第5話 叉羅の秘密
今回から戦闘描写です。叉羅の能力も出てくるので、少しずつ物語が進むかと思います。
ーーー都内某所ーー」
日が沈み、辺りは夜になる。
狭い路地裏に叉羅と弥生の姿があった。
「こんな所に本当に鬼が出るんですか?」
「時雨さんの予言は必ず当たる。」
「未来予知・・・ですか?」
「そんな次元じゃない。あの人の異能は「時」。過去から未来。全ての時間を支配する。」
「全ての・・時間。」
「俺も聞いただけだ。」
「叉羅君も異能力を持ってるんですか?」
「君付けはやめろ。」
イラッとした表情で叉羅が言う。
叉羅の機嫌が悪くなるのを感じ取ったのか黙る弥生。
「どうして叉羅はいつもテンション低めというか、無愛想な感じなんです?」
「うるさいぞ。関係ないだろ。」
「一緒に仕事をしてくんですから、コミュニケーションも大事ですよ?」
「必要ない。基本的には俺1人で充分だ。お前はあくまで一緒にいて見てるだけでいい。」
「私だって何か役に立つかもしれないじゃないですか。」
「別に望んでない。足さえ引っ張らなければそれで・・・?」
叉羅の注意が路地の奥に向く。
「えー。でも。」
「黙れ。」
重く冷たい口調で叉羅が言う。その異様な空気を感じ取り、弥生も叉羅の向いている方に視線を向け、耳を澄ませる。
ズルッ、ズルッ
何かを引きずる音が聞こえる。
薄暗い路地の奥から歩いてきたのは中学くらいの制服を着た少年だった。重そうな荷物を引きずっている。
しかし、少年をよく見ると、顔や制服には大量の血が付いてる。引きずっている荷物に見えるのは、どうやら人間のようだ。
「さ、叉羅?」
「こいつだな。」
「あーー。うぅぅー。」
焦点の合わない目でうわ言のように呻く少年。
構えて少年を睨む叉羅。
突如少年の眼球が叉羅に視点を合わせ、目が合う。
「ヒャハハハハハーーー!!!」
掴んでいた女性を捨て。さらに向かって猛スピードで突進して来る少年。少年は鋭く爪が伸びた腕を叉羅に向かって突き出す。
冷静に身を交わし、走り出す叉羅。
「お前はその人を見てろ!場所を移す。」
闇夜に消える叉羅を追って、少年も消えていく。
「大丈夫ですか!?」
倒れている人の所に駆け寄る弥生。女性だった。意識はない。出血が酷く、息もしていないように見える。
(酷い。私の治癒で治せるか・・・。考えてられない。助けなきゃ。)
女性の命を救う為に、治療を始める弥生だった。
広い空き地に出る。幸い周りに建物もなく、人はいないようだ。
(ここならいいか。)
ザッザッ
叉羅の後を追いかけて来た少年が空き地に入って来る。
「アー。アハハ。」
先ほどと同じで言葉は通じそうにない。
「アーーー!!」
奇声と共に少年が飛びかかって来る。
交わして蹴り一発。仰け反り後ずさる少年。
(この状態じゃ、大してダメージも与えられなそうだな。)
すると、少年の顔がみるみる怒りに染まっていく。
「フー。フー。ヴゥゥヴゥ。」
(この年齢で鬼化するという事は、第3世代くらいか。)
冷静に分析する叉羅。
ボゴンッ!
という音と共に少年の体が大きく膨張する。
徐々に少年の体が大きく変形していく。
(おいおい。)
流石の叉羅も少年が変化した鬼の大きさに目を丸くする。
その大きさ実に10メートル近くまで大きく変化した鬼。
(でかいな。)
あまりの変わりように嫌気がさしたような顔で鬼を見つめる叉羅。
「グルルルル。」
猛獣のように唸り叉羅を見る巨大な鬼。
「オオォオオオオオォォォ。」
雄叫びと共に巨大な鬼が叉羅に襲いかかる。
ハアッ、ハァッ。
暗い路地裏を走る弥生。
(叉羅は一体何処に?)
当てもなく走る。
ドオオォン!!
突如鳴り響く大きな音。
(今の音って、まさか!)
音に気づき、その方向に向かって走る。
少し開けた所に出た弥生の目に飛び込んで来たのは、赤ん坊に襲いかかる巨大な鬼の姿だった。
(嘘。この間の鬼よりも3倍近く大きいなんて。)
驚きと恐怖で足がすくみ、青ざめる弥生。
ドオオォン!
鬼の腕が振り下ろされる度、地響きと轟音が鳴り、地面が破片となって飛び散る。
(こんなの、近づけない。)
すると、叉羅がこちらに気づき、近くに着地して来た。
「おい。さっきの人は?」
「えっ?あっ。少し傷を治した所で呼んでない救急隊が来たので、任せてしまいました。まだ、意識は戻ってませんでした。」
「救急隊?時雨か。相変わらず手が早い。」
そう言って鬼に向き合う叉羅。
「邪魔だ遠くへ逃げろ。」
「でも、叉羅は!?」
「お前がいると足手まといだ!」
強く言われ。後ずさりしながら移動する弥生。すると急に叉羅を見ていた鬼の視線が弥生に移る。
「!?」
それに弥生が気づいた瞬間には、もう鬼が弥生に向かって攻撃を仕掛けていた。
「チッ。」
ドン。
叉羅が弥生を押す。
ガッ!
