チートもらえなかったんだが・・・
「楠才斗は普通の高校3年生である」と言われてもすぐに首を縦に振れる人間はいない。
正確には楠才斗のハンドルネーム『プライド』を普通のプレイヤーか?と言う問いに変わり、賞金がかかったゲームを本気でやった事のあるプレイヤーという範囲に限定されるわけなのだが。
そして答えは全員が一斉に首を横に振りながらあいつは人間じゃないと言うだろう。
「失礼だな。確かにオレのPSは神の領域だが正真正銘人間だ」
そう才斗はただの人間なのだ。別に超能力が使えたり、本当は異世界人だとかそんなファンタジーな設定を持ち合わせていない普通の人間。
では何故そんな当たり前な事をいま確認する必要があるのか?と言うと。
「確かにただの人間だわ……特に変わった運命を背負っているタイプと言う訳ではないわね」
「だから何度もそう言ってるだろ、とりあえず早くチートスキルとかよこせ。どんくさい女神だな」
「なんですって!?ちょっとあんた!ただの人間のくせにこの美しい女神マリア様に対して失礼よ!」
白い謎空間で不機嫌な女神と揉めているからだ。
才斗はMBOをインストールした時に奇妙な白いに光包まれ、気がつくと何故かこの真っ白な空間にいて、何故か自分を女神マリアと呼ぶ不機嫌な美小女と対面していて、何故かこうやって物怖じせずに会話をしていると言う何故かを3回も使うくらい摩訶不思議な状況にいるのだ。
ちなみに物怖じしていない説明としてはそれが楠才斗の性格であり性分なのだろう。
(差し詰め今は、最初のチート能力を授かるイベントってところか。にしてもまじかよ……)
目の前の女神を自称している少女マリアはとても人間とは思えない美しい容姿をしており、黄金に輝く長い髪、開いた口が塞がらないくらい整った顔、完璧と言わざるを得ないプロポーション、そしてその全てに対し性欲の強めな才斗ですらも劣情ではなく神聖さを感じてしまう不思議なオーラを放っている。
白い謎空間に関してはそのままの意味である。ただ普通の真っ白な部屋と違う所は、辺り一面がこれまた神聖さを感じてしまう白い光で埋め尽くされ、そこかしこに黄金の光を放つ魔法陣が浮かんでいる事だろう。
そしてそんなマリアとこの白い謎空間から導かれる結論。
異世界に召喚される。
言葉で言うのは簡単だがそれを受け入れるのは難しい事だ。
才斗は廃ゲーマーでありながらアニメやラノベも嗜んでおり異世界召喚物も勿論大好物なヲタクでもある。しかしそんな非常識な事は常識の中で17年も生活してきた一般人には到底信じれる物ではない。
だがしかしこの白い空間と目の前の人間離れした美小女から伝わってくる神聖さが本能にこれは現実だと無理矢理納得させてしまう。
にわかには信じられないがそれができてしまうのが女神と言う存在なのだろう。
(異世界召喚系の主人公達の事こいつら順応早すぎだろとか思ってたけど、まさか俺もそうなっちまうとは……つーことは何だ?俺はこいつとラブコメ的な展開でもするのか?)
「確かに人間と女神が恋仲になったりする話はよく聞くけどあんたは生理的に無理だわ」
「生理的にって言葉を簡単に使う奴は高確率で地雷女らしいぞ?ソースはオレ」
「あんたの偏見じゃないの!ていうかそれを言うならあんたなんて本当の性格地雷じゃない!」
才斗が思考を読まれた事に少し眉を動かし、そういえばお約束だったなと軽く自己完結させた後、もしこのままエロい事を想像したらこの生意気で煩い女神は顔を真っ赤に染めるのか?それはそれで不覚にも萌えるな~という思考をダダ漏らしていると、マリアは少し頬を染めオッホンと咳払いをして事務的にしゃべりだす。
「それでは楠才斗様。あなたはこれからMBOを完全再現して造られた異世界の冒険者となり女神の塔を攻略してもらいます。何かご質問はございますか?」
「ざっくり過ぎる説明だな……」
「しょうがないじゃない!あんたみたいな特に説明が必要なさそうなタイプに細かい事を言っても時間の無駄でしょ?あれよあれよ!剣と魔法の世界って奴ね!後死んだらマジで死ぬわ!他に聞きたい事はあるかしら!?規則だから何でも聞いていいわよ!」
咳払いをする必要がどこにあったのか?と言う疑問がまず先に浮かんだが、一応これが女神の仕事というかお約束なのだろう。というより興味がない。
それよりも気になる事があるのだ。
「質問というか注文なんだが貰うであろうチート能力は魔法系にしてくれないか?MGOの時はこれでも最強の魔法使いだったんだ。まぁそれが無理って言うなら俺は何をやらしても最強の神PSの持ち主だから他の職系統でもかまわないぞ?あ~でも剣士はやめてくれよ?なんか定番というかありたきたりで俺は好きじゃないんだ。ちゃちゃっと頼むわ。ほれはよはよ~」
「こんな上からの注文をされたのは初めてだわ!ていうか女神に注文ってあんた何様なわけ!?」
「神PSを持つ世界最強のゲーマー、プライド様だけど?」
