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「……1つだけ、訊いてもいいかしら?」

 詩音は誰ともなく静かに問う。

「なんだ?」

 まだ話があるのか……とうんざり気味の国王達。

聖女(わたし)が"浄化"した"瘴気"はどうなっていると思う?」

 国王達は知らない。聖女が浄化した瘴気の行方を……。何百年に1回あるかないかの【聖女召喚】。だから、詳しくは記録として残ってはいないのだ。どうしたか、どうなったのかなど。



「……どうなって……いる……かだと?」

 国王達は眉を寄せた。言っている意味が分からないのだろう。

「ふふっ……聖女にしか分からないわよね?」

 詩音は笑った。知らなくて当たり前。伝承にも文献にも詳しい事は書いていなかった。前回の聖女が戻れたのかも……だ。



「聖女は瘴気のすべてを、その場で浄化している訳ではないのよ?」

 静まり返った会場に、詩音の言葉が響き渡る。一見その場で浄化している様に見えた儀式も……厳密に言うと、その場で浄化している訳ではなかったのだ。

「ど……どういう……事だ!」

 知らない事実に動揺する国王達。詩音に浄化させて、終わりだと……信じきっていた様だった。だから浄化の後、多少苦しんでいても、詩音の身を案じる者はいなかったし、瘴気が本当に浄化されているのかも確かめなかったのだ。使い捨てにでもすれば良いと、思っていたのだろう。



「聖女はね? 瘴気を取り込み……身体の中にある聖石に溜め込んでいるの」

 と詩音は心臓のあたりに手を置くと、淡い光と共に黒く丸い形をしたクリスタルを取り出した。手のひら程の大きさのこれが【聖石】である。

 初めは無色……そして、取り込んだ瘴気の量に応じて黒く変色していくのだ。詩音の聖石は真っ黒だった。それ程、多くの瘴気を吸ったという証拠。

「この聖石を……長い長い年月をかけて、身体の中で瘴気を浄化していくのよ? 見て……すごく黒いでしょ? これがこの国の瘴気」

 詩音は国王に……皆に掲げて見せた。これに気付いたのは初めて瘴気を取り込んだ時。霧散して浄化した様に見えた瘴気が、チクリと胸に入り込んだのを感じた。

 そして、自然とどうするモノかを肌で感じたのだ。聖女の皆がそうやって分かるのか、自分だけなのかは分からない。だが、自然と自分がどうやって浄化させられるか、身に付いたのである。

「そ……それを……ど……どう……するつもりだ!!」

 国王とはいわず、誰かが何かを感じ叫んだ。




「ふふっ……こうするのよ?」

 詩音は聖石(ソレ)から、手を離した。




 ーーパリン。




 薄いガラスが割れる様な音がした。




 詩音は、皆が息を飲むなか聖石を落とし割ったのだ。




「な……な……なにをしたのだーー!!」

 国王が悲痛に叫んだその時、割れた聖石からゾワリと黒い霧が霧散していった。




 そう……瘴気である。




 詩音が2年もの歳月を架けて集めた瘴気を、この一瞬で解放したのである。

「な……なに!?」

「や……気分が……」

「息が……苦しい」

 会場にいた貴族達は口々に言い始め、胸を押さえ取り込むまいと口を押さえていた。勿論霧散した"瘴気の"影響もあるのだろうが……見えた瘴気による恐怖心から、そう感じている者もいるのだろう。



「キサマ……何をしたんだ!!」

 国王は怒号を上げた。絶叫しなかっただけ、さすが国王と褒めてやろうか。



「リセット」

「は!?」

「ただのリセットよ」

 詩音はうっすらと笑った。

「リセット……だと?」

 国王はまだ分からないのか、険しい表情でさらに訊いた。



「国王達は、私を元の世界に戻してくれなかった……だから、私は元に戻しただけ」

「な……にを」

「私が取り込んだ"瘴気"を……」

 たぶん私の今の表情は、魔女に見えるだろう。だって口端が上がっているのだから。



「な……なぜ……なぜそんなバカな事を!!」

「だって、約束を破るんだもの」

「そ……それは!! 仕方がないと言ったであろう!!」

 ここまでしても、まだ分からないのか謝罪も贖罪もない国王達。あげくに自分は国のためにやったと、正当化しようとしていた。

「そう……私も仕方がなかったのよ……だって……拉致犯罪者が治める国なんて……救いたくなかったんですもの」

 詩音はごめんなさいね?……とにっこり微笑んで見せた。



「いや~~っ!!」

 か弱き令嬢は叫んで昏倒した。それもそうだろう、やっと魔物が脅かす悪夢から抜け出したと安心していたのに、再び絶望へと戻ったのだから。むしろ……1度安堵していた分、恐怖が沸くのかもしれなかった。



「ひっ……引っ捕らえよ!!」

 国王は、愕然としていた衛兵に叫んだ。詩音を捕らえ牢獄に入れろと。

「……なんの罪で?」

 詩音はそれでも冷静だった。衛兵もそのあまりにも堂々とした、詩音の態度に足を止めた。

「なんの罪で捕まえるの?」

 辺りを見渡し、もう一度問うた。私が何をしたのかと。

「キサマは瘴気を放ったではないか!!」

 国王が詩音を指差し恫喝した。

「放った? 瘴気は……返しただけですわよ?」

「な……なんだと!?」

「ねぇ?……そんな事より、私を拉致した国王はナゼ罰せられないの?」

 棚上げなんて良くないでしょう? と首を傾げてみせた。



「「「…………」」」

 しっかりした思考の持ち主は、言葉を失い国王を複雑な様子で見ていた。そう……詩音を拉致した事実があるのだと。

「 "召喚"だ"拉致"ではない! 国を思ってやった事だ!!」

「…………」

 詩音は呆れていた。ここまで人権を無視した国王がいた事に。召喚は拉致ではないと堂々と言ったのだ。

「そうですわ! なのにあなたは、瘴気をこの国に放った……悪魔です!!」

 王子の婚約者は詩音に、呆れた様に言った。

 この国ありてこの令嬢……と言ったところだった。

「…………はぁ」

 詩音はため息しか出なかった。自分はなんのために、苦しみながら瘴気を取り込んでいたのか……と。頑張ってきた自分が憐れ過ぎる。



「この悪魔を、引っ捕らえなさい!!」

 なんの権限があるのか、次期王妃の権限とでも言うのか、令嬢は衛兵に叫んだ。

「はっ」

 命令され、衛兵は詩音を引っ捕らえようとした。



「……そこまでだ!!」

 その時、衛兵の後ろの方から男の声がした。






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