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Again ハールート編  作者: 結城カイン
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サマシティにある「天の王」学園は、魔法使いと普通の人間たちが学ぶ寄宿学校。

魔法使いでないハールートと魔法使いのルスランが織りなす、恋愛青春物語です。

一応軽いBLでございますので。

挿絵(By みてみん)



 人は欲しい物を手に入れる為の努力は惜しまないのに、手に入れた途端、それが本当に欲しかったのか、訝しんでしまう。

 本当に欲しいのはもっと違う、何か、別の…素晴らしい物だったはず…

 でも、結局別の何かを手に入れても、こんなものじゃないと、簡単に捨ててしまえるんだ。


 僕はいつだって、「何か」を手に入れたがった。

 それが「何か」も知らずに…


 Again


 ハールート 1


 僕の記憶の限りにおいて、僕は満ち足りた環境の中で育った。

 幾つもの事業を持つ父親は多忙で、大屋敷の中で姿を見つけるのは困難ではあったけれど 過保護の母親と、沢山の女中に囲まれ、何の不自由もなかった。


 始終、僕を愛する者達に囲まれていたし、誰もが僕を愛さずにはいられなかった。


 殊の外、母の僕への愛情は常軌を逸していた。

 そして面倒な事に、何事も自分の思い通りに僕を扱いたがった。 

 部屋の設え、服、髪型、仕草にまで、細かく命じ、母は僕の見目姿をうっとりと眺めては、誰彼かまわずに賛美して回った。


 母だけではない。僕はメイド達に愛された。

 だが、僕のお気に入りのメイドは、いつの間にか僕の目の前からいなくなることがあった。

 幼い頃は意味もわからず泣いていたが、新しいメイドが来るとすぐに懐いてしまっていたから、あまり傷つくことはなかった。

 母の嫉妬だと判ったのは七つか、八つの頃だろうか。それから、僕は母の前では、気に入ったメイドに甘える事は避けるようにした。


 母の僕への執着は育つと共に段々と酷くなり、目も当てられぬ程。とうとう父は、僕が十三になる時に、寄宿学校へ入学するようにと命じた。

 母は半狂乱になって、止めたが、父は決して怯まなかった。

 考えてみれば、父は確かに正しかったし、あのまま、母の支配の中で生き続けていたら、今の僕は無かったのだから、父には感謝すべきだろう。

 と、言っても母は人前では、誰からもうらやむほどの貴婦人だった。

 古い王政時代の王子の従妹だった母は、平民に嫁いだ事を今でも嘆き、爵位の頃の名を、僕に付けさせていた。

 僕の名は「コンラート・フォン・マイスリンガー」

 旧プロイセンの古い英雄の名前らしい。


 それまで僕は学校で学んだ経験は無かった。

 家では幾人かの家庭教師が、すべての教科を指導していた。

 僕は庭で馬に乗り、屋敷内にある湖で泳ぎを覚え、裏山の崖に登り、体力を身に付けた。外国の言葉も幾つか覚え、教養と身だしなみを躾けられた。

 僕と並べるはずもない同学年の子供たちと寄宿学校で生活など、正直気が重い。

 だが、この地上の果てにあるという小さな独立国家サマシティの「天の王」には、些か興味がある。


 少し前に「天の王」学園の学長は、父に招かれ御屋敷に来た。

 そして、僕を見るなり、少し腰をかがめ「君をうちの学校へ招待しようと思うのだけど…。どうだろうね」と、言ったのだ。

 言い淀んでしまった僕を見て、少し微笑み、「大丈夫。うちには君のような子が沢山いるよ。きっと良い友人ができるだろう」

 差し出されたその手を、僕は気づかぬうちに握り返していた。



 「天の王」に入る際、学長のトゥエ・イェタルは、僕に新しい名前をくれた。

 なんでも「天の王」の生徒たちは誰しも、新しい名前を貰い、その名前で生活するらしい。

 今まで生きた環境との離別だ、と言うが、果たして「天の王」の本音はどこにあるのか、わかったものじゃない…

 僕は他の生徒たちとは違い特別な「真名」を貰った。

 ハールート・リダ・アズラエル。通称「ハル」

 中々良い名前だと、天邪鬼の僕でさえ、すぐに気に入った。



 初めての学校生活に些か、戸惑いながらも、様々な人との交流は、僕を新鮮な気持ちにさせた。

 黒ずくめの制服は地味すぎて、僕の華やかな容姿を彩るには物足りなかったけれど、特別室の僕の部屋は、他の誰よりも立派で、僕のつまらない矜持を保つには十分だった。

 「天の王」の生徒は、僕が想像したよりも誰もが個性的であり、華麗であり、独特な雰囲気を纏っていた。

 だが、そんなものに怖気づくわけでもない。

 僕以上の選ばれた少年は、見当たらなかった。

 僕は特別だった。何もかも特別でなければならなかった。

 特別な広い一人部屋に、気に入った年上の男子生徒を呼びつけ、セックスを楽しんだ。

 御屋敷の家庭教師は、学問以外にも色々と僕を指導し、僕はすっかりこの快楽を気に入ってしまっていたのだ。


 先輩等は、僕への奉仕を、心から喜んで全うする。

 誰もが、僕を愛した。

 僕の「能力」はそういうものだった。

 だから、僕が「魔法使い」じゃなくても、「王様」でいられれば、僕は「支配者」になれるはずなんだ。




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