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少女達の本気

 女。


 それはなんだろう?

 別に哲学的な事を聞いているわけでも生物学的な事を聞いているわけでもない。


 女とは『未知』。

 それが楠才斗の答えだ。

 才斗にとって日頃から関わって来た女性とは優しい姉と、優秀な家政婦だけだった。

 その2人の事はとても好きな才斗だが、残念ながら一般的な女性とは言い難い。


 姉は確かに優しかったが才斗のゲームの師匠で才斗よりネジが外れていたし、家政婦は優秀だったが女性というより『殺し屋』と言った方がしっくりくる人だった。

 なので詳しく今語る必要はないだろう。語るとしたらそれは別の物語だ。


 他に思い当たるのと言えば七星の大罪セブンスギルティアのメンバーだろうか?

 確かに性別は女だし、容姿はかなりいいと思う。

 だが『アレ』を女にカウントしていない。してはいけない。

 才斗はそう思っている。


 故に、数少ない生身の女性のサンプルが全滅している才斗はアニメやラノベで女性を研究する事にした。

 否それしかできなかった。


 才斗は今まで様々な作品を見てきたが大体の作品では男は女に振り回されていた。


 世界一の大泥棒の3世様は必ず女に騙されるし、国民的な未来からきた猫型超性能ロボットアニメの主人公はチートアイテムを使って女を口説こうとしているし、よくあるライトノベルやアニメでは最強な主人公でもラッキースケベをすると自分より戦闘能力が低い女性キャラにぶっ飛ばされているのがお約束だ。

 神話の神ですらも女の事でグダグダやっている。


 何故そうなるのか才斗には分からなかった。

 何で他人に自分が振り回されなければならないのか?

 アホか?アホなのか?

 そう思っていた時期が才斗にもあった。



「一生のお願いです!私達の事を助けてください!」


(こっ、断りずれえええええええええええええ!)


 才斗は歌羽に手を握られながら目を潤ませ一生のお願いを使われていた。

 大体一生のお願いを使う奴は信用できない説があるのだが、目の前の可愛すぎる美少女は本当の意味で一生のお願いをしている様に見える。


(あぁ~これか~これね。これは中々の無理ゲーだな。だって可愛いもん。巨乳だもん。なんかいい子っぽいもん。手とかすっごい柔らかいんですけど?これ絶対手汗かいてるよどうしよ。こういう時どうすればいいんだ?くっそ!なんで選択肢でないんだよ!)


 オークを撃破した後、念話でマリアに『やりすぎ。この女の子達から漏れたら天国』とそれだけ言われて切られた才斗は顔を青くして委縮する歌羽達に嘘の説明を開始。

 全てこの杖の力に秘められた力だと適当な事を得意の中二理論で語ると、灯は終始眉間にシワを寄せていたが、歌羽はそれをすっかり信じてウンウンと頷き何とか事無きを得た。


 そして規格外のモンスターにPTを壊滅させられ殺されかけた事でとても怖い思いをした歌羽は、今の自分と親友の置かれた状況を考え、そのモンスターを簡単に倒してしまった才斗に女神の塔を抜けるまでの間守ってほしいと、それはもう心の底から誠心誠意頼んでいるというわけだ。


 才斗にしてみれば自分を散々全プレイヤーの前で煽ると言う挑戦状ラブレターをグリード達から貰ってしまったので彼女達の待つ9階層へ最速で向かってその鼻を明かしてやりたい。

 だが生まれて初めて出会った『超絶美少女達まともなメインヒロイン』のお願いをスマートに断る技術を持ち合わせていない為困っていると言うのが現状である。


 そして才斗は。


「あ、あの、私達の話聞いてますか?もしもし?」

「気持ちは嬉しいんだけど友達から始めないか?」

「えっ!?本当に聞いてた!?」

「オレ引き籠りだから家デートしか無理だけどそれでもいいの?」

「完全に聞いてないよね!?そしてOKするは女の子はいないと思うよ!?」

「それが無理なら最悪体だけのただれた関係でも構わないんだが……」

「最低だよ!そんな事言う人の家に行く子はいないよ!」

「えっ?て事はここで?それははちょっと……下地面だし」

「もうやだこの人おおおおおおお!」


 取り合えずセクハラをした。


 こういう話に耐性がそこまで強くないと思しき歌羽は、セクハラ要素を多分に込めたボケについつい素の口調でツッコミ続け、最後には半泣きで叫ぶと苛められて泣きつく子供の如く灯に泣きつく。


