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こんなはずじゃなかったんや・・・

 俺はルナが居る店に戻ってきた。


 「服選びどうだ~?予算内で何とかなりそうか~?」

 「あ、ご主人様!今丁度決まった所で……」

 「どうした?」


 ルナの様子が急におかしくなった。


 「……ご主人様」

 「な、なんだよ」

 「私は、ご主人様になら、例えどのような言葉で罵られようとも、貶されようとも、どうってことはありません。拒絶さえされなければ、私はそれで幸せなのです。傍に居られればそれでいいのです。少なくとも、私はそう思っています」

 「……どうしたんだよ急に」

 「私は、ご主人様に頼られるのが、とても嬉しいのです。だから、先ほどご主人様が、ご自分のお召し物を私に決めさせてくれる、そう言ってくれた時はとても嬉しかったのです」


 なんだ?本当におかしいぞ?

 コイツはこんな事を言うような奴だったか?


 「ご主人様、いくらなんでも……その仕打ちは……あんまりじゃないでしょうか」

 「な、なにを言っているんだ?」

 「とぼけないでくださいッ!!!!」

 「ッ!?」


 ……ルナが怒鳴るなんて初めてだ。

 俺は何かしてしまったのだろうか……


 「どうして……どうしてご主人様から……そんな発情した雌の様な甘ったるい匂いがするんですかッ!!!」

 「……へっ?」

 「私は自分よりも強いオスの番になるって決めてたんですッ!!そして現れたのがご主人様なんですッ!!!……なのに……こんなのってッ……」


 あかん、修羅場じゃん。

 ヤバいよ……浮気がバレた彼氏みたいになっちゃってるよ。

 しかし……ルナの奴、そんなことを思ってたのか……


 すると、ルナがいきなり俺につかみかかってきた。

 いろいろと起こりすぎてどうしたらいいのか分からなくなっていた俺は、そのまま押し倒されてしまった。

 そして、ルナはなぜか俺の匂いを嗅ぎ始めた。


 「……あの、ルナさん?」

 「誰ですか……私のご主人様を誑かしたのはどこの誰ですか?」

 「え?……え?」


 怖い……顔が怖い……怨念の塊みたいになってる。


 「いえ、言わなくていいです。もう匂いは覚えました……」


 ルナは立ち上がり、店の外に向かった。

 店から出ると、ルナは全身を輝かせ……


 「コロス……」


 街中でドラゴンの状態になった後、その一言をつぶやいて飛び去って行った。


 「……これはヤバいな」


 ルナが街中でガチギレしている。

 この街がなくなるかもしれん……


 「おい坊主」


 唖然としていると、後ろから声をかけられた。


 「……坊主っていう歳でもないけど、なんだよ」

 「あの姉ちゃん……ドラゴンになったけど、お前の彼女さんか何かか?」

 「いや、彼女じゃない……強いていうなら、相方……だな」

 「そうか……あの子とは別に彼女でもいたのか?」

 「いや……さっき、いろいろあって……あったばかりの女性に求婚されたんだ」

 「……どういうこっちゃ」

 「俺にもさっぱりわからん……」

 「女って、本気で怒るとドラゴンになるんだな」

 「いや……それはアイツが特殊なだけだと思う……って、アンタ誰だよ」


 普通に会話していたが、このおっさんは初対面だ。


 「俺か?俺はここの店主だ」

 「……騒がしくしてすまなかったな」

 「気にするな。この店は常連しか来ないからな。むしろ、裏から出てきたら見たこともない綺麗な嬢ちゃんが一生懸命に装備を選んでてビックリしたぞ。話を聞いたんだがな……大好きなご主人様の着る物を選んでいるんだって、嬉しそうに話してくれてな」

 「…………」

 「お前さんの事だったんだな」

 「……大丈夫だったか?アイツ、ドジなとこあるから、何か壊したりとかしなかったか?」

 「いや?むしろいい子だなぁって思ってたさ。俺に一生懸命聞いてきたんだ。どんな物の方が役に立つのか、男の人はどんなものを好むのか、何があった方がいいのかって、片っ端から聞いてきてな」

