第1話 新米刑事のお仕事?
今回から本編になります。絵心がないので、文章だけになりますが、想像しながら読んで頂ければ幸いです。
ーーー5月某日ーーー
東京都 「聖マリア保育園」
都内最大。園児や職員含め500人を超える大型幼保園では、今日も子供達の笑い声や泣き声が聞こえる。
「せんせー!ソウタくんがトイレだってー。」
「えっ!?ちょっと待ってね!」
「うわぁぁぁぁん!」
「スミレちゃんが転んだー!」
「せんせー!遊んでよー!」
「ひえぇぇ(泣)」
私は「天堂弥生」。歳は20歳。
この春から警視庁刑事部 捜査一課に配属された新任警察官だったはずなのに。
(何でこんな事になってる!?)
ーーー数日前ーーー
東京都 警視庁 刑事部 捜査一課
慌ただしい職場内では、電話の音が鳴り響き、職員達の話す声が聞こえている。
「どうぞ。お茶です。」
「ありがとう。弥生ちゃん。よく気が効くね!もう職場は慣れたかい?」
「えへへ。まだ慣れない事が多いですけど、楽しいです。」
「そうかー。わかんない事があったら何でも聞いてね!」
「ありがとうございます!」
笑顔で答える弥生に、職場内の男達は鼻の下を伸ばしニヤける。
(かわいい。)
(男ばっかの職場だったからなー。人事部に感謝だなー。)
「弥生ちゃん。この案件処理しといてくれる?」
「わかりました。」
「ごめんねー。事務仕事ばっかりになっちゃうけど。」
「いえ。大丈夫です!」
(まだ配属されて1ヶ月。事務や雑務仕事が多くて現場にも出られないけど、早く慣れて一人前にならなくちゃ!)
「ちょっと。そんなに持って大丈夫!?」
「はい。」
ヨロヨロと大量の書類を運ぶ弥生。皆が心配そうに見つめる先にはコンセントから伸びたコードが。
「あっ!あぶないっ!」
「え?」
ガッ!!
ドガシャーンッ!!!
派手にすっ転ぶ弥生と散乱する書類。そう。彼女はドジっ娘である。
「大丈夫ー?」
「うう。すいませーん。いたた。」
「怪我してない?気をつけてね。」
「はーい。」
落ち込む弥生を慰めつつ個々の仕事に戻る職員達。
「課長。この案件なんですが。」
「それなー。手がかりが少ない上に目撃者もいないから進展も望めないんだよ。近隣住民には厳重注意を促すようにしてもらえるか?」
「わかりました。」
一部職員がヒソヒソと話をしている。
「何の話なんですか?」
「連続通り魔だよ。」
「ここ最近夜間に襲われる人が急増してる。やり口から同一犯と言われてるけど、被害者が全員殺害されてるのと、目撃者も1人もいないらしくて捜査が行き詰まってるみたいだよ。」
「怖いですね。」
「大丈夫だよ!弥生ちゃんをそんな危ない現場には行かせないから!」
不安そうな顔をする弥生を職員達が気遣い声をかける。男ばかりの職場に配属されてきた若い彼女は、さながらアイドル的な扱いだ。
プルルルル
電話が鳴る。
「はい。捜査一課です。はい。え?わかりました。」
「天堂くん!呼ばれてるからすぐ行ってくれないか?」
「はーい。何処へ行けばいいですか?」
「それが・・・。警視総監室へ・・。」
「・・・・えっ?」
凍りつく室内。
「えーーーーーーー!!!!??」
一際大きな弥生の叫びが響く。
警視総監室の前。力なく佇むやよい。
(何で警視総監室に?私何かした?まさか、クビ?)
脳裏によぎるのはマイナスな思考ばかり。
不安を胸に弥生は扉をノックする。
コンコン
「入りなさい。」
中から低い声がする。
「失礼します。」
弥生は不安で顔を曇らせながら室内に入る。
そこにはガタイのいい白髪の男性が立っていた。
「君が天堂弥生くんだね?まあ、掛けなさい。」
「はい。」
(怖い。警視総監、威圧感ハンパない。か、帰りたい。)
青ざめた表情で椅子に腰掛け、深呼吸をして話を切り出す。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
「きみ。子供は好きか?」
「へ?」
「小さな子供は好きか?」
「えっ?あの。えーと。可愛いと思います。」
「そうか。ならば大丈夫だ。」
「一体どうゆうことなんですか?」
「きみは「聖マリア保育園」を知っているかね?」
「それって、都内最大規模の最近新設された幼保園ですよね?」
「うむ。きみにはそこで保育士として潜入捜査をしてもらいたい。」
「潜入捜査・・・ですか?」
「件の通り魔事件の犯人がその付近に潜伏していることがわかったのだ。すでに、うちから1人潜入している捜査官もいる。きみにはその捜査官のサポートをしてほしい。」
「ちょっと待ってください。話についていけません。何故実績も何もない新人の私なんでしょうか?」
「きみを推す推薦があったものでね。きみにとっても良い機会だと思うのだが、行ってくれるかね?」
「・・・・わかりました!行きます!」
「おお!行ってくれるか!詳しい詳細は後日書面で知らせよう。この話は他言無用で頼むよ。潜入捜査は署内でも機密事項になるからね。きみの課には長期出張だと伝えておくよ。」
「はい!」
こうして、潜入捜査は始まった。
「痛いよー。えーん。」
「スミレちゃんもう大丈夫だよ。ちょっと見せてくれるかな?」
