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殺人未遂と雪の夜(私怨)

 「どんな食事か楽しみですね」

 「お前ドラゴンだろ?人間と同じ食事でいいのか?」


 俺たちは今、夕食の案内に来てくれたメイドさんの案内の元、屋敷の廊下を歩いている。


 「ドラゴンは基本的に何でも食べられますよ?私は食べませんが、好き好んで土を食べるドラゴンもいますし」

 「じゃあお前の食事、これからは土でいいじゃん」

 「私は食べないって言ってるじゃないですか!?」


 だろうな。

 むしろ好んで食べる奴が居る事に俺は驚いたよ。


 「……ん?」

 「?どうかしましたか?」

 「いや、なんでも」


 俺たちを案内するために前を歩いているメイドさんだが、何となく震えているような気がする。

 体の震えを必死に抑えているような……


 怯えているのだろうか?

 人に化けたドラゴンが居るとか聞かされてたら、そりゃあ怖くなるだろうけど……

 もしも、何かを企んでいる様なら……例えば「家じゃあ手に負えないから始末しちゃおう」みたいな。

 これだったら、ここでの待遇は警戒心を解くため~みたいな感じで説明が付くし。

 こじつけだって言われたら言い返せないけどね。

 証拠なんか何一つ無い俺の想像に過ぎないから。


 しかし、警戒しておくのに越したことはない。

 俺は自分の動きが阻害されないように、そして周りから見て不自然じゃないように服の中に氷を纏わせる。

 これだけでもそこそこの防御力があるので森ではよく使っていた。


 「どうかしました?急にそんな」

 「何でもねぇよ」


 コイツは気づいたのか、流石はドラゴンというべきか、それともこいつが優秀なのか……ないな。

 俺の行動に気付いたんなら前を歩いているメイドの挙動を気にして欲しいんだよなぁ。

 そういう所が馬鹿なんだよなぁ。


 「到着しました。こちらになります」


 そう言ってメイドさんは扉をノックした後にそっと開ける。


 俺たちはそのまま部屋の中に入る。

 部屋には大きな長テーブルが置かれていて、そこには既に何人かが座っていた。


 「待たせてすまなかったな。そちらの席に座ってくれ」

 「いやいや、ゆっくりと休む時間をとることが出来てむしろ良かったよ。それに、まさか夕食の用意までしてもらえるとは、感謝してもしたりないよ」


 俺は使用人に下げられた椅子に座る。

 俺の横にはルナが座った。

 構図としては、俺とルナの正面におっさんとその奥さんらしき人が座っており、俺から見て左右の席に若い夫婦が一組とその子供らしき人物が数人座っている。


 「こちらの方々はあなたのご家族で?」

 「うむ。そういえば自己紹介が紹介がまだだったな。ワシはこの街を治めている『デルビン・ゴルドス』という。ほれ、お前たちもお客様に自己紹介をしなさい」


 おっさん、デルビンさんがそう言うと、横にいた奥さんらしき人から順に簡単に自己紹介をしてくれた。

 横の人は奥さんだった。


 で、この中に一人、気になった人物が居る。

 おっさんの息子、先ほど言った一組の夫婦の夫だ。


 「フレット・ゴルドスだ。この街の次期当主でもある」


 デルビンさんとは違ってかなり偉そうな人だ。

 でも、問題はそこじゃない。

 自己紹介で俺たちを見る時、その視線には俺たちへの殺意のようなモノを感じた。

 何かありそうだなぁ。


 (聞こえるか?)

 (え!?急にどうしたんですか!?わざわざ念話なんて)

 (お前って『毒』とか食べ物に入ってたら分かるか?)

 (え?……まぁ、ある程度は匂いで分かりますけど、仮に匂いで分からなくても、食べればわかりますよ?ドラゴンなので毒には強いですし)

 (よし、でかしたぞ。今目の前にある食事、俺のも含めて毒が入っているかどうかわかりそうか?)

 (い、いまでかしたって……は、初めて褒めてくれた……)

 (……聞いてるか?)

 (は、はい!頑張ります!)


