フラッシュキャストとマルチスペル
少し昔話をしよう
楠才斗には一緒に遊べる様な友達と呼べる存在がいなかった。
唯一一緒に遊んでいたのは中学3年まで自分の面倒を見てくれた優しい姉と、ゲームで賞金を稼ぐ6人の悪魔達だけだった。
その為姉の事は思春期を迎えても大好きなままだった。
6人の悪魔達の事は正直あまり好きではなかったが、姉の知り合いだった事と、ゲームが強かったという理由で一緒に遊んでおり、一緒にご飯を食べる時に決まって姉が才斗に「みんなと遊ぶの好き?」と聞くと「嫌いだけどゲームが強いから一緒にしてる」と答え、姉は困ったように笑うのが日常の風景だった。
その6人の悪魔達の事を嫌いだと思わなくなったのは姉が病気で死んだ後だった。
姉は心臓が弱く重い持病を患っていたのだ。
才斗は泣いた。
それこそ涙が枯れるまで泣いた。
この世の全てを憎んでいっその事自分も姉の後を追いたいとすら思った。
しかしそれは出来なかった。
別に死ぬのが怖かったわけではない。
ただ6人の悪魔達が自分が死ぬのを許してくれなかった。
赤の他人の癖に自分の生き死に口を出す資格はないと怒鳴ったが
「しかし君が死ぬと僕達の戦力がまた下がる。それは困るんだよ」
「せやで!死ぬならうちらが被る迷惑料払ってから死んでくれん?」
「はぁ!?俺達の迷惑料とかこのクズが一生かかっても払えるわけねぇじゃねえか!」
「それツンデレ?」
「ちょおおおおおっとグラトニー!あんたあたしとキャラ被るとかズルいわよ!?」
「おねえちゃん……別にキャラは被ってないから平気すよ」
そんな事をいつも通りゲームをしながら言われた。
姉が死んだのに平然とゲームをしている悪魔達に不思議と苛立ちは感じなかった。
自分の事を人間ではなく戦力扱いされたり、迷惑料を払ってから死ねと言われた事も、別に悪魔達なりの優しさだったわけではなく本心から言っているのだと言う事も分かっていたが、不思議とそんな言葉に安心感を覚えてしまったのは後悔はしない主義の才斗の唯一の黒歴史だろう。
その日からだろうか?悪魔達の事を嫌いと思わなくなったのは。
だからだろうか?その悪魔達の事を少しでも好きになってしまったのは
『君は必要ない』
だからだろうか?そんな事を言われただけで涙が出てしまったのは。
才斗の涙の理由は別に友達だと思ってた奴等にひどい事を言われたからではない。
絶望の淵にいた自分が見つけた自分の価値が消えて無くなったと思ったからだ。
そう彼等に思われたのがとても悔しくて。
そう自分でも思ってしまった事がもっと悔しかった。
別に自分に、楠才斗に価値が無くても構わない。
才斗自身が姉の死んだ日に生きる意味を失ったと本気で思っている。
だから自分が死ぬのは構わない。
だがプライドが死ぬのは我慢ならない。
プライドと言うのは彼のゲームにおけるハンドルネームであり、もう一人の自分。
神PSを持つ最強のゲーマープライド。
人格破綻者の集まりであるゲーマー集団の中でもさらに抜きに出て嫌われているプライド。
その自分が、同じく自分の認める者達と同じ場所に立っていないのが我慢ならない。
その為ならどんな事でもしようと思った。
それこそどんなバグを使おうがいい。
どんな危険をおかしてもいい。
不可能ですらも可能にかえようと思った。
そして今一度彼は思う。
(やっべえええええええええええ!やっちまったあああああああああああ)
………台無しである。
(いやいや違うよ?別に女の子だから助けたとかそんなんじゃないよ?こういう展開につっこんで行って華麗に活躍したらなんやかんやで童貞卒業出来るとか思ってないからね?ほら!あれ!あの女の子が死んだ姉さんに何となく似てたとかそんなん!ほら目が二つある所とかマジそっくり!)
