道のり
現在、俺たちは次の街へ向かっている。
まぁ、前回のような厄介な状況になる事は無いだろう。
多分。
「場所は分かってるのか?」
「はい。このあ辺りは何年か前に飛んだので覚えています」
「覚えるほど飛んだのか?それって大丈夫なのか?ドラゴンが街の上を何度も飛んでたら大騒ぎになりそうだけど」
「え?一回しか飛んでませんよ?」
「は?じゃあ一回で覚えたのか?」
「はい!それはもうバッチリと!ただ、人間の街は直ぐになくなったり新しい街が出来たりして、数年前の記憶をしっかり覚えていても、街そのものがなくなってたりして、あまりあてにならなかったり……」
戦争でもしてんのかな?
街中に武装してる人とか結構いたし、やっぱり物騒なのか……
街に付いたら情報収集は頻繁にやっておこう。
信用できる情報源を確保するのは急務だな。
「もうそろそろ街に付きますよ」
「街が見えてきそうって所でちゃんと降りるんだぞ。出来なかったら今日のお前のメシは抜きだ」
「そんなぁ!?昨日も何だかんだで何も食べてないんですよ!?」
「お前が俺の言った通りにしないと、俺も食べられない可能性があるんだよ。俺も昨日は何も食べてないから一緒だな」
「こんなお揃い嫌ですぅ!!」
全く……こればっかりはしっかりしてくれないと困るぞホントに。
またドラゴンだぁ!!って騒ぎになって街に入れなくなったら何も食えないんだからな。
数分すると、ルナが徐々に高度を落とし始める。
その後、地面に触れそうになるくらいの距離になったら減速して着陸した。
「よーし、ここからは歩いていくぞ」
「やっぱりですか……飛べば直ぐに着くと考えてしまうととても憂鬱に……」
「この程度も歩けないとか軟弱なドラゴンだな」
「歩けますし!こんなの余裕ですし!」
やっぱチョロいな。
「そういやさ、お前って人型になると鎧着てるけど、何か理由あんの?」
「これですか?これはドラゴン型だった時の鱗にあたりますね。一応人間の服みたいに脱ぐことも出来ます。別に鎧型ではなくてもいいんですけど……ほら、人間の皮膚ってすごく弱いじゃないですか。だからちょっと硬い物とかにぶつかるだけで結構痛いんですよね」
「何かにぶつかっても痛くないようにってか?」
「はい!」
理由が情けねぇ……
別にダメってわけじゃないけど……情けねぇ、ドラゴンっぽくない。
コイツ、自分の事をドラゴンの上位種とか言ってたけど、嘘じゃないよな?
それともドラゴンは皆こんな感じなのか?
ヤダァ……
「……腹減ったなぁ」
「そうですね……」
街を目指して歩きながら思う。
もうとっくに夜は明けている。
何も食べずに丸一日が経過している。
「そういえば、お金ないから街に行ってもメシ食えないじゃん」
「……え」
横から絶望したような視線を感じる。
「……予定変更、狩りに行くぞ。空を飛んでる時に魔物の群れとかチラッと見えたし、そいつらでいいだろ」
「生でいいので早く食べたいです」
「その見た目で魔物を捕食するのは絵面的にNG。ちゃんと火を通すから待ってろ。ていうか、その前に獲物を捕捉する所から始めないとな」
「ドラゴンに戻りますか?」
「いや……お前って人間の状態で戦闘したことある?」
「……ないですね」
「じゃあ練習がてらそのままで」
「わかりました。では行きましょう!!」
「……急に元気になったな」
まぁいつまでもグダグダされる方が困るけども。
俺たちはさっき見つけた魔物の群れの方へと向かった。
「いた」
「いましたね」
結構数が居る。
上からだと分かりにくかったが、恐竜みたいな見た目をしている。
スピノサウルスみたいに前足を浮かした感じの奴。
「足とかうまそうだな」
「ああいう感じの魔物は首とかも結構おいしいですよ」
「へぇ、森じゃあ何故かああいう形の奴はいなかったから気になるな……」
目に映っているのはもはや魔物ではなくただの肉である。
「パパっとやっちゃおうかね」
俺は地面を凍らせる。
魔物の群れが居る場所も含めてだ。
地面が凍ったのと同時に、魔物たちはバランスを保てなくなりその場に転ぶ。
フッ、うまくいったな。
「わ、わわッ……あっ」
「……お前が転んでどうすんだよ」
こっちのトカゲも転んだ。
「だ、だって滑るんですよ!むしろご主人様はどうして転ばないんですか!」
「俺は氷の上でも自由自在に動けるからな。もちろん、止まる事も出来る」
「ズルい……」
「それが俺の能力だからなぁ」
超能力だし仕方ないね。
俺は氷の創造や操作、氷に対する干渉、大抵の事は出来る。
正確には、俺を含む最初の約二十人は超能力者ではなく異能力者と呼ばれていたのだが、それはまたの機会に。
「偶にチラッと言ってますけど、その能力って何なんですか?魔法とは明らかに違いますけど……」
「気が向いたら教えてやるよ」
「えー」
「えーじゃない。さっさと獲物を仕留めに行くぞ」
俺はスイーっと氷の上をスライドしながら移動する。
「ああッ!!待ってくださいよぉー!!」
「もたもたするなよー」
しまったな、今思い出したが、最初はあいつの人型での戦闘の練習にちょうどいいだろうとか言ってたのに、何もやらせてないじゃん。
ついいつもの狩りの癖でやってしまった。