そう言って弥生は少女の擦りむいた傷口に手をかざす。
「あれ?痛くない!治った!せんせーありがとー!」
さっきまでの泣き顔が嘘のように笑顔になった少女につられ、優しく微笑む弥生。
「せんせーは魔法使いなの?」
「うーん。そうかもね?」
「すごーい!!私も大きくなったらせんせーみたいになるねー!」
「気をつけて遊んでねー!」
笑顔で走り去る少女に手を振る。すると、弥生の足元にしがみつく少年。
「せんせーいい匂いがするー。お日様みたーい。」
「こーら!ユウシくん。動きづらいよ。向こうでみんなと遊んでおいで。」
「はーい!」
少年も友達のところに走っていった。
「天堂先生。さっきの見てたんだけど、もしかして「ギフト」?すごいわね!私初めて見た!」
「桜井先生。ええ。すごいといっても、治癒力を高めて簡単な傷を治したりできるくらいですよ。」
「それでも大したものよ!なかなかできることじゃないわ!子供達を守る為にあるみたい!そのまま保育士になっちゃいなさきよ(笑)」
「そうですね(笑)」
そう言って子供達を優しく見つめる弥生。それを遠くから見つめる影が笑った気がした。
「ギフト」
贈り物。授かり物。とゆう意味合いで使われるこの言葉。「ゆりかご」による遺伝子操作をして子供を創るという政策が行われ始めて約20年余り、生まれてきた子供達は数千万人にも及ぶ。その中でごく稀に特異能力を持って産まれてくる子供がいる。
テクテク
ふと、視界の端を横切る子供。
(あれ?今トイレから出てきたのって。)
目をやると、2歳くらいだろうか?小さな男の子が歩いていた。大きさは2歳くらいに見えるが、髪は銀髪で、2歳とは思えないほどに普通に歩いている。他の2歳児の子とは明らかに違う雰囲気だった。
「桜井先生。あそこの銀髪の男の子って・・・」
「あー。サラ君の事?1週間くらい前から中途入園してきた子なんだけど、理事長の知り合いの子供らしくて。でも、身寄りがないらしいのよ。昼間は園にいるんだけど、夜は理事長が連れて帰って一緒に過ごしてるみたい。」
「そうなんですか。今、1人でトイレから出てきたんですけど・・・」
「まだ入園して1週間だし。探検してたんじゃない?でも、不思議な子よ。感情を表に出さないというか、他の2歳児の子達と比べるとビックリするほど落ち着いてるのよね。見た目は目立つんだけどふと気づくといなくなってたりするから。あんまり他の子とも遊ばず、1人でいる時が多いみたい。」
「へー。」
そう言って視界を戻すとサラという男の子はいなくなっていた。
「でも、サラくんに気づくのはすごいわね。私達は注意してないと存在すら気付かない時があるのに。」
「昔からのクセで周りに気を使うの得意なんです。」
「やっぱり保育士さん向いてるんじゃない?真面目に考えてみてよ!(笑)」
「ふふふ。」
(サラくんか。ちょっと気になるな。)
夕方。保護者に連れられて帰宅する園児達の元気な挨拶が聞こえる。
「せんせーさよーならー!」
「はーい!さようならー!」
「今の子で最後かな?さて、私も片付けて帰ろうかな。」
(潜入して数日。特に変わった様子はないけど、本当に通り魔事件の犯人がいるのかな?)
表情を曇らせながら悩んでいる弥生。
「おや?天堂先生。お疲れ様です。」
「あっ!理事長先生。お疲れ様です。今から帰るところですか?」
そこには優しそうな年配の男性と抱っこされ、こちらを見ているサラという男の子がいた。
「そうなんです。この子の面倒もありますので、他の先生に任せてしまって申し訳ないです。」
「いえいえ。サラくん。またね。」
初めてサラくんを見たが、とても綺麗な顔をした男の子だ。2歳児に言うのもなんだが、美少年というやつだ。
「うちは家内に先立たれてずっと独り者だったのですが、この子が来てから生活にも張り合いが出ていいですよ。この子もとても出来た子で、全然困らせないんですよ。」
「そうなんですかー。サラくんはお利口さんなんだねー。」
そう言って頭を撫でようと手を伸ばすと、
ギロッ
「ッ!」
(何?めっちゃ睨まれてる。私なんかした?触られるのが嫌なのかな?私、嫌われてる?ほぼ初対面なのに?)
子供にしては威圧感たっぷりで睨むサラの方に伸ばした手をゆっくり引っ込める。
「コラッ。サラ。ははは。すいません。人見知りみたいで。初めての人にはどうも慣れないみたいなんです。」
「そうなんですかー。あはは。ごめんねー。」
「では、我々はこれで。」
「お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします。」
挨拶をし終え、ゆっくりと歩き出す。
「おまえ。気をつけた方がいいぞ。」
「えっ?」
ハッとして振り返ると歩きながら遠ざかる2人の姿があった。
(理事長の声じゃない。小さな声だった。でも、はっきり聞こえた。)
振り返ったまま佇む弥生を夕日が照らしていた。
今回から主要人物が少しずつ出てきます。弥生はヒロイン的な立ち位置です。それ以外の捜査一課の人達や保育園の人達はあまり詳しい描写はしていませんが、顔など想像して読んでくれたら幸いです。
会話なども特に誰が喋っているか区別していませんが、わかるでしょうか?