第3話 国家の闇
今回は世界観の説明や設定の事が少し入ってきます。一気に全部説明しすぎると、とんでもなく長い文章になってしまうので、小出しにしながらいきます。
静かだ。
意識が覚醒する。薄っすら目を開け、辺りを見回す。
「うっ。ここは?」
「あら?気がついた?」
隣から聞き慣れた声が聞こえる。声の方に目をやると。
いつもの笑顔でこちらを見ている女性が。
「桜井先生?」
「やーね。ここは園ではないんだから、紗江子でいいわよ?」
視界がある程度ハッキリして来た所でもう一度辺りを見渡す。広い個室の部屋にテレビとベッド。
「病院?」
「そう。あなた昨日の帰りに事故にあったみたいで、そのまま病院に運びこまれたのよ?怪我は大したことなかったらしいんだけど、意識が戻らなかったから検査のために2、3日入院だって。」
「事故?」
(昨日のあれは、夢だったの?怪物は?サラくんは?)
「じゃあ、あたしは園に戻るから。理事長にも報告しておくわ。」
「ありがとうございました。」
手を振り病室を去っていく紗江子。
1人残された弥生は昨日の記憶を振り返りながら考える。
「やっぱり、夢・・・だったのかな?」
混同する記憶の整理がつかないままボソッとつぶやく。
「夢じゃないぞ。」
「うひゃあっ!!」
突然聞こえた声に変な叫び声を上げてしまう。
「誰っ!?」
勢いよく声がした方を振り返ると、そこにはガタイの良い男性に抱っこされた銀髪の赤ん坊の姿があった。
「警視総監!!と、サラくん!?どうしてここに?」
「いやあ、こんな事になるとは、巻き込んでしまってすまないね。」
罰が悪そうに笑いながら警視総監が言う。
「ちゃんと説明してないあんたが悪い。」
続けて抱かれた赤ん坊が喋る。しかも、国の警察のトップの人間に対してとんでもない言葉遣いである。
「なんで赤ちゃんがそんな流暢に、喋ってるんですか?しかも、とんでもなくジャンプしたり走ったり、昨日の男の人は?それに、あの怪物って!!」
混乱しながらも捲したてるように弥生が喋る。
「うるさい。」
「!!」
睨みつけながら弥生を一喝するサラ。
(また怒られた。しかも赤ん坊に。わけわかんない。)
一喝されて落ち込みながら黙る弥生。
「昨日の怪物の件だが、我々は「鬼」と呼んでいる。」
警視総監が言う。
「近年起こっている。詳細不明の連続通り魔や殺人事件にはこの「鬼」が関わっていることが多い。奴らは、闇に紛れて人を襲うため、対処がしづらく、我々も手を焼いているのだ。」
「鬼・・・ですか。急にそんな事言われても、ついていけません・・・」
「だが、君も昨夜見ただろう?あれは、紛れも無い事実だ。」
「・・・・」
まだ混乱しているせいか、考え込む弥生。
「もっと、詳しく説明してください。」
「そうだな。その事も含め、君には伝えたい事がある。さすがに病院でするような話ではないのでな、退院したらすぐに、私の元に来るようにしてくれ。」
「はい。」
返事を聞くと、2人は病室から出て行った。
(あー!!もう!鬼?全然ピンとこない!喋る赤ちゃんの件も何一つ解決してない!!しかも警視総監にあの態度!どうゆう関係?伝えたい事って何?わかんない。)
そんな事が頭の中をグルグル回り、思考を遅くさせる。
「寝よう。」
見つからない答えを探すのをやめ、弥生はもう一度眠りについた。
ーーー3日後ーーー
警視総監室の前には弥生の姿があった。
「失礼します。」
扉を開けて中に入ると、警視総監とサラが座っていた。
「座りなさい。」
応接用のテーブルを挟み、ソファに対面する形で座る弥生。
「説明してもらえますか?鬼の事、あとサラの事も。」
「・・・」
少しの沈黙の後、警視総監が口を開く。
「君は人類創造政策について、どこまで知っているかな?」
「?今から30年ほど前に発表された子供を創るとゆう政策ですよね?今では当たり前のようになってますが、少子高齢化による人口減少を防ぐ為だとか。」
「うむ。表向きはな。」
「どういう事ですか?」
「この政策には裏があってな。本当の目的は、日本の武力向上にある。」
「武力向上?」
「この政策が立案される前の日本は、近隣諸国に対抗するだけの武力がなかった。先進国は影で核などを開発している中、日本には核を保有、開発するだけの資金もなかった。
