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仲間だと思ってたんだが・・・

 楠才斗は最強のプロゲーマであるが、高校3年生でもあり重度の引き籠りでもある。

 しかし才斗はそんじょそこらの引き籠り男子高校生ではない。

 10億円。

 それが才斗の今までの賞金やRMTで稼いだ金額である。


 その高校生では持ちえない財力を使ってお坊ちゃまやお嬢様の通う都内の私立高校に金を払って裏口入学をし、卒業までの単位と出席日数を金で買い一度も出席せず、家政婦を雇って高級マンションに引き籠り、実家に仕送りまでしているという規格外の引き籠りなのだ。

 いやいやそれは果たして引き籠りなのか?というつっこみは勿論だが、才斗は年に1度しか外に出ない為充分引き籠りに該当するだろう。ちなみに年に一度の外出の話は今は割愛しよう。


 今重要なのはその金額である。10億という額は無駄な浪費をしながらでも一生生きていける金額だろう。しかもその額は世界からゲームが消滅しない限り増えていくときている。

 豪遊は好きだがそれも世間の小金持ちがやる程度のもので、特別高価な物が欲しいわけでもない。つまり才斗は引き籠りでありながら寿命が尽きるまで自分の金で引き籠れるてしまうのだ。


 しかし彼は。


(考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。どうしたらこの状況からいける?どうしたら?どうしたら?どうしたら?どうしたら?どうしたら?どうしたら?どうしたら?どうしたら?)


 世界を舐めている様な目を抜き身の刃の様に鋭くし、全身の毛穴を開き、とんでもない形相でこのステータスで女神の塔を一番先に攻略できるかを考えている。


 国家予算を超える金額がそうさせるのか?異世界のアイテムという某7つ集める龍の玉的な事が出来そうな物がそうさせるのか?あるいはその両方なのか?


 なんにしても先程のマリアのとんでもない『緊急告知』の効果は絶大だったらしく、才斗を含めたプレイヤーの全員はやる気を爆発させている。街で途方に暮れていたプレイヤーですらもギルドに駆けつけているようで、足音が地鳴りの様にギルドの中にまで響いている。


「ちっ!あの女神、告知の時間が言ってた時間と違うじゃねーか……まぁいい、俺達ダブルのPTやその仲間になりたい奴は集まれ!見込みのありそうな奴と、そうだな~見た目のいい女を優先的に仲間にしてやるよ!」


 最初に何かを呟くとギルドの中を見渡しそんな事を声を大にして言い放った。

 するとその言葉は女神の緊急告知も相まってとんでもない効果を発揮したようでさらに騒ぎを大きくする。


「俺を!俺を仲間にしてくれ!『超剛力』を持っているウォーリアーだ必ず役に立つ!」

「僕を!僕を仲間にしてください!『慈愛』を持っている為回復に関しては抜きに出ています!」

「私を仲間にしてください!『天才』を持っているのでレベルはすぐに上がりますよ!」

「あたしを仲間にしてくれないかしら~?仲間にしてくれたらいい事してあげるわよ?」


 ガイルトンの仲間になりたいと言うプレイヤーが集まり瞬く間に途轍もない人だまりが出来上がる。


 ガイルトンは好色そうな顔をして即断で容姿のいい女性プレイヤーを仲間にしていき、男のプレイヤーは盾職が出来そうな屈強な者だけを残してそれ以外を完全に無視していた。


「仲間ね~、昼は男を肉壁にして夜は女をにくべん・・・いいご身分の異世界生活だな」


 才斗は呟きながらガイルトン達を冷めたい目で一瞥すると、空中に出現したウインドウのフレンドという項目をタップする。

 するとそこには傲慢を除く6つの大罪の罪の名前が記されていた。

 同時にそれは散々喧嘩をしてきたが、心の中では実力だけは認めている悪魔のゲーマー達の名前でもある。


「正式な名前さえ分かっていれば離れていてもフレンドが送れて、フレンドとはチャットみたいに念話できるとかマジで便利だわ。流石魔法のある世界、なんでもありだな。仕方ない……こいつらに頼るようで癪だが今はそんな事も言ってられないか……」


