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三人娘の異世界メンテナンス紀行 〜旅と出会いと時々ダンジョン〜  作者: 紀美野ねこ
魔導都市リュケリオン

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幕間:魔法世界のコーディング規約:4

【魔導都市リュケリオン】


 首都イコール国という都市国家。戦略ゲームならワンシティーチャレンジ(OCC)な国。

 千年都市と言われているが、実際にはまだ八百年ぐらいらしい。その建国の父とも言えるのが、土の賢者リュケリオンで、そこからそのまま国名、都市名となったそうだ。


「リュケリオンは大柄でガサツな男だったが情に厚いやつでな。我もロゼも奴の頼みだけは断れなくてな」


 リュケリオン建国の数年前。グラニア帝国は一つの転換点を迎えていた。

 賢王と名高い王が病気のため壮年で亡くなり、若い第一王子が新たな国王となったのだが、即位後すぐに国教を彩神教から暗黒教に改宗。そして周辺諸国へのいきなりの侵攻。

 若き王だけの暴走ではなく、筆頭宮廷魔術士ヘルト=ゲフナーをはじめとした新王の信奉者によってグラニア帝国は豹変した。

 暗黒教への改宗を拒否する勢力は徹底的に弾圧され……さっきダンジョンコアが見せてくれたような非道な行いがなされていたそうだ。


「我が住んでおった妖精の森もその侵攻で焼かれてな。その時に一族を助けてくれたのがロゼよ」


 かつて大陸の西にあった大きな森。その一部に住んでいたフェリア様たちは徹底抗戦のつもりだったらしいけど、ロゼお姉様の説得で今のリュケリオンの北西にある森に逃げたらしい。

 以降、フェリア様はロゼお姉様と行動を共にする。


「グラニア帝国って、結局、内戦で崩壊したって習ったけど?」


 私の右腕を抱え込んだままだったルルが唐突に聞く。

 ちゃんと話聞いてたのね……


「うむ。その内戦に持ち込んだのが土の賢者リュケリオンよ」


 賢王と呼ばれた前王に仕えていたリュケリオンは、新王の豹変にいち早く気付いて帝都を脱出。

 辺境領を巡って新王に対しての反抗と持久戦を呼び掛けた。


「地味だけど効果的ですね。全方位で戦闘してると補給が続かなくなるし。それにしても、よくそれを各地の領主が了承しましたね」


「あやつの人望……と言いたいところだが、実際、新王の要求は改宗だけでなく税の増額など酷かったからの。それに辺境領はほとんどが過去に帝国に併合された地。そのくびきを逃れて再び独立できるとなれば協力もしよう」


 中国のことわざ『合従連衡(がっしょうれんこう)』っていうのを思い出す。

 あれは合従策が六つの国で秦に対抗するんだっけ? それを崩したのが連衡策?


「えーっと、魔導都市リュケリオンはその時に?」


「うむ。土の賢者リュケリオンと志を共にする魔術士が集まったのがこの地。元は魔術士の塔と呼ばれるダンジョンをロゼが勝手に占拠していたのだがな」


 勝手に占拠って……。まあ、ロゼお姉様ならやりそうではあるけど。


「そういうことなら手を貸すって話になったと?」


「手を貸すというよりは、ロゼからの提案だったな。場所的にも良かろうと」


「場所的に?」


「隣国のテランヌ公国——旧グラニア帝国テランヌ領は帝国の食糧庫と呼ばれた場所。そこを常に戦場として戦い続けたのだ」


 なんという効果的な嫌がらせ……


「ちょっかいを出して、攻めてきたら篭るって感じですか……」


「左様。それだけで奴らは自分の首を自分で絞めるからの」


「それで食糧難になって自壊した?」


「ああ、潜伏していた第三王子を神輿としたクーデターで呆気なく……見かけ上はな」


 うん、まあ、裏でいろいろあったんだろうとは思う。

 前世でも綺麗に決まったクーデターなんてものは記憶にないし、その後始末がまた大変だったに違いない。


「で、リュケリオンはそのまま国になったと?」


 ディーが続きを急かす。


「うむ。土の賢者リュケリオンを頂点とし、ロゼと我はあくまで相談役。二人ともまつりごとになんぞに興味はなかったからの」


 ふーむ、それなら何でロゼお姉様がそこまで魔術士ギルドを嫌いになったのかがわからない。


「まあ、上手く回っておったのはリュケリオンの理念が続いておった頃までだな……」


 フェリア様が私の肩を離れ、今度はディーの頭の上にあぐらをかいて座る。

 そして大きく一つため息をついて、その後のことを話し出した。


 ………

 ……

 …


「つまり、土の賢者リュケリオンの『魔術士は道具であってはならない』っていう理念が、いつの間にか『魔術士は優れた存在だ』みたいになっちゃった、と」


「グラニア帝国では魔術士の地位は民兵と同じか下で道具扱いだったのだ。リュケリオンはそれを憂いて、魔法を極めるための学び舎としてこの都市を作ったのだがな」


「むむ、魔術士が道具扱いとは……」


 ディーが驚いているが、私としては思い当たる節はある。


「今ほど元素魔法が洗練されてなくて、あまり効果も出なかったからですか?」


「ミシャの言う通りよ。宮廷魔術士クラスならともかく、普通の魔術士は大した威力もない火球を一日一発が精一杯だったな。魔素を使い果たせば戦場では荷物以下となる」


 つまり、今よりもさらに魔素の扱いや魔法の詠唱がいい加減だったわけだ。それを何年も研究し、洗練させることで実用レベルに押し上げたのが、魔導都市リュケリオンということになる。


「それで魔法が実用的になってきたら、今度は天狗になったと……」


 そう言ってから「天狗」って通じるの? と思ったけど、どうやら伝わっている模様。上手く翻訳が働いたのか、本当に天狗がいて鼻が高いのかわからないけど。


「魔術士の価値が上がると、諸国はこぞってリュケリオンでの主導権を取ろうとし始めた。リュケリオンが合議制をとっていたのも付け入る隙になってしまったな」


 ああ、ちょっとでも魔法が使えそうならリュケリオンに送り込んできたのか。

 魔術士のための魔法の学び舎である以上、それを言われると断れない。


「そして、とうとうロゼを追放するという話になってな……」


「え、なんでロゼ様を?」


「ロゼは密かに黒神教徒の残党を追い続けていたのだが、そうなると表立ってリュケリオンに貢献はできぬ。弟子を取らぬ姿勢も一向に崩さなんだゆえ、つまらん連中に煙たがられてしまった」


「それをロゼ様が受け入れたと?」


「ああ、リュケリオンの理想をぶち壊していく者たちと関わりたくなくなったのだろう。我に『後は任せた』と言うて、さっさと出て行ってしまったな」


 うーん、創業理念を失った会社が迷走ってのは前世でも随分聞いたけど、まさか国家でそれが起きるとは……


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