「えっと、あたしの親友をあまり苛めないで欲しいのだけれど・・・」

「苛め?とんでもない!純粋にセクハラを楽しんでいただけだ!」

「なお悪いわよ!」


 歌羽は抱きついたまま灯の陰に隠れてしまい、しょうがないと感じた灯は今まで閉ざしていた口をひらく。


「はぁ、まぁいいわ。あたしは秋峰灯あきみねあかり。こっちの今あなたにセクハラされたのは小春乃歌羽こはるのうたはよ。まずは助けてくれて本当にありがとう」


 灯は嘆息しながら自分達の名前だけを教えると、深く頭を下げてお礼の言葉を述べた。

 才斗としては真面目なやり取りはあまり望んでいないのだが、歌羽よりしっかりしていそうな灯にまでボケ倒すと話が前に進まない為、しっかり話す事にする。


「オレはプラ、楠才斗。才斗でいい。」

「了解、楠君ね。それで楠君、君なら何となく状況が分かると思うけど」

「えっ、あ、うん、まぁ何となく察してはいるよ」


 名前でいいと言ったが、あっさり苗字呼びをされて少しショックを受けた才斗は、少女達の状況と今塔の中で起きている異常事態を恐らく世界で一番理解しているだろう。


「なら話は早いわね、出来れば街まで護衛をして欲しいのよ」

「悪いがそれは出来ない」

「っ!見たところソロだしきっとレア職業を狙っているのはこっも何となく分かるわよ?だからPTじゃなくて『護衛』を頼みたいの。お金も払うし、何なら草原ステージまでで構わないからお願いよ」


 灯の言っている『護衛』とはPTを組んでいない者同士が一緒に行動する行為の事だ。

 MGOでは経験値とバベルとドロップアイテムは倒したPTで当分になるのが原則である。

 しかし護衛はPTを組んでいない為何も得られない。

 一見意味のない事だが実は違う。


 プレイヤーキルが容認されているMGOでは街以外での他プレイヤーへのスキルの行使が可能であり、そしてそれは攻撃スキルだけではなく回復ヒール強化バフ等の支援スキルも有効なのだ。

 その為レア職業を狙うプレイヤーは金を払い支援職に『護衛』を頼むのが常識になっている。

 しかし今回の場合はレア職業を狙った『護衛』ではなく、ただ単純に才斗の強さを見込んだ上での言葉通りの意味の護衛だろう。


「だが断る」


「なっ!?何で?金額の事?バベルなら1000万でも2000万でも言い値で払うわ。確かに今は元合わせがないけれどあたしは『天運』持ちだからこの先時間を貰えれば必ず足りない分は払えるし。口約束が不安なら街に帰ってそのまま商人に『契約』を使ってもらってもいい。それにもし帰りにあたしが死んだら約束した『覇黒のローブ』も渡せないわよ?だからお願い!楠君しか頼る人がいないの!」


 普通のレア職業へ転職する為の護衛の相場は高くて10万バベルが良い所なのだが、灯はその100倍以上の額を提示してきている。

 そんな途方もない金額でも『天運』があり二重職業者ダブルならば必ず返せると思っているのだろう。

 正直才斗にしてみればかなり美味しい話だし、自分の欲しいと思っていたアイテムを貰えなくなるのはかなり痛い話だ。


「残念だが何億積まれても、チートアイテムを手に入れられなくても、それこそ君達が死んでしまうのだとしても、オレはここで秋峰さん達の護衛をしてあげられない。こればっかりは絶対に。いや、ちょ、そんな目をされても無理だから!無理だからその目をやめてくれええ!」


 それでも才斗は断る。

 お金でもアイテムでも美少女の歌羽の泣きそうな視線でも揺るがない。


「えっ!?なっ、何で?悪い話じゃないでしょ?あなたも『強欲な宝箱グリードボックス』の上級メンバーを狙ってるの?確かにそれなら引き返してる時間はないでしょうけどそれにしても」

「違う」

「じゃ、じゃあどうしてよ!?」


 理由は簡単、プライドの問題である。

 確かに破格の金も強力なチートアイテムはこれからの塔攻略の為に間違いなく役に立つだろう。

 しかしそれをするとどうしてもグリードのまつ9層の最奥までたどり着く時間が延びる。

 その伸びた時間のせいでグリード達に馬鹿にされるのを才斗は我慢出来ない。


「それを今秋峰さん達に喋っている時間はない。交渉は決裂だな。それに何とかなる可能性もかなり高いぞ?ここに来る途中でエンカウントしたダークゴブリンは目に居ついた奴全部倒したし、よしんばいたとしてもブリンク使って全力で逃げれば逃げ切れるだろ。まぁもしいたらそれはゲームオーバーだし、下の階層のモンスターにやられないとも言えないけど、その時は自分の低PSを呪って死ぬしかないな。下手糞が死ぬのはゲームの摂理。まさに『下手肉上手食』それじゃがんば!」