そんな中で開発されたのが「ゆりかご」だ。初期段階では、受精卵を育てるだけの装置だったが、技術が進むにつれ、近年では遺伝子交配なども可能になった。優秀な遺伝子を掛け合わせ、運動能力の向上や、知能指数の向上した子供が創れるようになっている。」
「まさか、国の武力向上というのは。」
「そうだ。国を生物兵器の集団にすることだ。」
「ただの遺伝子交配だけで、そんな事が可能なんですか?確かに最近では髪の色や眼の色なども変えられると聞いていますが。」
「ただの遺伝子交配だけでは無理だったが、10年ほど前からある細胞の開発が行われていてな。その細胞を遺伝子交配に組み込んで子供を創るようになった。」
「・・・」
「研究者は「進化細胞」と呼んでいる。人間を進化させる細胞という意味らしい。この細胞を埋め込まれた個体は成人するまでの間に、一般人の3倍以上の身体能力を身につける事ができると言われている。
だが、細胞との相性もあるらしく、全員が適合するわけじゃないらしい。それに、副作用も伴うと言われていてね。」
「副作用ですか?」
「仮に適合して細胞を植え込まれたとしても、成長過程で細胞との拒絶反応を起こす場合がある。そうなると、細胞が暴走して一気に増殖し、ある一定の所を越えると理性を失い、破壊衝動を持った怪物になる。」
「それが・・・鬼ですか?」
「そういう事だ。」
「鬼になってしまった人は、どうなるのですか?」
「鬼になるのは進化細胞に完全に飲み込まれ、理性を失った状態だ。もう元には戻れない。そうなったら、被害が拡大する前に殺すしかない。」
「そんな。」
そこまできいて、弥生はあることに気づく。
「では、昨日の少年は?ユウシくんは?」
「残念だが。」
目を伏せながら言う警視総監言葉に絶句して、涙が溢れる弥生。
「まだ、小さい子供なのに。」
「皮肉なものだよ。国の力を上げる為に行った政策で国民の命が脅かされる事になるとは。
ちなみにこの事は、警視庁の上層部と一部の官僚しか知らない国家機密になっている。」
ここで一つ疑問が浮かぶ。
「何故、この話を私に?」
「それが、今回話したかった事だ。君には今日付けである組織への異動を、命ずる。」
「異動って、急にどういう事なんですか!?しかも、部署じゃなくて組織って。」
「警視庁 特殊犯罪対策部。組織名「五芒星」。」
今まで黙っていたサラが口を開く。
「特殊犯罪対策部?聞いたことないけど。」
「国家機密だって言ってたろ?バカなのか?」
「失礼ね!だいたいサラくんは何者なんですか?そんな風に喋る赤ちゃんなんて見たこともないんですけど!」
弥生の言うのも無理もない。目の前にいる赤子同然とも言える子供が、普通に喋り、昨夜には鬼と戦闘も行なっていたなど、誰も信じられるわけがない。
「赤ちゃんじゃねえ。」
「赤ちゃんじゃないですか!」
言い合いになるのを警視総監が割って入る。
「サラ。やめなさい。天堂くん。実はあの保育園に潜入していたもう1人の捜査官っていうのは、この子なんだ。」
サラを抱き上げて警視総監が言う。
ドヤ顔で弥生を見つめるサラ。
「ええぇぇ!?いやいや!どう見ても赤ちゃんにしか見えません。おかしな冗談はやめてください!」
「それでは、昨日の事はどう説明する?」
昨日の記憶が蘇る。
「そ、それは。」
「この子は、ただの赤ん坊じゃないんだよ。実のところ、この子は警察の中でも警務部長クラスの権限があるんだよ。」
「この赤ちゃんにですか!?」
「赤ちゃんじゃねぇ。」
「まあまあ。2人ともその辺にしといて。それでは、天堂くんはこれから特殊犯罪対策部に行って、詳しく説明を受けてもらう。わかったね?」
「はい。」
警察のトップからの命令。断れるはずもなく、落ち込みながら答える弥生。
「サラも案内してやってくれ。」
コクッ
頷くサラ。
「おい。おぶれ。」
「やっぱ赤ちゃんじゃないですか。」
偉そうに指図するサラを渋々おぶる弥生。
「どこに行くんですか?」
「五芒星の本部。うちのボスのとこだ。あっちだ。」
「あとでちゃんと説明してくださいね。私、まだ聞きたいことがたくさんあるんです。」
「とりあえず歩け。」
「むー。あっ。では、失礼します。」
むくれながら、警視総監に一礼をし、部屋を出て行く弥生。
これから巻き込まれる事の重大さには、まだ気づいていなかった。
世界観や設定の説明が主だったのですが、わかりにくくなってなかったですかね?また少しずつ、わかりやすく書けるように努力していきます。