第7話 炎真の異能
前回から炎真が登場しました!今回は炎真の能力に触れていきます。
埼玉県 廃病院
p.m7:30
「天堂弥生です。よろしくお願いします。」
自己紹介する弥生。
「警視庁 特殊犯罪対策部 五芒星 構成員No.01『一ノ瀬炎真』(いちのせえんま)だ。よろしくな!」
2人が挨拶を交わす。
「さっきは取り乱してすまなかったな。」
「一体何があったんですか?」
弥生が不思議そうにかがんで尋ねる。すると、炎真は少し後ずさりする。
「・・・・」
スッ
ススッ
弥生が近づいては炎真が後ずさるの繰り返し。
「そいつ、極度の女嫌いなんだよ。」
叉羅が横から言う。
「えっ!?」
「違う!嫌いではない!苦手なだけだ!どう接していいかわからんだけだ!子供は大丈夫だし!」
焦って饒舌になる炎真。
「あはは。」
弥生も笑うしかないようだ。
「そんな事はどうでもいい。この病院内に鬼はいるのか?」
叉羅の質問に急に真剣な顔になる炎真。
「昼間は出てこないからわからんが、結構な数がいると思うぞ?まあ、俺らが2人でやればすぐ終わるだろ?」
「まあ、そうだが。群れで行動してるのか?珍しいケースだな。」
「鬼は夜にならないと出てこないのですか?」
「鬼も俺たちと同じで日光に弱い。基本は奴らが人を襲うのは夜だし、鬼は理性を持っていないから、集団で行動するのはありえないんだ。」
「なるほど。」
弥生も納得したのか少し考える。
「俺もずっとこんなとこにいるから気がおかしくなりそうだ!ちゃっちゃと片付けてここ出ようぜ!」
炎真も気が短いのか、早く事を済ませたいらしい。
「そうだな。先に進むぞ。」
「おう。」
「はい。」
暗がりの中、院内を進む3人。
「ここはどの辺なんだ?」
「ちょうど病院の中心部にあたる。この先に正面玄関と大型のロビーになってる広場があるぞ!」
「本当だ。広いところに出ましたね。」
「俺たちが入ってきたのは救急搬送で使われてた出入り口だったらしいな。」
「しかし、ここに来てからしばらく経つが、鬼にも出くわしてないし、時雨の情報外れたんじゃねえか?」
「外れるのはありえないな。だが、妙だな。」
「実は鬼じゃなくて、幽霊の仕業だったりしないですよね?」
不安と恐怖で弥生が青ざめる。
「ハハハ!弥生ちゃん幽霊がこわいのか?大丈夫だ!そんなんいやしねえよ!!」
「炎真くーん。」
弥生が炎真を抱き上げようとする。
「だぁー!ちょっ、それは無理っ!!」
焦って炎真が飛び跳ねる。
「おい。」
叉羅が立ち止まる。
「囲まれてる。」
「え?」
弥生が驚いて辺りを見回すが鬼の姿はない。
「あ?・・・あぁ。本当だ。1、2、3・・・まあまあいるな。どうする?」
炎真が数えながら聞いてくる。叉羅と炎真は鬼の気配を察知できるらしい。
「ここなら広さもある。そのままここで殲滅するぞ。」
「あの〜。私はどおすれば?」
「邪魔だから隅にいろ。」
「はい。」
シュンとしながら隅に移動する弥生。
ガッ
ドタッ
「きゃっ!!」
何かにつまずいた弥生が転ぶ。
「いたた。ん?」
転んだ目線の先に何かある。
(何これ?足?)