 何を張り切っているんだ……

 まぁいいか。

 杞憂ならいいんだけどなぁ……


 「それでは、食事を始めるとしよう」


 おっさんがそう言うと、それぞれが夕食を食べ始める。

 おっさんは奥さんと楽しげに会話をしている。


 ……この世界では「いただきます」を言う習慣はないのか。

 俺は軽く手を合わせ、心の中で「いただきます」といっておく。

 食べられるかどうか分からないけどな。


 俺はチラッとルナを見る。

 ルナは軽く俺と目が合うと、スプーンを手に取り食事を口に運ぶ、さりげなく匂いを嗅いでから食べていたが、匂いでは分からなかったのだろうか?

 それとも毒など入っていないのか。


 (どうだ?)

 (間違いなく入っていますね。匂いでは分かりませんでしたが、結構強い毒です。私は大丈夫ですか、人間が摂取したら間違いなく死にます)


 やっぱりか。

 あまり当たって欲しくない予想が当たってしまった。


 「ルナ、今日はご苦労様だったな。ほら、俺が食べさせてやろう。少しこっちにおいで」

 (おい、合わせろ)

 「え?え!?あ、あわわわわ」

 (わ、わかりました。では、失礼して……)


 ルナは少しだけ椅子を動かしてこちらによって来る。

 俺はスプーンに取った食事をルナの口に入れてやる。

 もちろん俺の食器に入っていたものだ。


 これなら毒が入っているかどうか調べているとは思われないだろう。

 なかなかいい作戦だと思う。


 (どうだ?)

 (え、えへへへへ♪)

 (おい)

 (あ、はい!こ、こっちにも入ってます!!私に入っていたものと同じ毒です!)


 やっぱりか。

 俺は手に持っていた食器を置く。


 (ほら、お前も置け)

 (え、でも……)

 (さっさと置け)

 (はい……)


 二人で手に持っていた食器を置いた所を見ていたデルビンさんが不思議そうにこちらを見てきた。


 「お二人とも、どうかしたのか?」

 「いや、少し気になった事があったもので…………この家では、自分で招いた客に致死量の毒を食べさせるのが常識なのか?」

 「なッ!……どういう、事だ……?」

 「今コイツに食べてもらった所、人間が食べたら間違いなく死ぬ強さの毒が入ってるって教えてくれてな。いやぁ良かった良かった!俺も初対面でいきなり家に招くような奴をその日の内に信用するような馬鹿じゃなくてね。警戒していなかったら死んでいた所だ!」

 「ま、まて!ワシは毒など入れていない!!」


 デルビンのおっさんは多分本当に関係なさそうなんだよなぁ。

 まぁ、まだ分からないけどね。


 「そっかそっか。なら……あんたのお孫さん達に、それぞれ俺たちに出された食事を食べさせてみてくれよ。食べても大丈夫だったら……俺たちは素直に謝るし、相応の罰も受けよう。どうかな?本当に毒が入っていないようなら戸惑う必要はないはずだ」

 「…………」


 悩んでいるな、これは黒かな?それともグレーかな?

 誰かに責任を擦り付けようとしているのか、それとも自分の知らないところで本当に毒が入れられている可能性を考えているのか。


 「……わかった」


 おっさんは俺たちの方に近づいてきた。

 そして、俺の前に置いてあった食事を手に取ろうとする。


 「待った、俺は馬鹿じゃない。アンタに皿を触らせると思うのか?俺は今、頭の中でいろいろな可能性を考えている。あんたは今、何をしようとしている?まさか自分でその『毒入りスープ』を飲み干すつもりじゃないだろうな?それで証明しようってか?それとも床に叩きつけて証拠を消すつもりか?もしくは本当に俺の言う通りにするつもりだったのか…………だがダメだ!!今俺が言った行動の内、俺の言う事を聞く以外の行動に出た場合!あんたがそれをやったら『得をする人間』がいる可能性がある以上!!やらせるわけにはいかないよ」


 俺のセリフを聞いて何人かの目が見開かれる。

 それに一体どんな意味があるのか……俺は人の心が読めるわけじゃないからわからんけどな。


 俺は毒入りスープを手に持って席を立つ。


 「おい、そっちの皿は守っとけよ。予備はあった方がいい」

 「わかりました」


 俺は席に座っているある人物の元に付く。


 「たしか、フレット次期当主の長男だったかな?」

 「は、はい」


 歳は十六か十七歳くらいかな?