 才斗は諦めたかの様にそう言うとフレンド欄に記された6人の悪魔達と自分でフレンドグループを作り初めての念話を試みる。


『こんな感じか?あーテステス聞こえるか?プライドだ。お前ら聞こえるか?』

『うわ!びっくりした急に頭の中にその腹立つ声送り込んで来ないでもらえんかな?狙い狂うやろが』

『狙い?グリードお前もう狩り初めてんのか?』

『せりゃせりゃー!当ったり前やろ!ふぅ。ほらスロウス、終わったからダレとらんで次いくで!?』

『流石グリリン早い』

『あああああ!やっぱり二人でPTを組んでいたのね!?その高速寄生プレイずっこいわよスロウス!』

『効率重視』

『まぁまぁお姉ちゃん。自分達も似たようなものっすからズルくはないっすよ』

『ふふっ、ラストとエンヴィーには後々返してもらうから気にする必要はないよ。はっ!』

『つかクズプライド、おらっ!お前何気安く声かけてきてんだ?せいやっ!』

『何ってお前そんなもん決まってんだろ?さっきの聞いてなかったのか?』


 初めての念話に戸惑いと感激を覚えていた才斗だったが、どうやら一足先に自分をハブって異世界でモンスターと戦いながら平然と念話をしているゲーマー集団に軽い尊敬と苛立ち覚える。


(なんだこいつら。前々から頭のねじが飛んでるどころかついてないと思っていたが……いくら何でもこれは異常すぎないか?)


 そう異常なのだ。

 才斗は多少時間を食いはしたが、かなり早く切り替えてこの現実を受け止め、ギルドに直行し、女神の緊急告知を聞きとりあえずのプランを考え、それを行動に移そうとするところだった。

 常人のとれる最速の行動だ。

 にも拘らず彼等は最速と思われる才斗の行動の上を行く速度で女神の塔に各々でPTを組んで突撃している。


(これじゃあまるで……)


『告知を知ってた上で君をハブったみたいかい?』

『!?』


 不意に自分の考えを全て読んだ上でそれを公定するかの様なラースの穏やかだが冷たい声が頭に響く。

 その声に嫌な予感を感じ、汗がじわりと背中からたれる。


『正解だよプライド。僕達は君をあえてPTにいれず行動している』


『はっ?何言ってるんだラース?何でか分かんないけどお前達アイテムや賞金の事知ってたんだろ?じゃあなんで俺をハブいてんだ?言いたくないがお前達は俺と違って凡人だが凡人の割にはかなりやる方だ。そんなお前らとオレが組めばこんな訳の分からない塔なんて瞬殺で』


『君の力が必要ないからだよ』


『……え……』


 それは今日数々の衝撃を受けてきた才斗の中で、いや才斗の人生の中で一番衝撃的な言葉だった。


『確かに僕達は今まで数多のゲームで共に戦い多大な賞金を稼ぎ、幾つもの伝説を残して来た。君は特に多PCの技術に優れ終焉邪龍エンドキングドラゴンの時も君だけは2PCで戦ってくれた。僕達の中にエースというものがいるとするならそれは間違いなく君だよプライド』


『じゃ、じゃあ……なんで?』


『あんまラースさんに酷な事言わせんなよクズプライド。せいっ!ゲームはともかく、この異世界でてめぇのカスみたいな能力じゃ逆立ちしたって糞の役にも立たねぇって言ってんだよ!おっらしねや!』


 決定的な事を言われた才斗、いやプライドは自分の大切な物が音を立てて崩れていくのを感じた。


 それでも何とかフラつく足腰を踏ん張りギルドの柱に手をつき何とか耐えると、まだ諦めないと言わんばかりに激昂し必死に反論する。


『ああ確かに俺は現状2億人のプレイヤーの中の最下位の能力だがそれがなんだ!?そんなもん多少の時間があればサクッと逆転できるだろ。それにどうせお前らも二重職業持ダブルとか言う下らないチートを持ってんだろ?だからそんな上から目線なんだろ?だが見通しが甘いんじゃないのか?確かに強力だがその程度のチートじゃまだレア職業を使いこなせる俺を超える程でも』


