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 「名前変えちゃうんですか?」

 「あぁ、この名前で呼んでほしくないって前にチラッと言っただろ?この名前あんまり好きじゃないんだよ。いい機会だし変えようかなぁって思ってな」


 依頼が無事に終わった帰り、俺は名前を変えようと思っている事をルナに話した。

 孤児院でも考えてたけど、結局何も浮かばなかった。


 「……私は最近まで名前が無かったので何とも言えませんが、そんなに簡単に変えてもいいんですか?少なくとも、これまでご主人様が使ってきた名前なんですよね?」

 「……そうだな、いろいろな形で使った名前だし、本当ならこんな風に捨てていい物じゃない。……でもな……いろいろあって、もう今までのように使う事が無いんだよ。だから、帰るなら今しかないんだ」

 「そうですか」


 ほんと、もっと早く気付きたかった。


 「でよ、何か無い?いい名前。俺なんも思いつかなくてさ」

 「……では、私のルナの様な名前はどうでしょう?太陽でそういうのは無いんですか?」

 「えぇ……確か、『ソル』……だったかなぁ?」

 「ではそれにしましょう!!カッコイイ響きですし」

 「マジかぁ……」

 「ご不満ですか?」

 「……いや、俺って全然太陽に関係ないなぁって思っただけだ。特に思いつかないしそれでいいや」


 俺はギンを捨てて、太陽ソルとして生きていく。

 俺の新しい名前である。

 まだ若干違和感があるが、じきに慣れるだろう。


 ≪ギルドにて≫


 「……はい。依頼達成、確認しました。初の依頼達成、おめでとうございます。こちらが報酬になります」


 俺は報酬を受け取る。

 大銅貨二枚……あれ?


 (食費足りなくない?……コイツメッチャ食べるよな?全額使っても足りなくない?……ヤベェ)


 「あの、質問があるんだけどいいかな?」

 「はい、何でしょう?」

 「依頼を達成する以外に、お金を手に入れる方法ってあったりする?」


 流石にないかなぁ……


 「ありますよ?」

 「マジでか!?」


 あったよ。


 「どんな方法だ?」

 「冒険者ギルドは、魔物の素材の買い取りなども行っております。多くの冒険者が、魔物の素材をギルドに売って収入の足しにしています」

 「それだ!!」


 何て素晴らしいんだろう。

 いくらでも稼げるじゃないか。


 「ですが、いくら魔物を倒しても、冒険者ランクは上がりません。ランクを上げるためには依頼をこなす必要があるので、魔物の素材を売っての収入をメインに活動する方はいません」


 別にランクには興味ない。金を稼げればそれでいいのだ。


 いやぁ、良かった良かった。


 「もう一つあるんだけど……名前って変えられる?」

 「……それはどういった理由ででしょうか?」

 「理由も言わなきゃダメなのか?」

 「今言う必要はありません。しかし、名前を変えるには手続きが必要になります。犯罪者が身分を偽るために名前を変えるのを防ぐためです」

 「なるほどねぇ」

 「そして、名前を変更するにあたって、決して安くない料金がかかります」


 お金掛かるんかい。


 「いくら?」

 「金貨五枚です」

 「…………」


 高くね?全然たんねぇよ。


 とりあえずギルドを出た。


 「もうすぐ夜ですけど、どうします?」

 「……街から出る」

 「出るんですか!?」

 「理由はある。まず、食費が足りない。お前いっぱい食べるだろ?今あるお金じゃお前が満足に食う事なんて出来ないから、街の外に行って狩りをするぞ。後、魔物の素材を集める。そして売って金にする」

