チート持ちがズル過ぎなんだが・・・
成長要素や育成要素のゲームを何かしらやった事のある人ならステータスの重要性は分かっているだろう。
例えばRPGでは、レベルや様々な装備で上げたステータスは与えるダメージや受けるダメージ等様々な事に直接関係するゲームをやる上で最も大事な要素の1つであり、そのキャラクターの強さそのものと言っても過言ではない。
「おい見てくれよ~オレのステータス、『一騎当千』のおかげでがHPが10倍になって300もあるんだぜ?こりゃ死なない最強のタンクだな」
「ほ~硬たいな~。でもなオレなんて『超魔力』の効果でINTが5倍になって30だぜ?これなら初期モンスターなんてワンパンだよワンパン!」
「すごいなお前らのステータス羨ましいわ~」
「何言ってんだよお前支援職のクレリックだろ?それに『達人』のおかげでスキルの効果2倍とかチートじゃないか」
「はっはっは~ばれたか~。まぁ支援は俺に任せてお前らはモンスター共を殲滅してくれよ」
「「おう!任せとけ!」」
異世界の幻想的な街並みに多種多様の種族と地球から召喚された人間達が混在する迷宮都市セントマリア。
その丁度真ん中には街の由来にもなっている女神の塔のと言われる迷宮【マリアバベル】が天高く聳え立っている。その頂上は天辺が見えない程高く一説では別の星につながっているとも言われている程だ。
そんな女神の塔を囲むようにしてできている区画は中央区と呼ばれており、女神の塔への入り口と、その入り口を管理している『ギルド』と呼ばれる施設がある。
ギルドは女神の塔の入り口の管理以外にも、クエストの紹介、モンスターの素材や魔石の換金、転職や簡単な商店や酒場等、冒険者の各種サービスを執り行っている。
そんなギルドの一角で才斗は茫然と立ち尽くしていた。
ギルドの中は世界中から召喚されたプレイヤー達で溢れかえっていてガヤガヤと騒がしい。
世界中から集められただけあって髪や目や肌の色は違うものの、一様に武器を持ち防具をつけた格好をしており、何故か全員が才斗には日本語に聞こえる言葉で喋っていた。
(糞女神のくせに初期装備もくれてその上翻訳システムまでつけてくれるのは親切だな。まぁなかったら異世界で生きるどころか言語の違いで召喚者同士ですら困る事になるから当たり前と言えば当たり前だが)
かく言う才斗も今はマジックバックと言う名のカバンに入っていた薄茶色のローブと木の杖を装備し、一端の魔法使いの格好をしており。彼の長すぎる黒い髪も日本では人に不快感を与えていたが身に着けている服や周りの環境がファンタジーだと中々様になっている。
しかし才斗の顔には絶望の色がありありと浮かんでいた。
「経験値10倍効果の『天才』持ちの方どなたかいらっしゃいませんか~?職業不問ですよ」
「こちらはドロップ量が10倍になる『天運』をお持ちの方を募集してますよ」
「回復量3倍効果の『慈愛』持ちが2人ですよ。火力系の特性スキルをもった火力職の方@2募集です」
「全員が『覚醒』持ちのタンク1火力2のPTです支援職の方どなたでも来てください」
その原因がこのPTの募集だ。
彼等の言っている特性スキルとは才斗以外の全てのプレイヤーがマリアからお詫び補填としてSSRスキル確定ガチャで手に入れたこの世界でチートと言われる強さをもつスキルである。
一頻り騒いで冷静になったプレイヤーの中でも切り替えが早く適応力のある者達がギルドに駆け込み我先に自分の理想の強いPTを作ろうとして必死に声を張り上げている。
オンラインゲームにおいて序盤のスタートダッシュはかなり重要であり、後になればゴミに感じるアイテムでも最初は高く売れる。
そしてこの世界がただのゲームではなく現実ならば当然生きていくために金がいる。残念な事にマジックバックには初期装備と数本のポーションは入っていたが肝心の金が入っておらずプレイヤーは全員無一文の状態であり、必然的にプレイヤーは金を稼ぐ為にギルドへ足を運び、より効率的に且つ安全に稼ぐために各自が思い思いにメンバーを募集しているのだ。
(だけどこれはないよな……)
プレイヤー達の行動は才斗から見ても至極合理的であり効率を重視する者ならば当たり前なのだが、才斗はその募集合戦に参加せず1人寂しくそのプレイヤー達を遠巻きに見ていた。それはもう羨ましそうな顔で。
何故才斗がそんな顔をしているかと言うと、ステータスが問題であった。
その問題のステータスとは
【名前】プライド
【LV】1
【職業】ウィザード
【称号】大罪人
【状態】不幸、嫌われ者、童貞
【能力】
・HP 10
・MP 60
・STR 1
・VIT 1
・DEX 1
・AGI 1
・INT 6
・LUK -100
【特性スキル】
なし(習得不可)
とこの様な感じになっている。
(初期ステータスは妥当だし特性スキルってのが貰えなかったチートってところまでは理解できる。いやあくまでも理解できるだけでちっとも納得はできないけども!しかしなんだLUK(ラック)-100って今日死ぬのか?呪われてるのか?)