こんな下心を隠す為の見苦しい言い訳を姉が知ったら天国で困りながら笑う事だろう。
しかしやってしまったからには仕方がない。
原動力の99%は確かに下心だが、1%は才斗の意地の問題だ。
目の前で人が死ぬのは、確かに気持ちがいいものではないが、そこに関しては結構どうでもいい。
だが勝ち目がほぼないからと言って目の前の敵から逃げるのはプライドとしての矜持が許さない。
もしそんな事をすれば本当にプライドは死んでしまうだろうから。
そんな事を才斗が考えていると6匹のブルファンガはその巨体を才斗に向け一気に突っ込ませる。
才斗はそれを常軌を逸した反射速度で見切り、ステップとジャンプの組み合わせで回避すると得意の誘導でブルファンガの動きをコントロールしようとする。
しかし。
(勢いで始めちまったけどかなり厳しいな……ある程度コントロールする事自体は可能だが、4体より多い同時攻撃はMGO時代でも一度も成功した事無いしな……それに肝心の火力が全然足りない……ん~どんなに完璧に立ち回ってもステップの硬直と突進が128手目で重なって攻撃を受ける事になるな)
才斗は確かに凄まじい動きをしている。
各職に設けられている回避や防御スキルが現状ないため基本の動作のみで四方八方からの飛んでくる6体の突進を回避し続けなければならず、その回避をしながら6体のうちの4体をまとめる様に誘導し、そのわずかにできた攻撃の隙を狙って無詠唱のマジックバレットとファイアーバレットをクリティカルに打ち込んでいく。
しかし才斗の言った通り通り火力が足りない。
最初の攻撃でHPバーを削った時の威力と、リキャストタイム、スキルや行動の硬直時間、そしてモンスターのアルゴリズムを全て考慮してシミュレーションすると128手以上は捌ききれず詰むと、神ゲーマーとしての経験と本能が告げている。
1発で削れるHPはマジックバレットが10%、ファイアーバレットが20%。
そして128手目までに打てるのはマジックバレットが2発と、ファイアーバレットが3発。
同時に4体までしか攻撃出来ず、尚且つ6体全てを撃破しなければいけない。
小学生でも無理だと分かる問題である。
全ての攻撃を4体に絞っても倒す事が不可能であり、しかも6体倒さないといけないのだから当然だ。
しかし才斗は諦めない。
普通のプレイヤーにはこれが無理ゲーに見えるだろう。
だが楠才斗と言う人間は、プライドと言う名前でいくつも不可能を可能にしてきたのだ。
「「「「「「ブルルルルオオオォォォォォォォォンン!」」」」」」
「あるにはある……かなりの綱渡りだが……やれるはずだ。俺にゲームで出来ない事はねえ!」
14手目
4体のブルファンガの顔にまとめてファイアーバレットを打ち込む。
(まず必要なのはスキルレベルをMAXの5レベルまでこの戦い中に上げる事)
51手目
3方向からの突進をステップで避け、さらにそのスキを狙った3体からの突進をジャンプで躱す。
(そして威力の上がったスキルで4体を屠ってレベルアップし、リキャストタイムを回復させる)
89手目
6体が微妙な時間差で3方向から突進してくるが僅かな隙間を縫い躱し2発目のファイアーバレットを放つ。
(そして一瞬でスキルを取りレベルを5まで上げ、無詠唱より早く3発の魔法を放つ)
MGOはスキルレベルMAXにすると攻撃スキルは特別ボーナスでダメージが2倍になる仕様だ。
このため多くのプレイヤーは強いスキルはMAXまで振る。
さらに才斗はブルファンガを後4体倒せばレベルアップする、割と多くのゲームがそうだがMGOもレベルアップするとHP、MP、リキャスタイムが全て全回復される。
確かに才斗の考えている事が全て出来れば計算上6体のブルファンガを全滅させる事が出来るだろう。
しかしこの作戦には3つの不可能が存在する。
100手目
左右2方向から挟み撃ちの様な突進を歩いて誘導し、それをステップで躱す。
(2つのスキルのレベルをこの戦いの中で5にするのはまだ出来なくもない。あくまで多分だが。だが初見のスキルを1発で5にするってのがな……そして無詠唱より速いスピードで3発の魔法をほぼ同時に撃たないと間に合わないってところが鬼畜すぎる。無詠唱は撃とうと思えばすぐ発動できる最速のバグ技だし、ゲームってのはどんなに早く動かしても1度に2つ以上のスキルはプログラム上出来ない。つまりは不可能って事だな)
111手目
6方向から同時にきた突進を完璧なタイミングのジャンプで避ける。最後のマジックバレットを放つ
(ちっ……やっぱそんな簡単にレベル5にするとか出来ないか……やっぱ無謀だったのか?)
