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真面目に仕事

 初めての依頼は孤児院の子供三人に戦闘訓練をする事。

 でも最低ランクの冒険者に指導されても意味ないというガキ。

 マーラさんが言っても納得はせず、じゃあ実力があればいいんだな?


 という事で、俺がルナと模擬戦をやることになりました。

 これが一番手っ取り早いと思うのよ。

 味目にやるって言っちゃったのでね、やりますよ。


 「準備はいいか?」

 「私はオッケーです!」

 「周りとか壊しそうな事しても、俺が抑えるから安心な。自分の練習になると思って思いっきりやれよ」

 「はい!」


 何かやってきても俺が氷で防げばいいわけだからな。

 ……今グレイとかいうガキが「どうせ大した事ないよ。見ればマーラ姉だって納得するさ」とか言っているのが聞こえた。

 お前後悔しても知らないぞ?

 後で今思いついたダメ出しをぶつけてやろう。


 「行きます!!」

 「いつでも来い。先手は譲ってやる」


 俺がそう言うと、ルナは膝を曲げて少し腰を低くする。

 その途端に、とてつもないスピードで正面から斬りかかってきた。

 もちろん武器は本物である。

 アイツが尻尾を変形させた剣だ。


 あまりのスピードで、風圧が後から来る程だ。

 まぁ氷で防ぐんですけどね。


 「それ」


 俺は庭の一面に氷を張る。

 俺はその氷を滑って瞬時に移動し、ルナの死角に入る。


 「ハァッ!!」

 「何!?」


 ルナが思いっきり殴ってきた。

 マジか、滑って動けなくなったところを視覚外から叩いてやろうと思ったのに……


 思わぬ攻撃をされた俺は一旦距離を開ける。

 すると……


 「お前……足……」

 「どうです!部分竜化です!この足ならバランスを保つのも簡単です!!」

 「……そういえば羽だけ出したりしてたな」


 体の一部だけ戻せるのか。


 「まだまだありますよ!!」


 そう言って俺に向かって拳を振りかぶってきた。

 しかし、明らかに間合いから離れすぎている。

 何をする気か警戒していると、突然目の前から巨大な拳が飛んできた。


 「おっと!?」


 警戒していたので避ける事自体は簡単だったが、いきなりでかなり驚いた。

 見ると、ルナの左肩から先だけドラゴンの手になっていた。

 完全にドラゴンになった時の大きさで。


 「腕だけ完全に戻したのかよ……」

 「どうです!驚いたでしょう?」

 「ああ、そうだなッ!!」


 俺は思いっきり手を振りかぶり、氷を腕に纏わせて思いっきりルナに向かって殴る。

 普通なら届かない。

 でも、俺の氷は自由自在だ。

 振った俺の手から、太く巨大な氷がとてつもないスピードで伸びていく。

 ルナと同じような攻撃をしたわけだ。


 「俺だって、似たような事が出来るんだよ。さぁ!次の攻撃だッ!!」


 俺は柱のように大きな氷の槍を瞬時にいくつも作りルナに撃ち出す。


 「こんなものッ……って、ぅあ!!っと」


 ルナは手に持った剣で何本かの氷の槍を弾くが、数がそこそこあったせいで弾ききる事が出来ず、何本かを大きく飛びのいて回避する。

 馬鹿め。


 「それッ!!」

 「あうッ!!」


 俺はわざわざ回避しやすい場所を上手く作り、そこに誘導したのだ。

 ルナが俺の思い通りに回避したところで、俺はそこに待ち伏せて思いっきり蹴とばしたのだ。


 「なんのッ!!」

 「おっと!!」


 ルナは俺に蹴っ飛ばされた後、背中から瞬時に羽を出して空中で体制を立て直し、手から雷を打ち出してきた。

 俺はそれを氷の壁を作って防ぐ。

 そう言えばコイツ、雷のドラゴンだったな。

 コイツの周りに雷雲とかいっぱいあったし。


 「ふふ、防がれるのは分かっていました……っていない?」

 「おらよ」

 「あうッ!?」


 ルナが俺が作った氷の壁の上から飛んで回って来るのを、俺は予想していたので、俺は氷の中に入って隠れる。

 若干透けてしまうが、数秒なら隠れる事が出来る。

 俺はそこから不意打ち気味に飛び出して殴りかかった。