恐る恐る視線を上に上げる。
「!?」
暗がりだと気づかなかったが、近くに来ると確認できる。そこにいたのは3メートルほどの鬼だった。
「キャアア!」
驚いた弥生が悲鳴をあげ、それに叉羅が気づく。
「チッ!」
刹那。叉羅よりも遥かに早く反応した者がいた。
「うらあぁぁぁあ!」
炎真が横から鬼に蹴り一発。体勢を崩して倒れる鬼。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます!」
炎真にしがみつく弥生。
「ギャァァァァ!」
今度は炎真が小さく悲鳴をあげる。
「あっ。ごめんなさい!」
慌てて離れ、謝る弥生。
「おい。お前はいつもいつも、わざとなのか?」
叉羅が怒りマックスモードで弥生を睨む。
「うっ。すいません。」
「それよりお前ら!団体さんのお出ましだぜ!」
炎真が言い終わるのを合図のように鬼がどんどん出て来る。
巨大な鬼はいないが、数が多い。大小様々ざっと20体近くいる。
「こんなに隠れてたのか?鬼が身を潜めて人間を襲うなんて聞いた事ないぞ。」
「とりあえず、考えるより先に全部ぶっ倒せばいいんだよ!」
すると、2人の体から蒸気が出てくる。
蒸気が晴れると大人になった2人が立っていた。
(叉羅。相変わらずイケメン。炎真くんもなかなか。)
炎真も慎重は170後半、筋肉質で子供の時よりもさらに鋭い目つき。髪は後ろで1つ縛りのまま少し伸びた感じだ。自身に満ちた表情からはその強さと男らしさが伺える。
「しゃあああ!いっちょやるかあ!!」
炎真の一際大きな雄叫びとともに、鬼達が2人に一斉に飛びかかる。
「武具換装『白龍』。」
叉羅が刀を出して応戦。次々に鬼を斬り伏せる。
炎真は素手で応戦中。殴るたびに鬼が吹き飛ぶ。
2人の強さに弥生が驚いていると、
「もう少し離れろ。」
近くに着地した叉羅が言う。
「はい!あっ!叉羅!炎真君が!」
見ると炎真が10体ほどの鬼に囲まれていた。
「あいつなら大丈夫だ。」
叉羅は気にも止めていない様子だ。
「えっ!?」
驚いた表情で弥生が叉羅を見る。
「あいつは五芒星に入る前は陸軍に所属してた元軍人だ。しかも史上最年少で中将クラスまで上り詰めたホープ。普段はうるさくて暑苦しいバカだが、近接戦闘、特に武器を使った戦いでは奴の右に出るものはいない白兵戦のスペシャリストだ。こういう多人数での乱打戦でこそ奴の真価が発揮される。」
弥生がそれを聞いて慌てて振り返る。
「武具換装『朱雀』!」
炎真の左手の甲が光り、二本の小太刀が出てきた。
小太刀を掴んだ瞬間、鬼が1体真っ二つになる。
「ははっ!」
笑いながら振り返り、鬼を見る炎真。
残りの鬼達が一斉に飛びかかるが、素早く切り替えしながら次々に鬼を斬る炎真。
「早い。」
「言ったろ?大丈夫だって。ちなみに、あいつの幻獣細胞は『朱雀』。俺と同じように身体強化も付与されるからな。あのサイズの鬼ならすぐ終わるさ。」
叉羅が言い終わる頃には、鬼は最後の1体になっていた。
「なんだ?お前で最後か?」
最後の鬼が炎真に突進してくる。
「お前に恨みはねえが、じゃあな。」
静かに言い放ち、炎真が最後の鬼を斬った。
音を立てて崩れ、消えていく鬼。
「凄いです!炎真君!」
「そんなに喜ぶもんじゃねえよ。」
「え?」
弥生が不思議そうに炎真を見つめる。
「あいつらは元はただの人間。しかも子供だったんだ。鬼を倒すって事は元の人間を殺すのと同じ事。俺たちがやってるのは、殺人犯と変わらないんだよ。」
「・・・・」
弥生も鬼になってしまった少年の事を思い出す。
「ここ数年で行方不明になった子供のほとんどが鬼になってると考えていい。子供の親は我が子が鬼になって人を襲ってるなんて夢にも思わないだろう。」
「そんな・・・私達がしてる事って・・・」
「任務に私情を挟めば死ぬのは俺たちだ。俺たちの仕事は1人でも多くの市民を救う事。死んだ子供の事は俺たちが覚えていればいい。それが、せめてもの供養だ。」
「叉羅。そんな言い方。」
「こいつは不器用だからな!これでいいんだよ。」
炎真は笑いながら言う。
ドォン!大きな衝撃とともにロビーの柱が崩れる。
「なんだ?」
その方向を見ると、先ほどの鬼達より一回り以上大きな鬼が出てくる。
「まだいたか。」
「さっきのよりも大きいです。」
鬼は7メートル近くある大型の鬼。
その大型の鬼の横から体調4メートルはあろうかというほどの大型の犬のような生物が出てくる。
「なんだ?あれも鬼か?」
「あんな型の鬼は初めて見るな。おい、下がってろ。」
「はい。」
弥生が後退する。
すると、グゥオオオオオオオーーーー!!