126手目
今度は6方向から微妙にズレたタイミングで来る突進を近くに生えていた木を蹴り二段ジャンプをして通常の2倍の跳躍距離を稼ぎ、その全てを躱す。
(この次に撃つファイアーバレットで4体をやれなきゃ着地した瞬間にくる時間差の突進に対応出来なくてそのままゲームオーバーか)
そして127手目
才斗は空中であろうことか杖を真上に放り投げ、ポケットに手を突っ込み目を閉じた。
諦めたからではない。むしろ逆、勝利の為だ。
(ずっと疑問に思ってた。自分を操作している感覚の世界で魔法だけは波の指示にしたがって操作されてる感覚だった事が、無詠唱なんて一見最速の様な事が出来るのに未だにスキルレベルがМAXじゃない事が)
才斗は考える。
もし神のシステムとやらで本当に自分の体を操作しているのならば、なぜこんなに速く走れる?なぜこんなに高く飛べる?たしかにそういう風に操作をしているのは自分自身だが引き籠りの才斗にそんな筋力はない。仮に脳のリミッターをどうのと言う話なら貧弱な自分の体なんて負荷がかかって壊れてしまうだろう。
だから才斗は仮設を立てた。
この体は『自分の体を女神が模倣して作った』別の体だと。
だから自分の体じゃないみたいに動く。
当たり前だ自分の体ではないのだから。
ならどうして自分は考え、動いているのか?
それは魂。
かなりファンタジーな想像だが魂を女神の作った体に移し替えられ、自分として行動しているのだと。
コマンドの役割をしている金色の波は、恐らく白い部屋にあった魔法陣と同種のもので、あの部屋にいた時に感じたあのうざったい女神を如何にも神聖なものと思わせてた力みたいに、物事の辻褄合わせか何かをする力を持っているのではないか?
そしてそれは魂と神の作った異世界の法則とのズレを修正するソフトウェアの働きをするのではないか?
才斗は今の自分の状況をかなり偏った視点から色々なアニメや漫画やラノベの話しを自分の中二力で自分なりにまとめて結論をだす。
「なら後は簡単な話だ。オレの魂に刻まれた神PSで異世界の法則を入力する。女神のシステムがそれをするより早く正確に効率よく!オレの神PSならそんなそれすら可能にする!」
ドッバアアアアアアアアアアアアン!
一瞬才斗の体が金色に光ったかと思うと、次の瞬間にはまるで砲弾の様な大きさの赤い炎弾が4匹のブルファンガを消滅させていた。
残された2匹の猪はまさに光速の速さで自分の同胞が光の残滓に変えられた事も、その光の中でまた金色の光が瞬いた事にも気が付かず0,01秒も前の行動の続きである突進をしている。
そして才斗の背面から出た3色の砲弾に自らの存在を消し飛ばされた。
才斗はキラキラと舞い上がる光の残滓を浴びながら空から降ってくる杖を悠々と右手でキャッチすると。
「閃光詠唱と多重魔法ってところか?俺やっぱ超天才だわ」
そんな事をまるでちょっとしたボスを倒した子供の様に言うのであった。
なんかつっこみどころが多すぎる感じになってしまいましたw
意味不明と思われる方は次回簡単に書きますのでご容赦を