 「迷惑じゃなかったか?」

 「何言ってんだお前、これが俺の仕事だ。客の満足できるものを売るのがな?」

 「……そうか」


 俺は手に持っていた箱を見る。


 「これな……アイツにプレゼントしようと思って買ってきたんだ」


 俺はその箱を開ける。


 「……随分綺麗だな、高かったんじゃないのか?」

 「ハハッ、いろいろあってね。……この一番デカい宝石がな、アイツの目の色とそっくりなんだ」

 「……確かに似てるな。きっと、あの嬢ちゃんが付けたら、似合うだろうよ」

 「だろ?結構自信あったんだ……」


 俺は箱のふたをそっと閉じる。


 「……おっちゃん、アイツが選んでた装備、見せてくれないか?」

 「そこに置きっぱなしだ。一式揃ってるぜ」

 「ありがとう」


 俺はおっちゃんの言っていた場所に置かれている装備を見る。


 「ハハッ、中々カッコイイじゃんか」


 最初に選んだ白いコートをベースに選ばれているようだ。

 ズボンや、手袋まである。

 手袋のメインカラーは白で、指が露出するタイプになっていて、黒いラインが入っている。

 ズボンのメインカラーも白で側面に縦の黒いラインが入っており、膝のあたりに横の黒いラインが入っている。

 靴はメインカラーが黒で、つま先とかかとのみが金属で守られている。


 「見た目だけじゃ無くて、ちゃんと機能面も気を使ってたぜ?」

 「……みたいだな」


 ……これは


 「これも、そうなのか?」

 「あぁ。あの子がな、ご主人様は鞄も持っていないから、小さい物でも一つあった方がいいかなってな。この大きさなら邪魔にならないだろうって言ってたぜ?」

 「……そうか」


 気に入ったよ、ほんとに。


 「ちゃんと、お礼を言わないとな……おっさん、これ全部買うよ。いくらだ?」


 俺はルナに選んでもらった一式を全部買い、店の端の方にある更衣室で着替えさせてもらった。


 「……ハッ、似合ってるじゃんかよ」

 「とうぜんだろ?アイツが選んだんだからな」


 どうやら、いつの間にか俺もアイツの事を気に入っていたらしい。

 要ら無くなったら捨てようと思ってたんだがな……名前を考えてた時は、非常食って付けそうになって思いとどまったんだっけか。

 今思えばそれで良かったな。

 まぁアイツのさっきの言葉を考えると、それでも受け入れたんだろうなぁ。


 「おっさん、ありがとう。俺行ってくるよ」

 「ちゃんとプレゼント、渡してやれよ。絶対気に入るぜ!」

 「当たり前だ。……また来るよ」

 「おう!今度は二人仲良く来いよ!!」

 「フッ……そうだな」


 俺は店を出る。

 店の外には、騎士らしき人が数人集まって、街の人たちから話を聞いているようだ。

 多分アイツのせいだな。


 「大丈夫、アイツは俺の使い魔だ。居場所は……大体わかる」


 離れていても、お互いの居場所が何となくわかる。

 この能力があって良かった。


 「間に合ってくれよッ」


 俺は空を跳ぶ。


 「……いたか、間に合ったみたいだな」


 ルナは街の上空を旋回し、何かを探しているようだ。

 まぁ探し物は俺に匂いを付けてしまったマリアナさんだろうけど。

 どうやらまだ見つかっていない様だ。


 「ルナ!!」

 「ッ!?それは……」


 俺は周囲を球体の形の氷で覆う。

 中から外は見えないし、外からも中は見えない。

 これでこの空間には俺とルナの二人だけである。


 「……ありがとうな。これ、一生懸命選んでくれたんだろ?」

 「……ここから出してください。まだ終わっていません」

 「出さない」

 「……その女を守るためですか」

 「お前と一緒に居るためだよ。お前が人を殺してしまったら、一緒に街に住めなくなるじゃないか」

 「安心してください。私がご主人様に最も快適な住処を用意しましょう」

 「……いや、俺はお前と一緒に街に住みたいんだ。まだやりたいことがいっぱいある」

 「今ゆれましたね?」

 「やかましい」


 こんな時までうるさいわ……


 「まず最初に謝らせてくれ。すまなかった。……俺は、お前とずっとそばにいたのにその気持ちに気付けなかった。……だが、誤解しないでほしい。俺はお前が俺の服を選んでいる間、他の女と遊んでいたわけじゃない。これは本当だ」

 「……じゃあ何をしに行っていたんですか」

 「これを……買いに行っていたんだ」


 俺はコートの中から箱を取り出す。


 「……それは?」


 俺はルナに近づく。

 ……これで離れたりされたら、多分心が折れていたが、そんなことは無かった。


 「最初にさ、お前と別れてすぐに、ギルドに戻ったんだ。ほら、お前って俺と違ってドラゴンだろ?だから、ドラゴンが好きそうなものを調べに行ったんだ。で……これなら喜んでくれるんじゃないかって、俺が選んできたんだ」


 俺は箱を開ける。


 「……これは」

 「この宝石、お前の目の色と、同じ色だろ?きっと似合うだろうって思ってな」

 「…………」

 「お前が言っていた匂いってのは、事故みたいな物なんだ。俺の目的は、初めから一つだった。……お前にプレゼントを渡すため……それだけだ」

 「…………」

 「どうか……受け取ってくれないだろうか?」


 ルナは、俺の目を少し見た後、うつむいた。

 ルナは人型になって後ろを向く。


 「……ご主人様が、付けてください」

 「……あぁ!」


 俺はルナの首に手をまわし、ネックレスを付ける。

 首の後ろでネックレスのフックを止めた。


 俺が手を離すと、ルナは俺の方にふり返る。


 「どう、ですか?」

 「似合ってる。俺の思っていた通りだ。いや、俺の思っていた以上だよ」

 「……ごめんなさい」

 「ルナ?」

 「私が、理不尽な事を言っていたのは分かっているんです。一方的に私の気持ちを押し付けて、ご主人様を困らせてしまいました」

 「…………」

 「いつも、あなたの事を見ていました。いつも、あなたの事を考えていました。いつも……いつまでも……あなたと共に在りたいと思っています。……愛しています、ご主人様。こんな私と。これからも、一緒にいてくれますか?」


 これが、ルナの本心か……


 「……あぁ、もちろんだ。こんな俺でよければ、ずっと、隣にいて欲しい」

 「あぁ、ご主人様!」


 ルナが飛びついてきた。


 俺はこの日、二度目のキスをした。

 二度目のキスは、涙でしょっぱかったです。


 思い返してみれば、俺って結構クズみたいなことしているな……

 いずれ背中から刺されそうだ……

ノリと勢いって怖いよね。

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