第三章 ゴッド・セーブ・ザ・クイーン その⑪
「惜しゅうございますな……」
「うん? 惜しいとは、カルマン殿下のことか?」
「はい。才幹といい為人といい、大公殿下と女王陛下が手を携えてこの国の舵取りをなされば、きっと良い政事がおこなえたでしょう。にもかかわらず、あのような軽挙な所業に加担されるとは、私にはまことにもって残念でなりません。聡明な殿下らしくもない……」
「…………」
ため息まじりのフォロスの慨嘆に僕は沈黙を守ったが、それは彼と意見を同じくするからではなく、逆に異とするからであった。
二人が手を携えればとフォロスは言うが、あの性格や思考性、気性といったものがまるで正反対の異母兄妹がこの先、不和を起こすことなく二人三脚で政事をおこなえたかというと、僕にはとてもそうは思えなかった。
たしかに今回の謀反劇は、ダイトン将軍ら反動派の面々が中心となって起こされたものであり、カルマン殿下は彼らに懇願されてしかたなく盟主に就いただけで、けっしてフランソワーズ様が憎くて謀反に加担したわけではない。おそらくそのことはフランソワーズ様自身も承知しているはずだ。
だが、この先将来において、フランソワーズ様と対立したカルマン殿下が、今度は自らが首謀者となって同様の事件を引き起こすことは絶対にないと誰が断言できるのか。
先の人事を見てもわかるように、フランソワーズ様との「火種」は事欠かないのだ。そして、万が一にもそのような事態が起きれば、そのときこそ互いの憎悪を直接ぶつけあう、本当の意味での骨肉の争いがこのオ・ワーリ王国で引き起こされるのだ。
そう考えたとき、これはまったくの極論かもしれないが、今回の事件とその結末は、あるいはフランソワーズ様とカルマン殿下にとって「救い」ではなかったのかと僕は思うのだ。兄と妹が互いを心底から憎むことなく「破局」を迎えることができたのだから……。
そんなことを考えていた僕が、思案の淵から脱してふと顔を上げたとき。玉座に座るフランソワーズ様と視線があった。透きとおるような碧眼で僕の顔を見つめている。
否、僕を見ていたのはフランソワーズ様だけではなかった。参列者の誰もが怪訝そうな目で僕に視線を集中させているではないか。
わけがわからず僕がポカンとしていると、
「ランマル卿、早く閉会の宣言を」
と、後背からフォロスがささやいてきた。その一語で僕は完全に状況を理解することができた。
つい失念していたが、本日の式典の進行役たる式部官は自分なのである。
さらにいえば虜囚の引見が終われば式典も終了となるのに、僕はぼんやりと考え事をしていて、いつの間にか引見が終わったことにまるで気づかなかった。
つまりフランソワーズ様や列席者たちの視線は「このダボッ、さっさと式を終わらせんかい!」という無言の催促だったのである。
遅まきながらそのことに気づいた僕は慌てて声調を整えると、声高に式の終了を告げた。
「い、以上をもって、戦勝式典の閉会を宣言いたします!」