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三人娘の異世界メンテナンス紀行 〜旅と出会いと時々ダンジョン〜  作者: 紀美野ねこ
ベルグへの帰還と休暇

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番外編:6. 私たちの企業理念

「では、始めましょ。時間はあるので慌てず確実に、でお願いします」


「「「はいっ!」」」


 真琴ちゃん、由香里さん、茉莉花さんの声が響き、香織さんは軽く頷いてくれる。

 今、伊藤美窓にある全てのパソコンをリプレースするのが今日の目的。新しいマシンをセットアップし、バックアップ内容を戻すだけの簡単なお仕事です。


 土曜という休日出勤をしてもらうのも、伊藤美窓の平日の業務に支障が出ないように。

 マシンのパスワードなんかは新しくして、月曜の出社時は机の上にある封筒の中にそれが書かれているパターンです。


***


 内偵から一週間後、ダイクロは「勤怠システムは金額が折り合わないので、既存の契約も含めて引き上げを検討してます」って通達してきたらしい。完全に脅しじゃん。

 なので「そういう事でしたらお世話になりました」と返事してもらった。ここから先は私たちのターン!


 佐藤建設の総務部保守課が他社のシステムを構築&保守するのは抵抗があるし、そもそも佐藤建設の定款に無い業種で仕事してしまうことになる。

 なので作りました。会社を。


 株式会社シルバーシールド。佐藤建設の子会社という位置づけで、社内システム整備を提供する会社です。

 代表取締役社長(CEO)には真琴ちゃんが。私は最高技術責任者(CTO)ということだけど、まあ肩書きはどうでもいい。

 資本金は一円でも良かったんだけど三百万円。

 佐藤建設の出資が二百万円で、残りの百万円はというと、社外取締役でもある六条絵理香様が出してます。これで文句言ってくる人間がゼロになります。すごいね!

 なお、会社設立の関わるめんどくさい手続きは全部白井さんと部下の人たちがやってくれました。どこから探したのかIT事業振興の助成金までついてきてたり。


 第一号のお客様は佐藤建設。今まで保守課だった部門を別会社への外注になったんだけど、その外注先は社内にいるっていう謎状態。ま、大きな会社だとわりとあるけどね。


 そして、第二号のお客様が伊藤美窓さんということに。

 今までダイクロにぼったくられてた費用の半分以下のお見積。それでもこっちは儲けが出てます。

 社内パソコンのリプレースが終わって落ち着いたら、うちと同じ勤怠システムを入れたいというお話もいただいております。


 で、ダイクロを蹴った連絡を受けて急行。

 パソコンをいきなり引き上げられると困るので、その日のうちにNASネットワークアタッチストレージを持って行って、仕事がらみのデータは全てそちらにバックアップを取らせてもらった。

 あとは新しい『ちゃんとしたスペック』のパソコン、もちろんCADソフトを動かしても処理落ちしないグラボとメモリを積んだマシンを必要分レンタル発注。


 金曜の定時後に、私と由香里さんの二人でお邪魔して、ネットワーク網を張り替えた。

 元の配線が雑だし、IPアドレス固定にしたいのかDHCPにしたいのかわかんないし、無線LANにはパスワードついてないしで、もうね。


 で、今日、土曜の午前着で運ばれてきたマシンに入れ替え、必要なCADソフトや業務ソフトなどをインストール。個々人のバックアップデータをそれぞれに戻し、軽く動作確認すれば終了。

 アンチウイルスソフトは安定と信頼のロゼッタセキュリティーを入れました。これも佐藤建設で使ってるのと同じなので楽チン。


「そろそろお昼にしましょう」


 出前を取ってもらって、応接室でいただきます。

 例によって本当はダメなんだけど、今日は休日なのでいいでしょうということで。


「綺麗な庭ですねー」


 森ガールズもこの庭が気になるようで、外へ出て茉莉花さんとあれやこれやと話が弾んでいる。

 まあ、プログラマーって盆栽好きだからね……(意味が違います)


