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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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わずかな希望


――その日の夜

俺は久しぶりに深い深い眠りに落ちた。

そして夢を見た。

真奈の夢。


地震が起こったあの日、昇降口で見送った、あの時の真奈の後ろ姿。

俺から離れて行く真奈を追いかけて、追いかけて、追いかけて――


彼女に向かって、「行くな」と必死に叫んでいた。


けれど、真奈との距離はどんなに走っても縮まらなくて、それどころかどんどんとひらいて行く。



「行っちゃダメだ! 行くな真奈っっ!!」



焦りから今一度大きな声で叫ぶ俺。

そんな俺の声に、真奈は不意に立ち止まったかと思うと、俺の方へと振り返った。

そして、あの日と同じようにニッコリと俺に向かって微笑みかける。



「真奈っ!」



真奈の見せた笑顔に、俺は必死に手を伸ばした。

あぁこれでやっと、やっと真奈を捕まえられると思った瞬間――


俺は夢の世界から目を覚ました。



「はよ、浩太。久しぶりに良く眠れたか? どうやら桜井の夢を見てたみたいだな」

「…………祐樹」



目を覚ました俺を、祐樹が穏やかな顔で見下ろしていた。



「何度も桜井の事呼んでたぞ。でも、大分うなされてもいた。大丈夫か?」

「あの日の……最後に真奈と別れた日の夢を見た」

「……そうか」

「昨日さ、じいちゃんから母さんが津波の中、父さんを助けに戻ったって話を聞いて、やっと辿り着いたんだ。前にお前が言ってた答えってやつに」

「……そうか。それで? 頭の良いお前がずっと解けずにいた問題の答えは何だった?」

「俺、あいつの事好きだったんだな」



俺が口にした答えに、祐樹は呆れた様子で大きな溜息をついた。



「正解。でも遅すぎだ馬鹿」

「本当にな。失って初めて気付くなんて」

「……」

「夢の中でさ、俺から離れて行くあいつを、俺は必死に呼び止めたんだ。あの日俺があいつを引き止めてたら、もっと違った今があったんじゃないかって、俺の心の何処かにずっと蟠りがあって。そのせいなのかな、あんな夢を見たのは。でも、夢の中でも俺は、結局あいつを引き止める事はできなかった。あの日みたいに真奈は笑って俺から離れて行くんだ」

「そうか……」

「もしかしてあの夢って……真奈が俺に別れを言いに来たのかな? やっぱり真奈はあの津波に巻き込まれて――」



それまで、相槌をうちながら俺の話を聞いてくれていた祐樹からの返事がない。

重苦しい空気が俺達を包んだ。



「………らしくないな」

「……え?」



暫の間をあけて、祐樹がゆっくりと口を開く。



「桜井が好きになったお前は、どんな状況でも馬鹿みたいに元気で、馬鹿みたいに自信満々で、絶対に諦めるって事をしない、馬鹿がつく程前向きな奴だったと思うんだけど?」

「……」

「ほら、運動会の時だってさ、先生達が絶対無理だって言い張った他校との合同開催を、生徒会長として粘り強く交渉して実現に漕ぎ着けたじゃないか。それに文化祭の時だって――」

「あの時とは状況が違うんだ! この状況下で前向きになんて考えられっかよ」



祐樹の言葉を遮って、俺は怒鳴った。

怒鳴るつもりはなかったが、予想外に大きな声になって、結果的に怒鳴ってしまった。

けれど祐樹は、怯む事なく真っ直ぐに俺の目を捉えて、俺を励まし続ける。



「考えられるさ。だって桜井がお前の夢に出て来たんだろ? 夢でお前に会いに来たんだろ? それは今も桜井が何処かで生きてて、お前に会いたがってるからじゃないのか? 俺ならそう思うけど」

「……そんなわけ……」

「あるさ。浩太はこんな話聞いた事ないか? 夢は人の願望を映し出す鏡だって。誰かを恋しく想っていると、人は恋しいその人の夢に幻となって現れる事があるって。夢に見知った異性が出て来たとしたら、その人物が強く自分を恋しがっている証なんだって」

