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異世界の酒場は好きですか?

 酒場。


 それはそのまま酒を飲む場所である。

 現代の日本でいう居酒屋とかバーだろう。


 未成年で引き籠りな為どちらも行った事がない才斗からしたら、居酒屋は仕事終わりのサラリマーンがネクタイを頭に巻き一杯したり大学生がウェイウェイしたりするイメージで、バーはナイスミドルなマスターがカクテルをシャカシャカと作りそれを『あちらのお客様からです』と男性から女性に送り意味深な空気を作るお洒落なイメージである。


 では異世界の酒場は?


「おっさん『キンキンビール』おかわり!あとこの『ガルファングのミートパイ』と『ブルファンガの丸焼き』も持ってきてくれ!」

「あいよ!にーちゃん見た目と違っていい飲みっぷりに食いっぷりだな!特別に大盛にしてやるよ!」

「おおサンキュ!あっははははは!それにしても何でこんな美味いんだやっばいな!」


 木でできた味のあるテープルやカウンターには、プレイヤーや他種族の異世界人達が座り、今日の冒険で稼いだであろう金で酒と食事を注文しワイワイと食っちゃ飲みしている。

 それは才斗も同じ様で、初めて口にする異世界の料理と酒に舌鼓を打ちながら、歴戦のウォーリアーですか?と思ってしまう筋肉ムキムキな店主と打ち解け話込んでいた。

 なぜそんな事になっているのか説明するには少し時間を巻き戻さなければならない。





「それでは楠才斗様。あなたを12番目の使徒として任命し、その力の限りをあなたと私とこの世界の為に使う事を女神マリアの名において許可します。あなたに女神の祝福を」

「ああ!宇宙戦艦にでも乗った気でいろ」


 というやり取りのあと眩い光に包まれた才斗は気が付くと教会にいた。


「おー死んでしまうとは情けない」

「はああああああああああああ!?」

「あっははは!冗談だよ~!これやるとみんな驚くけど君は特別だね!」


 目の前の修道服をきた銀髪のシスターにそんな事を言われガチで驚く才斗だが、冗談だとケラケラ笑う彼女に軽い苛立ちを覚え、そしてその苛立ちはシスターの顔を見た瞬間霧散する。


 白い光を浴びた銀髪は水晶の様に輝き、その青い瞳はサファイアを連想させ素晴らしく整った愛らしい顔をまた一段と魅力的にしている。


「顔は85点、体は、あ~20点。スレンダーなのはいいが胸がないのは残念だな。だが付き合えるか付き合えないかなら問題なく付き合えるレベルだ。むしろあまりエロくない体が神聖さを増している気がする」

「しょ、初対面のレディーに点数をつけるなんてセクハラだよ!?」

「あぁ悪い。姉以外の女性と顔を突き合わせて話す機会なんてあまりなくてな。お前こそそんな可愛い顔をして笑わないでくれないか?好きになる。いやむしろオレの事が好きなのか?」

「えぇっ!?唐突!?初対面で失礼な事言われて好きになる女の子はいないんじゃないかな!?」

「その気持ちが恋だと知るのは少し先の話しである」

「勝手に間違ったナレーションをつけるのやめてくれないかな!?」


 才斗のいきなりのセクハラなボケに顔を少し赤くした銀髪のシスターさんは勢いよくつっこみ、ツッコミ疲れたのかはぁはぁと肩で息をしている。

 会話をすると相手が疲れるまでボケないと気が済まないという少し変わったコミュ障な才斗は脈がない事にさり気なく傷つきながら周りを見渡す。

 そこには結構酷いケガをしたプレイヤーらしき冒険者達とそれを癒す神父や他のシスターの姿があった。


(内装とか雰囲気でここが教会なのは分かるが、神父やシスターは何してるんだ?ていうか俺は何故ここにいるんだ?急にあの女神に呼び出されたけど、呼び出される前は狩りをしていたから街にはいなかった筈なんだが?)