獣型の鬼が吠える。
それを合図に大型の鬼が攻撃を仕掛けてきた。
炎真と叉羅は同時に躱す。
「あいつが指揮とってんのか?」
「どうやらそうらしいな。俺はデカイのをやる。」
「俺はあの犬っころだな!」
「動物ならお前の能力は適任だろう?」
叉羅が笑いながら言う。
「はっ!いくぞっ!」
大型の鬼に突進していく叉羅。
「『白龍』解放!。」
サラの刀が光を放つ。
大鬼の振りかざした腕を避けながら高く跳ぶ叉羅。
「飛龍爪襲斬!」
叉羅の刀から巨大な剣撃が飛ぶ。
剣撃が大鬼を捉え、その巨体が後ろに倒れる。
「こっちは終わりだな。」
着地した叉羅が呟き消えていく大鬼を眺める。
「叉羅!炎真君が!」
切羽詰まった様子で弥生が叫ぶ。
叉羅が振り向くと獣型の鬼に押さえつけられ、なんとか力で押し返そうとしている炎真。
「おーい。交代するか?」
叉羅が不敵な笑みを浮かべて炎真に問いかける。
「叉羅!そんな悠長な。」
焦る弥生。
「うるせー!まだ本気出してねぇんだよ!!」
炎真が怒鳴り、力で鬼を押し返し始める。
「おおおおおおおぉぉぉ!!」
その時炎真の両手から炎が出た。
驚いて炎真から離れる鬼。
「炎真君の手が燃えてます!!」
叉羅に弥生が言った。
「あれが炎真の異能だ。奴の異能は『火』。あいつは体から自在に炎を出して操れる。」
「!」
炎真の手から出た炎が身体を纏い揺らめく。
「さあ!こっからが本番だ!かかって来い!犬っころ!!」
獣型の鬼が炎真に突進してくる。
炎真が纏っていた炎が右手に集中して、球体になって止まる。
「爆炎球!」
炎真が火の玉を鬼に向かって投げ、当たった火の玉が爆ぜる。
「ギャン!!」
鬼が怯んで動きが止まる。
「火炎陣!」
鬼の周りをサークル状に火柱が囲み、完全に封じ込む。
「『朱雀』解放!!」
炎真が叫ぶと、持っていた小太刀の刀身が炎を纏う。
「終わりだ!爆炎十字葬!!!」
炎真が鬼を十字に斬りつけると鬼は悲鳴を上げて燃え尽きる。
振り向き、こちらに歩いてくる炎真。
「凄い。」
「お前にしては手こずったんじゃないか?」
「うるせーよ。」
そう2人は笑っていると子供の姿に戻っていく。
「そういえば、時雨が集まれってさ。」
「あ?なんかあるのか?」
「わからんが、さっきの獣型の鬼の事も含めて一度報告した方が良さそうだ。」
「だな。」
そこまで言って、2人でその場に倒れこむ。
「わーー!」
驚いて駆け寄る弥生。
スー、スー。
2人から寝息が聞こえる。
「寝ちゃった。」
ふたりの寝顔を見て呆れる弥生。
(え?この後私はどおすれば?)
寝ている2人を見ながらふと考える。
(マジかー。)
その後、弥生が2人を抱いて帰路に着いたのは言うまでもない。
炎真の能力に触れていきましたが、最後の方の戦闘描写がちょっと早く進み過ぎた感じになってしまいました。
もうちょっと細かく書ければと思います。