 「そういえば、さっき受付さんに聞いていましたね」

 「俺とお前なら、結構いい値段で売れそうな素材が手に入るはずだ。夜通し狩りをして、朝売りに来るぞ」

 「わかりました」

 「じゃあ、出るか」

 「はい!頑張りましょうね!」

 「俺の名前を変えるために!」

 「食事のためじゃないんですね……」


 俺たちは街を出た。

 そして、出来るだけ街から離れた場所まで移動する。

 もう日は沈みかけている。


 「このあたりでいいか。ドラゴンに戻れるか?」

 「はい!」


 ルナはドラゴンの状態に戻った。


 「まずは食料調達、そして食事だ。その後狩りをやるぞ。という訳で適当に飛んでくれ。食べられそうなのが居たらちゃちゃっと狩ろう」

 「了解しました。では、行きます!」


 俺たちはその場から飛び上がった。


 ≪次の日≫


 「……とりあえず街の近くまで来たが、コイツをどうやって街に入れるか」

 「街の門はくぐれそうですけど、歩行者がいっぱいいますし、ギルドまで運ぶのは困難かと……」


 俺たちは今、街から少し離れた場所に居る。

 そして目の前には巨大なゾウの様なマンモスの様な感じの魔物。

 体は金属のように固い鱗に覆われていて、口からはデカい牙が出ている。

 死体ではあるが、ほとんど傷はついていない。

 出来るだけ綺麗な状態で売りたかったので、いつもの狩りよりも苦労した。

 まさかブレスを吐いて来るとは思わなかったな……


 「移動だけなら俺だけでも出来るんだが、街中となるとな……」

 「いっその事、街中で飛べれば楽なんですけどね」

 「それだ!!」


 珍しくルナが冴えている。

 だが、お陰でいい案が思いついた。


 「俺がこいつを凍らせて、能力で浮かせればいい。凍った物なら浮かせることが出来る!!」

 「さすがですご主人様!!」


 解決策も見つかったので、俺たちは街に意気揚々と街に戻った。


 街の門付近で大パニックになったのは言うまでもない……


 …………


 「あの……もう一度言ってもらえますか?」

 「デッカイ魔物をそのまま持って帰ってきたんだけど、ギルドの入り口に入らないから外に置いてあるんだよ。買い取ってくれ」

 「…………」


 俺は今、ギルドの受付にいる。

 素材を買い取ってくれると言ったのに、この受付の人が中々買い取ってくれないのだ。

 ルナには外で見張りをしてもらっている。


 「……実際に見ない事には判断出来ませんので、見せていただいても?」

 「別にいいぞ、さっさとしてくれ」


 俺は受付さんを外に案内する。


 「これだ、いくらになる?」

 「…………」


 受付さんは何も答えない。

 ただ開いた口が塞がらないといった感じだ。


 「……ちょっと騒がしいな」


 当然である。

 道の半分を埋めるような大きさの魔物が丸々一体死んで転がっているのだから。

 でも、誰も近づこうとはしない。

 そこで何が起こっているのか、人々は理解できないからだ。


 「リンネさぁあああん!!!!」


 突然、受付の人が誰かの名前を叫んでギルドに入ってしまった。


 「ご主人様、どうなっているんですか?」

 「俺が聞きたい。何故か買い取ってくれないんだよ」

 「わざわざ全部持ってきたんですけどね」

 「これで買い取れないとか言われたら俺は正気を保てない」

 「保ってください」


 冗談だよ。


 そんなことを話していると、ギルドから誰かが出てきた。


 「……また、あなた達ですか」

 「あんたか」


 俺たちがギルドカードを作った時、落ち着いて対応してくれた方の人だ。

 最初の依頼を紹介してくれた人でもある。

 名前の変更に金がかかる事を教えてくれた人もこの人だ。


 「魔物の素材を買い取ってくれるって言ったのはアンタだろ?これで買い取れないとか言われたら俺は正気を保てないかもしれないぞ?具体的には暴れる」

 「酷い脅しですね……あなたが絡んできた冒険者相手にやった事を直接見ていた私としましては、絶対にやめて頂きたいのですが……」

 「何?……買い取れないの?」

 「買い取れますよ?」

 「それを聞いて安心したよ。無駄な命が散ってしまう所だった」

 「……あなたが暴れなければいい話では?」

 「それで?俺はどうすればいいんだ?」

 「ギルドの裏にそこそこの広さの敷地があります。幸い、今は使っていないので、そこまで運んでもらえますか?」

 「わかった」