鬼の腕がが叉羅を吹き飛ばす。
無残に転がる叉羅。
殴られた衝撃は凄まじく、頭からは出血、かろうじてガードした腕は折れていた。
叉羅に駆け寄り、慌てて抱き上げる弥生。
「叉羅!叉羅っ!」
呼びかけるも反応がない。無理もない。叉羅と巨大な鬼との体格差では、子供が10トントラックに轢かれるのと変わらない。
「どうして。私、本当に足手まといに。」
弥生の目から涙が溢れる。
(こんなに小さい子に守られて、私は何もできないの?)
ズン、ズン
鬼が近づいて来る。
最後のトドメを刺すために、鬼が腕を大きく振りかぶる。
「っ!」
恐怖に目を瞑る弥生。
しかし、鬼の攻撃が来ない。
何が起こっているのかわからず、恐る恐る目を開けて確認する。
「グ。ガッ?」
鬼は攻撃をためらっている。いや、何かに怯えているようにも見える。
(一体、何があったの?)
「なるほど。本能的に恐怖は感じるらしいな。」
腕に抱かれている叉羅が目を開ける。
「叉羅!よかった。気がついたんですね!」
「アホが、だから来るなと言ったんだ。足手まといになるだけだと言っただろう。」
ボロボロの体で弥生から降り、立ち上がる叉羅。
「叉羅!無茶です!そんな体でどうやって!!」
「お前。不思議に思わないか?何で赤ん坊が普通に喋ったり、常人のそれを上回る身体能力で動き回れるのか。」
「・・・!」
何かに気づく弥生。
「俺は人類創造政策で初期に作られた第1世代の子供。
その中で遺伝子交配実験の試作のために、ある細胞を埋め込まれた実験体だ。」
「ある細胞?」
「その細胞の名は、「幻獣細胞」。」
叉羅の身体から蒸気?が出始める。
「当時、国家で秘密裏に行われていた生物実験でこの世に存在し得ない生物を作る実験が行われていた。その実験の過程で開発されたのが、この「幻獣細胞」だ。この細胞は人体において、爆発的な身体強化と細胞に含まれる幻獣遺伝子からそれに付与した異能が備わる代わりに、ある副作用が現れる。」
身体からでた蒸気が叉羅を覆い尽くす。
「副作用?」
「この細胞は陽の光に弱く、昼間は身体が退化する。それ故に昼間は赤ん坊の状態になるって事だ。しかし、陽が落ち、夜が来ると細胞の力が戻り、感情の昂りによって本来の姿に戻ることが出来る。」
蒸気が晴れると、そこに立っていたのは最初に鬼に襲われた夜に見たあの青年だった。
(これが、叉羅の本当の姿?)
「俺も政府の軍事強化のために創られた人間兵器だ。」
叉羅が鬼に不敵に笑いながら向き合う。
(イ、イケメンだ!!!)
確かに美少年だった叉羅。当然大人になったらイケメンである。
「いや!そんな事より、第1世代って事は、叉羅!あなた本当は何歳なんですか!?」
混乱し過ぎて訳の分からない質問をする弥生。
「あ?20歳だ。」
(タメーーー!!!??)
もう、ただただ驚くしかない弥生。
「さて、そろそろ終わりにしようか?大鬼さんよ?」
「叉羅!あなたまだ怪我が!それに腕も折れて!」
確かに叉羅は先程鬼から受けたダメージが残っているように見える。
「俺に埋め込まれた幻獣細胞は『白龍』。付与される異能は「身体強化」と「超再生」だ。」
そう言い終える頃には叉羅の身体にあった傷や折れた腕が完治していた。
(もう、何でもありですか。)
事の進む早さに最早着いていけない弥生。
「グゥゥ。ガアァ。」
叉羅に怯えていた大鬼だったが、目の前に現れた強大な敵を前に本能のまま攻撃の体勢に入る。
「さ、叉羅!」
鬼の異変に気付き叉羅に注意する弥生。
「見ればわかる。すぐに終わる。」
淡々と答える叉羅。
「オオォオオオオオォォォ!!」
凄まじい雄叫びと共に鬼が攻撃してくる。
「武具換装。『白龍』。」
叉羅の左手の甲が光りだし、五芒星の星が浮かび上がる。すると、そこから出てきたのは、柄も鍔も刀身も全てが白の日本刀だった。
「幻獣解放!」
叉羅の持つ日本刀が白銀の輝きを放つ。
「破魔龍牙斬!!」
一閃。
まばたきよりも早い、ほんの一瞬だった。
叉羅が放った剣撃が大鬼を腕ごと真っ二つにする。
血しぶきを上げ崩れ落ちる大鬼。
(本当に、一撃。)
一瞬で大鬼を真っ二つにした叉羅の強さに冷や汗が出る弥生。
「終わったぞ。」
こちらを振り向き、歩いてくる叉羅。
「す、凄い。」
すると、叉羅の身体がみるみる縮んで元の赤ん坊の姿になる。
「さ、帰るぞ。」
「あっ。はい。」
すれ違い様に声をかける叉羅。数歩歩いた所でパタッと倒れる。
「叉羅?叉羅!」
慌てて叉羅を抱き上げる弥生。
「叉羅!大丈夫ですか!?」
「眠い。寝る。」
「えっ?」
スピーzzz
(もう寝てる。でも、こうして見てると本当に赤ちゃんみたい。)
弥生の腕の中でスヤスヤ眠る叉羅。
(お疲れ様。)
叉羅の寝顔を見ながら優しく微笑む弥生。
夜の闇と静寂が2人を包む。
初の戦闘シーンでしたが、説明と戦闘の両立が難しいです。ほかの作家さんの作品も見て参考にしたいです。