ガチチートからのラブレター
ヒロインはもうすぐ出てきますのでしばしお待ちを!
大罪の七星。
それは才斗が属していた最強のゲーマー集団である。
メンバーは全員ハンドルネームを傲慢、憤怒、強欲、暴食、怠惰、色欲、嫉妬といった七つの大罪の罪状にしており、常人が到達できない程の悪魔的なゲームの腕前を持っている。
しかしそれだけではない。
各々が他の悪魔にも真似できない特技を持っていた。
例えば才斗なら『勝ち負けの存在するゲームで、能力を落とさず4PCでのバグ技ができる』という人間をやめてる特技をもっている。
その特技の凄まじさは女神のシステムに意図的にバグを起こし、マリアに人外の能力とまで言わせた程である。
そんな才斗をもってしても他の6人が得意とするジャンルではたった1度の勝利すらした事がない。
メンバーは才斗に負けず劣らずな特技を使い各々が、RPG、FPS、格闘ゲーム、ボードゲーム、シュミレーションゲーム、音楽ゲーム、に関しては他の追随を許さない程の実力だ。
勿論多PCを利用して戦えるゲームなら才斗も戦えるのだが、単純な1VS1の戦いでは大人と子供どころか、羽虫とドラゴンくらいの絶望的な差があった。
しかしながらメンバーが唯一対等に遊べたゲームがあった。
МGOである。
MGOはVRMMOなので本来ならRPGの分野に入るのだが、そのあまりの自由度の高さにより各々の特技を全力に振るう事ができたのだ。
そしてそのМGOをリメイクし女神のシステムで現実化されたMBOならそれは同じくまた対等。
なので彼等は考えた。
とんでもないチートを女神から貰った才斗を除く6人で『競争』をしようと。
女神の塔の最速攻略PTにはMBOの世界に存在するどんなアイテムでも1つだけ持ち帰る事ができ、なおかつPTリーダーには賞金100兆円。
マリアはこれを女神の名と力において約束した。
普通の人間は異世界のアイテムなんて物だけで十分な筈なのだが、普通の人間の考え方を持たない6人の悪魔達は100兆円と言う狂ったお金も自分の物にしたいらしい。
勝利条件は、一番先に女神の塔の最上階の1歩手前思しき99階層のクリア。
商品は、最上階クリア時のPTリーダー権限。
ルールは、特になし。
命懸けの異世界サバイバルゲームに召喚されたにも関わらず6人の悪魔達は傲慢にも『競争』という名のレーシングゲームを始めたのだった。
何故そんな事を今語るか?
「空しい結果だ・・・」
『いいじゃない。あんたチート欲しがってたじゃなの。これはアレね!?女神の祝福ね!女神であるあたしに粉骨砕身の覚悟で忠誠を尽くすと誓った使徒への祝福ね!流石あたし』
『そんな重い契約はしてない。ていうかお前オレを早々に見捨てて天国に送ろうとしてたよな?』
『ちょっ、ちょっと何を言ってるのか分からないわね~?』
才斗は現在自分の周りだけ妙に広い空間ができた酒場で、客や店主に遠巻きからコソコソと陰口を言われながら、げんなりとした顔でSSRアイテムの杖『レストレーションスタッフ』を眺めて呟いた。
その美味さから異世界の酒場で無我夢中に飲み食いした事により、その代金を払えなくなった才斗。
足りない分の代金を自分の杖を売って払おうとしたが、マリアの諸事情によりそれを禁じられ、絶望的な状況だったのだが、そこに自分が命を救った青紙青目の美少女リーゼが現れた。
『そしてその女の子に、オレの女になるかお前の生きる術であるその杖を渡すかを選べ!グヘへへ!と圧力をかけてチートアイテムを毟りとったのだったわ!』