「ここはセントマリア中央区にある教会で、冒険者の人が帰還石を使って緊急帰還できる場所だよ。それで私達『シスター』や『神父』は街ではスキルの使えない冒険者の人に代わってHPを回復して傷ついた人のケガを治してるってわけだね。でも君HP減ってなくない?間違って帰還石使っちゃったの?」


「いやそれは……まぁそんな感じだ。そうか確か街でスキルを使えるのは非戦闘系の『職人クラフトクラス』の奴だったけ。ていうかあんたもしかしてプレイヤーか?プレイヤーならなんでこんなとこでシスターなんてやってるんだ?」


「よく分かったね!?あたしって銀髪でこんなに可愛いからこんな服着てこんなとこいると異世界人によく間違われるんだけど。あ~あたしの場合は戦って死ぬのとか怖いし勘弁だから自分のSSRスキルを活かせそうな職人クラスにすぐ転職してお金を稼いで誰かがこのゲームを終わらせてくれるのを待とうかなと思ったんだよね」


「成程。戦わなければ生き残れないと思ってたが、非戦闘系の職人クラスなら戦わなくても普通に暮らしていける分くらいは稼げるわけか。こんなすぐにそれを思いつくとか柔軟な頭してるんだな」


 MGOは、その自由度の高いアクションや、派手で多彩なスキルも人気のポイントだったが、多種多様な職業がある事も人気の1つであり、その多種多様な職業の中には非戦闘系の職人クラスと言われる職業カテゴリーが存在している。


 職人クラスとは、武器や防具を作る『鍛冶師』やポーション等のアイテムを作れる『調合師』の様な冒険者のサポートをするものから、目の前の銀髪の少女の様に教会で神に仕える『シスター』やアイドル事務員の様な仕事をする『ギルド受付嬢』等単純にRPGの世界でまったり生活するようなものまである。


 プロゲーマーの才斗に『まったり』という価値観はなく、終焉邪龍を最速討伐をした時に運営が才斗達に生インタビューを公式配信サイトでやった時に、そんなもんはゲームじゃないという暴言を吐いて某動物達が森で生活するゲームを敵に回し訴訟問題にまで発展しかけたという事件があったのだがその話はまた別の機会にしよう。


「えへへ。ありがとう。ところでまだ聞きたい事とかある?シスターさん的には間違って高い帰還石を使っちゃった可哀想な迷える冒険者と話してあげるのも大事なんだけど、次々と転移してくる重症冒険者を治す仕事の手が足りないみたいだから何もないなら戻らないとなんだよね」

「おぉそれは悪い。じゃあ最後にギルドにはここからどこに行けばいい?」

「いいよいいよこっちもセクハラされたけど楽しかったし。ギルドは教会を出たら真っすぐ進んで突き当りを右に行けばすぐだよ」


 姉以外の女の子とまともに顔を見て話した事がない才斗は、ついつい可愛い銀髪シスターさんとの会話に花を咲かしてしまい色々と忘れていたが、少女の仕事が戻ると言った事で自分の状況を思い出し教会を後にする。

「あーそうそう。ちなみに名前は何て言うんだ?」


「シスターをナンパするいけない冒険者君には教えてあ~げない」


 扉を開けてギルドに向かおうとした時に思い出したように銀髪のシスターに名前を聞く才斗だが、ウインクをしながらちょろっと舌を出してそんな事をいう少女にやれやれという仕草をして歩き始める。

 内心では『うおおおおおおお!小悪魔系シスターとか激萌えキュンキュンまるうううう!』と意味の分からない事を叫んでいたのだがそれは誰にも分からないだろう。


 ガヤガヤと渋谷駅の様な人通りの多い中央区を少女に言われた通り進むと、そこには数時間前に絶望を味わい立ち尽くしていた苦い思い出のあるギルドがあった。

 ギルドの中は先程の部屋を埋め尽くす人がいた時とは打って変わってぽつぽつと言ったくらいにしか人がおらず、たまに冒険者が女神の塔の門をくぐって帰ってきては受けたクエストを報告する程度である。