まぁ、終わってしまった事はどうしようもない。
戦闘訓練はまた次の機会にでもやるとしよう。
俺はツルツル滑って動けなくなっている恐竜モドキの群れの付近に到着する。
「ほい」
俺は地面の氷から大きな棘を生み出して、五匹ほど頭を串刺しにする。
「食べれる所どれくらいあるのかなぁ?人間よりも明らかにデカいから、そこそこあると思うんだけど……そもそも人間状態のあいつがどれくらい食べるか不明だしなぁ…‥」
そう考えると、ドラゴン状態でもどれくらい食べるか不明である。
まぁまだここに沢山いるし、足りなかったら取りに来ればいいだけである。
串刺しにした棘を抜いて、手から生み出した氷に魔物を引っかけて引っ張りながら滑って移動する。
「ほら、氷のない場所に行くぞ……いや、やっぱり面倒だからここでいいか」
俺は自分の立っている場所の氷を消す。
「ふぅ、やっとまともに動けます」
「情けないな。氷の上で自在に動けるように毎日練習だな」
「そんなぁ!!」
「腹減ってるからさっさと作業を終わらせるぞ。あっちに見える森から薪を持ってきて。出来るだけ乾燥してる奴な」
「は、はい。ご主人様は?」
「こいつらの食べられそうな部分を切り出しておく。お前が薪を持ってこないと食べられないからな」
「……飛んで行ってもいいですか?」
「ドラゴンになるのはダメだぞ?」
「えーっと……はい!」
ルナがそう言うと、突然背中からドラゴンの羽が生えてくる。
「……え?それで飛べるの?」
「この状態なら大丈夫ですよね?」
「……まぁ、いいんじゃない?」
「では行ってきます!!」
ルナは森に向かって飛んで行った。
「…………さっき、氷の上に無理に立とうとしないで、あれで飛べばよかったんじゃないの?」
何か出来ない理由でもあったのか、それとも忘れていただけか……
忘れてたんだろうなぁ……肝心な時に馬鹿だし。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
パパっと終わらせよう。
俺は氷で適当な刃物を作って恐竜モドキを切ってみる。
「……骨が太くて身が少ないなぁ」
「筋はあるだろうとは思ってたけど、予想よりも多いな」
「アイツが言ってた通り、首の肉は食べやすそうだな」
「背骨周りは……頑張れば食べられそうだけど、これは食べるまでに手間がかかりすぎるなぁ」
などなど、最初の一匹でいろいろ確認して、残りの奴は焼けば食べられそうな部分だけを切り取った。
「……バラすと思ったよりも少なくなるなぁ」
「薪を持ってきました!」
ちょうどルナも帰ってきた。
「じゃあ火を起こして……適当に焼いて食べるか」
火おこしは「ドラゴンだから出来るだろ」といってルナにやってもらったのだが、人が口から火を噴いているようにしか見えなくて中々シュールだった。
ちなみに、肉は不味くもないが美味くもないといった感じだった。
更に言うと、ルナは人型になっても食べる量はドラゴンと変わらないらしい。
一体その細い腹のどこに入ったのかは理解できないが、最初に適当に捌いた量では足りなくて、適当に何匹か持ってきてぶつ切りにして勝手に焼いて食べていた。
骨ごと食べていたが、一体どれだけ凶悪な顎なんだろうか?
食事を終えた俺たちは、ようやく街へ向かって移動を開始した。
といっても、まっすぐ街を目指すのではなく、街道を通ってだが。
もともと何もない草原を突っ切っていたので、ちゃんと道を歩いて行こうとなったのだ。
特に理由は無いけども。
「それにしても、やっぱり人型は不便ですね」
「何がだ?」
「移動にとても時間がかかってしまうじゃないですか」
「……じゃあ走って行くか?」
「……言っておきますが、私は人型になったとはいえ、身体能力はドラゴン型のままです。確かにご主人様の謎の能力は強いですが「じゃあ先に行ってるわ」っちょ!え!?ああ!待ってください!おいて行かないでぇ!!」
んー、やっぱりこの世界に来てから体が以上に軽い。
というよりも、身体能力が急激に上がっている?そんな感じだ。
街に付いたらそれも調べないとなぁ。
「ご、ご主人様!速いですッ!」
「どうした誇り高きドラゴン(笑)身体能力は変わってないんじゃなかったのか?」
「ぐぬぬぬ」
「ハッハッハー!!貧弱貧弱ぅ!!」
まぁからかうのはこれ位にしておこう。
無駄に体力を使う必要は無いし。
「……お?おい、あれ見えるか?」
「ハァ、ハァ、……えっと、馬車ですよね?」
「なんか……周りにいっぱい居ね?」
「鳥が飛んでますね」
「鳥にしちゃあデカいような……あれも魔物か?」
「……恐らくは、どうしましょう?あの馬車が居るのって街道ですよね?」
「だなぁ……」
どうしたものか。
「……よし。恩を売りに行こう」
「売ってどうするんですか?」
「さぁ?」
「えぇ……」
「お前ちょっと今日生意気じゃない?」
「ええ!!昨日の夜辺りから前より優しくなってた気がしたのに!!」
「言葉を謹みたまえ、君は主の前に居るのだ」
「……言葉には気を付けているつもりなんですが、」
「じゃあいいや」
「えぇ」
「どうでもいいから、さっさと行くぞ」
「はい!」
俺たちは馬車に向かって走り出した。