チートPSの可能性
突然だがPSとは何だろうか?
PSとはプレイヤースキルの略称であり、簡単に言うとゲームのうまさと言う意味だ。
才斗の言う神PSとは神の様なゲームのうまさと言う事だろう。
では神の様なゲームのうまさとは何だろうか?
強すぎてゲーマーの中で伝説になる事?
膨大な賞金をゲームで稼ぐ事?
勿論そう考える人間もいるだろう。
現に昔そんな話で盛り上がった時に、大罪の七星メンバーで一番口の悪いグラトニーと言う男は一番伝説扱いされてる奴が一番強いと言っていたし、グリードは一番ゲームで金を稼いだ者が一番偉いと言っていた。
それらは確かに神PSを持つ者にのみに許された結果ではあるだろうが、才斗に言わせればそれはただの結果であり本質ではないと考えている。
才斗の神PSとは『一番効率よく敵を殺せる奴』だった。
「ええええ!?じゃあレース系とか生活系のゲームとはどうなるのよ?」
「レースは一位になれば全員殺した様なもんだし、生活系のゲームみたいな勝ち負けの無いまったりした奴はそもそもやらん」
「お姉ちゃんプライドにあんま深くつっこんでも無駄っすよ」
「そもそも人生とはゲームなのだから人生で一番の勝者が神ゲーマーなのではないかな?」
「ラ-スン深い」
みたいな会話になり普段はあまりボケないラースが珍しい天然を披露したのだが悪魔のゲーマー達の日常を掘り下げるのはまた別の機会にしよう。
話が少し脱線したが才斗の言う『一番効率よく敵を殺せる奴』の『一番効率よく敵を殺す』と言うのは言ってしまえば、誰よりも早く多くの敵を倒すと言う事だろう。
そしてその理念に一番近かったのが多PCでの数の暴力であった為、その技術を極限まで磨き『殆ど精度を落とさず4PCのプレイが可能』という神技を取得した。
しかもその4PCのそれぞれのキャラクターでのプレイ内容も常人には不可能な技量なので女神に本当に人間か疑われるのも仕方ない。
才斗は基本的に4PCで攻撃を一度も食らわずより多くの攻撃を正確に当てるプレイスタイルをとっているが、別に被弾0に美学を感じている訳でもなんでもないので攻撃を食らいながら火力でゴリ押す方が効率がいいと思えば躊躇わずそれをするだろう。
何故そんな事を今語ったかと言われると。
「「「「ガウガウグラアアアア!」」」」
「あ~。もっと効率のいい戦い方ねぇかな~。ほい我魔弾を放つマジックバレット!っと」
4匹のガルファングを相手に先程と同じ事をしながらそんな事を考えているからである。
2匹のガルファングを『2匹同時に顔面へ攻撃が当たる様に誘導しその一瞬を逃さず魔法をぶち込む』と言う神技を10連続で決めた才斗は、その数を倍の4匹へと増やしても何の問題もなく決めながら、更なる効率アップを模索していた。
(ラース達は四重職業者って言ってたから俺よりステータスもスキルの数も獲得経験値も4倍で単純計算で考えると4の3乗で64倍の経験値効率か。ユニークスキルとやらも気にはなるな)
才斗はそんな事を考えながらもマジックバレットのリキャストタイムのを使い4匹のガルファングをただの移動で誘導しながら攻撃を躱し続ける。
(こいつらを倒せばレベルが2に上がるな。そうすればステータスも倍になるしスキルポイントも手に入って新しいスキルを覚えれるから楽にはなるが、それはあいつらも同じだしな……)
MGOのレベルアップによる恩恵は大きく分けてステータスとスキルの2つ。
1つはステータス。
レベルが1上がるとステータスの値が初期のステータス分増える。
才斗の場合魔法攻撃に関係するINTの初期値が6なのでレベルが2になると6追加され合計12になる。
つまり現状の2倍の数値になり大幅に強くはなるが、それはラース達も同じどころか四重職業者なので差は広がる。
1つはスキル。
レベルが1上がると取得スキルポイントが1増え、新しいスキルを取ったり、スキルレベルを増やしてそのスキルを強化出来たりする。
ウィザードの場合は火土風水のそれぞれの属性をもつマジックバレットの様なスキルを習得するか、マジックバレットのスキルレベルを2に上げるか選べる。
ちなみに攻撃スキルはスキルレベル×1倍の威力があり、もしレベル数に振れば現状の2倍の威力になる。
しかしこれに関してもラース達に及ばず差は広がる一方だ。