『全然違う!……いや確かにリーゼや周りからはそう思われているかもしれないが誤解だ!オレは悪くない!間違ってるのは世界の方だ!』
『等と意味不明な事を言っており、ちゃっかり美しい女神であるあたしとの会話を楽しみ、そのあまりの幸福な時間を過す事で汚らわしい劣情を抱き、夜な夜なゴソゴソしようと罰当たりな事を考えるのであった』
『めんどくさ』
『ちょっ!?そこはもっと慌てながらツッコミなさいよ!なんかあたしが痛い子みたいじゃない!』
MBOにはRMT対策により『プレイヤー間のアイテムや|バベル(通貨)の移動は不可』という規約があり、それは現実の世界でも有効らしく、才斗がその杖を拾おうとしても拾えない。
だがその規約には抜け道があった。
プレイヤーが捨てたり死んだ事により所有者を失った場合に限り、30分間そのまま放置するとペナルティーとしてそのアイテムやバベルは所有権理が消滅し最初に拾ったプレイヤーの物になるという仕様を利用してのトレードだ。
それを知ってか知らずかリーゼはレストレーションステッフを才斗の目の前に捨て泣きながら去って行った為、多少の不本意を感じながらも折角の念願なチートアイテムなので30待って拾う事にした。
そしてその30分を金を使い果たし何も頼めない才斗は仕方なく暇つぶしにこうやってマリアと念話をしているというわけである。
勿論30分たった瞬間に才斗より早く杖を拾えばそれは拾った人の物になるのだが、そんな事を目の前であんな事があった後にしようとする勇者がいる筈もない。まぁしようと思う人間がいても才斗に相手にそんな事が出来る人間なんて世界に6人しかいなわけなのだが。
『それにしても暇ね~もうそろそろだと思うんだけど』
『そんな暇ならさっさっとあの部屋でもっと面白い事してるプレイヤーでも見とけよ鬱陶しいな。何?お前もしかしてオレの事が好きなのか?恋してるのか?』
『楠才斗様やめてください。本当にやめてください……あたしはあたしで用事があんのよ!言われなくても切りたいけど一回切るとまた繋ぐのに面倒なのよね。どうせもうちょっとでまた繋ぐのに勿体無いでしょ?分かったらさっさっとあたしを楽しませる話の1つでもしなさいな。ちなみに用事は秘密よ?あんたみたいな塵芥の如き存在にあたしの用事を教えてあげる事は出来ないわ』
こいつなんで女神なんかしてるの?人を腹立たせる事を司る女神なんだろうか?と才斗は内心で宇宙創造よりも謎に包まれた命題を考えていた。
そしてそんな事を考えながら折角マリアと話す機会なのであの酷いステータスについておこうと思い久々にステータスを開く。
【名前】プライド
【LV】4
【職業】ウィザード
【称号】大罪人
【状態】不幸、嫌われ者、童貞、女神の奴隷(NEW)
【能力】
・HP 40
・MP 240
・STR 4
・VIT 4
・DEX 4
・AGI 4
・INT 24
・LUK -100
【特性スキル】
なし(習得不可)
(……ん?)
レベルが4になり初期のステータスの4倍になっている数値は、いつもの-100の運以外は特に問題がない。
称号が可笑しいのも状態に不本意な事が書かれているのも異常な事だが今までと変わらない。
そう何か途轍もなく嫌な予感がする物が1つ増えている事以外は。
才斗は恐る恐るその嫌な予感の正体をタップする。
女神の奴隷 女神と契約した者。命令に背くと死ぬ。
コメント うん!これこそ使徒のあるべき姿ね!これからも精進しなさい!
