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15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く  作者: 汐野悠翔


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不安な日々

夜になった。

結局その日俺達は、帰宅を許されぬまま今も学校へ留まっている。

学校には他にも、町から学校へと避難して来る人達で溢れかえっていて、先生達はその対応に追われ忙しそうに動き回っていた。

避難して来た人の中には、この中学に通っている生徒の家族もいて、再会を喜ぶ親子の微笑ましい姿も度々目にした。

だが、半数以上の生徒が親との再会を果たせないまま、不安な夜を迎えている。

俺もまた、例外ではなく――

夜になっても未だ家族の安否を確認出来ずにいた。



「浩太、おじさんとおばさんいたか? 連絡は取れたか?」

「いや、まだ見つけられてない。携帯も通じない。祐樹は? おじさんと連絡取れたか?」

「こっちもダメだ。こっちも携帯は繋がらないし、体育館と1年の教室は全て回ったけど見つけられなかった」



そして祐樹もまた、家族と連絡が取れない一人で、俺達はお互いに協力しあって、お互いの家族を探していた。


町からの避難者で溢れかえる学校は今、本来ならば明日卒業式の会場になるはずだった体育館を始め、1年から3年、全てのクラスが避難所として解放されていて、それら全ての場所を祐樹と二人、手分けして回ったのだけれど、結局俺の家族も祐樹の家族も、それから真奈と真奈のおばさんも、見つける事は出来なかった。



「そっか。お前の方も見つけられなかったか」

「…………」

「………」



俺達はどちらからともなく小さなため息を漏らした。



「…………父さんも心配だけど、母さんと元樹(げんき)が心配だ。福島の方も大分被害があったって噂で聞いたからさ」



ため息と共にそんな不安も漏らした祐樹。



「元樹って前に言ってた8つ歳の離れた弟か?」

「あぁ」



祐樹の家庭は少し複雑で、実は祐樹は2年前に福島からこの町に引っ越して来た転校生だった。

親の離婚をきっかけに、祐樹は親父さんに、弟の元樹はお袋さんにそれぞれ引き取られた。

だから今は兄弟離れ離れに暮らしている。

それでも祐樹は、歳が離れているせいか弟をとても可愛がっていて、親が離婚した後も月に一度は弟に会いに福島へ遊びに行っているらしい。

面倒見の良い祐樹だけに、きっと今、弟の事が心配で仕方がないのだろう。



「海からは離れてるから、津波の被害は多分大丈夫だと思うんだけどさ、元樹はまだ小さいから、地震を怖がって一人で泣いてるんじゃないかって心配なんだ。母さんも今日は仕事だっただろうし、二人は無事会えてるのかな……」



