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チートPSの本気

 楠才斗はクズである。


 それは本人も自覚している。

 口は悪く、思考や言動には常識が外れている点が多々見受けられるし、彼の今までやってきたゲームでの悪行伝説を数えれば両手では足りず、小さい事も含めるとそれは1000や2000ではきかないだろう。


 だが同時にそんなにか?と思う人もいるだろう。

 確かに誤解されやすい性格をしているが基本的には悪い人間ではなく、言動も広い心の持ち主ならば気さくで面白い奴だと感じる人も中にはいるにはいる。

 それに困っている女の子を放っておけず絶望的と分かっていても助けに行ってしまうと言った主人公精神も持ち合わせている。


 では何故クズなのか?


 それは自分が一番大事なところだ。


 当たり前だと言う人もいるだろうが、実はそんなに当たり前ではない。

 自分が一番大事と言う人も『目の前で刃物を持った男が子供を殺そうとしている』と言った現場をみれば、例え颯爽と助けに行けなくて警察を呼んだり、よしんば面倒な事に関わりたくないと思ってその場を走り去ったしてもその場を去る前に多少の『葛藤』があるだろう。


 しかし才斗にはそれがない。


 彼が行うのは恐ろしく早い『シミュレーション』であり、はじき出した結果を何の躊躇いも後悔も無くそれを実行する。

 勿論彼もそんな自分を顧みた時に自分に失望する。だが後悔はしない。


 リーゼ達のPTを助けた時は彼の恐ろしく早い『シミュレーション』では、128手で自分が詰むと分かっていたが、同時にバグ魔法であるフラッシュキャストやマルチスペルを完成させればいけるとも思ったから分が悪くても助けた。


 では今回は?



「さぁ豚共、ゲームを始めようぜ」



 歌羽達を両腕に抱えそんな言葉を黒い巨大なオークに言い放った才斗。

 彼の腕に抱かれた少女達は何が起きたのか分からないと言った様子だが、その顔には安堵の色を浮かべている。

 危機一髪の救出。

 まさにヒーローの様だ。


 しかし実際は違う。


 彼はゲーマーだ。

 ヒーローではない。

 才斗の持論ではヒーローとは誰かの為に自分を危険にさらす・・・・・・・・・人ではなく、誰かの為に自分を投げ捨てれる・・・・・・・・・人の事を指す。


 まさに今しがた自分の命を投げ打ってまで少女達を助けたトリスの様な人だ。


 実は才斗も同じ事をしようと思えば出来た。

 それも才斗の場合はトリスも自分ですらも命を落とさずそれが出来た。

 しかしそれを先程のタイミングですると、オークのこん棒が才斗を僅かに掠り少しダメージを受ける事になった。


 それを瞬時に理解した才斗は、レア職業であるエレメンタリストの転職条件である『一度もダメージを食らわずPTを組まないで特定のスキルを習得してレベル20になる』と言う条件を満たせなくなると考え、トリスを見捨てた。


 多少心が痛むがその行動に一欠けらの後悔もない。


 もしそんな事になれば只でさえ塔の攻略に出遅れている才斗の勝率は0になると思ったからだ。

 見ず知らずの人の命だが人間の命を自分の欲の為に見捨てる事に何の躊躇も後悔もない。

 それが楠才斗というヒーローにはなれないゲーマーであり、自分でクズだと自覚のある理由だ。


 ゆえに彼は。


「なぁ取引をしないか?」

「「え?」」


「あの死んだお仲間の来ていたローブ『覇黒のローブ』だろ?それを俺にくれないか?そうすればあんた等2人を助けてやる。死んだ人間のアイテムは基本的にすぐ所有権を失うがPTを組んでる場合その所有権はPTリーダーに移る。もう一人のお仲間らしき奴はオークがあんた等を狙った瞬間に凄いスピードで逃げて行ったし、今あれはあんた等どっちかの物って事になってるんだよ」


 ヒーローの犠牲の上に成り立った少女達にヒーローが語る言葉だけは使わない。

 それをするのはゲーマーとしての自分の矜持が許さない。

 自分に出来ない事をしたヒーローの続きをする事は出来ない。


 ここからはゲーマーの時間だ。


「どうだ?」

「えっ、えっと、その……」

「分かりました。あなたに全部任せます」

「灯ちゃん!?」

「話が早くて助かる。んじゃ契約成立だな」


 そう言うと才斗は少女達を抱えたまま2回連続・・・・でブリンクし、オーク達から離れたところに抱えていた少女達をゆっくり降ろす。

 少女達はいきなり凄い距離を瞬間移動した事にその綺麗な目を丸くした。

 オークもそれは同じらしく、まさに殴りかかろうとした瞬間に目標が消えた事で混乱している。


「よし!じゃあそこでじっとしててくれ。1歩でも動かれると計算が狂ってあんた達死ぬかもしれないから、石になったつもりで固まっててくれ」

「「はいっ!」」


 才斗は邪魔になるから移動するなと言ったつもりだったのだが、少女達は余程怖い思いをしたからなのか本当にそのままの姿勢で固まった。

 そんな少女達を可笑しく思ったが、才斗の望む表情と態度をしていなかった。

 顔にはまだ色濃く恐怖が浮かび、態度は助けてもらったヒーローに対してするような畏まった様に感じた。


 それが才斗は気に入らない。


「ぷっ……悪い冗談だ。歩かれたりスキルを使わなきゃ何しててもいいよ。座ってお喋りでもしててくれ。そうだなお題は『この謎のイケメンのハーレムメンバーになるなら何要員になるか?』とかでどうだ?何なら正妻はどうする的な話し合いでもいいぞ?」