 俺は凍った魔物の上に乗り、そのまま浮かせる。


 「おいて行かないで下さいぃ!!」

 「さっさと乗れ。飛び乗れるだろ」


 ルナが飛び乗る。


 「じゃあこのまま裏まで運ぶから」

 「……お任せします。私は歩い行きますので」


 俺は飛んでギルドの裏に回った。


 「へぇ~、結構広いな。こんなところがあるとは……」


 俺は適当な場所に降りて魔物を包んでいる氷を消す。

 後から受付さんが来た。


 「……凍っていませんでしたか?」

 「消した」

 「……聞きたいことがドンドン増えていきますが、聞かないでおきます」

 「それが正解だね。で?いくらで買い取ってくれるの?」

 「そうですね……」


 受付さんが俺が持っていた魔物の死骸を確認する。


 「傷は首の一か所だけですか……」

 「あぁ、といっても、結構深くヤッたがね。神経を切った」

 「普通そんな事出来ませんよ……なりたてのFランク冒険者がどうやったらそんな事が出来るのか……」

 「教えないぞ?」

 「わかっています。それで、金額の方ですが……死骸の状態がとてつもなく良いので、かなりの値段になります。金貨23枚は確実だと思っていただいて構いません」

 「……なんて?」

 「金貨23枚です」


 ……うそん。

 これだけで生きていけるわ。


 「冒険者まじ天職じゃん……え?ホントに?嘘とかじゃなくて?そいつそんなに高く売れるの?」

 「普通は売れません。この魔物はデモンズエレファントといって、Aランクの魔物です」

 「一番上のランクは?」

 「Sランクです。Aランクは2番目です。あなたたちはそのAランクの魔物を、たった一つの傷だけしか付けずに丸ごと持ってきたのです。この大きさの魔物を丸ごと持ってきた冒険者はあなたたちが初めてですよ」

 「そうなんだ。で?金は?」

 「実感がわかないかもしれませんが……これはとんでもない偉業ですよ?」

 「金は?」

 「……もう少し詳しくな査定をする必要があります。部屋に案内しますので、その部屋にてお待ちください」

 「わかった。案内してくれ」


 受付さんはいろんな人に指示を出してから俺たちを案内してくれた。

 ……全員この人に頭を下げてたけど何者なんだろう?

 絶対にただの受付じゃないだろ。


 「こちらになります」

 「……本当にあってる?」

 「何だか他の部屋とは違いますね。扉からもう特別感が強いです」

 「あっていますよ。(コンコン)……ギルドマスター、連れてきました」

 「ハァ?」


 ギルドマスターだと?


 部屋から「入っていいぞ」という声が聞こえる。

 受付の人は扉を開けた。


 俺たちは一応部屋に入る。


 「……あんたがギルドマスターか?礼儀作法に関しては多めに見てくれ、あんたに敬意を払う気はない」

 「いや、冒険者に礼儀作法を求める方が……ちょっと待って!今敬意を払う気はないとか言ったよね!?」

 「気のせいですよギルドマスター。それで、本日はこのただの底辺冒険者に一体どんな御用ですか?」

 「いきなり口調が変わったッ!……まぁ、いい。今回君たちに来てもらったのは……いや、単刀直入に言おう。君たちは何者だい?」


 ……何者って言われてもな。


 「こんな底辺冒険者の話よりも、あなたの話をしましょう。いやぁ、まさか冒険者ギルドのギルドマスターがあなたのような美しい女性だったとは驚きです。胸小せぇけど」

 「う、美しいか、そうかそうか。君も見る目が、って待って待って!今最後に何か言ったよね!?」

 「黙れ貧乳、さっさと要件を言えよ。こちとら暇じゃねぇんだよ。徹夜で眠いんだよ」

 「ひ、貧乳……」

 「ほら見ろ、俺の連れを。立ったまま寝てやがるぞ起きやがれ」


 俺はルナにチョップをする。


 「うにゅっ!?」

 「俺が起きてるのにお前だけ寝るとかさせないぞ」

 「……そんなぁ」


 お前に楽はさせねぇ。


 「……ギルドマスター、いつまで落ち込んでいるんですか。嘆いても現実は変わりませんよ」

 「リ、リンネ、お前まで……ッ」

 「話すすまねぇ……」

 「誰のせいだ誰のッ!!!」

 「怒鳴るなよ。ギルドマスターの度量が疑われるぞ?胸はもうあきらめろん」

 「あきらめろんって何だよ!?」

 「さっさとしやがれ下さい」

 「ちょっと!?君の連れが不意打ち気味に言葉を叩きつけてきたんですけど!?……いや、もういい、もういい!!私は気にしない!!話が進まなくなるからね!!私の器は海のように広いからね!!」