「あたしは女神様なんどすけど!?何?これが普通なの!?あたしが変なの!?」
マリア様は才斗の自然すぎる上からの態度に自分の常識を疑ってしまわれている。本当女神なのに。
「何でもいいけど早くしようぜ。俺はキャラメイクにあんまり時間をかけないタイプなんだ。それよりチートな力でサクサク無双したいんでな。あ~でもやっぱりもう少しイケメンにしてくれるとたすか」
「チートなんてあげないわよ?」
「は?」
「悪い聞き間違えかな?もう1回頼む」
「チートなんてあげないって言ったのよ」
「はああああああああああああああああああ???」
天才(自称)な才斗でもチートをあげない言われた事を理解するのに時間がかかったらしく、理解した後クール(自称)な才斗は思わず声を大にして驚愕し奇声をあげる。
「えっ?ちょ、何?マジで言ってる?マジで言ってるの?おま、お前ただの人間をチート無しで異世界に放り込むとか何考えてんの?」
「失礼ね。ちゃんとあたしが作った女神システムで一般人だった人達もスキルとか魔法が使えるし、可哀想だからお詫び補填として異世界の中ではチート扱いな能力が詰まったSSR確定スキルガチャだって全てのプレイヤーにさせてあげてるわよ」
「なっ、なんだ~。ガチャねガチャ。びっくりさせんなよ。マジでなんもないのかと思っちまったわ」
(チートな能力をガチャでゲットとかどんな異世界だよ?あぁでもMGOでもこんな使用だったけな。どんなチートが来るかは運次第か……まぁでもわざわざこんな場所に連れて来られるくらいだ、期待してもいいだろ)
「でもあんたにはあげないわ」
「ひょ?」
今度は時間すら止まったかのように完全に思考がとまる才斗。
「しっつこいわね!あんたには、な・に・も・あ・げ・な・い!これは決定事項よ!」
「何でだ!?おかしいだろ?不公平だとは思わないのか?お前女神なんだろ?許されないだろこんな横暴!」
「馬鹿ね~女神だから許されるのよ。それに不公平とかではないわ。何故なら」
ここぞとばかりに反論する才斗にマリアはその美しすぎる顔で艶っぽく笑うと。
「神PS様には必要ないですよねwww」
すごくムカつく満面の笑顔でそういい放った。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?たしかに俺は神PSだがお前がこの世界に召喚したであろうプレイヤーと変わらない普通の人間だぞ?被害者なんだぞ?それをおま、お前」
「だって~神PSって事はゲームが神に匹敵するくらいうまいのよね?つまりはチートじゃない?流石の女神な私でもチートが2つは欲張りだと思うのよ~」
「そのムカつく笑顔をやめろおおお!おい女神!いや女神様!オレがゲーム以外に取り柄の無いひょろひょろの現代もやしっ子分かってるんですか?体育の成績を先生の優しさと哀れみで1をま逃れてきただけの引き籠りって分かってて言ってるんですか?分かって言ってんだろこの糞女神があああああああ!」
「あっはははははは!ちょーうけるんだけど!爆笑なんだけど!あっはははははははは」
白々しい事を笑いながら語るマリアは、最初は藁にも縋る気持ちで下手に出ようとしたが、言っている途中で怒りが込み上げ怒鳴る才斗見て、腹を抱えて笑い転げている。
すると突然白い空間に浮かんでいた黄金の魔法陣が強く輝き始めると。
シュワシュワシュワシュワ。
(なんだ!?急に魔法陣が光だして?あれ?なんかオレ体が透けてね!?)
「あらもう時間みたいね。久々にこんな笑ったわ。せいぜい頑張りなさいな」
「待て待てええええ!お前本気でこのまま異世界に飛ばすつもりか!?こんな事を言うためにわざわざ読んだって言うのか?てかこれ必要あったか?」
「おっといけない。とても大事な事を言い忘れるところだったわ!私ってばうっかりさん」
もう半分以上体が透けているところを見ると才斗に残された時間はあと僅かなのだろう。
そんな状況でうっかりを発動させる女神に殺意が沸くが、今はそれよりも淡い期待の方が大きいらしく目を輝かせる才斗。
「あんたのせいで、あたしが人間界にこっそりと降り立って楽しんでいたMGOは死んだわ!これは天罰よ!女神の私の楽しみを奪った天罰!あんたはその神PSとやらで精々細々と生きるがいいわ!あっははは!」
「私怨じゃねぇかあああああああああああああああああああああああ!」
バチバチピチューン。
「あっいっけない。願わくばあなたに祝福があらん事を・・・・・っとこれしないと上がうるさいのよね~もう聞こえてないか。まぁいいわよね。さぁゲームを始めようかしら!」
才斗の叫びが反響する白い空間で女神様は、美しい異世界の風景が映し出されている水晶を何もない空間から取り出し、最高の笑顔でそう言った。
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