強欲と怠惰の暗躍
最強の7人のゲーマー集団の強欲の罪の名をもつグリード。
FPSの神と言われたゲーマーの名前だ。
最強のゲーマー集団の中でも更に抜きに出たFPSの腕前は、常人からみるとまさに神技であり、FPSの神と称されている。
だがそんなFPSの神と呼ばれているグリードも、当たり前だが現実では才斗と同じくただの人間だ。
金樹実李。それがグリードのもう一つの名前。
亜麻色の髪を女の子にしては短くカットし、関西弁を喋るいかにも活発な子供に見える女の子。
実は才斗と同じ17才の高校3年生なのだが、身長が139センチという超ミニマムサイズで、顔もかなりの童顔である事から高確率で小学生に見間違われてしまう可哀想な少女なのだ。
「ひょ~。どえらい数の加入申請やな。こないに来るとは思わんかったわ。こりゃ軽く目通すだけで朝になってしまいそうやね。繁盛繁盛。ていうかちょっとくらい手伝ってくれへん?」
「めんどくさい」
「そう言わんと頼むわ~。このままやとうちが過労死してしまうかもしれんやろ?」
実李は現在女神の塔の洞窟ステージである9階層の最奥にいた。
少女は自分で言った言葉とは裏腹に現在とても機嫌がよく、自分の短い亜麻色のサラサラとした髪に手ぐしをしながら、平らな石の上に寝転んで何もしないつもりな腰まで伸ばした艶のある金髪が特徴の怠惰なロリ少女とそんな言葉を交わしている。
そこにはついさっき立ち上げたばかりなのにもう団員数が1万人を超えているクラン『強欲な宝箱』の名前があり、実李はクランマスターとサブマスターにしか閲覧する権限のない『申請リスト』の項目に記載された、申請をしてきたプレイヤーの外見やステータスと言った異世界での個人情報を流し読みしながら入団の合否を決めていた
30体を超えるミノタウロスに囲まれながら。
「何々~?おっこの子『天運』持っとるやん上級メンバーで採用。レベル9のウィザード?しょっぼ!なめとんのか?不採用。レベル14の二重職業者か採用っと。ん?鍛冶師?職人クラスやん、ほ~所持金15万バベルかええやん採用。ちょ~スロウス~ほんま手伝ってくれん?」
「アンは今休憩中」
「おのれはこっち来てから一回も戦ってへんやないか!」
ミノタウロス。9階層に生息する牛鬼のモンスター。
牛と鬼を混ぜた姿をしており、その体は隆起した硬い筋肉に包まれている。その硬い体には物理攻撃は効きにくく、そして知能が低いが代わりにその力任せな一撃はとても速く重い。
リメイクされ女神のシステムの恩恵を受けたミノタウロスはその攻撃力を更に何倍にもされておりまともに受ければ並みのタンクくらいなら木端微塵になってしまうだろう。しかも夜時間と言う事で凶暴性も増しておりその攻撃本能を高めている様だ。
「「「ヴォオオオオオ!」」」
しかし2人の少女達はと言うとそんな化け物に囲まれていると言うのに焦る素振りを一切見せない。それどころか部屋の中でくつろぎながら仲良くお喋りしているといった態度を見せている。
そんな少女達にミノタウロスも頭に来たのか聞くだけで大の大人でも失禁してしまう雄叫びをあげる。
「静かにしてくれへん?」
そんな雄々しい雄叫びをあげ少女達を肉塊に変えようと振るわれた攻撃は少女達に届く事はなかった。
何故なら存在が消し飛ばされていたからだ。
何が起きたのか分からない。
それほどの刹那に殺された。
そしてミノタウロスは自分の意識が無に返る寸前に見た光景に絶句する。
少女達を囲んでいた同胞達もいつの間にか光の残滓に変わっていたのだから。
「うんうん流石うち。最強やね。スロウス~出番やで~」
「めんどくさい。もっとまとめてやってほしい」
「結構スパーンとやった思うねんけどな?まぁええか。じゃあちょっと本気だそか?ん~1500、いや2000くらいやね」
そう言うと実李は自分の猫の様にクリクリとした目をスッと細めると周囲を見渡す用にゆっくりぐるりと一回転する。
すると突然緑色に光る魔法の矢が何もなかったはずの空間を埋め尽くす様に出現した。
「スターダストレイン」
実李が自分の持っていた弓矢を空に構えそう言うと、その緑色に光る魔法の矢は打ち上げ花火の様に一斉に空に向かって放たれると凄まじい轟音をあげて弾けた。
そしてその弾けた魔法の矢は流れ星の如く9階層に降り注ぐ。
恐らく実李の言った2000と言う数字はその魔法の矢の本数を指しているのだろう。
しかしそれだけではなかった。
それは9階層に現在存在する全てのモンスターの事も言っていたらしい。
その流れ星の如く降り注いだ2000本の魔法の矢は、その全弾を9階層に生息していた全てのモンスターに1本ずつ命中しその額を撃ち抜き、その存在を先程のミノタウロスと同じく光の残滓にした。
つまり実李はこの9階層というMAPにいるモンスターをたった1つのスキルで全滅させた。
MGOにMAP攻撃は存在していなかった。なのでこの世界でも存在しないだろう。
それを実李は何らかのスキルで2000本という膨大な量の矢を作り、全てクリティカルでその階層にいる全てのモンスターに同時に命中させるという神技をしたのである。