 その様子をしげしげと見渡すと、才斗はさっきすごい形相で詰め寄りクエストを受けたギルドの受付嬢の元に足を進めた。


「おかえりなさいませ冒険者様。ご用件は何でしょうか?」

「あっ、あの、クエストの報告と魔石の換金を……その……したいんですけど」

「はい。クエストの完了手続きと魔石の換金ですね。では換金したい魔石をこちらの台の上に置いてください。そして手の方をこちらの水晶にかざしてください。」

「あっ、は、はい」


 才斗は引き籠りだったので、姉と大罪の七星メンバーと自分の雇っている家政婦以外とは殆ど会話どころか買い物等の最低限のやり取りもした事がなく、女神やさっきのシスターの様に話やすいタイプには生意気な態度を取ったりセクハラをかませるのだが、こういう大人なキッチリとした対応をされるとあり得ない程きょどってしまうのだ。

 過去に自分の家政婦がケガをし応急手当の道具を買いにドラッグストアに行ったのだがその時に一悶着あり最終的には警察からその家政婦に電話があり迎えに行くという事があったくらいだ。


 そしてそれは相手がとても美人なお姉さんであっても変わらないらしく、壊れたロボットの様にガタガタとぎこちなく自分のマジックバックに容量限界まで詰めた魔石をゴロゴロと台の上に出す。


「なっ、なんと!?純度は残念ながらどれも最低の質ですがこの量はすごいです!失礼ですがこれを全部お一人でお集めになられたのですか?」


「はっ、はぁ……まぁ一応……」


「すっ、すごいです。本日女神様が異世界から沢山の凄腕冒険者様を召喚したのは存じ上げていたのですが、たった数時間でここまでの量の魔石をお一人で集められたのはお客様が初めてです。それどこかろかお一人でここまでモンスターを倒されたルーキー冒険者の方はギルド創立史上お客様が歴上初めてです!しかし誠に残念なのは何故か全てが最低品質の魔石で買い取り単価が10%以下になってしまう事ですね。こんなもの1000体に1つくらいしか落とさない逆に価値があると言われるくらい珍しいのですが……お客様のLUkかスキルによるものなのでしょうか?こんな現象を見たのは初めてです」


「そっ!そうなんですか!そっ、それは残念っ、です」


(ちょっ、顔近い!てかこのお姉さんめっちゃ美人やん!胸もでかい!でも話し方からして異世界人なのか。これは最速討伐した暁にはこのお姉さんを持ち帰るしかないな……てか絶対落とすはずの魔石すら中々落とさないから、またバグかと思ってたがあの女神の奴のせいかよ……しかも10%以下とかそこらの古本屋以下じゃないか……完全に舐めてるな)


 そんな才斗の歴代ルーキーソロランキングを更新した事と、1000分の1のスーパーアンラッキーの魔石を大量に見せられた事で出来る感じのすごく美人なギルドの受付嬢はついつい冷静さを失い興奮して前かがみになり、別の意味で才斗を興奮させる。

 そして自分の顔と才斗の顔がすごく近い事と、才斗の目線が前屈みになった事でできた自分の胸の谷間に集中していることに気が付くと、少し顔を赤くし軽く自分の胸を隠す様な仕草をしながら取り繕った様に異世界のお金を出して来た。

 その仕草に才斗はまたも萌えるのだがそれは無視しよう。


「プライド様の今回の報酬金額は、魔石の金額が1万バベルと、ブルファンガ6体の討伐クエストの達成金額が1万バベルなので、合計2万バベルになります。まだクエストを受けますか?」