「二重職業者や四重職業者達みたいなチート持ちと俺とでは、成長速度も伸び幅も話にならないくらいの差がある。このままじゃだめだ。何かないか?こういう時アニメやラノベではどんな切り口があった?だめだ……単純に威力を上げたり発生を早めたりみたいなシステムに関係する事どうしようもない事しか思いつかない。あああっもう!我魔弾を放つマジックバレットってあれ?」
更なる効率化を考えてマジックバレットを放った時、それは起きた。
ズバンという音と共に今まで放ってきた拳大の大きさのマジックバレットが2倍の大きさになり、発射までに3秒かかっていたはずの時間が2秒で発射される。
当然タイミングが1秒も早く放ってしまった倍の大きさのマジックバレットはガルファング4匹の間をすり抜けるように最大飛距離を飛んだ後消えてしまう。
「今のって……おっとあぶね」
何が起きたのか分からず呆けていた才斗にガルファングが飛び掛かるが、寸前で我に返り紙一重でその爪を避ける。
(今確かに…………やっぱり!)
落ち着きを取り戻した才斗は4匹のガルファング達の攻撃を余裕を持って躱しながら自分のステータスの職業欄を開くと目をこれでもかと言うほど開く。そこには
ウィザード 魔導の道を歩き始めた者。魔法の基礎を覚える時期。
習得済み職業スキル マジックバレットLV2
習得可能職業スキル なし
残りスキルポイント 0
と表示されていた。
(スキルレベルが上がってる……俺はスキルポイントを使ってないぞ?仕様か?スキルの使用回数でレベルが上がるシステムに変更された?いやそれならスキルポイントなんて必要ないし、詠唱が早まった説明がつかない。だとするならバグか?だがこんな馬鹿みたいなバグを女神が残すか?……ん~結構てきとうそうだしアホっぽかったあり得るかも……)
もしマリアが聞いたらまたうるさい事を行ってきそうな失礼な事を考える才斗。
(もしこれがバグだとしたら条件はなんだ?俺はスキルを使う時に火力と発生速度の上昇を考えてスキルを使った。もしやそれか?でもそんな事だれでも考えるだろ。だとするならこの状況か?バグを利用した技を使ったから?もしくは極限まで研ぎ澄ませてる集中力がそれを可能にしたとかそんなところか?)
才斗は強引にご都合的解釈をして結論付けると、自分のバグすら引き起こす神PS流石すぎると小躍りしたい衝動をぐっと抑え、今はこのバグを最大限利用する事にした。そして才斗はさらに意識を自分の中に向ける。
「そういえば女神は自分の作ったシステムとやらで俺達人間がスキルを使えるようにしたって言ってたような……あれか?スキルを習得した時にオレの中に入り込んできた波みたいなやつか?全く気にしてなかったが今考えてみるとスキルを使う時あの波がオレの意識の中を流れているような気がする……って完全にそれだよな!?何でそんな事に気が付かなかったんだオレぇぇぇ!?あれか?これも女神のシステムのせいなのか?取り合えずもう一回撃ってみるしかない。早くなった時間を考えるとこんなもんか、我魔弾を放つマジックバレット」
スキルを発動させようとすると、才斗の頭の中にあの白い部屋に浮かんでいた魔法陣と同じ金色の波が流れる。
そして先程と同じ強化されたマジックバレットが放たれ、4匹のガルファングの顔面を弾くと先程まで1割しか減らなかったHPバーが2割程減る。
「電気信号?いやコマンドか?少し違うが今の金色の波は格闘ゲームのコマンドみたいな役割をしてるみたいに思う。そしてそのコマンドの波を無意識になぞるみたいにするとスキルが発動される……みたいな感じか?そうだそんな感じだ!あはははは、これは落とし穴だな。自分の体を動かすみたいに自然にスキルが使えてたから意識してなかった、いや意識出来なかった。これはマジですごい発見だぜ!抜け穴って感じだな!この抜け穴を使えばオレでもチート達と張り合えるかもしれない!」
自分の中に意識を向けるなんて言うちょっとした武術の達人みたいな事も、自分自身をゲーム感覚で操作できるこの世界で、尚且つゲームの達人である才斗には簡単に出来てしまえた。
そしてファンタジーな理論で構成された女神のシステムに簡単な理屈をつけると、ようやく自分なりの攻略の糸口を見つけた事で戦闘中だと言うのに笑いだすと、その糸を全力で引っ張る事にした。
「さっきの金の波のコマンドはもう覚えた。オレの理屈ではこのコマンドを無意識ではなく意識的になぞればいけるはずだ。もっと早くもっと正確にもっと集中する……よしっいくぜ!マジックバレットォォ!」
ズッバアアアアン!