 「よし。まぁここまででいいだろ」

 「うぅ……ご主人様って結構容赦ないですよね」

 「何を今更。それに、お前はこれ位じゃ大した怪我なんてしないだろ?」

 「そうですけど……」


 俺は氷だらけになった庭を元に戻す。

 残ったのは空気中を漂う冷気だけになった。

 まぁここは外だし、直ぐに消えるだろう。


 俺はルナを放っておいて、マーラさんと三人の教え子が居る所に行く。

 その時に気付いたが、孤児院の窓から沢山の子供たちがこちらを見ていた。

 まぁあれだけ派手にやってたらねぇ、そりゃあうるさくて気になるよねぇ。


 「で?これが俺たち最低ランク冒険者の実力だ。本気じゃないけどな。本気で戦ったら街が無くなっちまう。俺たちみたいな最低ランク冒険者じゃ実力不足なんだろう?お前たちはきっと俺たちの指導を必要としないくらい強いんだろうなぁ」

 「こ、こんな……」

 「お、驚きました……あなた方がこれほどの実力を持っていたなんて……」

 「ん?この程度で十分なのか?」

 「十分すぎるくらいです!!改めまして、この子たちの指導、よろしくお願いします!」

 「まぁやるのは俺じゃ無くてアイツだけどね」


 さて、ダラダラタイム再開といきますかね。


 俺は先ほどまでいた椅子に座る。


 「ハァ……近所迷惑じゃなかったかな?」


 絶対近所迷惑だったろ。

 騒音というよりも爆音だったし。


 「ねぇねぇ、お兄ちゃんは冒険者さんなの?」


 ボケーっとしていると、つの間にかいた小さな少女にが話しかけてきた。


 「そうだよ。といっても、今朝なったばっかりなんだけどね」

 「それなのにすごく強かったね!!」

 「そうかい?まぁ、冒険者になる前から強い人っていうのは、探せば居ると思うよ」

 「そうなの?」

 「そうだよ」


 随分楽しそうに会話する子だなぁ。


 「お兄ちゃんと一緒にいたお姉ちゃんも強かったねぇ!」

 「……そうだね」

 「お兄ちゃんの方が強いのに、お兄ちゃんたちに訓練教えないの?」

 「ん~、実は、お兄ちゃんは戦いってあんまりやった事が無いんだよ。あのお姉ちゃんのほうが沢山経験してるし、沢山の事を知ってるから、教えるならあのお姉ちゃんだけの方がいいんだよ」

 「そうなの?」

 「そう。何も知らない人が、間違った事を教えるのは良くない事だからね。知っている人が正しい事を教えた方がいいんだよ」

 「へぇ~」


 あんまりわかってなさそうだなぁ。

 別にいいけど。


 「あ、呼ばれてる。私行くね!!ありがとうお兄ちゃん!!バイバイ!!」


 俺は少女に向かって手を振る。

 ……何に対してのありがとうだったんだろう?


 少女を見送った後、俺はまたダラダラタイムに入る。


 「あの、少しいいですか?」


 ダラダラタイム数秒のお知らせ。


 「……そういえば、さっき何か言いかけてたな。どうぞ?」

 「は、はい。……その、先ほどの会話の時に思ったのです。あなたの言葉を聞いていると……まるで誰も信用できないというような事を言っていたので……」

 「それが気になったと?」

 「……はい」

 「別に、俺は人間不信という訳じゃない。何も信じられないという訳じゃないし、信じていない訳じゃない。ただ……期待していないだけだよ」

 「期待……ですか」

 「あぁ」


 ……『まるで……本当の家族のみたいだ……』俺がそう言った時、少し聞きたい事があったのだ。

 聞かないつもりだったが……この人の答えに少し興味が出てきた。


 「ちょっと見ていてくれ」

 「?……」


 俺は掌を上にして、その上に氷を生み出す。


 「これが何かわかるか?」

 「氷……ですよね?先ほどの模擬戦でも使っていたものですか?」

 「そう……実はコレ、魔法じゃないんだよ」

 「……気のせいではなかったのですね」

 「気づいていたのか?」

 「私、これでも回復魔法が使えるんです。なので、魔力に関しても、自分で訓練しているので、人の魔力の流れなども、何となく感じる事が出来るのです。先ほどの模擬戦では、あなたの魔力の動きを感じる事が出来ませんでした。気のせいだとは思っていましたが……」


