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わが青春のフランソワーズ  作者: RYO太郎
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第三章  ゴッド・セーブ・ザ・クイーン その⑩

「フェニックス騎士団長ヒルデガルド将軍。こたびの反乱軍討伐および戦勝の功績により、汝を南部モンブラン領の領主に任じ、あわせて男爵号を授与するものである。オ・ワーリ王国女王フランソワーズ一世」


「ははっ、つつしんで賜りとうございます」

 

 ヒルデガルド将軍が膝をついたまま低頭したのと前後して、参列者の間に小さなどよめきが走った。


 いかに女王の信頼厚い側近であろうと、いくら戦勝の功労者であろうと、まだ二十歳にも満たない女の子がいきなり爵位と領地を与えられて諸侯になったのだから、彼らが驚嘆のあまりどよめいたのも当然かもしれない。

 

 おまけに彼女に下賜されたモンブラン領はわが国屈指の肥沃な穀倉地帯としても知られ、石高に換算すれば三千石はあろう大領である。これより規模の大きな領地をもつ貴族は、おそらく両手の指の数を出ないであろう。

 

 むろんヒルデガルド将軍だけが栄達したわけではない。ほかの三人の将軍たちも同様の恩賞をフランソワーズ様より賜ったのである。


「タイガー騎士団長ガブリエラ将軍。汝を西部グランディエ領の領主に任じ、あわせて男爵号を授与するものである」


「ドラゴン騎士団長パトリシア将軍。汝を東部モリエール領の領主に任じ、あわせて男爵号を授与するものである」


「タートル騎士団長ペトランセル将軍。汝を北部ジェルジェ領の領主に任じ、あわせて男爵号を授与するものである」

 

 三人に与えられた領地もまた、ヒルデガルド将軍のモンブラン領に匹敵する大領ばかり。かくして二十歳にも満たない四人のギャルたちは、一夜にして王国屈指の大貴族になりおおせたのである。

 

 まさに夢のような四騎士団長の栄達ぶりに、広間の参列者たちはどよめきとともに羨望のため息を漏らしたが、彼らにため息をつかせた理由の八割くらいはガブリエラ将軍にあるのではないかと僕は推察した。

 

 貴族とは名ばかりの貧家の出身とはいえ、ともかく貴族であるヒルデガルド将軍や、下級騎士の家に生まれたペトランセル将軍やパトリシア将軍とは異なり、ガブリエラ将軍は貴族でも騎士階級でもない平民の、それも辺境の村の貧しい地主の娘である。

 

 それが立身すべく国都にやってきて、幸運にもその武勇の才を女王に認められて近衛隊の一員として召し抱えられたばかりか、あれよあれよという間に騎士団長の一人に抜擢され、今まさに諸侯にまで登りつめた。これがよその国なら夢物語として一笑に付されるであろうが、わが国では刃より冷たい現実(リアル)(どういう意味?)なのである。


 そんなこんなで功労者に対する恩賞の授与が終わると、式典は次の段階に移った。

 

 戦いに敗れて虜囚となった敵将たちの引見である。

 

 最初に広間に連れてこられたのはやはりというべきか、盟主であったカルマン殿下だった。

 

 屈強そうな衛兵に左右をはさまれて、おまけに両手首には木製の手枷がはめられている。まさに絵に描いたような罪人の姿であり、これが先王の長子として生まれてこの国の宰相まで務めていた人間だというのだから、かくも敗者とは無残なものである。

 

 もっとも当のカルマン殿下には恥じいった様子も悪びれた様子もなく、階の上のフランソワーズ様を毅然とした態で正視している。


「カルマン卿、久しいですわね」


「陛下もご機嫌うるわしくなによりと存じます」

 

 二人とも淡々とした口調であり態度だった。その表情もまさに「無」で、お互いへの心情や感情といったものはまるでうかがい知れない。


 ややあって、フランソワーズ様が語を継いだ。


「さて、カルマン卿。先の一件について、なにか弁明したいことはありますか?」

 

 するとカルマン殿下はゆっくりと首を振り、


「いいえ、ございません。ですが、お許しを得られるならばひとつだけ陛下にお願いしたいことがございます」


「よろしい。伺いましょう」


「一連の謀反の企ては、すべて盟主たる自分が主導したものございますれば、同盟に参画したほかの貴族や将兵たちには、なにとぞ寛大なるご処分を願うものであります」

 

 ええっ、それはちがうでしょう、殿下! 僕は一瞬、驚きのあまり喉もとまで声が出かかったが、すぐにカルマン殿下の胸の内は読めた。自分の一人でいっさいの責任を負い、謀反に加担したほかの貴族たちの助命をはかるつもりなのだ。 

 

 僕はちらっと階の上に視線を転じた。そこではフランソワーズ様が沈黙を保ったままカルマン殿下を見すえていたが、やがて小さく息を吐き、


「わかりました。要望として伺っておきます。それでは後日、あなたへの沙汰を通達いたしますゆえ、それまでは城下において謹慎することを命じます」

 

 フランソワーズ様の一語にカルマン殿下はゆっくりと頭を垂れた。そして踵を返し、衛兵にはさまれたまま広間から出ていった。


 傍らにいたフォロスの、ため息まじりにつぶやく声が耳をうったのは直後のことである。






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