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不本意な契約

 ゴトゴトゴトッ


 俺たちは夜の街を移動している。

 領主のおっさんは馬車に乗り、俺はトカゲの背中に乗りおっさんの馬車の後ろに付いている。

 馬車を引いている馬が、パっと見でも分かるくらい落ち着きがないので早く休ませてあげたいところだ。


 「前の馬が怖がってるだろうが。何とかしろよ」

 「そんな無……茶ではないですけど……」

 「何?出来るの?」

 「は、はい……えっと、上から降りていただければ……」

 「お馬さんのためなら、喜んで俺は降りよう。お馬さんに罪はないからな」

 「私は馬以下なんですね……」


 流石に馬がかわいそうなので、何とか出来るらしいのでそれを実行する事にする。


 「すいません、ちょっといいですか?」


 俺は並走している兵士っぽい様な騎士っぽい様な人に声をかける。


 「な、なんでしょうか?」

 「ちょっと、馬がコイツを怖がってかわいそうじゃないですか。このトカゲが何とかできるらしいので、一旦止まってもらっていいですか?」

 「本当ですか!?それは助かります。少々お待ちください」


 そう言ってそれっぽい人はスピードを上げて領主の元に向かった。

 少しすると、前から指示が出て皆が止まったので、それに合わせてこっちも止まる。


 「よいしょっと」


 俺は背中から降りる。


 「ほれ、さっさとやってくれ」

 「わかりました。では!!」


 するとトカゲが謎の光を放ち始める。

 眩しいという感じではない光だ。

 周りの人たちが注目している。


 数秒ほどで光が小さくなっていく。

 というか……


 「ちっちゃくなってる?」


 光る前とは明らかに縮んだ大きさになった所で、光が完全に消えた。


 「……ワーオ」

 「大きさが変わっても、この首輪はとれないんですね……」


 これは劇的ビフォーア〇ターだわ。


 「これで大丈夫だと思うんですけど……どうかしましたか?」

 「お前……『人型』になれるんなら何で街に入る前にやんなかったんだよ」

 「え?こ、ここは『何て美しいんだ』とか、『こんなに美しい女性に俺は何という事を……すまなかった。どうか許してほしい』とか言うところじゃないんですか!?」

 「寝言は寝て言えよ、役立たず」

 「うわぁーん!!」


 何で街の近くに来る前にこれをやってくれなかったのか疑問に思うわ。

 切実にもっと早くやれよって思うもん。


 しっかしあれだな。

 コイツの変身直後は一瞬だけ見惚れたよ、一瞬な。

 ドラゴンの時から金色っぽかったけど、人型になってもそれは変わらないんだな。

 髪は金髪、目の色はさっきチラッと見えたときは金色だったと思う。

 体形は……多分スタイルはいいんだろう、出るところは出ていて、締まるところは締まっている、と思う。


 なぜこんなに曖昧なのかというと、鎧を着ていてよく分からないのだ。

 真っ白な鎧、所々に金色の装飾が施されている何とも綺麗な鎧だ。

 美術品か何かのようだ。

 何で鎧を着てるんだろう?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「到着しました」


 『馬車の外』から声が聞こえた。


 「では降りるとしましょう。お二人ともよろしいかね?」

 「あぁ、乗せてくれてありがとう。ほら、降りるぞ。いつまでボケてやがる」

 「うぅ、眠いです」

 「情けないドラゴンだな」

 「あなたが寝る暇も与えずに私の事を足替わりに使ったからじゃないですか!!」

 「おいおい夜だぞ、静かにしろよ。ドラゴンには常識というものが無いのか?」

 「うぬぅ……」


 俺たちは馬車を降りる。


 「……お屋敷ですね」

 「立派な屋敷だな」


 これから案内されるのは、俺たちが寝泊まりする所だって聞いていたんだが……


 「ここって……」

 「ワシの家だ」

 「案内されるのは俺たちが宿泊するところって聞いていたんだが……」

 「この街にいる間はこの屋敷に寝泊まりしてもらう」


 まじかー。

 あぁでも、きっとあれだな。

 「馬鹿め!お前たちに客室を使わせるわけが無いだろうが!!お前たちが泊まるのは物置小屋だよ!!!」ってやつだな。

 個人的にはそれでも全然構わないんだがな。

 安心して眠れる所があるだけでこっちはありがたい。


 「ワシが案内しよう。ついてまいれ」


 俺たちは大人しく付いていく。

 屋敷の敷地内をまっすぐ進むとそのまま屋敷の入り口まできた。

 物置小屋の線は消えたか……いや、物置部屋の可能性が残っている。

 それとも、中の部屋を期待させといて裏口から出てからの物置とか?


 ……俺は何と戦っているんだ。


 屋敷の中に入った後、正面にあった大きな階段を上り左へと進み、そこにあった廊下を進んで行く。


 「ここだ」


 おっさんはそう言って部屋の扉を開ける。


 「「……わぁ」」


 メッチャ綺麗な部屋だ。


 「すごいな……豪華な装飾もあるが、沢山置かれている訳ではない。かと言って質素という訳でもない。細かな所に気を付けているのが分かる……これ程までに輝いて感じるのは、この屋敷にいる使用人の質がいいからだろうな……これ程綺麗な部屋を、俺は見たことが無い」

 「……この数秒でそこまで見たのか」

 「ベッドが一つしかないですね」

 「お前は床で十分だ」

 「ヒドイッ!?」

 「む?一応、もう一つ部屋はあるが……」

 「いや、この部屋だけで十分すぎるくらいだ……な?」

 「は、はい。十分すぎるくらい、です」

 「そ、そうか……」


 ちょっと怖くなってきたな……

 一体何を考えているんだろう?


