太陽は沈みかけ 星は見えかけ 月はすでに昇ってる
ここはとある河川敷。夕暮れ。いつもの場所。学校帰りに飽きるほど寄って、たむろして、そして今日も。そういった二人組の少年がいて、仮に一方をA、もう一人をBとしよう。
最初に叫んだ方の少年はA、斜面に寝転がってそれを見下ろすのがBだ。
継続的にやっていればそれなりの結果は出るもの。例えば水切りとか。
「あーあー、わっかんねえよなー!ったくよー!」
そう叫んだ少年が今さっき投げた石ころは川の半分ぐらいまで跳ねて消えた。
Bはその年頃の平均的大きさの身体で名前も価値も知らないありとあらゆる植物を押し潰し、両手を頭の後ろで組んで、風に髪をなでられるがまま、物思いにふけるふうにして体を横たえている。
対してAはぶつぶつとなにか呟きながら、次に投げる石を探している。まだ続けるつもりらしい。制服が汚れるのにも構わず、ずっと水切りを続け、あちらこちらせわしなく石を探すさまをBは見ていた。
Aが悩みの続きを話す。
「こうさー!なにか越えられてねえ感じなんだよなー」
「越えるって何を。どういうイメージなのさ」
「こーう…壁とか?最後の一線つーかさー」
「なんか戻ってこれなさそうだね、それ。」
「んなこたあねーんだけどさ。なんつーの、戻ってこれるし往来はたぶん自由なんだろうけどさ、それを越えなきゃ結局は『越えられないヤツ』のまんまって感じでさ。」
「ふーん。」
「ふーんってなんだよー。こっちは真面目なんだぞー!」
「悪いね。」
「んで俺はまだ越えられてねーんだなーどうやったら越えられんのかなー、とかさ」
「ふむ。」
「考えてるわけよ。んでもってそれがわかんねーんだな。
……はぁ。なんかさ、冷たくない?」
「そりゃ冬だし。川の水も冷たかろう。」
「そーじゃなくてよー!こっちはマジで悩んでてお前だからそれを打ち明けて相談してんだぜー!
んな冷めた返事ばっかじゃたまらんぜ、朋輩だろー?助けてくれよー。」
「あーそういう意味……。悪いね、鈍くて。」
「眠そーだなー、もう帰るか?」
「いやあ、 まだ遊びたいだろ?俺も真剣に考えるよ。」
「……そっか、あんがとなー。
ま、でも喉乾いたからちょっとコンビニ行ってくる。なんかほしいもんある?」
「特に。行ってらっしゃい。」
終始騒ぐように話してたのがA。
淡々と落ち着いたように相づちを打っていたのがB。
Aがコンビニから帰ってくる頃、もう空の赤はだいぶ西に追いやられていた。そろそろ帰らなければならない。
Bは寝ていた。なんともまあのびのびと、余裕ありげに。気持ち良さそうに。
「ま、だろーなーとは思ってたけどさ。
ほら起きろ、帰るぞ。」
「うん?あー、悪いね、迷惑かけちゃって。」
夕暮れの空を見上げて、並んで歩く。
「星見える?」
「まあ、微かに。」
「いいなぁ、俺の視力じゃ見えなくてさ。」
「そのうちお前の視力でもめちゃくちゃ見えるとこ行こーぜ。」
「……。そのうちな、ありがとう。」
「じゃ、また。」
「じゃーなー。」
沈む陽を急かすように、ぐんぐんと昇る月はこれから輝き出すもの。
今この時点で月を隠す雲は見えず、おそらくはこれからも。
まだ夜じゃない。けれどもうすぐ夜になる。
ネタばらしになりますが、大人っぽさとか子供っぽさとか、大人と子供、青年期とかそういったところがテーマです。
情けない話、私自身よくわかっていないテーマです。わかりてえなあ……。