 そんな憎まれ口を叩いて足早に去ろうとする才斗。


「……最強のバグ魔法使いプライド」

「!?」


 しかしその一言により心臓を鷲掴みにされ歩みを止める。


「あらどうしたの?そんな青い顔して。あたしは只最強のゲーマーの名前を呟いただけよ?」

「なっ、何でもない!そうだな最強だよな彼は!じゃあそういうことで!」


 その才斗の反応に何かを見て目を輝かせた灯は一気に畳掛たたみかけた。


「そうよね最強よね彼。なんたってすごい『バグ』を使いこなしちゃうんだもんね。そう言えばさっきの楠君の魔法すごいかったわよね、まるで『誰かさん』がやってた『バグ』みたいだったわ~。あっごめんごめん、杖の力だったかしら?ごめんね、楠君が『バグ』を使ったみたいな言い方をしてしまったわ。あっでもこんな事分かったら塔攻略に役立つわね。もし無事に帰れたら『プレイヤー全員』に教えなきゃね、レストレーションスタッフで『バグ』みたいな事が出来るって。きっと『大騒ぎ』になるわね。みんなそのやり方を聞きに来るでしょうね。でもそれで出来なかったら『バグ』って事になるわね。あっでも『バグ』じゃないから何の問題もないわよね。だってそんな『バグ』を使えるのはこんな所で『か弱い女の子を見捨てる』様な性格をしてる『誰かさん』しかいないもの。ん?そういえば楠って凄い長い髪してるわね?なんか顔もどこかで見覚えが」


「オレで良かったら喜んで護衛をさして貰うよ!」


 完敗だった。


「あらそう?悪いわね楠君」

「ん?なんかよく分からないけど本当にいいの?楠君」

「勿論よ楠君『は』いい人だもの。ね?プラ、楠君?」

「ははは当たり前さ。あんなクズと一緒にしないでくれよ」

「やったああ!楠君ありがとう!」

「当然だよ!はははは……はは……」


(くっそおおお!何なんだこの貧乳ツンデレ風美少女は!?滅茶滅茶的確に嫌らしくオレの痛い所を突いてきやがる!勘弁してくれマジ!選択肢間違えたのか?)


 バグ魔法の存在を隠す為言っていた嘘は灯には通用しなかったらしく、それどころか才斗の反応と容姿から詳しくは分からないがバラされたら困ると察しられ脅迫されてしまう。

 そんな2人の心理戦を全く分からない歌羽はパァと顔を明るくし才斗に心の底からの感謝をし、引きつっていた彼の顔を更に引きつらせるのだが、それにも気が付いていない。


「だが条件が2つある!1つはさっき起きた事を誰にも話さない事。そしてもう1つはこのまま9階層の最奥まで一緒に来てもらう。勿論お前達の命は絶対に保障する!これ以上は負けられない」


「えっ!?進むの?それは流石に……」

「その条件でいいわ。ふふっ契約成立ね」

「灯ちゃん!?」

「大丈夫よ歌羽。楠君のそばがこの世界で一番安全な場所よ」

「そっ、そうなの楠君?」

「勿論だ。例えドラゴンが来ても必ず守る」


 そんな自信過剰を遥かに超えた傲慢な返答に、歌羽は見る者全てを癒すような笑顔をし、灯はそんな2人のやり取りを見て悪戯っ子みたいな笑顔をする。


(……何で異世界は俺にマゾゲーを強要するんだ)


「これからよろしくね!楠君!」

「ふふっちゃんと守って頂戴ね?楠君」


 一人はまるで天使の様に、一人はまるで小悪魔の様に才斗に信頼の言葉を送る。

 するとそんな才斗の内心の憂鬱は霧散した。


「あぁ任せとけ。楽勝だ。」


 女とは未知。

 だが分かった事がある。


「あいつらもきっと満更まんざらでもなかったんだな」


 女に振り回される主人公のを馬鹿だと言っていた少年は、今女に振り回されながらそんな事を呟いた。



次回、強敵現る

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