 「この街に居る間はここを自由に使ってくれてよい。夕食の時間になったら使用人の者が呼びに来る。それまでゆっくり休んでおれ」

 「……わかった」


 俺たちが部屋に入ると、おっさんは部屋の扉を閉めてこの場を去っていった。


 「ハァ……どうなってんだよ。いくら何でもこの待遇はおかしいだろ……絶対に裏があるに決まってる」

 「?……別に大丈夫じゃないですか?」

 「どうしてそう思う?」

 「例えここの人間が何をしようと力でねじ伏せればいいんですよ。私だけでも過剰戦力です」

 「……そう、なのか?」


 俺の考え過ぎだろうか?

 ま、いっか。

 多分大丈夫だろう。


 「唐突だけど、お前って名前あんの?」

 「本当に唐突ですね!?って待って下さい!!あなたは名前も知らない人を遠慮もなしに罵倒してたんですか!?それって人としてどうなんですか!?」

 「お前人じゃなくてトカゲだろ」

 「そうでした……って違います!!トカゲじゃなくてドラゴンです!!」

 「あっそ。で、名前あんの?」

 「あ、あれ?おかしいですね、ドラゴンって人間にとっては恐怖の象徴みたいなものなのに、そんなどうでも良さそうに…………えっと、あの人間のおじさんもチラッと言っていましたが、カラードラゴンは同じ色の個体が存在しません。なので、名前のある個体もいますがカラードラゴンの場合は、色で識別出来るので名前が必要ないんです。そういう理由で、私に名前はありません」

 「ふーん。でも、俺がお前を呼ぶときに不便だから今考えてよ」

 「えぇ!?今からですか!?」

 「あぁ」

 「そ、そんな……き、急に言われても無理ですよ!!そんな事を言うのなら、あなたが考えてください!!」

 「えぇ、急にそんな無茶ぶりされても……」

 「それを過去の自分に言ってほしいです……」


 名前かぁ。


 「じゃあ『ルナ』とかどうよ?月って意味なんだけどさ、お前の色金色じゃん?でもギラギラした色じゃなくて、夜の月みたいに優しい色だなって思ったからこれにしたんだけど」

 「…………」

 「どうした?」

 「……え?頭大丈夫ですか?」

 「ぶっ殺すぞ?せっかく真面目に考えたのに」

 「いや、私はその『真面目に考えた』という部分に驚愕しているんですが……しかも悪くないというのがまた……」


 失礼な奴だな。

 お前が俺に考えろとか言うから言ってやったのに。


 「ん?なんだ?」

 「あ、これって……もしかして……」


 突如、俺とコイツの周りを綺麗な光が包み込んだ。

 数秒ほどそれが続いた後、その光は俺とコイツの中に消えていった。


 「おい、今のはなんだ?」

 「えっと……使い魔って知っていますか?」

 「知らん」

 「あ、はい。簡単に説明しますと、人間などの知性のある者に共に生きる事を誓った魔物の事だと思ってください。使い魔の在り方というのは様々で、命令を聞く部下のようになる魔物、その者と協力して生きていこうとする魔物、一方的に助けようとする魔物、ただただ一緒に居るだけで自由にしている魔物と、それぞれです。しかし、それは共通して強い絆に結ばれています」

 「ふーん」

 「そして、使い魔の定義ですか、魔物の方が主から何かを貰ったりした時に、それを心の底から受け入れた時です。主から貰う『何か』ですが、これは形がある物でなくてもいいんです。それこそ……名前とか」

 「……ん?」


 それってつまり……いや、いきなり使い魔の話を出してきたからまさかとは思ったけども。


 「つまり今、お前は俺の使い魔になったって事か?」

 「えっと……はい///」


 ……おぉう。


 「何やってんの?お前」

 「だ、だって……嬉しかったんです」

 「……何が?」


 俺はコイツが喜ぶような事をやったか?

 本気で分からん。


 「ほ、ほら、この街に入る時、私が理不尽な目に合わないように言ってくれたじゃないですか」

 「ん……あぁ、あれか」

 「その時に、『コイツは俺の物だ』って言ってくれた時、何と言いますか……胸が熱くなって」

 「え?……えっと」


 確か、その時は『これは俺の物だ』っていったはずなんだが……コイツじゃなくて物扱いしてたんだけど……コイツの脳内フィルターはどうなっているんだ?


 「で、使い魔になる事を決めたと?」

 「い、いえ、その時はまだ考えていませんでした。そしてさっき……名前をくれたじゃないですか。『ルナ』という、綺麗な名前を」

 「その時?」

 「はい!」


 ちょ、チョロすぎる……いくら何でもバカじゃないのか?

 頭の中どうなってんだ?


 「まぁ、いいや。で、使い魔になったらどうなるの?」

 「はい。使い魔は、完全な下僕という訳ではなく、命令されても拒否する事が出来ます。使い魔のメリットとしては、お互いの居場所が離れていても何となく感じる事が出来たり、声に出さなくても会話をする事が出来たりします」

 「……それだけ?」

 「それだけです」


 お互いの居場所が分かるとか、声に出さなくても会話できるとか言うのは何気に便利そうだけど、使う機会がそもそもあるのかなぁ?


 「はぁ……メンドクセ。寝よ。お前床な」

 「そんなぁ!!」


 俺たちは夕飯で呼び出されるまでダラダラ過ごした。

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