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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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浩太の決断

「そう言えば、じいちゃん達は?」


祐樹との会話が一段落した頃、ふと辺りを見回した俺は、何故か昨日一緒に寝たはずのじいちゃんとばあちゃんの姿がない事に気付いて、祐樹に訊ねた。



「源じい達はまた医務室に行ってるよ」



そう祐樹が答えたタイミングと重なって、後ろから「浩太」と聞きなれた声で呼ばれた。

振り返るとそこには、焦った様子でこっちに向かって走ってくるじいちゃんの姿があって――

何かあったのかと胸騒ぎを覚えた俺は、急いで立ち上がるとじいちゃんの元へ駆け寄った。



「じいちゃん、どうしたの、そんなに慌てて」

「実はばあさんの容態が芳しくなくてな」

「えっ?!」

「糖尿病の影響で、腎臓の機能が著しく低下しているらしいんじゃ。それでな、先生が自衛隊の人と相談したら、ばあさんを県外の病院まで運んで貰える事になった!」

「本当に!?」

「あぁ。他の患者と一緒にうちのばあさんも運んでくれるって」

「じゃあ、ばあちゃんこれで助かるんだね!」



じいちゃんからもたらされた思いがけない朗報。

俺は飛び跳ねる勢いで喜んだ。



「あぁ、助かるとも! それでだ。わしも付き添いで行く事になったんじゃが――」

「え?」

「浩太、お前も来るか? わしらと一緒に来るか? 浩輔と京子さんが行方不明の今、孫のお前一人をここに残して行くわけにもいかんだろ。自衛隊の人にはもう話はつけてある」



だが、次にじいちゃんからなされた提案に、喜びも忘れて俺は言葉に詰まってしまった。

じいちゃん達について行くと言う事は、この町を離れると言う事で――

俺はいつの間にか隣に立っていた祐樹を、ちらりと見た。

そしてゆっくりと首を横に振った後、真っ直ぐにじいちゃんを見て、自分の気持ちを正直に伝えた。



「俺は……ここに残るよ。行方不明になった父さんと母さん、それに友達を置いては行けない。俺はここで父さんと母さんを探すよ」

「………そうか」



俺の出した答えに、じいちゃんは一瞬寂しそうな顔をした。けれど、決して反対する事はなく、自身を納得させるかのように小さく何度も頷いていた。



「うん。じいちゃんは、ばあちゃんの側にいてあげて。ばあちゃんを側で守ってあげて」



じいちゃんを心配させる事なく送り出そうと、俺は精一杯の笑顔を作ってみせる。

すると、そんな俺の頭にじいちゃんのシワだらけの手が伸びてきて、ゴツゴツと骨張った手で俺の頭をクシャクシャに撫で回した。

ついでに俺の隣に立つ祐樹の頭も。



「いて、いててて、痛ぇよじいちゃん」

「源じい~、何で俺まで?」

「知らない間にお前二人、大きくなりやがって!」



じいちゃんはシワだらけの顔を更にしわくちゃにして、嬉しそうに笑っていた。



「浩太、父さんと母さんの事、頼んだぞ」

「あぁ」

「祐樹、浩太の事、頼んだぞ」

「任せて」

「っておい、じじい。何で祐樹に、んな事頼むんだよ。祐樹も何が任せてだよ。別に俺は自分の面倒くらい自分で見れるっつの」

「何言ってんだか。寂しがりやの浩太が。今朝だって泣いてたくせに」

「そうなのか?」

「う、うるせぇ、泣いてねぇよ! 黙れ祐樹! 別にじじいと離れたところで寂しくも何ともねぇ!」

「嘘つけ。源じい達と離れたら、寂しさにたえられなくなって、また隠れてしくしく泣くんだろ。そん時は俺がまた慰めてやるよ。はいはい浩太ちゃん、寂しくないから泣かないでね~って」

「祐樹、てめぇ~っ!!」



すっかりいつもの調子を取り戻した俺と祐樹のやり取りを見ながら、じいちゃんは更に豪快に笑った。



「じじい、笑い過ぎだ! 不思議がって皆こっち見てんじゃねぇか。恥ずかしいからもう笑うな!」



公民館の体育館で、共に避難生活を送る人達の視線が、さっきから俺達の元に突き刺さって痛い。



「もう良いって。もう俺達の事は心配しなくて大丈夫だから、早く行けって」



恥ずかしさに堪えかねて、俺はじいちゃんの背中を無理矢理に押しやって、急いで体育館を出て行った。


外に出ると、公民館のガランと広い駐車場に、ヘリコプターが一台、止まっている姿が目についた。

近付いて行くと、昨日ばあちゃんの診察をしてくれていた医者と、迷彩色の服に身を包んだ自衛隊員が、真剣な表情で話し合っていて、じいちゃんは迷う事なくすっとその輪の中へと入って行った。



「お待たせしました。付き添いはわし一人と言う事で」

「お孫さんは宜しいのですか?」



自衛隊員の一人がじいちゃんと話をしながら、少し離れた場所にいた俺の方をチラリと見る。



「孫は、本人の意思でここに残して行く事にしました。両親を残しては行けないと」

「……そうですか。分かりました。では佐々木さん、こちらへ。しのさんは既に乗って中でお待ちです」

「はい」



けれど、すぐに視線は外れて、じいちゃんをヘリコプターの中へと案内して行ってしまった。

暫く会えなくなるだろうじいちゃんの後ろ姿を、俺は目に焼き付けるかのようにじっと見つめた。

見つめながら、ふと気がつくと俺は、一歩、二歩、足を前に進ませていて、じいちゃんを誘導する自衛隊員の人に向かって叫んでいた。



「あ、あの、ばあちゃんとじいちゃんの事、どうか……どうか宜しくお願いします」と。



俺の声をかき消すように、ゆっくりとプロペラが音を立てて回りだす。



見えなくなったじいちゃんの姿に、最後の俺の言葉は届かなかったかと肩を落とした時、不意にじいちゃんをヘリコプターへと案内していた歳若い自衛隊員の人が、くるりとこちらを振り返って、俺と祐樹に敬礼して見せた。



「おい浩太、お前の声、ちゃんと届いてたんじゃないか?」

「……あぁ。届いた……のかな?」

「きっと届いたって。ほら早く、お前も敬礼し返せって」



急かす祐樹と共に、俺達も慌てて敬礼する。

大きな音と、風を巻き起こしながら、じいちゃん達を乗せたヘリコプターはゆっくりと上空へ登って行く。

そして、青い青い空を西へ向かって飛んで行く。

俺達は敬礼し続けたまま、ヘリコプターが見えなくなるその時まで、真っ青な空を見送り続けた。






「さて、そろそろ帰るか、浩太」



どのくらいの時間が経った頃だろうか。

空を仰ぎ見続け、首がすっかり痛くなった頃、隣に立つ祐樹が、ぽつりと一言そう呟く。



「あぁ、帰るか」



祐樹の提案に返事をすると、俺達はどちらからともなく歩き出した。

今の俺達の帰る場所――

学校へ向けて。


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