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心変わり

 「うわぁ……」


 今、俺の視界には広大な緑が広がっている。


 「これは……予想外とか計算外ってレベルじゃないな」


 こんな筈じゃなかった。

 数十年の間だけ、眠るつもりだったのだ。


 俺は日本生まれの日本人。

 なりたて社会人のごく普通の男だった。

 そんな代り映えしない日常で、異変が起きた。


 爆発。

 何の前触れもなく、しかも都心で起きた事件。

 深さ二メートルほどのクレーターが出来る爆発の規模で、二十人ほどの人間か巻き込まれた。

 しかし、巻き込まれた約二十人の人間はだれ一人として死ななかった。


 さらに、この事件の被害にあった人間の周囲で不審な事が起こるようになった。

 『物が浮く』『前触れなく突如発火する』『目の前で物が消える』

 その規模は次第に大きくなっていった。

 この事は直ぐに世間に広まり、様々な人間が被害者たちを追い回した。


 そしてその数日後には、被害者以外の場所でも不審な現象が確認されるようになった。


 それが周知の事実になると同時に、その原因も解明された。

 『超能力』。

 それを得た人間たちが、その不可解な現象を起こしていたのだと。


 数か月後には、すべての人類が超能力を身に着けた。

 そして、世界の人々は気づいたのだ。

 最初に能力を身に着けた、約二十人の力の異常さに。

 起こせる現象の規模が違う。

 あまりに桁外れすぎたのだ。


 世界は、その力を持った者たちを『人類の脅威』とした。

 被害が出る前に排除する事にしたのだ。


 強大な力を持った者たちは、それぞれの選択をした。


 ある者は戦い、ある者はひたすらに逃げ続け、ある者は周囲に被害が及ばぬようにと自害した。


 そしてある者は……眠る事を選んだ。

 それが、俺。


 コールドスリープ、俺にはそれが可能だった。

 俺は能力で、無から氷を作ったり、物を凍らせることが出来た。


 俺は絶対にばれないであろう場所に隠れ、自分を凍らせた。

 俺自身の力が弱まったら氷は消えて目覚めるという寸法だった。

 短くても数年は眠れるだろうと思っていた。


 まぁ、成功といえば成功した。

 でも……これはどう見ても……


 「数十年ってレベルじゃねぇな」


 日本の面影が残っていない。

 見渡す限りの緑である。


 俺は今、自分で作った氷の柱の上で辺りを見渡している。

 木、木、木、木、木。

 これしかない。

 建物の跡さえ残っていない。


 日本にも自然があるにはあるが、俺が眠ったところは、ちょっと高いところに行けばビルの立ち並ぶ場所が見えるような所だ。

 それが一切ない。

 寝ている間に移動したのも考えられない。

 俺が居たの地下だし。

 起きたら上に続く扉が開かなくてメッチャ焦った。

 氷で押して何とか出てきたのだが……


 「見た事ない植物生えてるし……えっ?」


 大きな羽音の様なものが聞こえて上を見てみると、そこには巨大な何かが飛んでいた。


 「…………」


 ここは日本ではないかもしれない。

 周囲の地形が変わってるし、そもそも……


 「ここからなら、太平洋が見えるはずなんだよなぁ」


 眠る前は見えたんだよね。


 「……降りるか。まぁ何とかなるだろう。多分」


 幸いなことに、身を守る手段はあるからね。



 <数時間後>



 ドンドンドン!!!


 「ひぃぃ!!!」


 ゴンゴンゴン!!!!!


 「うわぁ!ヒビが入ったぁあ!!」


 俺は現在、氷のドームに閉じこもっている。

 そして、そのドームをデッカイ海老に叩かれている。

 海老、そうエビである。

 ここはまだ森の中だ。

 海も川もない。

 いや、川は探せばあるかも知れないが……


 でも、ここは陸だ。

 なのに、人よりもデカいエビに囲まれている。

 あまりの恐怖に閉じこもってしまったのだ。


 「な”ん”な”ん”だ”よ”ぉぉぉぉ!!!!!」


 どうしてこうなった。


 「こんなのあんまりだぁぁぁああ!!!」


 最初に出会った動く生き物がまさかの巨大エビ。

 しかもメッチャ襲ってくる。


 「クッソォ!!!!俺がなにしたってんだぁああ!!!!!」


 俺は感情が高ぶったあまり、エビ共ごと周囲を凍らしてしまった。


 「ハ、ハハハ!!動かなけりゃ怖くねぇんだよ!!!そのまま死ねぇ!!!」


 氷の内部に氷の槍を生やし、エビを絶命させる。


 「ハハハ……ハハ」


 この時、俺の中の何かが変わった気がした。


 海老はおいしかった。

 ちゃんと焼いたよ。

 火おこしは出来るからね。



 <数日後>



 俺はひたすら森を歩いているが、何も見つからない。

 人とかいればいいんだけど……


 ガサガサッ……


 「……待ってたよ」


 ようやく出てきた。

 今回の獲物だ。


 「ようこそ!俺の食料たちよ!!苦しまずに死ね!!!」


 獲物はオオカミだった。

 あまり美味しくなかった。



 <数か月後>



 「今日で、百二日目……進展、何もなし」


 俺は木の板に傷を付けて日にちを数えている。

 この板は二枚目だ。


 今日の食料はデカいトカゲだった。

 火とか噴いてきたけどうまかった。

 また出てこないかな?