この世界のLUK(ラック)とは言ってしまえば運の事であり、これはモンスターを倒した時に落とすアイテムに関係しており、MGOでも運のステータスはあったが最高値が100で最低値が0であった。
にもかかわらず才斗は-100という数値であり、なおも悪い事にこれはLVを上げても変わらない。つまり才斗はこれから先この-100と言う運の数値を背負って生きなければならないのだ。
こんな奴がPTに入ればPT全体の運がガクッと下がり、稼ぎも激減するのは目に見えており誰もPTを組みたがらないだろう。
さらに才斗にはプレイヤーが当たり前の様に持っているSSRスキルと言う名のチートを持っていない。
自分が、大罪七星のプライドと言ってしまえばもしかしたらPTを組めるかもしれないが才斗の場合殆どのプレイヤーに嫌われている為それも得策ではないだろう。
(それに極めつけはこれだよな……)
才斗は本日何回か数えるのも面倒な溜息をつきながら力の抜けた指で空中に表示されたウインドウの【称号】と【状態】をタップする。
『大罪人』 女神の楽園を崩壊させたこの世で最も罪深き悪魔。女神にに最も嫌われた者の称号。女神ののろ……天罰が下るわ!
「なんでオレはお前のクランが勝手に潰れた事の逆恨みで天罰下されるんだ!?ていうか効果の説明のところお前自分でお前が考えたよな?呪いって言いかけたよな?」
『不幸』 女神の天罰によりLUKが-100になりドロップが10分の1になる呪い。
コメント、あっはははははははは!貧乏生活を送るといいわね!
「呪いって!呪いって言っちゃったよこの女神!しかも何かコメントとか言ってやがる!マジでなんなんだこいつ・・・」
『嫌われ者』 全ての人間から好感度が上がりにくくなる。
コメント、これはあたし何もしてないわよ!?あんたの性分だからね?本当よ?
「そこはお前の呪いって事でいいだろ!?称号じゃなくて状態って何だよ?俺は人に嫌われる病気なのか?」
『童貞』 女の子の扱いが下手でモテない。
コメント、あ……うん……知ってたわ。元気だしなさい?ここは異世界だし変わった趣味の女の子がいるわよきっと!あっ、ちなみにあたしはあんたの事本気で無理よ?
「優しくするならせめて最後まで貫けよ!?何?悪いの童貞?別にしたくねーし?美人な冒険者とか可愛いい獣耳とかエロいサキュバスとなんかまったくしてみたくなんかねーからな!?」
ウインドウの文字に全力でつっこみ息を切らしてハーハーと息を荒くしている才斗を周りの女プレイヤー達が汚い者を見るような目で見て一歩距離をとった事に本人は気が付いていないだろう。出来れば気が付かない方が幸せだ。
「まぁとにかくこうやっていても仕方ない。なにか出来る事からコツコツと」
「ここにいる奴らよく聞け!オレ達は上位10%プレイヤーって事で更なるチートをもらった者だ!」
ガヤガヤとうるさかったギルドの中はどこからか聞こえた男の一言でシーンと静まり返る。
そしてその人混みの中を悠々と歩く3人の男達が視界に入る。
(なに?更なるチートだと?)
才斗と同じ様に考えたのか周りのギルドの中の冒険者も静かに男達の話を聞く。
「俺はガイルトン。このダブルで構成された3人PTのリーダーだ。なんだそれは?って顔だな、まぁ分からなくても無理はない。女神とやらが言ってたろ?上位プレイヤーには更なるチートを与えったって。それをオレ達はダブルと呼んでいる。言葉の感じで察する者もいると思うが俺達はチートを2つ持っている」
━━━━━━━ガヤガヤガヤガヤ━━━━━━━
ガイルトンと名乗った男は金色の髪を短く切り揃えた大柄な欧米人であり、その後ろの2人も恐らくは彼の知り合いなのであろう空気を放っていた。
ガイルトンの言った言葉の衝撃によりギルド内はガヤガヤとまた騒ぎになるが、彼が言葉を続けた事によりまた静かになる。
「今お前達は俺達をSSRの特性スキルを2つ持っていると思ったんだろうが違う。期待させて悪かったがそうではない」
「なんだよ愚かせなんよ!」
「そうだそうだ!びっくりさせんじゃねーよ」
突然の派手な登場からのチートが2つというとんでも発言でよほどの期待をしたいのであろうプレイヤー達が今度は裏切られた事を怒るように騒ぎ出す
「俺達は特性スキルではなく、『職業』を2つ持っている」
「は?」
再三にわたってシーンと静まり返ったギルドの中で才斗の間抜けな声が静かに響く。
(意味が分からん。職業が二つってどういう事だ?)
