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クスノキ

作者: 蠍座の黒猫

霜月 透子様『ひだまり童話館 ぷくぷくな話』参加作品です。

今日は寒くない良い天気です。

イダンは夜明けの雲にしるしを見ましたから、森へやってきました。手にシャボン壺とストローを持っています。こんな日の、いちばん陽が蕩けてしまっている昼下がりにだけ妖精が遊ぶのです。

森の中へずっと入っていくと、ぽっかりと広場があって大きなクスノキです。

樹の傘の下に立って見上げると、こもれ陽が流れています。

おおきなクスノキの枝へ幹へと、さらさらと流れているのです。

ひかりの流れの中には、色とりどりの小さな妖精たちが見え隠れしていました。

赤い妖精は、カラスアゲハの黒い羽にネオンのシアンが綺麗です。

青い妖精は、ニジイロトカゲのしっぽを生やして薔薇色に頬を染めています。

金色の妖精は、羽化したばかりの蝉のよう。体全体が薄緑色に透き通っています。固い目をして、これから何かをどうにかしようとするようです。

銀色の妖精は、ひかりの中を軽やかに踊っています。ちょん。軽いステップ。くるり。しゃらしゃら纏ったススキの穂は花盛りのふんわりです。

そんな妖精たちが、いくつもいくつもひらひらとひかりの中に見えるのでした。

「ああ……どうしてこんなに美しいのだろう。」

イダンはこころの中で呟くのでした。


あんまり見とれていたものだから、すっかり森の中は静かになってもうすぐ日暮れです。

「いけない。これをこうして。」

イダンは、手に持ったストローをシャボン壺に漬けて、それからシャボン玉を吹きました。この森で吹く特別な今日のシャボン玉は、ぷっくりとふくれて割れることなく風に乗り、ひかりの帯の中へ混ざっていきます。イダンがストローを吹くたびに、

ぷくり。ぷくり。

と次々にニジイロのまあるい膜が揺れながら生まれていきます。ゆらありと揺れるニジの泡に妖精たちは大喜びして、

「はいりましょう。はいりましょう。」

口々にそう言ってシャボン玉の中へ入っていくのでした。

赤い妖精のシャボンは、ふわっとシアンにひかります。

青い妖精のシャボンは、きらきら朝日いろに輝きます。

金色の妖精のシャボンは、すっかり透明のダイアモンドみたいになって一点に留まり、きらり。きらり。と眩しいのです。

銀色の妖精のシャボンは、しん。と満月いろにひかって思い出のようです。

金色の妖精の他は、ひかりの流れの中をコロコロと転がり回って遊びましたから、お互いぶつかりあってしまって、

「おっとっと。」

「おやおや。」

そんな声。声。声です。

ダイアモンドになったつもりの金色の妖精は、すっかりと迷惑してしまって、

「もう。」

目が燃えるようです。

そのうちに、急に秋の陽はつるべ落としに傾きましたから、妖精たちは大慌てに慌ててしまって、口々に、

「かえらなきゃ。かえらなきゃ。」

そういって、夕焼け雲を目指して飛び去って行こうとします。そのとき、ぱちん。ぱちん。とシャボン玉は割れてしまいました。

妖精たちが帰るところは夕焼雲の一番上のところ、夜になる前の最後のニジのひかりの中です。

何層にも何層にも重なり合った色のひかりです。


おそらのうえのそのうえは

いつもいつでもはればかり

からりかわいているそらの

ゆうぐれひとつほしひとつ

きんのおほしにききましょう

あなたはなにがおすきです?

おおきなくじらのものがたり?

わかいかもめのぼうけんだん?

ふぶきのおやまのこもりうた?

にんぎょのうたうほしのうた?

よあけにひとつほしひとつ

わたしのみんなのすきなもの

からすあげはのすきなはな

にじいろとかげのひなたぼこ

いちばんしずかなあさのせみ

すすきにしみるおつきさま

さあいきましょういきましょう

おおきなおおきなおふねにのって

ほんのすこしのまたたきの

とおくてとおいところです

…………


妖精たちは、クスノキの梢を通って灰色の気配の空へ昇り、そこから弾けるように光って一直線にニジの雲へと向かいます。それは、まるで反対向きの流れ星のようにイダンには見えるのでした。

ぴかり。ぴかり。

幾筋もの真っすぐな光の線になって、妖精たちが少しさみしい諦めかけたような空を昇っていきます。

イダンは次々に放たれていく逆さまの流れ星たちを見上げながら、はあ。と溜息をつきました。見送ることしかできないのです。またいつ今日のように出会えるかは、夜明けの雲の色でしか分らないからです。

最後に残った金色の妖精が、イダンのほうを見たような気がしました。またね。と、聞こえたようでした。

逆さまの流れ星たちがすっかりぜんぶ消えたころ、太陽が今日の最後のひかりを投げました。イダンはそれを受け取ってシャボンの壺の中へ、そおっと入れました。

ふたをして一晩静かに寝かせてやりまして、朝の白い時間にゆっくりとよくかき混ぜれば特別なシャボン液の出来上がりなのです。

また妖精たちにあえるように。イダンは、いつも準備をしておくのでした。

この作品は、本来妖精たちの詩(ひらがな部分)のテキストをカラーで表示しようとしていました。でも、本文では出来なかった。。書いてから気付くいつものやつでした……

なので、割烹にて「クスノキ(フルカラー)」を載せています。もし、読んでやってもいいぞ。と思われる奇特な方おられましたら、是非どうぞ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 想像力を膨らませることができる素敵な童話だと思いました。朗読でもきっと子供たちは思い思いに妖精やシャボンを思い浮かべて楽しい時間が過ごせると思います。 シャボン玉って幻想的で妖精ととてもよ…
[良い点] 静かで美しい雰囲気の中で、少年と妖精の交流が描かれていると思いました。 活動報告の方の色付きの物語もみました。 >何層にも何層にも重なり合った色のひかりです から続く言葉の色に、イメー…
2016/11/24 05:50 退会済み
管理
[一言] 妖精たちが美しくて、愛おしくなりました。 自然の一部でできているような存在だから、決して自分のものにはできないんですね。だからこそ会いたい、少しでも長く見ていたいと思えるのでしょうね。 妖…
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