祐樹は「そっか」と小さく溜息を漏らす。と、気まずそうに一瞬顔を曇らせたのが分かった。



「祐樹、お前は? お前の方はどうだったんだよ?」



今度は俺が祐樹に聞き返す。

と、祐樹は更に気まずそうに――



「取れたよ、連絡。母さんも元樹も無事だって」

「本当か?」

「あぁ……。でも、福島の方は今、原発問題で大変みたいで、数日のうちに一度、福島からこっちに避難してくるって伝言が残ってた」

「そうか。……そうか、良かったな祐樹! 親父さんは? 親父さんの方は無事だったのか?」

「あぁ、父さんも元気だった。勤め先の病院が避難場所になってるらしくて、父さん、今もそこから動けずにいるんだって。それと今はガソリンが不足してて足がないから、暫くは迎えに来れないって伝言が残ってた。まぁ、あの人の場合、家族より患者さんが大事な人だから、患者さん達の状態が落ち着くまでは、たとえ足があったとしても息子の事は後回しにしてたんだろうけどな。取り敢えず、いつになるかは分からないけど、落ち着いたらこっちに来るって言ってたよ」

「そっか……お前の家族は皆無事か。本当に……良かった……良かったな、祐樹!」

「………あぁ」



嬉しいはずなのに、あまり嬉しそうじゃない祐樹の様子に俺は首を傾げる。



「どうしてそんなに泣きそうな顔してるんだ? 家族がみんな無事で、嬉しくないのか?」

「嬉しいよ。嬉しいけど……」

「けど?」

「お前は……まだ家族の安否が分からないままなんだろ? それなのに……俺だけ喜ぶのは……お前になんか申し訳ない気がして……」

「………ばっか、何言ってんだよ! 俺の事なんて気にすんな! 素直に喜べばいいんだよ!」

「でも……」

「俺だって、父さんと母さんに伝言残して来たんだ。きっとすぐに連絡取れるようになるさ。変な気なんて使うなよ。俺とお前の仲だろ」

「………そっか。……分かった」

「お、そろそろ配給が始まる時間じゃないか? 次はそっちの列に並ばなきゃだな。ほら、行こうぜ祐樹!」

「あ、あぁ……」

「ほら、早く来いって! もたもたしてっと置いてくぞっ!!」

「あぁ……」



異様な程はしゃぐ俺に、戸惑った様子の祐樹。

何が面白かったわけでもないが、俺は馬鹿みたいに笑ってみせた。

祐樹に変な気を使われたくなくて。

俺なりの、精一杯の……強がりだった。


これは単なる強がりだって、きっと祐樹にはバレてるいるのだろう。

けど祐樹や先生の前で、泣いたり、悔しがったり、みっともない所なんて見せられないと思った。

二人を困らせたくないと思った――


それに何より強がらなければ、気持ちが落ち込んでやっていられなかったんだ。

そんな精一杯の強がりが、逆に周りを心配させていたなんて事に気づきもしないで。



「先生、浩太の奴……」

「不器用な奴だな、あいつは。泣きたければ泣けば良いのに。泣いてしまった方が楽になれる事もあるのにな……」

「………」



***



その日の夜――

いつも以上に寝付けなかった俺は、隣で眠る祐樹を起こさないようこっそり俺達の寝床である3-2組の教室を抜けだし、真夜中の学校を一人さ迷い歩いた。

向かった先は、お気に入りのあの場所。

生徒会室。


別に何をするわけでもなく大好きなこの場所から、闇と静寂に包まれた俺達の町の変わり果てた姿を、ただボーっと眺めていたかった。

街灯も家の明かりもない町は、ただ真っ暗で、殆ど何も見えはしなかったけど……ただ俺は、ほんの一時でもいいから頭を空っぽにして、一人になりたかったんだ……。



暗闇と静寂だけが広がる空間。

俺だけが存在するはずの場所。

俺以外、誰も存在しないはずの場所。

その中で、不意に“ガラガラ”とドアが開く音がした。

ビックリして、俺は後ろを振り返った。

するとそこには――



「やっぱりここにいた」

「……真奈? ………どうしてここにお前が……」



ずっと会いたいと、待ち焦がれていた真奈が立っていて――



「浩太を探してたんだよ。何かあると、浩太はいつもここに来るでしょ? だからまたここにいるのかなって。進路に悩んでた時も、よくここに来てたもんね」

「…………バカ言え、探してたのは俺の方だ。何だよお前、やっぱり生きて……生きてたのか? ……良かっ」

「どっちも違う。正解は謝りに来た。でした。……ゴメンね。私のせいで恥ずかしい思いさせちゃって」

「………………真奈?」



聞き覚えのある台詞。

噛み合わない会話。

真奈が生きていたと喜んだのもつかの間、俺はこれが夢の世界なのだと悟った。

いつの間に眠ってしまったのか、俺はまた真奈の夢を見ているのだと。


真奈が俺に会いに来てくれたのか。それとも俺が会いたいと強く願っているせいか。

まぁ……今はどっちでも良いか、そんな事。

こうして真奈に会えるなら、真奈と話せるのなら何だって。

どうか夢なら覚めないで。

もう少しだけ、真奈との時間を楽しませてくれ。



だが、たとえ夢の中でも、俺の望みは叶いそうもなくて――



「安心して。浩太との腐れ縁も今日で終わりにするから」



真奈は再び俺から離れて行こうとする。



「ダメだ! やめろ真奈!」

「もう、浩太に話しかける事はしない。私と浩太はもう単なるクラスメート」

「やめろ。やめてくれ。それ以上は言わないでくれ」



あの日と同じように、どこか泣きそうな顔をしながらニッコリと微笑んで見せる真奈の姿にドキっとする。

この先に続く言葉は――



「バイバイ、浩太」



あの日と全く同じ台詞を小さく残しながら、真奈は俺の前から走り去って行く。

ここで彼女を追いかけなかったら、この先も本当に会えなくなる気がして、俺は慌てて真奈の後を追いかけ生徒会教を出た。

だが、出た先で俺は驚きに声を上げた。



「うわ〜?! 何だこれは!」



足元は膝の高さまでの水に浸かっていて、その水の流れは早く、上手く前へ進めない。

その間にも真奈の背中はどんどん遠ざかって行く。



「真奈、行くな。 行くな真奈っ! 頼むから戻って来い。頼むから……戻って来てくれよ……真奈! 真奈!!」



何とか離れて行こうとする真奈を呼び戻したくて、俺は水に足を止められながらも必死に叫んだ。



そんな自分の叫ぶ声に、俺ははっと目を覚ました。




ボーっとする頭で周囲を見回すと、そこは見慣れた生徒会室で。

すっかり太陽が登った空が目の前に青々と広がっていた。

太陽に照らされ、キラキラと輝く穏やかな海も広がっていた。


けれど……俺が好きだった、のどかな田園風景や、煙をはきながら海を走る船は、もうそこにはない。

この部屋で共に過ごした真奈の姿も。


変わらないものと、変わってしまったものを共に感じながら、俺は今まで過ごして来た何でもない日常が、実は凄く幸せな事だったのだと、ぼんやりする頭で思った。


だって……どんなにあの時間に戻りたいと願っても、戻ってはこないのだから。

一度壊れてしまったものは、そう簡単には戻らない。この数日で嫌と言う程思い知った事。


ならば、俺達があの日常に戻れるのは、一体いつになってからなのだろう。

本当に戻れる日は、くるのだろうか。

夢から覚めて、俺は言い様のない不安に襲われた。



地震から一週間経った。

そんなある日の朝。


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