 <???後>



 日にちを数えるのをやめた。

 これだけの日数歩いて何も進展なしか、と毎日思うのがつらくなったからだ。

 そもそも、俺って真っすぐ歩いてるのかな?

 方向とか全然気にしてなかった……


 太陽が昇り切ったあたりで、雷が振ってきた。

 雨ではなく雷だ。


 俺は雷に当たらないように氷で屋根を作ってそのまま寝た。

 氷って電気通さないのかな?何か俺の氷が雷弾いでるんだけど……

 そもそも俺の作ってる氷ってただの氷なのかな?

 検証とかしたことないな……溶けてるのとか見たこと無いし、今度調べてみよう。


 次の朝。


 「雷やまないなぁ……」


 起きてからもずっと降っている。

 腹も減ってきたし、そろそろ狩りに行きたいのだが……これじゃあ移動できそうにないな。


 「お……お?」


 いきなり雷が減ったかな?と思った次の瞬間に止んだ。

 空を覆っていた暗雲は一瞬にして消えていた。


 「いや……なんだったんだ?」


 これはいくら何でも不自然じゃないか?

 雷が振るってのも中々の異常っぷりだけど、この止み方はおかしいだろ。


 などと思っていると……


 「何か来るな……」


 空から何か来る。

 もうずっとこんな暮らしをしているせいで、変な所が発達してきた気がする。

 お陰で遠くの生き物の存在に素早く気付けるようになった。


 「おぉ、見えてきた見えてきた……ドラゴン?」


 ドラゴンみたいな奴が飛んでいる。

 というか飛んでくる。


 「食えるかな?」


 俺は周囲の地面から氷の槍を生み出しし、そのまま飛んでいるドラゴンらしき生物に向かって高速で飛ばしていく。


 「避けたか、てか思ってたよりもデカいな。槍増やすか」


 槍の数を五十本にしてそのまま飛ばす。


 「お?今度は当たったぞ」


 三分の一くらい当たった。

 あ~落ちてった。


 「しまったな。結構遠くで落ちしちゃったからめんどくさいぞ……まぁ行くけど」


 俺は落ちていった生物の元に向かっていった。


 数分後、俺はその場所に着いた。


 「うぅ……痛い、痛いですぅ……」

 「…………」


 泣・い・て・る。

 もろドラゴンみたいな形をしたデカい黄色い生物が泣いている。

 カワイイ女の子みたいな声で。


 体には俺の氷の槍がメッチャ刺さってる。


 「おい」

 「ふぇ?ひっ!!殺さないで!!」

 「お前、強そうな見た目してるのに随分弱いな」

 「う、うぅ……違ますし、この氷が取れればこんな傷直ぐに治ります!!うぅ……」

 「じゃあ直せよ」

 「取れないんだもん!!全然溶けないですし、砕けないですし……体がうまく動かなくて抜くことも出来ないんだもん!!……痛い」


 だもんて……そんな化け物みたいな見た目で言われても可愛くないし……

 最初は殺して食べようと思ったが、コイツが喋れるなら話は別だ。


 「俺の言う通りにしたらそれをとってやってもいいぞ」

 「うぅ……本当?」

 「あぁ。じゃあ質問に答えてくれ。俺意外に人が居る場所は知っているか?」

 「う、うん」

 「本当か?」

 「ほ、本当です!!痛い……」

 「嘘だったら殺すからな?」

 「ッ!?……う、嘘じゃないです。だから……」

 「よし、いいだろう」


 俺はこのドラゴンに氷の首輪をつけた。


 「え?あの……これは?」

 「あぁ、嘘だと分かったら、この首輪から氷の刃が出てきて首を切り落とす」

 「……え?」

 「じゃあ氷をとるぞ」


 俺はドラゴンに乗って刺さっている氷を全部消す。

 俺は氷を出すことも消すことも出来るからな。


 「へぇ」


 氷が消えた瞬間、ドラゴンの身体についていた傷がどんどん消えていった。


 「あの……いつまで乗っているんですか?」

 「俺を人が居るところまで連れて行け」

 「え?」

 「そうそう、俺を落としたりしたらそれで首を落とすし、殺そうとしたら首を落とすし、そもそも俺が死んだらお前の首も落ちるようになっているからな」

 「そ、そんな……」

 「じゃ、俺寝てるから。あとよろしく」


 俺はドラゴンの上で寝る体制に入る。

 今日はいい日だ。

 空飛ぶナマモノをゲットできるとはね。

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