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街に入ろう!

 目が覚める。


 「……寒い」


 当然である。

 今は空の上、しかも移動しているドラゴンの上にいるのだから。


 「おい、寒いぞ」

 「えぇ、私にどうしろと……」

 「寒くないように飛べ」

 「そんな無茶な!?」


 森では寒くなっても焚火などでしのぐことが出来たので問題なかったが、空の上だと話は別だ。

 火を起こすものが無いし、そもそもこんな状態では火をつけられない。

 着る物でもあれば良かったんだが……


 「俺が寝てからどれくらいたった?」

 「大体半日くらいですね」

 「目的地まであとどれくらいだ?」

 「日が沈む頃には着くと思います」

 「そうか」


 後約二時間ってところかな?


 「……何をしているんですか?」

 「風よけを作った」

 「すごく飛びにくいんですけど」

 「シラネ」

 「えぇ……」


 俺は氷で傘の形をした風よけを作った。

 少しはましになったかな?


 「……横からくるな」


 横にも風よけを広げる。


 「あの、氷って結構重いんですよ?」

 「この程度で飛べなくなるなんて……そうだよな、お前みたいなザコには無理だったよな……」

 「全然平気ですし!重くないですし!こんなの余裕ですッ!!」

 「(チョロい)」


 俺は多少快適になった背中の上でまた横になる。


 「着いたら教えろ。寝てたら起こせ」

 「…………」

 「なんだよ」

 「その……起こしたら怒ったりしませんか?」

 「……怒らないよ」

 「今の間は何ですか!?」


 寝る。

 まぁさっきまで寝てたし、そんなに深く眠る事は無いだろう……多分。


 …………


 「あの……起きてください」

 「…………」

 「着きましたよ。後、これを何とかしてください」

 「…………」

 「そろそろ起きてください」

 「…………」

 「起きてください!!」

 「うるせぇ!!」

 「ヒィッ!やっぱり怒ったー!!」


 空が暗い……って、ん?


 「周りが明るい?」

 「その……前方を見てください」


 俺は風よけの氷を消して前方を確認する。

 そこには、たいまつやランタンを持って武装した人が大勢立っていた。

 更に後ろからドンドン増えているみたいだ。

 街を覆う外壁の上には大砲と兵士がずらりと並んでいる。


 「お前なにしたんだよ」

 「いやいやいや!まだ何もしてませんよ!?というかドラゴンが、それも私の様な上位のドラゴンが人間の街まで来たら普通こうなりますからね!?」

 「じゃあ何で街の近くまで来たんだよ」

 「…………」

 「おい。お前まさか……その発想はなかった、とか言わないよな?」

 「……その発想はなかったです」

 「シネ」

 「直球ッ!?」


 いや、これどうしよう……

 ていうか今更だけど本当に異世界だな……化け物にしか会ってなかったから実感わいてなかったけど、こうして人の街に来ると「異世界なんだなぁ」ってなるわ。


 「いや、そんな感慨深そうな顔してないで何とかしてくださいよ」

 「お前はいつから俺に命令できる立場になったんだ?」

 「あなたはいつから私に命令できる立場になったんですか!」

 「今朝から」

 「そうでした……」


 しかしどうしたもんか……こんな状況になるなんて考えてなかったからなぁ。

 ……そもそも何も考えてなかったわ。


 そんな事を考えていると、兵士たちの中から一人の男が前に出てきた。


 「お前たちは何者だ!!なぜこの街に来た!!」


 俺たちに対してそんな事を言ってきた。


 俺はトカゲの頭の上に立つ。


 「ちょっ……」

 「黙れ」

 「(´・ω・`)」


 俺は男に聞こえるように喋る。


 「意図的にこの街を選んだわけじゃない。一番近くにあったからこの街に来ただけだ。目的としては、働き口を探している。どこか良いところは無いだろうか?あと食事がしたい」

 「ふざけているのか!!」

 「ふざけているものか!!!貴様みたいな安定した職に就いていそうな奴に、無職の気持ちが分かるか!!!」

 「(゜д゜)」


 男が喋らなくなってしまった。


 「……まぁ、いい。仮に……仮にそれが嘘ではなかったとして!!ならばその下にいるドラゴンについてはどう説明する!!!」

 「丁度いい移動手段があったから拾っただけだ」

 「嘘をつくなぁ!!!」

 「嘘なもんか!これを見やがれぇ!!」


 俺はそう言ってドラゴンの背中に戻る。


 「おい、上を向け。首が見えるようにな」

 「え?に、人間の前でそんな屈辱的な事……」

 「今更だろ、やれ」

 「うぅ……」


 トカゲが上を向いた。


 「こいつの首が見えるか!そこに付いているのは俺が付けた首輪だ!!これが付いている限り、こいつは俺の言う事を聞かざるを得ない!!なぜなら!こいつを付けていれば、いつでもこいつを始末できるからだ!!更に、こいつは今、俺の言う事を聞いた!!これが!この首輪が本物である証拠だぁ!!」

 「くっ、実際にやって見せただけに説得力が高い……ッ」


 よし、このまま押し切れるか?