『おい疫病神』
『あんた今何て言った!?もう一回言ってみなさいよこらぁ!』
『疫病神って言ったんだ!何だこの問答無用な奴隷制度は?』
そこにはいつの間にかマリアの奴隷になっているという驚愕の事実があった。
しかもこの色々おかしい女神の様の命令に背くと死ぬらしい。
もう天国に送られるとかそんな優しい表現すらしなくなった事に脱帽する才斗。
『は?あ~、大丈夫よ無茶な命令はださないから。ちゃんと必要な時にしかこれは使わないわ。ていうか使えないのよ』
『そっ、そうだよな。流石に無理な命令をされて出来なきゃ死ぬのはありえ』
『そうね。確かに無茶な事は頼まないわ。せいぜいその女何か態度がムカつくから別れなさい?とか、女神の使徒が穢れを負うとは許せない即刻服をきて部屋を出なさい?と言えば例え初めて出来た彼女でもいい雰囲気でも従ってもらうくらいかしらね』
『お前はああああああああああああああああ!』
『冗談!冗談だから本気で怒鳴らないでごめんって!』
もし本当にそれをされたなら復讐系主人公にジョブチェンジするところだったろう。
今ので一気に疲れたのかぜぇぜぇと息をしてレストレーションスタッフに目をやるとまだ半分しか経っていないのかと肩をガックリと落とす。
『おっ終わったようね。そんじゃあたしはもう行くわ。ちなみにこの念話はあんたからかけてこれないから。ちなみにあたし基本猫被った様ないい子嫌いだからね?あとあたしの事を崇拝してるマリア教の子じゃないと認めないからね?じゃっ』
そう言ってブチっと一方的に念話が切れる。
(あんな奴を崇拝してる物好きなんかいるわけないだろ……ていうかそれ以前にオレのメインヒロインはまだ出てこないのか?教会の銀髪のシスターは可愛いけど脈ないっぽいし、リーゼは顔もスタイルもバッチリだがなんかもう絶対脈ないし、一番話してるあの女神は攻略不能キャラっぽいしまず攻略したくない。どこかにいないのか?可愛くて胸がデカくて大人しくて引き籠りに理解のある女の子)
恐らく最後の関門を突破できる女の子はいないだろう。
才斗が深く溜息をつくと、突如何もない空間にモニターが出現する。
そのモニターは出現するたびに騒ぎを起こさないと気が済まないさっきまで才斗と念話をしていた女神様と、何故か見覚えのある2人の幼女を映していた。
『ピンポンパンポーン!みんな女神マリア様の緊急発表よ!』
ざわざわガヤガヤ!
そんな音がセントマリアの街を支配した様な気がした。
酒場ではさっきまで才斗の事を遠巻きに非難していたプレイヤー達ですらもその事を忘れ皆一同に同じモニターを見ながら息を飲んでいる。
当たり前だ。
1度目は異世界に連れて来られた事の報告。
2度目は馬鹿げたレベルのクリア報酬。
では3度目は?一体何が始まるかとみんなが気になっていると。
『何と!第10階層の洞窟のステージボスがたった今倒されたわ!驚異的なスピードで倒したのこの二人!グリードとスロウスよ!拍手~ぱちぱちぱち~』
『にょっほっほっほっ!まぁ当然やね!』
『ぶい』
画面には、いかにも活発そうな亜麻色の髪を女の子にしては短くカットした関西弁を喋るロリと、いかにもだるそうにダレていながらもピースはしっかりするキラキラと艶のある金髪を腰まで伸ばしたロリがマリアに拍手されながら紹介されていた。
『何とこの二人は二人共がレベルが30と言う現状1億9980万人いるプレイヤーの中でダントツのレベルを誇っているわ!あたしもボス戦見てたけどめっちゃ強いわよ!さらに驚く事にこの関西弁の小っちゃい女の子は17才の女子高生なのよ!まさに合法ロリね!』
『ロリ言わんでくれん!?うちそれ言われるの一番嫌いやねんけど!?』
『胸もロリ』
『うっさいわ!スロウスかてぺったんこやないか!』
『アンは将来性にM振りしてる』
『はいはい~二人共~ちゃんと喋りまちょ~ね~』