「えっ?ハーレム?正妻?……どういう意味ですか?」

「しっ!歌羽きっとこの人ちょっとヤバい人なのよ黙って座っておきましょ」

「え?うっ、うん。そうだね。なんかヤバそうだもんね」

「お前等結構余裕あるのな!?」


 才斗のボケは少々冷たい視線と雑なツッコミで処理されてしまったが、これでいいと才斗は思う。

 きっとそれは本心から楽しんで言った言葉ではないし、空元気の様な物だろう。

 いきなり彼女達を心から笑顔にできる人をヒーローと言い、自分はゲーマーなのだから。


(実はちょっと、いきなり頬を赤く染めるチョロいラブコメをすこし期待したんだがな)


「それはお前等を屠った後にたっぷりしようか!」

「「グギャアアアビギャアアアア!」」


 自分達より完全に格下のステータスを持つ人間にそんな事を言われた事を察したのか、そんな人間が1人で向かってくる事に腹を立てたのか分からないが、オーク達は激昂しその必殺のこん棒を振りかぶりながら才斗に突撃してくる。


 そして才斗はニヤリと笑うと、ポケットに手を突っ込みながら歩き始める。


ズバアアアアアアアン!


 オークがそのこん棒を振り下ろそうとした瞬間、才斗の体が一瞬金色に光ると6色の砲弾・・・・・がオークの醜悪な顔面に炸裂した。


一斉砲撃バーストバレットってとこか?」


 才斗はここに来るまでにそのレベルを10に上げており、ウィザードの習得出来る10個のスキルを全てを取得している。

 勿論全てレベルはMAXの5レベルだ。


 才斗の今やった一斉砲撃バーストバレットは、マジックバレットとその他の火水土風闇の各属性バレットをレベル8で取得したトグル式自己強化スキルである『マジカルブースト』で一瞬だけ強化して同時に撃つと言うバグ魔法。


 トグル式とはオンオフの出来るスキルと言う意味であり、マジカルブーストはオンの時は攻撃力を倍にする代わりに大量のMPが1秒ずつ失われていくスキルである。


 やっている事はマルチスペルの応用で、7個のスキルを同時に使うというバグ技と、撃った瞬間にマジカルブーストをオフにする事によりMP消費0で単純に威力を倍にするバグ技を0,01秒以下の時間で使うフラッシュキャストで融合したバグ魔法の極地とも言える技である。

 その威力は絶大でありステータスが何十倍も離れているのに一手でHPゲージを1割も削ってしまう。

 しかもそれを完璧なタイミングでクリティカルさせる事で行動中止キャンセルをさせるおまけつきで。


「グギャアアギイイイイイイイ!」


 しかし魔法を受けていない方のオークは攻撃を中断されずその必殺のこん棒を振り切る。

 勿論そんな攻撃が我らが神PSに当たる筈はなく只の素振りになってしまう。

 昔の才斗ならここから10秒程のリキャストタイムが回復するまで相手の行動を誘導して攻撃、という手順を繰り返すのだが今の才斗は違う。


 シュン!ズバアアアアアアアン!


「ブギャアアアアアアア!」

完全装填フルリロード


 才斗は瞬間移動すると10秒待たないと撃つことが出来ない筈の一斉砲撃バーストバレットをもう片方のオークに叩き込む。


 完全装填フルリロード

 既存のウィザードスキルをフラッシュキャストの超精密連続発動で起きるバグ魔法。

 レベル7で覚えた『クイックキャスト』と言う詠唱時間とリキャストタイムを半分にするという強化バフスキルを、0,01秒以下のタイミングでレベル6時に覚えた『ブリンク』を使ってキャンセルし、更に強化バフ効果を残した状態・・・・・でもう1度0,01秒以下のタイミングでクイックキャストを使用しリキャストタイムを最初の・・・半分にする事で事実上、リキャストタイムを無効化するRPGの根幹を揺るがす技である。


 勿論そんな技はRPGを、只コマンドを入力すれば幾らでも連続で〇〇拳が使える格闘ゲームにしてしまうためあり得ないのだが、そのあり得ない事よりもっとあり得ないフラッシュキャストの超精密連続発動をしている才斗にしてみれば当然出来てしまう。