二重職業者ダブル?あ~あの2職しか持てない半端・・可哀想・・・な人達っすか?』

『半端だと?』

『ごめんねプライド……あたし達全員【四重職業者クアドラ】なのよ……』

『……は?四重職業者クアドラ?』


 言葉通りの意味でとるのであればそれは更に倍の4つの職業を持っているという意味だろう。

 さらに悪魔達は続ける。


『それに加え僕たちはURユーニクレアスキルをを所有していてね、おっとこれは秘密だったか。そうだプライド時間がたったらこの事を情報屋に持って行くといい。この情報を売れば元の世界に帰るまでの多慰みの生活費にはなるだろうからね』

『あああでも勘違いしないでねプライド!?あたし達が今こうしてPT組んでるのはレア職業の為だったりスタートダッシュの為だから!ちゃんと終わったらみんなで競争するつもりよ?』


四重職業者クアドラURユーニクレアスキル?競争?わけが分からない……上手く思考が回らない)


『うちらは6人の中で誰が一番先に99階層をクリア出来るかで競争してるんすよ。勝った人がPTリーダーで100兆円を総取りできるってルールっす。なので共闘は今だけだからそんな泣きそうな顔をしないでくださいっすプライド』

『それまではさいとん以外はお互いにライバル』

『あああ!でもねプライド!100階層が余裕そうならちゃんとプライドも混ぜて上げる気なのよ?』

『それについてはうちはまだ賛成してへんで?まぁプライドがうちらの前で、全裸で土下座して泣きながらお願いするって言うんやったら考えたってもいいけどな~。ああ勿論賞金は渡さへんよ?』

『ぎゃはははは!なっさけねえええええ!クズがいつの間にか寄生虫に転職とか流石異世界だぜ!まぁ座雑魚虫にとっちゃ進化なのか?ぎゃはははは』


(俺を相手にもしてない?俺が混ぜてもらう?俺が雑魚だと?)


『こらこらみんな本当の事だからと言って言い過ぎだよ?プライド、君の事はみんな認めているし憎からず思っている。僕としても君を友人の様に思っているしね。でも今回に限って言えば君は必要ない。どころかむしろお荷物ですらある。君の事だからそう簡単に死なないと思うが出来ればあまり危ない事はせず街でじっとしていたまえ。その時が来たら君を迎えに行くよ。それまでお別れだ。じゃあね』


 ぷちゅんという音が頭の中に流れたかと思うと。フレンド欄から名前が一斉に消えていた。


「はっ……はは……ブロックリストにいれやがった・・・昔よくお互いにこんな事してたな……そうだよな俺達は賞金を稼ぐ事が目的のプロゲーマーだもんな。多少は馴れ合うが使えないお荷物と一緒にやるなんて意味が分からないもんな・・・俺がラースでもそうするわな。はっ、ははははははははは」


 ガンッ!


 俯きながら力なく笑うと力いっぱい支えにしていたギルドの柱を殴りつける。

 彼の表情を知る事は出来ないがギルドの床にキラキラとした水滴が落ちていく。


 才斗は心の奥底で思いあがっていたのだろう。なんのチートも持たずに異世界に召喚されたとしても、例え現状が最弱のプレイヤーだったとしても、ここがゲームを再現した世界であるならば自分は誰にも負けないという根拠の無い自信があった。

 それは彼等も同じだと思っていた。

 彼等ならどんなチートを持っていようが、自分が何もチートを持っていなかろうが無条件に自分を必要とするだろうと思っていた。そう思い込んでいた。


 しかし現実は違った。才斗は見限られたのだ。


「いってぇ……現実なんだな……マジで……はっ、ははは、やってやる……やってやるよ……あいつら絶対許さん。この俺に散々舐めた事をほざき哀れんで雑魚呼ばわりした事を必ず後悔させてやる。SSRスキル?二重職業者ダブル?ゴミだな。四重職業者クアドラURユーニクレアスキル?そんなもんが何だっていうんだ?見せてやるよ格の差ってやつを」


 赤くなった手を見てそう言うとその手で顔を擦る。その後ぐーっと伸びをして深呼吸をすると顔を上げ前をむく、その顔は新しい玩具を与えられた子供の様な、いやそれにしては可愛さが足りないだろう。例えるならその顔は。


「PSがチートだから女神の塔くらいチートがなくても余裕だっての」


 腹を空かした凶悪な獣が獲物を見つけた様な顔をしていた。



次回からようやく冒険開始です!

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