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アンチゲノム・レコード  作者: 智二香苓
第1章 二人の旅人
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第5話 強引な宿泊

 マルカ村に戻る頃にはすでに周囲は夕闇に呑まれ、民家の一つ一つに明かりが灯っていた。昼間あれだけ賑わっていた住民も今は帰宅し、どこの家庭も夕飯の支度をしている。

 コーランを家に送ると再び村長が出迎えてくれた。玄関口で対峙していると、部屋の中からは温かなシチューの香りが漂い、三人の食欲をそそる。


「お、やっと戻られましたか。随分と長い間外にいられたようで。ささ、中へどうぞ。小さい村とはいえ、ずっと歩き回られて疲れたでしょう」

「え? あ、いえ、そんな悪いですよ。私たちはコーランを送り届けに来ただけで。それにもうお夕飯なんじゃないですか? 私たちはお邪魔では……」


 室内を促されるとシアは胸の前で両手を振って遠慮した。

 しかし村長は食い下がる。


「まあまあ遠慮しないでください。お茶くらいお出ししますよ」

「いやでも——」

「あら。もしかして、この人たちがコーランを魔獣から助けてくれた人たち?」


 シアが対応に困っていると、中から新たな声が響いた。

 現れたのは村長と同じくらいの年齢の女性だった。エプロン姿のまま片手には調理器具を持ち、おっとりした口調でこちらに来ると、村長に問いかける。


「おお、イルゼか。そういえば昼間は買い出しでいなかったな。紹介しよう。こちら、ルクスさんとシアさんだ。お二人とも、これはうちの家内です」

「あ。始めまして、シアと申します」

「どうも」


 村長がイルゼを示すとルクスは会釈し、シアは丁寧に頭を下げた。イルゼは初めから二人が気に入っているようで、朗らかな笑みを浮かべてお辞儀をする。


「お話は主人から伺っております。コーランを助けていただきありがとうございました。こんなところで立ち話もなんですし中へどうぞ。コーラン、お二人を案内してあげて」

「はーい」


 コーランに伝えるが早いか、イルゼはそそくさと奥へ戻っていく。

 すでに中に引っ込んだイルゼに、シアは断るタイミングを完全に失った。コーランも期待の眼差しでこちらを向き、二人が家に上がるのを待っている。


「えっと……では、お言葉に甘えて」


 退路を塞がれるとシアは折れた。言われるがまま二人は室内にお邪魔する。ルクスは初めからこうなることを見越していた様子でシアに続いた。


「ところでお二人は、今夜どこに泊まるか決まっていますかな?」


 席を促しながら村長は聞いた。ふとシアは窓を見る。

 夕日はすでに沈みきっており、外は夜に染まっていた。シアは困り顔で首を振る。


「あーそれがまだ決まってなくて。これから宿を探そうかなーと——」

「では、うちに泊まられてはいかがでしょう?」

「へ?」

「あら、それはいい提案ね。丁度使ってないお部屋もあることですし」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」


 不自然なほど急速に進む話の展開にシアは声を荒げると、思わず立ち上がった。だが村長とイルゼは不思議そうに首を傾げると、きょとんした表情で問いかける。


「どうしました、そんなに慌てて? なにか不都合でもありましたか?」

「いや、不都合っていうか……。そこまでしてもらうのは悪いですよ。それにもう夕食もできちゃっているみたいですし、人数も……」

「大丈夫よ、こんなことになるだろうと思って多めに作っておいたから」

「でも……」

「では頂くとしよう」

「え、ちょ、ルクス!?」


 シアがどう断ろうか苦戦していると、ルクスがそれを遮って返答した。驚くシアをよそに村長とイルゼは顔を輝かせると、いい返事を聞けて心底歓喜する。


「ええ、それがいいです。外もこれからどんどん暗くなることですし」

「さあさあ、シアさんも席に着いてください。今お夕飯を準備しますからね。コーラン、ちょっとこっちにいらっしゃい!」

「なにお母さん?」


 呼ばれてコーランがタオルで手を拭きながら洗面所から出てくる。どうやら手洗いとうがいをしていたようだ。母親の方を見て首を傾げる。


「ルクスさんとシアさん、今日うちに泊まることになったから、お部屋の方をお掃除しといてもらえる?」

「ええ! そうなのっ? 今日泊まるんですか!?」


 母の言葉にコーランは興奮気味に父親の方を向くと、次いで二人に顔を向けた。

 一人話について行けないシアが返答に困っていると、代わりにルクスが首肯する。


「もうこの時間だと宿も取れないだろうからな。一晩泊めてもらってもいいか?」

「もちろん大歓迎です! あ、それじゃあ部屋片づけるので待っててくださいっ」


 言うが早いか、コーランは二つ返事で承諾すると、早速別室に向かって走って行った。それほど二人のことを気に入ったということなのだろう。


「……」


 誰もが現状を受け入れる中、ただ一人、シアだけが不満げな視線をルクスに送っていた。

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