 その後才斗は何事もなかったかの様にオークの周りを歩き行動を誘導し始める。

 そして10秒間怒り狂ったオークの攻撃をこれまた何事もなかったかの様に避けまくると、新しいバグ魔法バーストバレットとフルリロードを使いそれぞれのオークにぶち込む。


 遠くで見ていた歌羽と灯は目の前で起こったあり得ない事に唖然としていた。

 当たり前だ。

 普通RPGは一度にスキルを2つ以上使用できないし、スキルを使うとそのスキルを次に使えるまで一定の時間がかかるのが共通ルールのだから。

 しかし才斗はその当然のルールを破っている。


「にしてもあの女子共顔は半端なく可愛いのに使えないな。こういう時戦ってないキャラは唖然としながらも解説に回るのがお約束だろうに・・・」


 勿論「すごい……無茶苦茶だよ……」とか「何なのあれ?あり得ない……」とかの感想を呟いているのだが、そんな囁きは耳元で言われなければ聞こえないし、そんな事を囁くくらいなら才斗は別の言葉を囁いてほしい事だろう。


「後はここからどれくらい効率化出来るかだな。ん~」

「「ビギィグギャアアアアア!」」


 異常。

 正しく異常である。

 女神のシステムを超えるバグ技を使うだけではなく、更にその技を応用し、自分の何十倍と言うステータス差のあるモンスターを完封しておきながら更にその上を目指す。


 しかしこれが楠才斗。

 これが世界最強の7人のゲーマー集団の傲慢プライドの罪状を持つ悪魔。

 その傲慢さは例え女神から人外認定をされようが満足しない。

 一見すると強欲の方が合っている気がするがそうではない。

 彼はゲームならば自分の思った事は必ず出来ると本気で考えている。

 それが異世界だろうが女神のシステムだろうが関係ない。

 むしろそんな異常な『ゲーム』だからこそ自分の技は進化し続けれる。

 それが出来なければ他の悪魔に勝てないと知っているから。


「悪いがこっからは超特急でいくぜ」


 遥か上の階層で出現する巨大なオークの変異種だろうが、もはや才斗にとっては脅威レベル0の道端に落ちている1円玉の如き存在なのだ。

 オーク達は自分より遥かに格下だと思っていた相手に遊ばれている事に怒りを超えた恐怖を覚え、もう確実に当たらないであろうこん棒を振るう。

 しかし奇跡が起きそれをなんとクリティカルで当たった。

 当たってしまった。


 お互いの顔面に。


連鎖魔撃チェインマジック


 オークのHPは一気に7割減り、その醜い顔を欠損させた。


 才斗は別に大した事はしていない。

 ただ同士討ちをさせただけだ。

 肩関節に的確なタイミングと角度で魔法を撃ち攻撃の軌道をずらした・・・・・・・・・・


「あんま『魅せ技』には興味なかったが、出来るもんだな?どう思う豚共よ?」


 自らの最大のバグ魔法であるバーストバレット2連打を、巧みに操ったオーク達の動きだしの瞬間に合わせて攻撃の支点に撃ち込む事により、その攻撃をずらし、結果同士討ちをさせる。


「ギギィィ・・・・・」

「どうした?モンスターも異世界に来ると恐怖とか感じるのか?」


 正しくその通りであった。

 2体のオーク達はその存在をスロウスによって作られた。

 プレイヤーを蹂躙する狂戦士の駒の役割ロールをする駒として。

 しかし主から与えられたその狂戦士足り得る戦意を喪失させている。

 正しくはさせられた・・・・・

 だが攻撃しなくてはならない。

 もしそれが当たらなくても、お互いの頭をかち割り死ぬ事になっても。

 それが自分達モンスターの宿命であり。

 創造主の望みであり。


 何より目の前の悪魔のシナリオなのだから。


「どうした?撃って来いよ。違うな、撃て」


 静かに才斗がそう告げると、オーク達は自殺と分かっていても目の前の少年にそのこん棒を振り下ろす。

 そして合計12発のシステムを捻じ曲げた6色の砲弾が視認不可能な光の発生速度で放たれ自分達の肩関節を穿つ。


 そして。


 グチャ!


 お互いのこん棒でお互いを光の残滓に変えた。


「ふ~終わった終わった~。やっぱ俺って天才だな」

「「………………」」

「ん?何でそんな震えて、ちょっ何で離れていくんだ?おいって、おいいい!」

「「ひっ!?」」

「えっ!?ちょ!?驚きすぎじゃね?そんなリアクションされると流石に傷つ」

「悪魔……いえ……魔王だわ……あなたは魔王よ!」

「怖いよおおお灯ちゃあああああん!」


「何でだああああああああ!?」


 楠才斗はクズである。

 しかしゲーマーでもある。

 だが女神に言わせると人外らしい。

 そしてその女神の使徒にもなった。


『そして助けた少女達からは魔王扱いをされてしまったのよ!』

『お前は黙れえええええええ!』



ケータイで自分の作品を見た時に結構読みにくく、目が疲れちゃうかな?と感じたのですこし間をあける事にしました。

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