「夢が人の願望を映し出す鏡って言うならさ、俺が真奈の事を考えていたから、だから俺の願望が俺の夢に反映されたって、そっちじゃないのか?」

「確かに、その可能性もあるよな。だとしても、俺はお前が羨ましいよ」

「羨ましい? どうして。女々しいの間違いだろ」

「羨ましいさ。だって、俺の夢に桜井は現れてはくれない。どんなに無事を祈ってみても、どんなに会いたいと願ってみても、俺の夢に桜井が出て来てくれる事は、まだ一度もないから」



寂しそうにそう漏らす祐樹。

祐樹の横顔が切なげで、やけに色っぽく見えたものだから、俺はずっと抱いていた疑問を改めて投げ掛けてみた。



「やっぱり祐樹は、真奈の事――」

「あぁ、好きだよ」



こっちが拍子抜けする程あっさりと白状する祐樹。



「いつから? お前はいつから真奈の事が好きだったんだ?」

「転校して来た初日から。一目惚れだった」

「おま……そんなに前から真奈の事好きだったのか?俺、全く気付かなかったぞ」

「まぁな。あとさ、桜井って俺と同じ片親だろ。小さい時に親父さんが亡くなって」

「あぁ、そう言えば、そうだったな」

「同じ片親同士だからか、転校生したばかりの俺の事をよく気に掛けてくれてさ、あぁ優しい子だなって、気付けば良く目で追うようになってた。だから俺は全部知ってたよ。桜井がお前の事好きな事も。お前が桜井の事好きな事も。当の本人達は全く気付いてなかったけどな」


そう言って祐樹は小さく笑う。



「気付いてたって……どうしてお前にそんな事が判んだよ」

「だから言ってんじゃん。桜井の事ずっと見てたって。彼女を見てたら必然的にお前の事も視界に入って来たんだ。お前らじれった過ぎて見てるこっちが疲れたよ。見るからにお互い好きあってるのに、どうしてその気持ちに気付かずにいられるのかって、ずっと不思議で仕方なかった」

「……それは」

「ま、お前ら似た者同士だったからな。見てて面白かったけど」

「お前なっ!」

「桜井もさ、お前を好きだって自覚したのは最近なんだぜ」

「え?」

「覚えてないかな。浩太が桜井にさ、『俺の事好きなんじゃないか』ってからかって、ビンタ喰らった事あったろ?」

「……あぁ、あったあった。今でも忘れない。あの時のビンタは強烈だった」

「あの時の浩太の言葉が、桜井が自分の気持ちに気付くきっかけになったんだ」

「んなバカな。本当に強烈なビンタをお見舞いされてんだぞ。そもそも、何でそんな事お前に分かんだよ」

「だから! 何度も言ってるだろ!! ずっと見てたからだって。あの後、あからさまにお前への態度が変わってたんだ。逆にお前が気付いてなかった事の方が俺としてはビックリなんだけどな」

「そう言われれば……確かに急によそよそしくなってたよう……な?」

「ほらな。そうやって鈍い所もそっくりだ。俺がどんなに桜井にアタックしても、全然気付いて貰えなかった。お前も桜井に好きだって面と向かって言われても、それでも自分の気持ちに気付かないし」

「う゛っ…………」

「バレンタインからのお前の態度は本当に腹が立って仕方なかったよ。本気で桜井の事奪ってやろうかと思った」

「…………う゛ぅ」

「でも……」

「? でも?」

「津波で町が襲われた時、教室を飛び出して行ったお前の姿を見て、あぁ、やっぱ俺には敵わないなって思った」

「? どうして?」

「俺はあの時、怖くて動けなかったから。見た事もない光景に足がすくんで、安全な場所から一歩も動く事ができなかった。あの日俺は、やっぱり浩太には敵わないんだって思い知らされたよ」

「……………」

「だからさ、悔しいけど俺の桜井への想いは、浩太の足元にも及ばない。桜井もお前の事しか目に入ってはいなかった。お前の夢に桜井が出て来たって言うんなら、きっとそれには何か意味があるんだよ。そんな津波に巻き込まれて、死んだんじゃないかなんて諦めんなよ」

「……あぁ、そうだな。あいつはきっと生きてる」

「生きてるさ。何処かできっと。お前と桜井の腐れ縁は、こんな事であっさり切れるような柔なものじゃない。俺はそう信じてる」

「俺も、信じるよ。真奈はきっと、生きてここに帰って来るって」



あの夢は、絶望なんかじゃない。

きっと希望なんだって、俺は信じる――



俺達は互いに笑いあった。


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