 中々のイケメンだ。


 「さて、先ほどまでの会話は聞いていたと思う。一口で良い、これを飲んでくれるかな?」

 「わかりました」


 見た目だけでなく頭もいいのか。

 そして家族を信頼しているようにも感じる。


 俺はスプーンでスープをとり、そのスプーンを手渡す。

 そして、受け取った長男君がそのスープを……っといったところで、予想通り邪魔が入る。


 「やめろぉおお!!!」


 そう叫んだ人物はこちらに走ってきて俺と長男君を巻き込む形で体当たりをしようとする。


 「よいしょ」


 俺は長男君からスプーンを叩き落とし、突っ込んできた人物を顔意外氷漬けにする。

 そこに凍っているのはフレット次期当主だ。


 「いやぁ、これで毒が入っている事が証明されましたね!!そして、このスープに毒が入っている事を知っていた人物も、発見出来た!!良かった良かった」


 まぁ予想通りの人物だったな。

 一人だけあからさまだったしね。

 しかし街に来て早速これかぁ、先が思いやられるな。

 ……いや、先なんか無いか。


 「じゃ、単刀直入に聞こうか。毒を入れたのはあんただな?」

 「…………」

 「だんまりか。あぁ、もがいても無駄だぞ?その氷はドラゴンでさえ、ヒビを入れる事すら出来なかったんだからな。何をやろうと無意味だ。あぁ、さっさとしゃべらないと死ぬぞ?冷たいどころじゃないだろう?氷漬けにされてんだからな」

 「くッ……」

 「……そうか、わかったよ。そういう態度に出るんならこちらにも考えがある」


 俺はフレット次期当主の右腕の周りの氷だけを消す。


 「ほら、俺からのプレゼントだ」


 フレット次期当主の腕に、一つの腕輪を付ける。


 「中々綺麗だろう?ちょっと特別な氷でね、冷たさも感じないだろう?見た目だけなら、まるで宝石で出来た腕輪だ。……いいか?よーく聞けよ?その腕輪は決して外せないし壊れない。その腕輪が付いている間、あんたの命は俺の手中だ。俺がどんなに遠くに入ても、一瞬で氷漬けにして殺すことが出来る。証拠として、アイツの首にも似たようなのが付いているだろ?ドラゴンでさえ、これが付いている間は俺に従わざるを得ないんだ。……直接的にも、間接的にも、俺たちに害をなす事、俺たちの邪魔をする事を許さない。俺たちに不利益が出たとき、そこにあんたが関わって居ると判明したら……分かるよな?」

 「ッ!?」


 空気が冷たくなってきた気がする。


 「言っておくが、本気だぞ?あんたが貴族であろうと、他に何を持っていようとも、俺には関係ない。俺はな、『何も持っていない』んだよ。失う物が無いんだ。だから何も怖くない。富、権力、力、そのすべてが俺には無力だ。……まぁ、素直に言う事を聞く必要はないんだぜ?その腕輪には、お前の行動を強制する力は無い。お前は自由だ。ただ、いつでも殺せるというだけだからな……」


 さて、もういいかな。


 「じゃ、そろそろお暇しようか。家族の団欒を邪魔しちゃあ悪いもんな?ほら、行くぞ」

 「え?あ、はい」


 俺たちは部屋の扉を開ける。


 「それでは、本日はご招待頂き、誠にありがとうございました。このような結果になってしまい、非常に残念に思います。二度と、あなた達と巡り合う事の無いよう、心から願っています。では、ごきげんよう」


 部屋から出る時、しっかりと別れの挨拶をしておく。

 何となく道は分かるので、勝手に外に向かって歩いていく。


 「お待ちください!!」

 「ん?」


 後ろから声をかけられる。

 振り向くと、そこには一人の男が立っていた。

 領主とは別のおっさんだ。

 格好から見るに執事さんかな?


