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異世界ヤドカリ物語  作者: 村吏
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1-1

異世界に召喚されるという奇跡体験をした。


このお金で買えないこのプライスレスには

「ヤドカリとして」という前置きがつく。


私は人だったはず。


なのに何でヤドカリになっているのだろうか?


人としての記憶は残っているが、

召喚以前の記憶はおぼろげで思い出せない。


たとえるなら何日も前の食事の内容を

思い出そうとするが出てこない感じ。


そんなもやもやが

記憶のところどころにかかっている。


そんなこんなではっきりとした記憶は

召喚された時点からになっている。






朝目が覚めるように意識がはっきりとしてくると、

いつもと周りの状況が違っている。


ん?いつも?


いつもの状況を思い出そうとするが

わからなくなってしまう。


ただ、こんな発光する床なんてしらない。


夢でも見ているのか?目を手でこすろうとすると

そこあったのはカニの手だった。


!!!!!!


驚いて立ち上がるが視線がまだに低い位置にある。


???


あわてて自分の体を見回してみる。


両手はまさしく硬い甲羅に包まれたハサミ。


足もいっぱいあるが不思議と難なく動かせる。


背中にはなにやらボーリングほどの

大きさの岩とそれに根付いた木が生えている。




・・・まぁこんなの絶対夢ですね。




そんなこんなしていると床の光が薄れてゆく。


山小屋のような室内にいかにも魔法使い

な服装をした白髪のお爺さんが現れた。


なるほど、この前見ていた魔法使いの主人公が

宇宙人にキャトルミューティレーションされ

改造人間になった後、時空を超えて料理対決する。


あの映画の影響かな?


いたもんなー、こんな感じの魔法使い。



「・・・」



どうしよう?めっちゃ見られてる!!!


場の空気を察するに「あなたが私のご主人か?」

ぐらい言ったほうがいいのか?



!?



ひとまず挨拶をしようと口を開くが言葉が出ない。


というより発音できない!


やっぱり呼吸器がヤドカリだからか?


そんな突然な状況にあたふたしているさなかに、

その魔法使いの老人がぼそりと



「どうしようかのぅ」



あーこれは期待を裏切って出てきた結果に

どう対応すればいいか悩んでる時の反応だ。


そう、主にガチャとか、ガチャとか・・・。


しばし見詰め合う老人とヤドカリ。


そんな空気を壊すように部屋の扉が突然開かれた。


金髪美少女の登場である。



「・・・お爺様?魔法使うのは控えてくださいって

お願いしましたよね?」


「おぉちょうど呼ぼうと思っておったところじゃ」


「ちょっと!お爺様私の話聞いてます!?

お体に障るから魔法は極力控えてくださいと!!!」


「わかっとるわかっとる。

ただ今回はどうしても必要じゃったのじゃ」


「必要って・・・」



私と目が合う。


顔立ちが良くきれいな金髪がとても栄える美少女。


街中で会えば絶対二度見してたな。


そんな美少女に見つめられてドキドキしてしまう。


ただ残念なところは。


このドキドキが恋心的な意味ではないことだ。


め、目が怖い。何人か葬っている人の目をしてる。



「もうそろそろ出発の時期が近いと思っての、

お前の使い魔を召喚したのじゃ」


「使い魔って・・・この弱小モンスターですか?

こんなの召喚するために魔法を使ったんですか?」



どんどん怒気を帯びていく声がめちゃくちゃ怖い。


ってか私の扱いっていったい。



「り、リサや、見た目やランクがすべてではない。

さ、さぁ、ヤドカリ君!君の力を見せてくれ!」



私の力?何かあるの???


まぁでものりって大事だよね?


がんばれ私!やれば出来る!出来る気がする!!!


私の内に眠る熱い魂の鼓動を感じるんだ!




(カタカタカタ)




「おぉ!ヤドカリ君が震えておる!!!」


「・・・」




来てる、来てます!ヤドカリパワーよ、

今こそわが右手にてその力を顕現せよ!



(ヴ・・ヴヴ・・ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!)



「「・・・・・・」」



うわー、うわー、めっちゃ震えてるぅー。


バイヴレーション機能付とかマジですか?


ってかこの掲げた右手をどうしよう・・・。



(ガシ) ん?



美少女に鷲掴みにされ、

綺麗なオーバースロー投法から射出される私。


物突き破った窓の先には見渡す限りの大自然。


青い空、果てしない地平線、近づいてくる大地。





(ドゴォーーーン)








・・・んぁ!!!



気がつくと私は先ほどの魔法使いのお爺さんに

抱きかかえられていた。



「気がついたか!?さっきはすまんかったのう。」



そっか、私は地面に衝突して気を失っていたんだ。


近くにはかなり大きな陥没がある。


そして見上げると高い塔。


あ、あんな高いところから落ちたのだろうか?



「正直死んでしまったかと思ってヒヤヒヤしたぞ。

無事で何よりじゃ。」



さすが夢!無傷!平気!




「さきほどはヤドカリ君を危ない目に

あわせてしまったのじゃが、安心しておくれ

あれは一種の照れ隠しみたいなものじゃて、

根は優しくていい子なんじゃ」



え゛?照れ隠しで殺しにかかってくる子がいい子?


ちょっと孫補正強すぎませんか?



「優しくて良い子なんじゃ、ヤドカリ君も

そんな子の使い魔になりたいじゃろ?」



使い魔?よく魔法使いのお話に出てくるあれかな?


ごめんなさいお爺さん。


私にはそんな縛られるような生き方は似合わない。


両手でバツを作る。


かっこよく。そう!私はNOといえる私。



「・・・優しくて良い子なんじゃ、ヤドカリ君も

そんな子の使い魔になりたいじゃろ?」



あれ?もしかして見えてない?


もう一度両手でバツを作る。



(ミシッ)



「・・・優しくて良い子なんじゃ、ヤドカリ君も

そんな子の使い魔になりたいじゃろ?」



お、おま、腕にどれだけ力いれてるの?


甲殻にヒビはいってないですか?


数十メートルの落下を耐え抜いた

私のミラクルボディが悲鳴をあげている。


ってか痛い!あれ?痛い!?ゆ、夢じゃないの?!



「・・・じゃろ?」



語尾だけになった!


「言わなくてもわかるよな」って意味ですか!?


まぁ私もね?そこまで必死に訴えかけるお爺さんの

お願いを断るなんて出来ない。


姿形はヤドカリであろうとも、この心は人なのだ!


そう私の心が助けてあげてと叫んでる!


そう、別に力に屈したわけじゃない。


左手の感覚がなくなっているとか断じてないし。


甲羅の軋む音にビビッているわけではない。


人としての人情がそうさせるのだ。


片手で何とかOKの意思を示す。



「そうか!なりたいか!よかった、よかった!」



喜んでいただけてうれしい限りです。

だから放そうか?腕を。



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