「またしても意味が分からないって顔だな。俺達もこれを女神に言われたときはビビったぜ。なんせ二つの職業のスキルを使える上に経験値も取得スキルポイントも2倍で上がる。ステータスでさえ2職分上がるんだもんな」
ほらよと言ってガイルトンがステータスウインドウを拡大し閲覧許可と言う画面をタップする。
すると10メートルは離れた才斗にも見える様な大きさまで拡大されたウインドウにガイルトンのステータスが表示された。
【名前】ガイルトン
【LV】1
【職業】ウォーリアー、ウィザード
【称号】上位プレイヤー (ダブルワーカー状態になる)
【状態】ダブルワーカー(獲得経験値、獲得スキルポイントが2倍となり、ステータスが2職の合算になる)
【能力】
・HP 40
・MP 70
・STR 4
・VIT 4
・DEX 3
・AGI 3
・INT 7
・LUK 80
【特性スキル】
炎王の加護 (炎属性値を500%上げる)
(なんだそりゃ……反則すぎだろ……)
「ん?ステータスはそんなでもないじゃないか。これってそんな強くないんじゃないのか?」
「言われてみれば確かに……2つの職のスキルが使えるのは確かに強いがそこまでじゃないような?」
才斗が心の中で舌打ちをして悪態をつく中、完全に静まりかえったプレイヤー達の1部からそんな声が上がる。
「バカかお前!2職分のステータスの合算って事は簡単に言えば2キャラ分の強さを足す様なものだ。レベルを上げれば上げるだけとんでもない事になるぞ!?それに2つの職のスキルを使えるってのはレア職業並みの、いや組み合わせによってはそれ以上の強さだ。しかも経験値も倍入ると来てる……俺達の最初からSSRスキル持ってるなんて可愛く思えるチートじゃないか!」
そのプレイヤーの一部から出た声を全否定する様に少しこのゲームに詳しいと思える男がそう言った。
(確かにそいつの言う通りだ……MBOの元になったMGOのレベルでのステータス上昇値はレベル1ごとに初期の数値分増えていく、つまりステータス差は広がり続けるって事だ。そして2つの職のスキルを使えるってのがやばすぎる。オレの前使ってたレア職業並みの強さを苦労せずに初期で持ってるのかよ……)
『ピンポンパンポーン!女神様であり運営様であるマリア様から緊急告知よ!』
ガイルトンの言葉の意味を理解し羨ましがる者や妬む者や媚を売る者等様々なプレイヤーでギルド内が先程よりもより一層騒がしくなっていると、突然空気を読まない女神兼運営様がガイルトンのステータスウインドウを塗り潰す大きさのウインドウで登場し、緊急の報告とは思えない明るい声と言葉によりまたもギルド内は静かにさせる。才斗に関しては今回何の逆恨みなんだと涙目で息を飲んでいる。
しかしマリアが言う緊急告知とは才斗の斜め上をいく物であった。
『えーっとまずは我先にとギルドに向かってお金を稼ごうとしている切り替えの早いプレイヤーは偉いわ!その見知らぬ異世界で生き残ろうと言う姿勢に人間の勤勉さとか必死さみたいのがヒシヒシと伝わってくるわね!だけど残念ながら世の中そんなメンタルの強い人達ばっかりではないわ……セントマリアではまだ今の状況を飲み込み切れていない可哀想な人もいるのよ。だからあたしは考えたわ!この女神の塔を最速で攻略したPTにはこの異世界に存在するアイテムをなんでも1つあげる事にしちゃう!なんでも切り裂く聖剣だろうが、死者を生き返らせる聖杯だろうが、王様のお城だろうがなんでもよ!さーらーにー、そのPTのリーダーにはMVPとして賞金100兆円をあげちゃうわ!これはマジよ!女神の名前と力に賭けて約束するわ!さぁ冒険者のみんな気合いを入れて最速攻略を目指しなさい!話は以上よ。うおっほん。あなた方に女神の祝福があらん事を』
プチューン。
『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』
女神の緊急告知が終わりウインドウが消えると、迷宮都市セントマリアは熱を孕んだ雄たけびが包まれた。
「さぁこっからはマジでいこうか」
そして水晶で全てを見ているマリアは、世界を舐めている様な目をした少年がその目を鋭利な刃物の様に細めたところを見てほほ笑むのだった