 「俺は街に入りたいだけなんだ!!危害を加えるつもりは無い!!本当だ!!」

 「……すこし待っていろ。この件は俺が独断で決めていい事ではない。上に判断を仰いでくる」


 よし!中々いい方向に向かってるぞ!!

 後は上の人間がどうするかだな……まぁやっぱり街に入れる事は出来ないとか言われても、他の街に行くだけだが。


 それにしても……


 「いっぱいいるんだなぁ」

 「何がですか?」

 「ほら、背が小さい奴とか、肌の色が違う奴とか」

 「人族はいっぱい種類がありますからね。というか、人間のあなたが知らないってどうなんですか?」

 「は?」

 「何でもないです」


 でも、常識を知らないのはまずいよなぁ。

 生活に支障をきたしてしまう。

 街に入る事が出来たら、どこかで常識を学ばないとな。


 大人しく待っていると、先ほどの男が戻ってきた。


 「領主様がご自身で見極めるとの事だ!こっちに来い!」

 「わかった」


 領主が出てくるのか。

 相手にドラゴンが居るから部下には任せられないという事だろうか?

 しかし、よく自分自身で確かめようと思ったな。

 こういうのって普通はすごい怖いんじゃないの?


 「そこで止まってくれ」


 俺がドラゴンに乗って近づくと、街に入る直前で止められる。

 周りには沢山の兵士。

 前も後ろも、上さえも囲まれている状態だ。


 一応、直ぐに戦えるようにしておかないとね。

 人が相手の戦闘は嫌って程経験してるし。


 指示通りに止まると、前方から兵士に囲まれた一人の男が近づいてきた。

 若くはないな。

 六十くらいか?

 俺はドラゴンから降りる。


 「……降りるのか」

 「意外か?」

 「怖くはないのか?これだけの兵士に囲まれておるのだ。本当に飼いならしているのなら、乗っていた方が安全だろう?」

 「話を聞いていないのか?俺はこのトカゲを力でねじ伏せたんだ。俺はこいつよりも強い。だから、どこに居たってさして変わらない」

 「ト、トカゲ!?誇り高きドラゴンである私をトカゲ呼ばわりですか!?」

 「黙れ」

 「はい……」


 ハァ……思わずため息が出る。


 「すまないな。余計なチャチャが入った」

 「い、いや、それはよいのだが……まさか言葉だけで抑えるとは……」

 「本当にこいつが怖いんだな?」

 「当たり前だ。ドラゴン、それもカラードラゴンという上位種ならなおさらだ。上位のドラゴンは単体で街など簡単に亡ぼす力を持っておるからな」

 「……どおりで街に入れるのを躊躇う訳だ」


 そんなもの入れたくないに決まっている。

 街に入れてもしドラゴンの機嫌を損ねでもしたら滅ぼされてしまうかもしれない。

 そんなリスクを抱えたくないだろう。

 何よりも、単純に怖いだろうし。


 「ま、長話をしていても意味は無い。俺は街に入りたいんだがどうだろうか?もちろん、コイツが無差別に暴れないことを約束しよう。俺はただ、仕事を探したいだけだ」

 「……無差別に、とは?」

 「暴れないことを理由に、街の人間たちにコイツが好き勝手やられるのは困るからだよ。コイツの自衛を認めてほしい。もちろん、関係のない人間は巻き込まないし、殺しもしない事は徹底させる。これは俺の物だからな。勝手に手を出されちゃ困るんだよ」

 「…………」


 男は考えている。

 まぁ当然だよな。

 事はかなり繊細なわけだし、考えなしに決められてもこっちが困る。

 少し経つと、男が口を開く。


 「条件を付けてもいいだろうか?」

 「条件?」

 「まず、住む場所はこちらが指定した場所に住んでもらいたい。もちろん、宿代に関してはこちらが負担する。そして、この街の有事の際には君たちの力を貸して貰いたいのだ。もちろん、その時は報酬を用意する。この街から出ていく時も無理に引き留めたりはしないと約束しよう。どうだろうか?……」


 ……マジで?


 「えぇ~っと、随分と賭けに出たな?」


 今おっさんが言った事を承諾すれば街に入れるという事だろう。

 だが、ハッキリ言ってこんな口約束に意味はない。

 約束したところでそれを保証する物がないのだ。


 「この街には、そなたらが街に入ろうとしようが壊そうとしようが、それらを防ぐ力が無い。しかし、そなたらは力を使おうとせず、対話によって街に入ろうとしている。街に入る以外の目的があるのなら、それだけの圧倒的な力を持っていれば対話などという回りくどい事をする意味があるとはワシには思えんのだ。正直に言って、賭け以外の手段をワシは持ち合わせていないのだよ」

 「なるほどね……」


 それ以外の手段がないといっても、凄い決断力だな。

 まぁもしかしたら何か裏があるかもしれないが、その時はその時に対応しよう。


 「その条件を飲めば街に入れてもらえるんだな?」

 「うむ」

 「わかった。その条件で構わない。俺を街に入れてくれ」

 「……感謝する」

 「それはこっちにセリフだよ」


 こうして、俺たちは無事に街に入れることになった。

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