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裏切られた聖女は、誰かの溺愛に繋がっている  作者: 神山 りお


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1/3

*1



 今から約2年程前……魔物が蔓延るこの国【ダインダース】の瘴気を浄化させようと、一人の女性が召喚された。



 その女性の名は詩音といい【聖女】であった。



 初めて来た異世界に、戸惑い泣き叫ぶ彼女を王子や騎士達は宥めた。そして……この国にある【瘴気】を浄化してさえくれれば、元の世界に戻す……という約束をし、聖女と呼ばれた女性は浄化の旅に出た。



 そして……瘴気は浄化された……。



 ……ように見えた。




 ***




「……どういう……事?」

 何百年も苦しめられていた瘴気から解放され、王宮では祝賀パーティが行われていた。そこで、国王の放った一言に聖女である"詩音"が動揺した声を上げた。


「悪いが……君を元の世界に戻す事は出来ないのだ」

 国王がグラスを傾けつつ、困った様子で言った。

 詩音は耳を疑った。すべてを終えたら日本に還してくれる……と言われたから、ここまでやってこれたのだ。なのにこの"男"は、戻せないと言わなかったか……と。聞き間違いであって欲しいと願いつつ、やはり嘘だったのかと冷静に聞いている自分がいた。

「もう……一度訊くわ……日本に還して」

 もはや、そこには礼儀もない。詩音はやるべき事を成した。王達が出来ない事を成し遂げたのだ。それを裏切った国王達にする礼儀はない。

「無理なのだよ」

 悪びれた様子もなく、またもや困った様に笑う国王。まるで、駄々を捏ねる詩音を仕方なく宥める……そんな様子だった。




 ……やっぱり……ね。




 詩音は嘆かなかった。その代わり急激に頭が冷えていくのが分かった。聖女召喚で嘆き過ごしたあの日、詩音は気付いてしまっていたのだ。

 ここが、ラノベと呼ばれる小説と似ているならば、召喚された人が戻る事は極めて少ない事に。

 そして、箝口令をしっかりしていなかったせいか、口が軽かった侍女達のせいか、詩音の耳にも入っていた。戻す事など出来ないであろう事を……。



「……そう……では……嘘を付いていたのね?」

 詩音の声色は自然と低くなっていた。表情もさぞかし無表情になっていたに違いない。

「嘘ではない……努力はしていた……だが、やはり無理だったのだ」

 国王は白々しく言った。あれほど嘆いていた詩音なのだから、何も知らないだろうと勘違いしている様だった。

「努力……? どうやって……? 召喚儀式がそうそう試せるものかしら?」

 努力もしようがない。召喚自体が試せないのだ。成功したら誰かが召喚されているはずだし、還すのであれば誰かが日本に飛ばされているはずだ。試しようがないのに努力……笑わせてくれる。

「……召喚儀式を知らない君には、分からない事も多かろう」

 詩音が何も知らないと思い込み、国王は苦々しく笑ってみせた。なにがそんなに可笑しいのか、詩音にはまったく分からなかった。努力はしてみせたから、嘘ではないと言いたいのだろう。

「そう……で?」

 詩音は問う。そんな言い訳などどうでもいいのだ。

 ならば、私の功績に対しての褒美は何をしてくれるのか? 或いは何をくれるのかと。

 別に詩音は強欲ではない。ただ、自分のした愚かな行為を謝罪し、浄化した功績を礼で返し、安寧とした生活をくれるだけで良かったのだ。



「……で、とは?」

「国王は私にこう言ったのよ? 元の世界に戻すからこの国を救ってくれ……と」

 だから、私は関係もない犯罪者の治めるこの国を救ったのだ。その言葉に少なからずすがって生きてきた。

「すまぬ……努力はしたのだ」

 国王は一見謝罪している体だが、目はどこかバカにしている様に見えた。何も知らない詩音を嘲笑している様に見えたのだ。



「私は……この国に拉致され……家族や友人を失った。そこまでされても救ったこの国は……まだ私に嘘をつく……頭を下げて謝罪をすれば、まだ救ったものを……」

 詩音は会場にいる皆に聞こえる様に言った。国王の愚かさを知らしめるために。この礼儀知らずの国王と、それを傍観するこの国の人達が愚かだと。

「フッ……謝罪なら先程からしておるではないか。それに、わしはこの国のためをおもってした事。シオン、君も善意で人々を救ったのではないか……褒美はそれなりに取らす……次期王妃は無理だが、側妃くらいにはしてやろうではないか」

 国のためにやった事、自分は悪くないと正当化しているのだ。

 ここまで言っても自分の立場を分かっていないのか、国王は仕方がないと言った表情で言い放つ。詩音が最後に言った言葉の意味を深くは考えていないらしかった。



「陛下……平民を側妃だなんて……」

 カイル王子の隣に立つ令嬢がクスリとバカにした様に笑った。公爵令嬢である彼女は王子の婚約者であり、次期王妃だった。聖女とはいえ平民の詩音を、側妃とはいえ妃に迎えるのはイヤな様である。

「…………」

 カイル王子は顔を背け詩音を見ようともしなかった。

 それがすべてなのだろう。嘆く詩音に甘い言葉を囁いたのも、慰めたのも国のため自分のためであって、詩音のためではなかった。



「……それが……私の功績に対する態度」

 詩音は悲しみより呆れていた。そうだろうとは思ってはいたが、頭の片隅に少しは違った運命があるのではないのか。王子は自分を少しは大事に思ってくれているのではないのか……と。すべては幻想で悲しい事実だけが目の前を支配していた。

「功績……あなたは……褒美欲しさに国を……国民を救っていたの!? 卑しいわ! そんな女はやはり王妃にだなんて無理ですわね」

 婚約者の令嬢は、詩音をバサリと扇を広げ小バカにし嘲笑していた。周りの人々も口々に卑しい、無償ではなかったとは……と詩音を冷笑した目で見ていた。




 ……これが……私が人生を無駄にしてまで救った命。




 詩音はそう思うと……何もかもがバカらしく思えた。




 別に王妃になりたかった訳ではない。無理矢理拐われ、それでも魔物に襲われる人々を助けようと頑張った。なのに、この仕打ち……あまりにも理不尽で不公平だ。





 ……なら……私にも考えはある。









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