「よっしゃこれなら文句ないやろ?ほんなら頼むわ」
「頼まれた。マジックブーストEX」
そんな神技をしたのにも関わらず、実李は単純な作業でも終わらしたかの様に、隣でそれを何の驚きもせずに寝っ転がりながら見ていたスロウスに何かを頼んだ。
スロウスは実李の頼みに今度はめんどくさいと言わずその愛くるしい顔をコクリと縦にふり、そう呟いた。
すると彼女の体から、周囲の景色全てを黒に染めあげてしまう程膨大な漆黒のオーラが溢れだす。
「大陰陽術、反魂陰転生」
膨大な黒いオーラを纏ったスロウスはそう詠唱する。
その詠唱が完了すると9階層のあちこちにある地面に黒い魔法陣が浮かび上がった。
それは先程実李が全滅させたモンスターがいた場所と寸分狂わず同じ座標であった。
するとその座標でキラキラと輝いていた光の残滓が黒に染まり、モンスターが残した魔石に吸い込まれていく。
そしてその黒い光の残滓を吸収した魔石は先程まていたモンスターへと姿を変える。
しかしそのモンスターの外見は光の残滓になる前の元とは打って変っていた。体は黒色に変色し大きさは元の倍ほどになっている。そしてその双眸には狂気の色が浮かんでいる。
先程実李に消し飛ばされたミノタウロスも同じくその姿をよりおぞましく変えて蘇生しており、そしてその恨みを晴らそうとさらに巨大になった体で殴りかかる。
実李のそばに出現した生前の自分と同じ姿をした同胞へと。
黒いミノタウロスは同胞を一撃でグチャっとトマトの様に潰し絶命させる。
そして自分の元同胞を軽々と屠ると、主に使える下僕の様に、寝っ転がっているスロウスにひれ伏した。
スロウスは目の前に下げられた黒いミノタウロスの頭をまるで飼い犬を可愛がる様に軽くなでている。
すると黒いミノタウロスはその狂気に染まった双眸から1粒の涙を流す。それは殺され蘇生させられその手で同胞を殺した悲しみの涙ではなく、新しく生を授けてくれた自分の主に褒められた至福の喜びの涙だった。
「式神化完了。よしよしいいこいいこ」
「ほんまチートやなそれ。モンスターを強化した状態で蘇生して、それを完全に自分の支配下に置いて代わりに戦わせるとか言いご身分やで」
「アンは姫だから仕方ない」
9階層では2000体の黒いモンスターが後から出現してくるモンスターを蹂躙している。
ある者はその有り余る力で敵を潰し、またある者は知能を得たかの様に集団で連携しながら襲う。
「でもあれやな。最強は楽しいんやけど最強すぎるっちゅーのも何やそれはそれで周りが雑魚すぎて白けるねんな」
「マリアンはやりすぎた」
そう言って今の一連の作業でレベルアップしてしまいさらに強化されてしまった自分のステータスを見る。
【名前】グリード
【LV】32
【職業】サジタリアス(UR職業)
【称号】最強の6悪魔(UR称号)
【状態】女神の使徒(閲覧不可)
【能力】
・HP 12800
・MP 25600
・STR 1920
・VIT 640
・DEX 1920
・AGI 1920
・INT 1380
・LUK 200
【特性スキル】
『神の瞳』 (URスキル)
【名前】スロウス
【LV】32
【職業】大陰陽師(UR職業)
【称号】最強の6悪魔(UR称号)
【状態】女神の使徒(閲覧不可)
【能力】
・HP 12800
・MP 76800
・STR 640
・VIT 640
・DEX 640
・AGI 640
・INT 3840
・LUK 200
【特性スキル】
『パーフェクトフィードバック』(URスキル)
そこには言葉通り『桁』の違うステータスが表示されていた。
まさに他のプレイヤーを微塵も寄せ付けない能力値。特性スキルには勿論の事、職業や称号にまでふんだんに盛り込まれたUR。
それは少女達の言う通り最強の証であり、異世界の理不尽の一切を雑魚と言い切れる程圧倒的だった。
「まぁそれでもそんな簡単にこの塔はクリア出来へんらしいけどな……おりょ?黒ミノ達が8階層の方に歩いていきよる、スロウスなんであないな事させとるんや?」
「ん?暇つぶしのゲーム」
「ほ~ん成程。相変わらずえぐい事考えるダレロリやね」
スロウスにより黒く巨大化した姿に作り替えられモンスターの大群は、雄叫びをあげながらぞろぞろと下の階層へと進軍を開始した。
「だめ?」
「かまへんのちゃうか?雑魚な子らにはちょっとばかりきついと思うけど『傲慢な宝箱』の上級クランメンバーの入団試験って考えたら妥当かもしれんな?それに面白いやん」
ミノタウロス、オーク、トロール等の巨大なモンスターから様々な武器をもったゴブリンまでもが、まるで今まで狩られて来た恨みを下の階層にいる冒険者達を殺す事で晴らそうとするが如く。
上の階層のモンスターが下の階層にいるまだ戦えるレベルに達していないプレイヤーを狩るが如く。
創造主である主がシステムで禁止された事を無視出来る存在に作り替えてもらい、そのあり得ない行動を許可された。
狩られる側から狩る側になった黒いモンスター達は怒号をあげて蹂躙を始める。
「ほな、ゲームをはじめよか?」
次回ヒロイン登場です!