 (胸に)地平線もあるしな。

 波打つ事も無いだろうが。


 「……はぁ。で?質問に答えてくれ。君たちは何者だ?」

 「住所不定最低ランク冒険者」

 「同じく最低ランク冒険者」

 「……教えるつもりはないと、そういう事だね?」

 「これ以外に肩書は無いな。少なくとも俺に心当たりはない。神に誓ってもいいぞ?」

 「私もそれ以外に肩書を得た覚えは無いですね」

 「……そうか」


 別に嘘は言っていない。

 というか本当の事しか言っていない。

 この世界に来てから冒険者以外に何かした覚えはないからな。


 「それだけか?」

 「いや、君に後2つ聞きたい事がある」

 「俺かよ」

 「そうだ。……君の力はなんだ?リンネが、君がギルド内で力を使ってちょっとした小競り合いをしたという報告をしてきた。その時、君は相手の手を凍らせて砕いたとか」

 「それがどうした?まさか、今更罰則があるとかいうつもりは無いよな?」

 「そんなつもりは無いよ。……ただ、リンネや他の職員が言うには、その時、君は魔力を一切使っていないらしいじゃないか?つまり、君のそれは魔法じゃないという事だ。その力はなんだ?」


 めんどくせぇ……


 「もう一つの質問は?」

 「君は、名前を変えるつもりらしいな。なぜだ?これには絶対に答えてもらうぞ?この魔道具を使ってな。犯罪を隠すために名前を変える者もいるからな。だから容易く名前を変えられないように、高めの料金設定がしてある。この魔道具は、簡単に言うと嘘を見破る魔道具だ。回答者が嘘をつくと、この魔道具は赤く発光する」

 「なるほどね。……どっちも絶対に答えなきゃダメか?」

 「もちろんだ」


 ここに来た時点で俺の詰みか。

 それにここで答えないと名前とか変えてくれないだろうなぁ。


 「……はぁ、分かったよ。正直に答える」

 「それは助かるな」

 「だが、絶対に誰にも言わないでほしい。あまり、思い出したくないんでね」

 「……いいだろう。ここにる我々だけの秘密にしよう。リンネも、いいね?」

 「かしこまりました」

 「ルナ、お前もだぞ?これは俺が今の名前を嫌っている理由だ」

 「安心してください。誰にも言いませんよ」

 「連れの子の知らないのか?」

 「あぁ」

 「徹底してるね」

 「まぁな」


 気が向かなかったから喋らなかっただけだけどな。


 「じゃあ、さっきの2つの質問。どっちも関係あるから同時に答えるぞ。……まず、この能力についてだが、俺が知っているのは使い方だけであり、詳しい事は俺にも分からない。この能力の原理もしらん」


 嘘発見器は光らない。

 当たり前だ、本当に原理は不明なのだから。


 「そして、俺はこの能力のせいで、故郷の国で追われていた。別に何か罪を犯した訳じゃない。ただ「その異常な能力は危険だ。被害が出る前に死んでもらう」ってね。……国は俺の首に賞金を懸けた。生死問わずのおまけ付きでな。俺は国中の人間から追われる事になっちまった。……俺は、両親に匿ってもらう事にした。その時、信用できそうなのは両親しかいなかったからな。……ま、結果を言えば、両親は俺を殺そうとした。金に目がくらんだらしくてな。俺を殺せば、一生遊んで暮らせる金が手に入るからな。……俺は両親を殺したよ。殺されたくなかったからな。……それが、俺が初めて人を殺した瞬間だよ。それ以来、両親から貰った物に嫌悪感を感じるようになってな。何もかも捨てた。でも、名前だけが最後に残っちまってな。金を払えば捨てられるってんなら、喜んで捨てちまおう。……そう思って、名前を変えようとしたんだ」


 ……そういえば孤児院のお姉さんにも話しちゃったっけ?

 まぁあの人なら大丈夫だろう。

 話す相手がまずいなさそうだし。


 「……なんだよ。何で黙ってるんだ?これじゃダメなのか?悪いが、俺はこれ以上の理由を持ち合わせちゃいないぞ?」

 「いや……聞いてすまなかったな」

 「死んで詫びろ」

 「そ、それは出来ない相談だな」

 「で、これで満足か?」

 「あぁ……いろいろすまなかったね。そんな風に性格がねじ曲がっても無理はないな……」

 「失礼な貧乳だな。そこの受付さんを見習えよ。超デカいぞ?多分顔を挟めるぞ?いや、あんたなら身体ごと挟まれそうだなww」

 「リンネェェェエエエエ!!!!!貴様は殺す!!!絶対にだッ!!!!!!」

 「今のは私じゃないでしょう!?」


 ようやく微妙な空気から脱することが出来た。

 名前も変えられそうだし、良かった良かった。


 ……ルナは横で泣いていた。

 俺の服で鼻水拭くなよ汚ねぇ……

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