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わが青春のフランソワーズ  作者: RYO太郎
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第一章  女王フランソワーズ一世 その④

 その日、王城の中は昼を過ぎたあたりから凄まじい喧騒につつまれた。


 そりゃそうだろう。僕が夜通しかけてしたためた招集文によって、宰相をはじめとする国の重臣たち、国内の貴族という貴族、将軍という将軍がわんさかと駆けつけてきたのだから。これに彼らを迎える城勤めの侍従官や女官たちをくわえると、もう城の中はてんやわんやの大騒ぎ状態である。  

 

 一方、そんな彼らを呼び集めるために寝ずに招集文をしたためて精根尽きはてた僕はというと、それまで自分の寝所で死んだように眠っていたのだが、昼になるすこし前に部下のフォロスに呼び起こされた。すべての招集対象者が城に集まったというのだ。

 

 その一語に飛び起き、身支度を整えて慌てふためきながらフランソワーズ様の執務室に駆けつけたとき、そこではまるで処女雪の結晶を織ったような純白のドレスに身をつつんだフランソワーズ様が、お側付きの女官たちに囲まれていた。黄金造りの王冠をはじめ、さまざまな宝石類をその身に飾らせていたのだが、僕には無粋に思えてしょうがない。

 

 どんなに横暴だろうと人使いが荒かろうと気性が激しかろうと、フランソワーズ様が天上の女神ですら嫉妬するであろう美貌の所有者であることは疑いなかった。

 

 どんなにきらびやかな宝石であっても、フランソワーズ様の白皙の美貌の前では道端に転がっている石ころにひとしいというものだ。これでもうすこし「おしとやか」であれば完璧なのにと、僕ははなはだ残念でならない。ま、ちょっと褒めすぎかもしれないが。

 

 ともかく執務室に入った僕はフランソワーズ様の傍らにまで歩を進めると、その前でひざまずいてかしこまった。


「ランマル、ただいま参りました」


「遅いわよ、ランマル。主席侍従官がそれでは下の者に示しがつかないでしょう!」


「は、はい、申し訳ございません、陛下!」

 

 いきなり叱責されて僕は恐縮して低頭したが、内心では腹立たしくてしょうがなかった。

 

 だってそうだろう。寝坊の原因はすべて、フランソワーズ様が労働基準法ガン無視(?)のムチャな仕事を僕に押しつけたからなのに、このスイカップ女王様はそんな僕の労をねぎらうどころか、頭ごなしに叱責する始末。これでは腹を立てるなというほうが無理だろう。

 

 僕が超人的忍耐力を発揮してどうにかこうにか怒りを鎮めている間にも、フランソワーズ様の衣装の準備が終わったようだ。

 

 そのことに気づいて顔をあげたとき、凜とした威厳をまとった姿が視線の先にあった。

 無粋とは思いつつも、やはりきらめく黄金の王冠や宝石類は、この美貌の女王様をよりいっそう映えさせることは否定できない。


「さあ、いくわよ」


「はっ!」

 

 フランソワーズ様の声を端にして、僕たち近習の侍従官や女官がその後に続き、執務室を出て謁見の間へと向かった。

 

 王城内には謁見用の広間がいくつかあるが、この日、使われているのはその中でも最大の広さを持つ「白バラの間」である。一度に千人の人間を収容できる大広間だ。

 

 フランソワーズ様を先頭にその広間の扉の前に立つと、ほどなく中から音楽隊によるラッパの演奏に続いて、入来を告げる式部官の声が聞こえてきた。


「オ・ワーリ王国女王フランソワーズ一世陛下、ご入来にございます!」

 

 語尾にまたしてもラッパの音響が重なり、直後、広間の扉は開かれた。

 

 広間の入口から奥にある三段層の(きざはし)までは真紅の絨毯がまっすぐ伸びていて、その玉座はその階の最上段におかれてある。


 フランソワーズ様を先頭に僕たちは、その絨毯の上を奥に向かって広間内を歩きだした。

 歩を進めるたびに、絨毯をはさんで両側に立ちならぶ重臣や貴族たちがいっせいに頭を垂れる。女王一人に対する儀礼とわかっていても、僕としては優越感を感じずにはいられない瞬間である。

 

 それはともかく、やがてフランソワーズ様が階に進みいたり階段を上がって玉座の前に立つと、それまで演奏されていたラッパの音がぴたりと止んだ。止むと同時にそれまで低頭していた参列者たちが姿勢を戻し、いっせいに正面に向き直る。

 

 絨毯をはさんで右側の列に立ちならぶのは、国の重臣やその下で働く文官たちで、そして、その一番先頭に立つのが王国宰相にしてフランソワーズ様の実兄であるカルマン大公殿下である。

 

 カルマン殿下は、フランソワーズ様より四歳年上の二十四歳である。

 

 均整のとれた長身の所有者で、赤みかかった金色の髪と碧眼とで構成されるその容姿は、まさに貴公子(プリンス)という表現がぴたりとはまる。

 

 そのカルマン殿下だが、いちおう宰相という家来として最高の地位、大公という貴族として最高の爵位にあるものの、その境遇には同情を禁じえないところが僕にはある。いくら庶子とはいえ先王オーギュスト十四世の長男であることはまちがいなく、長子相続という伝統的な継承制度からすれば、宰相どころか王位に就いてもおかしくない人なのだから。

 

 オーギュスト王がもし生前のうちにも王太子として正式に擁立していれば、死後、兄弟の間で骨肉の争いをすることなどなく、またオ・ワーリ国内が内戦で混乱することもなく、ましてや目の前の玉座にふんぞり返るデカ乳のネーチャンが「どさくさまぎれ」に女王になることなかったのだから、ますますもってオーギュスト王の罪は深いと思う。ま、今さら言っても仕方のないことだが……。

 




 


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