『『うっさいポンコツ女神』』
『ちょっ!ロリだからって民が見てる前での暴言は許さないわよ!?』
3人はワーワーと言い合いお互いがお互いのほっぺをギュッとつねり合う。
3人とも外見だけはいいのでそんな風に喧嘩をしていても仲のいい美人姉妹の様に見えてしまうのだが、今はその光景に癒されている場合ではない。
(レベル30だと?早すぎる……一体どうやったんだ?それに倒した?ステージボスをこの短時間でたった2人でだと……)
『ふん!今回はこの辺で勘弁してあげるわ。さぁ約束通り何でも好きな事を喋っていいわよ?』
『いたた、この女神なんでこんな喧嘩強いん?おっほん……うちはグリードみなさんよろしゅうたのむわ。さっきあのポンコツ女が……女神様から紹介された通り誰よりも早く10階層のステージボスをシバキ倒した最強ゲーマー様や。世間では悪目立ちしてるだけの雑魚なプライドが最強とか言われてるようやけどまぁこの結果を見たら分かるように最強なのはうちって事やね!あっははは!どこかでこの映像見ながら顔真っ赤にしてるプライド君みっとる~??』
『さいとん雑魚。最強はアン』
「あんのクソロリ共ぉぉぉぉ……」
生存している全プレイヤーの前で煽ってくるグラトニーとスロウス。
マリアとはまた違った苛立ちを才斗に与えてくるロリっ子二人は、一人は腹を抱えて爆笑しながら、一人は口に手を当てぷっと言う風に笑う。両者共にとてもムカつく顔をしながら。
その光景を見て酒場のプレイヤーまでが才斗を見てニヤニヤとしており、勿論そんな公開煽りをされた才斗の顔には青筋が浮き出ている。
『おっととと大事な事を言い忘れとっとわ。うちとこっちのスロウスは今さっき『強欲な宝箱』ちゅー『クラン』を作ったんや。細かい募集要項はギルドの張り紙で確認したってや~。みんな分かってると思うねんけどこの世界のモンスターはMGOと比べてうちのみたとこ倍から10倍くらい強い。勿論ステージボスも同じや。そんな世界で生きていくのは辛いやんな?中には未だに街でうずくまってる人もおると思う。うちらはこの最強の力を振るってそんな連中を救ったろうと思っとんねん。うちらのクランに入れば、がっぽがっぽ稼いで元の世界に帰るまで安全に豊かな生活をさせる事を最強ゲーマーの名に賭けて誓うわ』
うおおおおおおお!
最強の存在がこの異世界で安全で豊かな生活を保障すると言った事で大歓声が街中から聞こえてくる。
『でもうちらかてグズはいらんし、逆に優秀な奴には特別待遇するで。ちゅーことでせやな。今からボスステージに続く9階層のポータルゲートでうちらは待っとるから急いで来てや~。先着1000PTにはもれなくいきなり上級クランメンバーになれるチャンスを上げるで。あ~天運を持っとる子はフリーパスで上級にしたるんでどしどし来てな?ちなみに上級には1日100万バベルを稼がしたるさかいな』
100万バベルを稼がせると言う言葉で、街中からの大歓声にはもはや狂気を孕んだように盛り上がる。
『最後にそやな。勿論プライドも入れて上げてもいいで?あ~でもここまで来れたらちゅーのは雑魚ゲーマーのプライド君にはきっついかな~?まぁ泣いて頼んだら昔の好で特別にうちらの荷物持ちにしたるわ!雑魚魔法使いより稼がしたるよ?あっははははは!』
『サイトン来れるものなら来てみて』
『と言う事でグラトニーとスロウスでした~パチパチパチ』
ぷちゅん
ウインドウが消えると雄叫びと共にとんでもない地鳴りが聞こえる。
天運持ちのプレイヤーがギルドに駆け込んでくるのだろう。
才斗は静かに席を立ちとっくに時間を迎えていたレストレーションスタッフを手に取り、強く強くそれを握りしめる。
「最高の挑戦状だな、上等だ。見せてやるよ格の違いをな」
静かな怒りを燃やす女神のシステムすら超えたバグ魔法使いが女神の塔に歩を進めたのだった。