「あっ、ああどうも。そっ、そうですね……じゃあこれで」


 そして百円玉くらいの金貨が2枚受け渡されそれをマジックバックにしまうと、アイテムストレージではなく『所持金』と言う項目に20000Bバベルと表示される。

 才斗は流石異世界……と思いつつ新たに出現したゴブリン20匹の討伐というクエストを受けてすぐに出かけようとするが美人受付嬢は慌てて待ったをかけられる。


「プライド様もうすぐ夜時間ですのでモンスターが強力になります。装備を整えたりアイテムを買う事をお勧めします。もし長い時間女神の塔に籠ると言うのであれば加えて今のうちにお食事を取る事もお勧めします。アイテム各種を揃えている道具屋と酒場はギルドに隣接しており、あちらの扉を開いていただくと御座いますので是非ご利用されると良いでしょう。ではまたのご利用をお待ちしております」


 そういって深々と御辞儀をする美人受付嬢。

 今度は体を傾けているのに何故か胸の谷間が才斗に見えない鉄壁な御辞儀だった。

 才斗は少し残念そうに、ふふっと笑うお姉さんを背にして酒場と道具屋に向かう。


(まぁHPのポーションはいらないがMPポーションは買えるだけ買っておかないとな。そのためには飯なんか関係ないもんには金を使いたくないな、適当に済ませよ。カロリーメイトがあればいいんだがな)





「ゴクゴクゴク!ぷっはああああああ!酒とか甘酒くらいしか舐めた事なかったがこんなうまかったのかよ!?キンキンに冷えてやがるう犯罪的だ!とか言っちゃう気持ちがわかるぜ!しっかしこの『ガルファングのミートパイ』と『ブルファンガの丸焼き』もすんごいうまいわ!今まで食ってきたもんが犬の餌に感じるな!おっさんあんた天才だよ!あっははは!あっおっさんキンキンビールおかわり!あとこの『ネオボール』ってのもくれ!」


「はっははは兄ちゃん本当にいい飲みっぷりだな。でもいいのか?兄ちゃん装備見た感じルーキーだろ?かなり飲み食いしてるがポーションとか色々買うもんあるんじゃねぇのか?ほらよ」


「ばっかおっさん!そんなみみっちい事言ってる3流冒険者と女神の使徒にまでなったこのオレを一緒にしないでくれよ!ゴクゴクゴク!ふぁあああああ!金は貯めるもんでも使うもんでもない、酒を飲むためにあるもんだってな!あっはははははは」


「女神様の使徒様がそんな事いうわけないだろ!?はっははは!おもしろい兄ちゃんだぜ」


 才斗豪遊!

 圧倒的豪遊!

 飲む!飲む!飲むううう!

 という某司令官の声の迫力のあるナレーションが聞こえてくる様な光景である。


 お姉さんと別れた後、食事なんか適当にすまして全部MPポーションにつっこもうとして酒場で一番安い『ヒートドック』というホットドックの異世界版の様な物を食べた。

 その瞬間才斗は壊れた。

 うますぎた。

 そう、うますぎたのだった。

 才斗はゲームに集中している時はカロリーメイト1本で1日活動するが、普段はとても料理のうまい家政婦が腕によりをかけて作った、とても美味で且つ栄養バランスに最大限気を使った高級食材で作られた料理を食べていた。

 そして特に味について煩い方でも食べることが好きなわけでもない。


 しかし目の前の料理は今まで食べてきた物と比較にならない美味な異世界の料理であり、それに才斗は猛烈な感動を覚えた。

 次に才斗は、この世界では15才が成人と扱われる事を良い事に一口だけと決めてキンキンビールという異世界のビールを飲み、そして冒頭につながり、今の状況になったわけなのだが。


「あっああああ飲みすぎちまったぜ!確かにそろそろ金もやばいだろうからな、さくっと稼いでまた飲むかな!なぁに俺が本気出せば余裕だよ余裕!鼻くそみたいなもんだ!んじゃお会計たのむわ」

「あいよ!毎度あり!お会計は3万バベルだ」



「ふぁ!?」



 才斗足りない!金が足りない!

 圧倒的借金!

 落ちる!奈落の底!どこまでもおお!


 またそんなナレーションが聞こえてる状態になり才斗は固まった。



才斗借金! 異世界で借金! 

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