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わが青春のフランソワーズ  作者: RYO太郎
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終章  祝着至極のはずだけど その①



 救国王侯同盟による謀反とそれに続く内戦は、女王軍の勝利で幕を閉じた。

 戦後の処理と仕置きのため、女王の勅命を受けて各地を奔走していたランマルは二ヶ月ぶりに国都に戻り、行く先々での苦労や処罰を受けた貴族たちの悲哀をフランソワーズに語るのだが……。


 





 この日、僕はじつに二ヶ月ぶりに国都の土を踏み、同様に王城の門をくぐった。


 陽も大きく西に傾き、山峰の稜線にまもなくその姿を消そうとしていた時分のことである。

 

 その僕だが、二ヶ月もの間、国都を離れてどこで何をしていたのかというと、先の謀反とそれに続く戦いの「戦後処理」のために国内各地を奔走していたのである。

 

 なにしろ先の内戦終了後、謀反に加担した貴族たちの領地はことごとく没収されて、その大半が天領に、つまり王家の直轄領となったわけだが、没収したからそれでよしというわけにはいかない。

 

 領地の規模を正確に検分したり、所有する財産の額を精査したり、新たに領地を治める代官などの人選を決めたりと処理しなければならない事案は山ほどあり、そして、その種の「メンドクセー」ことはどういうわけか僕の仕事になるわけで、かくしてフランソワーズ様から勅命をうけた僕は、今日まで国内を西に東に駆けずりまわっていたのである。

 

 それでも検地や人事だけで済めばまだマシであった。

 

 現地に赴いた僕を手こずらせた、というか苦悩させた一番の理由は、かたくなに領地の没収を拒む貴族たちの存在だった。

 

 むろん、ほとんどの貴族は仕置きに従い、おとなしく屋敷や領地をあけ渡して新たな居住の地たる国都に移住してくれたのだが、一部の貴族の中には、


「先祖伝来の領地を奪われるくらいなら死んだ方がマシだ!」


 とばかりに家族や親族とともに屋敷や城に立てこもり、検分や調査に抵抗する者たちがいたのだ。

 

 謀反に与しておいてなにを言うか! という反発の気持ちがある一方で、父祖から代々受け継いできた領地を取り上げられた彼らのやるせない心情は同じ貴族である僕にはそれなりに理解できるし、あまつさえ爵位を失い、光輝ある諸侯から「平貴族」へ転落したことに自暴自棄(やけつぱち)になるのもわからないではないが、かといって手をこまねいてグズグズやっていたら、今度はこっちがフランソワーズ様の怒りを買いかねない。

 

 いちおう二千人の兵士をともなっていた僕には、その気になれば彼らを武力で排除することもできたし、実際、僕の補佐役を務める将軍の中には「いっそ屋敷に火をつけていぶりだすべきでは?」という苛烈な意見を主張する者もいたのだが、僕はあえてその種の強硬論には耳をかさなかった。

 

 犠牲をともなう手法が僕の「カラー」じゃなかったこともあるが、一番の理由は謀反とそれに続く内戦がようやく終わった今、これ以上不必要な血を流して、フランソワーズ様とウォダー王家に憎悪が注がれるようなことだけは避けたかったからだ。

 

 それゆえ僕は、血気にはやる将兵たちをなんとか諫めて「穏便策」を選んだのだが、そうはいっても実際にとった手法というのが、兵士たちに鉄槌(ハンマー)などで屋敷の扉を破壊させて中に突入させ、立てこもる人々を一人残らず縄で縛りあげて強引に引きずりだすというものだから、それがはたして「穏便策」であったかどうかは意見の分かれるところかもしれない。

 

 それでも双方に負傷者の一人もださなかったことに僕は満足している。

 

 検分や調査が終りしだい、抵抗した貴族たちを僕の独断で罰することなく解放したことは、いつぞやのヒルデガルド将軍のようにフランソワーズ様の不興をかう恐れもあったが、そのときはそのときだと覚悟を決めて彼らを不問に付したのだ。

 

 かくして多少のすったもんだはあったものの、それでもどうにかこうにかすべての戦後処理を終わらせた僕は、ようやく今日、国都に帰ってきたというわけである。

 

 王城に入った僕は、そこで出会った部下のフォロスからフランソワーズ様が執務室ではなくバラ園にいると聞き、そのまま城の中庭にあるバラ園へと向かった。

 

 途中、エマ様にも帰城の挨拶をしてこようかと思ったが、そのエマ様はというと兄君のカルマン殿下が追放処分をうけて国外へと去ったあの日以降、城内の自室に引きこもりがちになっていて、フランソワーズ様とさえもろくに顔を合わせようとしないのだ。

 

 もちろん僕などは論外で、いつだったか、さすがに心配になって慰めの声をかけにいった際には、


「入ってきたらグーで殴るからね!」

 

 と、扉越しに恫喝してくる始末。恋人に対してずいぶんな話である。

 

 それはともかく、城の回廊を歩いていた僕の前方にバラ園が見えてきた。

 

 王城の北側に位置するバラ園は、さかのぼること七代前の国王が自身のバラ好きが高じて中庭のひとつをまるまる造成して造らせたもので、以後、歴代の国王に受け継がれている。

 

 真紅、白、黄色といったさまざまな色の無数のバラが園内の敷地を埋めつくすように咲き乱れ、その合間を縫うようにタイル敷きの園路が縦横に走っている。

 

 僕がその園内に足を踏み入れたとき、フランソワーズ様は園路の一画に立ち、ドレス姿のまま園芸用のハサミを手にバラの手入れをしていた。

 

 意外と思うかもしれないが、フランソワーズ様はバラの栽培が趣味なのである。

 

 手入れの技術や栽培知識は玄人はだしで、園芸業者を雇うことなくほぼ一人でこのバラ園を管理しているのだ。

 

 そのフランソワーズ様の傍らにまでゆっくりと歩を進めると、僕はその場に片膝をついてかしこまった。





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