先程よりも一段と激しい音を立て、拳大3つ分程の魔力弾が1秒で放たれる。
今度はそのタイミングを読んでいたのか、すり抜ける事もなく4匹のガルファングの顔面を穿ち、そのHPバーを3割削る。
才斗は確かな手応えを感じてマジックバレットのウインドウを開く。
「成功だ!ちゃんとレベル3になってる!威力も発動スピードもイメージ通りだ!しかもさっき無意識的にやっちまったが詠唱を省略できた?あははははは。いける、いけるぞこれ!流石オレの神PS!こんな容易くバグを生み出すとかやっぱ俺って天才だな!」
本来このバグは起こりえない事だった。
確かにそれはそうだろう、強く早くスキルを撃ちたいなんて事は誰もが考える事だし、そんな事が簡単に出来るならスキルレベルも詠唱というシステムが成り立たなくなってしまう。
なのでこんな容易く起きていい現象ではない。
女神の作ったシステムはただの人間に魔法が使える様にしてしまえる程の謎なファンタジー技術の結晶であり普通ならこんなバグが起きる筈がないのだ。例え女神の性格がどんなにてきとうであったとしてもそれは絶対だ。
しかしそれはおきた。
才斗のやっている事は、例えば倍の強さと速さで手と足を振れば倍の速さで走れると言われて、はいそうですかと言ってそれをやってのけ、しかもそれを頭に流れる電気信号を読み取り解析して効率化してやっていると言う物である。
人間の出来る事ではない。
そんな事が出来れば才斗はオリンピックにでて世界新記録を取れるだろう。
だが才斗はそんな超人ではない。
それどころか体育の授業を先生の優しさだけで1を逃れてきた様な運動音痴である。
それを可能にしているのはここが自分をゲームの様に操作できる異世界であり、且つ才斗が卓越したゲーム技術の持ち主だからだろう。
「自分の思った通りに自分を操作できる世界か、そんな世界があるなら俺は間違いなく最強だわな」
「「「「グルゥアアアアアアアアアッ!」」」」
目の前の不条理な存在に、残りのHPバーを4割まで削られたガルファングが雄叫びを上げて襲い掛かる。
それが目の前の不条理な存在に仕掛けられた物だとも知らずに。
「レベル4のマジックバレットの威力、大きさをイメージしながら……自分の意識を内側に向けて例のコマンドを意識する……あとはそのコマンドを限界まで早く正確に打ち込む……集中しろ集中しろオレならできる……オレの神PSならできる……」
才斗は目の前に迫る4匹の狼の牙と爪をそんなもの歯牙にもかけていないのか、意識を内側に向けぶつぶつと考え事をしながら避けると、もう詠唱しなければ間に合わないタイミングで詠唱せず、ただ静かに杖をガルファングに向けて構える。
そして自分が仕向けた4匹のガルファングの顔面に攻撃判定がでる奇跡の瞬間に。
「はっ!」
才斗は拳大4つ分の大きさの魔法の弾丸をは詠唱すらせずに放った。
放たれた魔法の弾丸は4匹のガルファングの顔面に直撃しスッガアアアアアアアン!と言う轟音をあげてその存在を光の残滓に変えた。
ガルファング4匹を同時に消し飛ばした才斗は魔法を撃った姿勢のまま自分の今やった事に戦慄する。
「……無詠唱魔法?」
頭の中にレベルアップのピコーンと言う音が響く中、才斗はそう呟くのだった。
ついに滅茶苦茶やりだしちゃった主人公