第三章 ゴッド・セーブ・ザ・クイーン その⑨
次の日の夜。王城の謁見の間には多くの貴族や騎士、それに文武の官吏たちが集まっていた。
城に参集した最たる理由はむろん戦勝式典に出席するためだが、彼らの本当の目的はその席上で発表される「恩賞」にあるだろう。
なにしろ先の戦いで国内の七割近い貴族が「賊」として捕らえられ、早晩、地位も領地も財産も取り上げられることになるのだ。
となれば爵位に領地、さらには重臣の席にも空きができるわけで、集まった人々にしてみれば自分がどのような恩賞を女王から賜るのか、心躍らさずにはいられないといった心境だろう。
その式の進行役たる式部官を命じられた僕は、広間の一隅で彼らとともにフランソワーズ様があらわれるのを待っていた。
ちなみにいつも式部官を務めている中年の侍従官はというと、謀反とそれに続く内戦に心労がたたったとのことで、現在、自宅療養中とのことだった。気の毒な話である。
そんなことを考えている間にも、式の開会を告げる奏楽隊のラッパの音が響きわたった。
じゃあ呼ぶとするか。僕は大きく息を吸いこみ、声もろとも吐きだした。
「神聖にして不可侵なる統治者。地上における法と秩序の守護者。慈愛と万物の美の化身たる美愛の女神の生まれ変わり……」
言っている途中で僕は気恥ずかしさから舌を噛み切りたくなったが、原稿の作成者から「一字一句でもまちがえたら承知しないわよ!」と恫喝されていては仕方がない。
ともかく僕は忍耐力を発揮して最後まで言い続けた。
「オ・ワーリ王国女王フランソワーズ一世陛下、御入来にございます!」
語尾に重なるようにふたたびラッパの旋律が広間内に響き、参列者たちがいっせいに頭を垂れる。
ほどなく扉が開かれると、数人の衛司をひきつれたフランソワーズ様が広間内にあらわれた。
黄金造りのティアラとダイヤをちりばめたネックレス、そして純白のロングドレスで着飾った姿で、床に敷かれた緋色のカーペットの上をゆっくりとした歩調で進んでくる。
やがて階をあがり、玉座の前でくるっと身体の向きを半回転させると、いまだ低頭を続ける参列者たちに「頭を上げてください」と声をかけた。参列者全員が頭をあげて玉座に視線を集中させたのをみはからい、ふたたびフランソワーズ様が声を発した。
「今宵の皆の参列にこのフランソワーズ、心より嬉しく思います。さっそくではありますが、これより先の戦いにおける戦勝式典を執りおこないたいと思います」
式典はまず女王軍の勝利に貢献した人々への論功行賞からはじまった。
いの一番にフランソワーズ様に指名されたのは、もはや説明無用のあの四人のギャル将軍たちである。
「四騎士団長、前へ!」
フランソワーズ様の声に、軍装姿のヒルデガルド、ガブリエラ、パトリシア、ペトランセルの各騎士団長たちが武官の列から階の下まで歩を進め、そこで一斉に片膝をついてかしこまった。
「先の反乱軍との戦いにおいて、そなたらの働きはまことに見事でした。女王として心より礼を言わせてもらいます」
「はっ、身にあまるお言葉にございます、陛下」
一同を代表してヒルデガルド将軍が応じるとフランソワーズ様は小さくうなずき、後背に控えていた侍従官長から一枚の紙片を受け取って、よく響きわたる声でそれを読みあげた。