「なんだか想定よりも早く終わりそうですね」


「そうだね。昨日、ネットワーク張り直したのも大きいかな」


 張り替える前はケーブルがカテゴリ5とかだったし、スイッチングハブも古いしで、100Mbpsだったと思う。

 それをカテゴリー6Aと最新のスイッチングハブに変えたので、10Gbpsまで出るはず。つまり100倍早くなったわけだ。


「他にもダイクロに騙されてるところがあったら攻めたいですね」


 と真琴ちゃんは乗り気だけど、私としてはまだ不安要素がある。相手がどうこうじゃなくて、やっぱり人が足りないんだよね。


「ここは茉莉花さんが常駐してるし、車で三十分で来れるからいいけど遠いところだとねー」


 遠隔対応するにはVPNで面倒を見れるようにしておかないとかな。悪いけど、伊藤美窓さんで試しながら進めていく方がいいと思う。


「どうかされましたか?」


 庭から戻ってきた茉莉花さんが聞いてくるので、まあざっくりと。

 とりあえず、私や真琴ちゃんから見えるところからはダイクロはいなくなって欲しいかな。


「なるほど。そういうことなら、私の師匠に話をしてみましょうか?」


「えっ?」


 急に語り始めた香織さん曰く、大学時代にお世話になった研究室の教授と失業中に会って話したらしい。

 情報処理系は女性も多いけど、理系はまだまだ男性優位だし、寿退社までの腰掛けOLと見られるせいで就職率が良くなくて困ってる女の子が多いんだとか。私も苦労したしね……


「なるほど。そういう話なら是非ですね!」


 真琴ちゃんも乗り気だし、正直、今のこの会社って女性だけってのもありかなとか。その辺も絵理香と相談してみよっと……


***


「では、シルバーシールドの設立と初仕事を祝って」


「「「「かんぱ〜い!」」」」


 真琴ちゃんの音頭で生中のジョッキをかち合わせる。高級料亭でそんなことして良いの? いや、別にいいのか。


 無事、伊藤美窓からダイクロを引き剥がすことに成功し、マシンやらネットワークのリプレースも問題なく終了。

 一週間、様子を見た限りでは問題もなく「マシンがすごく速くなった!」と評判も上々の模様。うん、それは元が遅すぎたんです。今は普通です。


 というわけで、メッセで都度報告はしてたけど、改めてということになったのが今日。絵理香はかなり忙しいみたいだけど、私たちから誘ったら絶対に時間とってくれるんだよね。


「何はともあれ上手く行って良かったぜ。それに、な? 千恵?」


「はい。六条の下部関連会社のいくつかにダイクロのソリューションが導入されており、不当な値段で契約がなされているという調査報告が上がっております」


「うわー、怖いもの知らず過ぎる……」


 天下の六条コーポレーションの息がかかってるところに手を出すとか。


「ま、そっちは泳がせとくが、頃合いを見てバッサリやる。その後を任せられるか?」


「すぐはちょっと厳しいかな。人手が足りなくてあたってるところ」


「それならコンサルって形でもいい。ちゃんとしたやり方を教えてやってくれ」


「あ、うん」


 コンサルかー。口だけ出して手は出さないのは、あんまり好きじゃないんだよね。

 私が見てきたコンサルがどれも胡散臭い手合いだったのもあるけど、どうとも取れる助言をして、結果が出たらいいように合わせるようなのばっかだったし……


「それで、一つ疑問があんだけどいいか?」


「ん? 何?」


「社名の『シルバーシールド』って二人が考えたのか? 意味わかんねーんだけど」


 ああ、それね。

 私は『佐藤エンジニアリング』とか『佐藤ソリューションズ』とかでいいじゃんって言ったんだけど、真琴ちゃんに「ダサい」って却下されました。


「それは私が学生時代に読んでたライトノベル『白銀の乙女たち』から拾ってきたんです。作中に出てくるギルド……会社の名前が『白銀の盾』なんです」


「ふーん、それだけか?」


「シルバーってお年寄りって意味もありますよね」


 真琴ちゃんの説明に「ああー!」とうなずく絵理香と白井さん。

 佐藤建設も伊藤美窓も年配の方が結構多い。

 もちろん、CADソフトやメールなんかは使えるので、パソコンを全く使えないってわけじゃないけど、だからといって全部わかってるわけでもない。

 OS、メモリ、グラボ、プログラミング、ネットワーク、データベース、セキュリティ……さらには開発費、保守費、レンタル費etcetc……若い子ならともかく、ご年配には厳しい知識量だと思う。

 幅が広くてかつ細分化されてしまったITという分野には、詐欺みたいなものが多く、法律もそれに追いつけない状況が続いていて、お年寄りには厳しいご時世だ。

 そういった人たちの盾になれればという真琴ちゃんの思いからつけられた名前でもある。


「真琴ちゃんが読んでた『白銀の乙女たち』って、正義を貫く話じゃなくて、悪人から弱者を守るっていう話だから、それは確かにいいねって」


「わかるぜ。あたしも正義づらしてる奴らは嫌いだからな!」


「ですよね!」


 二人は本当に同類だよねえ。


「じゃ、もう一回、乾杯しておくか。白銀の盾の結成を祝って!」


「「「「かんぱ〜い!」」」」


次話より本編に戻ります。


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