使命
天界では何やら鬼達に不穏な動きがあるらしいとの噂で持ちきりだった。
天上人達が暮らすある村に夫婦がいた。妻は夫に新たな命を授かった事を告げる。夫は大変喜んだ。夫婦は幸せだった。
そんな幸せを壊す出来事が起こる。
鬼達が村を襲撃してきたのだ。噂は本当だった。鬼達は家に火を放ち、老若男女、子供問わず、片っ端から天上人達を殺し、金品を略奪していった。
夫は妻に言う。
「さあ早く、お前達だけでも逃げるんだ!!」
「嫌よ、あなたも一緒に!!」
「ダメだ!!逃げる時間は稼ぐ、早く!!大丈夫、私も後を追う。お前はお腹の子供を守っておくれ。」
妻は泣く泣くその場から逃げ出す。
妻の後方では、村人達の悲鳴が所々から聞こえた。妻は走った。だが、一匹の鬼が一人も逃がすまいと追ってきた。鬼はすぐそこまで迫っていた。
妻は、自分の命の終わりを悟る。
「せめて、生まれてくるこの子だけでも…。」
と、自分のお腹に手をあて、『命のかけら』をゆっくりと取り出す。それは、温かい本当に小さな光の玉だった。
「ごめんね…、どうか幸せに、お父さんとお母さんの分も生きてね。ごめんね、どうか幸せに…。」
そう言うと、その小さな光の玉を地上へと逃がしたのだった。
命の光の玉はゆっくりと、ただゆっくりと地上へと舞い降りていった…。
舞い降りた光の玉は桃に宿り、その桃は川に落ちて、下流へと流れていく。
その桃から生まれた少年が、犬、猿、雉を従え鬼討伐の旅に出るのは、それからまだ先の話である。