携帯を握りしめながら不安を吐露する祐樹。

いつもどこか冷めていて、クールで大人びたイメージが強いから、こいつのこんな切羽詰まった所なんて、今初めて見た気がする。

何て声を掛けたら良いのか、気の利いた言葉も思い付かないまま、俺は率直な感想を祐樹に伝えた。



「本当にお前、弟が大好きなんだな」

「悪いか」

「いや、褒め言葉だよ。無事だといいな。みんなみんな、無事だと良いな」

「あぁ……」



その後、俺と祐樹はそれ以上言葉を交わす事はせず、学校に避難してくる人の列を、ただじっと見つめ続けた。




***



だが現実は残酷で――

どんなに無事を願ってみても、結局地震から3日経った今も、俺と祐樹は家族との再会を果たす事は叶わっていない。

それどころか、未だ安否すら分からない状況が続いている。


真奈とも、卒業式前日に昇降口で別れたの最後に、会う事は叶っていない。

約束は果たされる事なく、あいつにホワイトデーのプレゼントを渡せないまま3月14日が無情に過ぎて行く――



3日が経過してもなお、事態は良くなってはいない。それどころか日を増すごとに悪くなっていく状況に、俺達は精神的に追い詰められていた。


一番の問題は、食べ物だろうか。

1日の間に食べ物を口に出来るのは、朝と夜の二回だけだ。それも赤ん坊の握り拳程の大きさしかないおにぎり一つだけ。

そして空腹に更に追い討ちをかけるように、地震発生以降、まるで冬に逆戻りしたのではないかと思う程の厳しい寒さが続いていた。

地震の影響で電気は絶たれ、暖を取る道具は数台の石油ストーブだけ。あとは配布された毛布でどうにかこうにか暖をとっている状況だ。

しかも配布毛布は数に余裕がなく、3人で1枚を使っているような状態で。


精神的にも肉体的にも追い詰められた俺達にとって、地震から身を守ってくれたはずのこの鉄筋造りの校舎の床は、底冷えする程寒く感じられた。


それから、地震の日から毎日のように続く余震もまた、俺達の心を弱くさせた。

たとえどんなに小さな揺れであっても、あの日の恐怖が蘇って、気の休まる日がない。


空腹、寒さ、恐怖、不安。

それら様々な要因が邪魔をして、夜になってもまともに眠る事はかなわない。

正直体は悲鳴を上げている。

それでも贅沢など言えなくて――


だってここの避難所は避難者が多かったためか、すぐに自衛隊が駆け付けてくれたのだから。

おかげで支援物資が一日に一度は必ず届けて貰えている。ラジオで耳にする“孤立した避難所”の事を思えば

、恵まれている環境に感謝しなくてはいけないのかもしれない。


そう頭では理解できても、実際には心がついて来てくれなくて、今まで経験した事のない過酷な生活に、この3日間俺は、何度となく弱音を吐きそうになっていた。



辛い現実から逃げるように、俺はいつからか一人で生徒会室へと入り浸るようになっていた。

まるで自分の殻に閉じ込もるかのように。


ここから見える田舎の田園風景が好きだった。

晴れた日に遠くに見える海が好きだった。

真っ青な海に漁船が煙を吐きながら泳ぐ姿を見るのが好きだった。

でも今は、田んぼも家建物も、全てが津波で流されて、一面何もない風景がどこまでも広がっている。

それはまるで、テレビや学校の教科書でしか見た事のない戦争後の焼け野原のよう。


でも戦争では、人の手によって何年もかけて破壊された風景だったはずなのに、自然はほんの一瞬にして破壊してしまったのだから、どう足掻いても自然には太刀打ち出来ないのだと言う人間の無力さを思い知らされる。


この景色を眺めていると、自分の存在がいかにちっぽけかと言う事を思い知らされて、心が段々空っぽになって行くのを感じた。

このまま心が空っぽになれば、苦しいって感情も、悲しいって感情も、寂しいって感情も、無くなっていくのかな?

もし感情が無くなれば、こんなに辛い思いをしなくてもすむのかな?

俺はぼんやりと、そんな事を思った。

なら俺は、このまま何も感じず、何も考えず――



「死にたい」



自分が口にした言葉にはっとする。



「俺今、何を考えた?」



俺はこんなにも弱い人間だったかのか?

今まで知らなかった自分の弱さに触れて、俺は無性に悔しくなった。

悔しくて、ギュッと唇を噛み締めた。



と、その時――

“バタン”と大きな音を立てて、生徒会室のドアが勢い良く開け放たれる。



「浩太っ!!!」



と同時に、慌てた様子で教室に駆け込んで来た祐樹。



「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

「見つかった!」

「? 何が?」

「源じいが、見つかったんだ! しのさんも一緒だって!!」

「…………じいちゃんと、ばあちゃんが? 本当か祐樹?!」

「あぁ! 杉崎先生が、近くの避難所を駆けずり回って探してくれたんだよ。お前のじいちゃんとばあちゃんは公民館にいたって!!」

「……っ!」



自分の事のように嬉しそうに知らせてくれる祐樹。

そんな祐樹の言葉に俺は、一目散に走り出していた。



「待てって、俺も一緒に行く。源じいとしのさんに会いに行くよ!」



俺と祐樹は二人で、学校から約800m東に離れた公民館目指して、瓦礫でぐちゃぐちゃになった町の中を夢中で走った。

やっと届いた家族の安否情報に、逸る気持ちが抑えられない。

さっきまで、感情を殺したいと思ってしまった自分が情けなく思えた。


嬉しいって感情を忘れなくて良かった。

嬉しい気持ちが胸のもやもやを――

不安な気持ちを――

一気に吹き飛ばしてくれたから。


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