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初めての冒険

 MGOマリアガルドオンラインには多種多様な職業が存在しており、戦闘系職は勿論、生産職も充実しているところも幅広い層から人気があるポイントの1つだった。

 その中で戦闘系は大きく分けて4職、剣や盾や色々な近接武器を使うウォーリアー、弓矢を使って遠距離から戦うアーチャー、魔法を使い敵を殲滅するウィザード、回復や支援を得意とするクレリック。

 その4職がレベル20になると、それぞれ9つに分岐した上位の二次職という職業に転職できる。つまり36種類の戦闘職があるのだ。


 そしてその職業の中でもバランスが崩壊していると言われる強さを誇る『レア職業』と言う物も存在していた。

 バランス崩壊を起こす程強いと言っても誰が使っても強いというお手軽職と言う訳では勿論ないし、転職の条件も他の二次職業より遥かに難易度の高い条件に設定されている。


 ちなみに才斗がMGO時代に愛用していたキャラの職業は『エレメンタリスト』と言う名のレア職業であり、4大元素である火土風水の4属性の魔法が使えるウィザードから派生する二次職だ。

 全職業の中で最高の火力と殲滅力を持つ1番の人気職なのだが、魔法使いにありがちな柔らかく死にやすいと言う点を最も顕著にしている分操作や立ち回りがダントツで難しく一番プレイヤーを選ぶ職業である。


 さらに転職の条件は、一度もダメージを食らわずPTを組まないで特定のスキルを習得してレベル20になると言う、かなり難易度が高く且つ誰かに手伝ってもらう事もほとんど出来ないというマゾすぎる条件なのだ。

 余談だが才斗はメインキャラと合わせエレメンタリストを500キャラ以上自分の力のみで作っており、それを知ったグラトニーやグリードからは真正の変態過ぎて無理と言われ1週間程ブロックされた事がある。


 才斗はラース達との念話を終えた後、すごい形相でギルドの受付にいたせっせっと働く綺麗な受付嬢に詰め寄りクエストを受けると、弾かれた様に走り出し女神の塔へと繋がる不思議な門を通ると、第一層である草原ステージに飛び出した。


「ラピッドアロー!ちっ!こいつら初期モンスターのくせにMGOの頃より全然硬いな!」

「痛ってええええ!くそ攻撃力も高いぞ!?痛みも本物だちくしょう!血もでてやがる!」

「大丈夫!?今すぐ回復するわ!我癒しを望むヒール!」

「くっそ!くらえ、我魔弾を放つマジックバレット!」


 雲一つない青空から差す太陽の光は見渡す限りに広がる綺麗な緑色の草が生える広大な草原を照らし、時に吹く麗らかな風はそんな草木の匂いを才斗に運んでいる様だ。

 そんな元の世界で言うならアルプスの大草原の様な景色をイメージしたであろうフィールドには異世界ならではの存在が生息していた。


 そうモンスターだ。


 大の大人よりも更に大きい体躯は灰色の毛で覆われており、鋭い牙と爪を持った狼のモンスター『ガルファング』

 才斗の立っている場所から20メートル程先で異世界から召喚されたプレイヤーのPTが、丁度そのガルファングと交戦中なのである。


 ウォーリアーがモンスターの注意を引きつけ戦いながら攻撃を受け、クレリックがその傷を癒し、その間にアーチャーとウィザードが遠距離からモンスターに火力の高いスキルを打ち込む。

 プレイヤー達はそんな基本とも言えるバランスのいいPTだった。


「何だあれ?やる気あるのか?」


 しかし異世界に来て最初に見た戦闘に対して才斗はそんな不満をもらす。


 前衛であるウォーリアーの男性はガルファングの牙と爪による攻撃が後衛である仲間にいかないように身を呈して戦い、そんな仲間を心配しすぐさまヒールを使い回復するクレリック、そして弓から6本の矢を連続で発射しその全てをガルファングの手足に命中させるアーチャーと、足元から白い魔法陣を浮かび上がらせ杖から拳大程の白い魔法の玉を放ちその灰色の毛で覆われた体躯を穿つ男性。


 誰もが初めての戦闘ながらも必死に懸命に戦い、モンスターの攻撃にさらされていた男の剣でようやくガルファングは倒された。

 透明に輝く石だけをその場に残すとガルファングの死体は光の残滓になり消滅した。

 4人のプレイヤー達は初めての戦闘で感極まったのか怖かったのか泣きながらその石を拾い生き残った喜びを分かち合っていた。


 しかし才斗はその健闘したPTにつまらなそうな視線を送ると溜息を吐く。


「あいつらは何故あんな動きが悪いんだ?こんな自分の思ってる通り動く体を持ってるのに意味不明なんだが……」


 そう言うと軽く走ったり飛んだり、全職が共通に行えるステップという回避行動を混ぜながら軽快に動く。


「すごいな……本当に自分の体じゃないみたいに動ける。マジかよ、運動神経いい奴等ってこんな感じだったのか?キャラのスペック以前にまずパソコンのスペックが全然違ったみたいな感覚だわ」