 以前、ルナが「それって魔法じゃないですよね?」って言ってきたのは、俺の魔力の流れを感じる事が出来なかったからか……


 「まぁ、それなら話が早い。俺は、この特殊な力のせいでいろいろあってね。特に悪い事をしたわけじゃないのに、故郷で俺の首に賞金がかけられてね」

 「えっ!?」

 「わかりやすく言うと、自分たちとは違う奴は危ないから殺せって事だ」

 「そんな……」

 「俺はまず最初に、親を頼った。その時、一番頼りになりそうな人は親しかいなかったからな……まぁ結果から言うと、売られそうになったよ。金に目がくらんで、自分の息子を殺して国に引き渡してしまおうって考えたらしい」

 「ッ……」

 「……親は死んだよ。というよりも、俺が殺した。殺されそうになったからな。……それが、初めて自分の手で、人を……生き物を殺した瞬間だったよ」

 「…………」

 「その時思ったんだ。他人に期待したって、後悔するだけなんだなって。何か、ものを人に頼んだりするだろ?それがどんなに小さいものでも、そいつが失敗したら、その失敗はそいつじゃ無くて自分に返ってくるんだ。まぁ当たり前だよな。自分がやんなきゃいけない事を人に押し付けた挙句、失敗したんだから。……俺は、それに自分の命を頼んで失敗したんだ。大きな期待を託してな。……あんたは怖くないのか?自分以外の誰かに、何かを期待し、託すのが。それを失うんじゃないかって、怖くならないのか?」


 これだ。

 これが聞きたかった。

 これを聞くために、わざわざ長ったらしい過去を述べたんだ。


 「……私には、わかりません。そのような事を経験したあなたは、人に期待し、託す事を怖く感じても仕方ないと思います。でも……私はただ、今を失いたくない。これからに繋げていきたいと、思っています。だから、信じようと思います。私には、信じるしかないんだと思います。少なくとも、今持っている『何か』を失う方が……よっぽど怖いですから」

 「それが……あんたの答えか」


 持つ者の……答えか。

 それとも、この人だからこその答えなのか。

 まぁいいか。

 聞きたいことは聞けた。


 「あの……」

 「まだ何か?」

 「い、いえ、そういえば、まだお名前を教えていただいていないと思いまして……」

 「……『銀』だ。俺の名前はそれだけだ」

 「ギンさん、ですね」


 ギンさんって……かぶっちゃってるよ。

 誰ととは言わないけども……メッチャかぶってるよ……


 「ギンさんはやめてくれ。その呼び方は好きじゃない。他のにしてくれ」

 「え、えっと……」

 「そもそも、この名前はあんまり好きじゃないんだよ。あのクソ共が俺につけた名前だからな」

 「…………」


 ……そうだ、いつまでこの名前を使っているんだろう。

 異世界に来たのに、わざわざこの名前を使い続ける必要なんてないじゃないか。

 しまった……もっと早くに気付いていれば!!

 ギルドカードにギンで登録されてるよ!!やらかしたッ!!


 「聞きたい事があるんだが、いいか?」

 「なんでしょうか?」

 「名前ってどうやって変えるの?」

 「な、名前……ですか?」


 変えられるなら今すぐ変えてしまいたい。


 「えっと……確か、変更したい身分証の発行された場所で……少々面倒な手続きをすれば、可能だったと思いますが……」

 「本当か!!よっしゃ!!帰りにやってこう!!そうと決まれば名前を考えないとな!!今の名前とは全然違うやつがいいなぁ……」


 名前、何にしようかなぁ?


 結局、夕刻の鐘が鳴るまで、新たな自分の名前を考え続けていた。

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