 「確か、食事中はフレット次期当主の後ろに居ましたね?」

 「こ、このような老骨を記憶に留めて下さり、光栄でございます」

 「心にも思ってない事言わなくていいから、気色悪い。何か用?殺されたいの?」

 「ッ…………あ、あの毒を仕込んだのは私の独断でございます。どうか、フレット様の腕輪を外していただきたく……」

 「なるほどね、あの男は関係ないから腕輪を外してくれって?」

 「そ、そうです。ですので、私が代わりに……」

 「そっかそっかぁ、あの人は無関係だったのかぁ。それは悪い事をしちゃったなぁ」

 「は、はい。ですので、どうか……」

 「アホくさ」

 「ッ!?」

 「あの男が無関係なら、なんで毒が入ってる事を知っていたんだ?ん?」

 「そ、それは……」

 「ちょっとさ、人の事をバカにしすぎだよね。部屋から数歩歩いただけで、さっきの事を忘れるわけがないじゃん」


 流石にムカつくぞ、これは。

 いくら何でもバカにし過ぎだ。


 「こんな所、さっさと出ていこう。いくぞ」


 俺たちは外に向かって歩いていく。

 あのおっさんは……追ってきてないな。


 その後は何事もなく屋敷の外に出る事が出来た。


 「またドラゴンに戻れるか?」

 「出来ますよ」

 「じゃあ頼む」

 「わかりました。少し離れていてください」


 ルナがペカーっと光ると、またドラゴンの状態に戻る。

 俺はサイドからよじ登り背中に腰かける。


 「ちょっと高くまで上がってくれ」

 「わかりました」


 俺たちは屋敷の表から離陸する。


 そのまま空高くまでビューっと上がっていく。


 結構な高さまで来ると、その場で滞空する。


 「寒さは大丈夫ですか?」

 「どうって事ない。俺は寒さは感じないんだよ」


 超能力を得てから寒さを感じなくなったのだ。

 他にも熱さを感じなくなった奴もいたなぁ。


 「え!?ここに来るときに寒いと言って風よけを作って……」

 「あれは嘘だ」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 まぁ茶番は置いといて。


 「うぅ、何を信じればいいのか分からなくなってきました……」

 「あれは単に風がウザかったから作っただけだ。……さて、それじゃあ始めようか」

 「?何かやるんですか?」

 「ああ、ちょっとお仕置きでもしようかと思ってね……このあたりの地域ってさ、雪とか降ったりする?」

 「?……いえ、降らないと思いますけど……」

 「ハハハ、そうかそうか」


 俺は手を空にかざす。


 「さて、人類の脅威とさえ言われた俺の力の片鱗を味合わせてやるか。……綺麗な星空だな。数日の間、この街から星空を奪ってやろう」

 「……あ、あの、何だか寒くなって来てませんか?」

 「我慢しろ、ドラゴンだろ」

 「やっぱり何かやっているんですね……そういえば、私はあなたの名前をまだ知りませんでした。教えていただけませんか?」

 「あれ?そうだったっけか。……『ギン』、それが俺の名前だ」

 「ギン様ですね」

 「様ってなんだよ」

 「使い魔の契約を交わした、いわばご主人様……こっちの方が良かったですか?」

 「それはやめ……いや、あまり名前で呼ばれたくないからそっちで」

 「フフ、わかりました」


 何で笑ったし、一体何を想像したのやら……


 「そろそろかな?」


 俺がそう呟いたとたん、突然空を雲が覆い始めた。


 「ど、どうなっているんですか!?」

 「これから下の街に雪が降るんだよ。五日間くらいね。まぁ俺からのプレゼントさ」

 「うわぁ……」


 この街の人たちには悪いが、恨むなら領主一家を恨んでくれ。


 「これぞ天罰ってな」

 「天候まで操れるんですか……もうめちゃくちゃですね」


 さて、この街にもう用は無いし、次の街に行きますか。

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