 こんな運動神経をしていたらそりゃスポーツも楽しいだろうな~。と思いながらも一通り体を動かすと、次はステータスウインドウを表示し『職業』と言う項目をタップする。


ウィザード 魔導の道を歩き始めた者。魔法の基礎を覚える時期。

習得済み職業スキル なし

習得可能職業スキル マジックバレット

残りスキルポイント 1


 という風に表示されており何の迷いもなく、マジックバレットと言う項目をタップし、本当に取得しますか?というこれ必要?と思われるお約束な質問にもはいとタップをする。


 すると頭の中に何か形容できないものが流れこみ、その直後まるでマジックバレットという魔法が、物を食べたり歯を磨いたりするくらい当たり前の常識として自分の中に刷り込まれていく。


「これで使えるはず、というか使えるのが分かる。それじゃあ早速魔法使いデビューするか!我魔弾を放つマジックバレット」


 バヒュン!


 才斗が先程のPTのウィザードと同じ文言を口にすると足元に透明な魔法陣が出現し、杖から拳大程の白い魔法の玉が放たれた。

 何もないところに放たれたマジックバレットは、恐らく重力の影響を受けていないのか放物線の軌道を絵描く事無く15メートル程飛ぶと初めからそこに何も無かったかの様に消える。


「ふぉぉぉぉすっげーな。マジで出たよ!いや出るのは不思議と頭では理解してたんだが感情は別問題だな。感動だわマジで!」


 才斗はこれが女神の作ったシステムなのだろうと不思議な感覚に結論をつけると、感動しながらもう一度マジックバレットを放ち、そして分析を始める。


「MPが5減ってるな。このちょっと精神的に疲れた感覚はそのせいか。それよりもMPの消費量と、キャストタイムや詠唱時間やモーション、エフェクトや飛距離や玉の大きさにいたるまで、何億回と使ってきたMGOのマジックバレットと全部と同じだな。一体何をリメイクしたんだ?」


 街並みこそPVで見たМBOだったが、才斗の立っている草原もガルファングと言うモンスターもマジックバレットと言うスキルも何から何まで寸分違わずMGOと変わらないのだ。

 確かにシステムやいいところは継承してリメイクすると言っていたのだがここまで同じだとリメイクと言うよりリテイクとかもっと言うならリプレイと言う言葉の方がしっくりくる。


 しかしそのМGOとまったく変わらないと言う点は才斗にとってはまさしく行幸である。なにせ才斗はMGOで自称ではなく全てのプレイヤーの頂点である7人だったのだから。


「ここがМGOと全く同じ世界で、ゲームと同じく自分の思った通りに体を操作できるならマジで余裕だな」


 そう言うと才斗は慣れた足取りで辺りを見渡しながら歩きだすと、そこら辺に落ちている小石を2つ拾い、その小石を草原を歩いていた2頭のガルファンゴに投げつけた。


「うんコントロールも問題ないな」

「「ガルルルルッ」」


 基本的に第一層にいる様なモンスターは、こちらから攻撃をしなければどんなに目の前を通ろうがこちらが何もしなければ向こうから攻撃してくる事は絶対にない。

 これはどのゲームでも初心者の為にある所謂お約束の様な物であり、そしてプレイヤーは動かないモンスターに先制攻撃をしかけ戦闘を有利に進めるのが一般的な流れである。


 ウィザードである才斗ならば先程覚えたスキルのマジックバレットを放つのが普通なのだが、あろうことか才斗はその貴重な奇襲のチャンスをダメージの殆ど無い投石でそれを潰し、尚且つチート持ちが4人で1匹を相手にしていたガルファングを2匹を一気に相手にするつもりらしい。


「ほら、さっさとかかって来いよ犬ッころ」

「「ガルガルラアアアアアッ!」」


 才斗はガルファングにゆっくり近寄りながらそんな事を言う。

 本来後衛である魔法使いは距離を取って戦うのがセオリーなのだが、あろうことか才斗はそのセオリーを完全に無視して2匹の狼の方に向かって歩いていっている。


 当然そんな事をされればその2匹の狼は本能に従い、のこのこ歩いてくる無防備な獲物に飛びつき、その鋭利な牙と爪で肉を裂きその肉で空腹を満たそうとするだろう。

 それは現実でもゲームを模して造られた異世界でも同じだったらしく、2匹のガルファングは才斗を血だるまにしようと襲い掛かる


 しかしその思惑は叶わなかった。


「ここだな。我魔弾を放つマジックバレット」


 2匹のガルファングの牙と爪は、飛び掛かられた瞬間回避行動をした才斗により空振りさせられ、代わりに丁度同じ座標にあった為2匹の顔面には拳大の魔法の弾丸が直撃する事になった。

 するとその2匹のガルファンゴの頭の上に表示されている緑色のHPバーが1割程減る。


「おいおい……クリティカルポイントにマジバレぶち込んでんのに1割しか減らないってどういう事だ?MGOなら今ので半分はもっていけるぞ?初期の敵の硬さいじるとか正気かよあの糞女神……」


 クリティカルポイントとは所謂弱点の様な物であり、そこに攻撃を当てるとクリティカル判定となりダメージが2倍になると言う絶対に狙うべきポイントなのだが、何故か先程のPTは手足や胴体にばかり攻撃していた。

 普通顔面と言うのは体に比べて面積が狭く外せばどこにも当たらない危険があるし、高い操作技術があれば別だが顔を狙うと言う事はモンスターのほぼ正面から狙わなくてはいけず、正面と言う事はガルファングが飛び込んでくる軌道上である為、遠くから攻撃する職業はコントロールが足りずそれを断念し、ウォーリアーは攻撃をなるべく受けない為になるべく正面に立たない立ち回りをしながら攻撃していたから狙いたくても狙えなかったのだろう。 


 ダメージを食らったガルファング達は少し怯むがすぐ態勢を立て直し才斗に飛び掛かる。

 しかし才斗はそんな2匹の周りをぶつぶつと文句を言いながらゆっくり歩き、飛び掛かられた瞬間にステップする事で難なく回避していく。

 そしてマジックバレットのキャストタイムが回復すると、ガルファング2匹の攻撃を回避した瞬間に詠唱を初め、丁度2匹の頭が重なる座標に性格に打ち込む。


「こんな事をたった2匹狩る度に10回も繰り返すのかよ……さっきのPTのウォーリアーの傷から察するに硬さだけじゃなくて攻撃力も上げてやがるんだろうな。こりゃ今日だけで何人死ぬことやら……まぁ当たる気がしない俺には関係ないがなっと!我魔弾を放つマジックバレット」


 一般人から見たら才斗は2匹の狼の攻撃を華麗に避けながら魔法で2匹同時に攻撃しているだけなのだが、MGOでウィザードをプレイした事のある人間が彼のやっている事を見れば空いた口が塞がらない事は間違いない。


 何故なら彼が行っている二匹の頭を同時に攻撃するという現象は本来なら起こりえないバグに分類される現象なのだから。

 対象の行動により特定の行動を決められたアルゴリズムで行うようインプットされたモンスターもといAIは本当に生きているかの様に動くのだが、そこには一定の規則性の様なものが存在する。

 そして才斗はこの作業を繰り返した果てに500キャラと言う呆れた数のエレメンタリストを作った経験から10階層までの全てのモンスターの何十万と言うアルゴリズムを把握している。


「後は簡単だ。俺の神PSでそのアルゴリズムをオレの動きで丁度弱点の顔が重なる様に誘導して、重なる瞬間を狙って魔法をぶち込めばいい。よっとおらくらえ!我魔弾を放つマジックバレット」


 口で言うのは簡単だがこのバグを意図的に起こすには、モンスターの行動を正しく把握しそれを誘導するという離れ技と、その奇跡的に重なった僅かな座標と瞬間に寸分の狂い無く多少の詠唱とスキのある攻撃をするという離れ技を同時に行う必要があるのだ。


 しかも命がかかった本物の戦闘で、全職業の中で最も死にやすいウィザードという職業で10回も繰り返す。そんな事は恐らく召喚された2億人のプレイヤーの中で才斗にしか出来ないであろう。


「まぁこれくらい出来なきゃ神PSは名乗れないわな。これで終わりだ我魔弾を放つマジックバレット」


 ズドン!キラキラキラ


 こんな事くらい狙って出来て当たり前だと言う風に10回目の魔法の弾丸を放ち、2匹のガルファングを光の残滓に変えると。


「やれる……やれるじゃないか!反撃開始といこうぜ!」


 我らがPSチートは笑いながらそう言った



ようやく主人公ぽいところがでてきましたね

どんどんいきましょう

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