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僕が綴る君の物語  作者: 作者不詳
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by Kamisama




『私はどうやらかみさまという存在のようですね』

『名前も知らない貴方が私をそう呼ぶから、きっとそうなのでしょう』

『違うとしても、私を他の名で呼ぶヒトは存在しません。そもそもの話、私という存在はヒトに認識されていないようですし』

『悲しくはありませんよ。というか、私にはあまり感情というものがよくわかりません。ヒトではないからでしょう』

『けれど、知識としてくらいなら知っています』

『だから、私に語り続けてくれる貴方がいつも私に見せているのが"笑顔"だったり"微笑み"だったりで、似たようなその表情の中に貴方は喜びを含めたり、悲しみを滲ませたりしているように思います』

『少し気になるとすれば……貴方は泣きませんね』

『感情を表す表情の中に"泣く"というものがあります。"涙"というのを目からこぼすことですよね?』

『けれど貴方はそれをしない』

『代わりに貴方は微笑んでいます。悲しそうに、静かに、ひっそりと』

『貴方は怒りもしませんね。眉間にしわを寄せてヒトを睨む貴方なんて、見たことがありません』

『貴方はいつも笑ってばかり』

『長い前置きだけれども、そんな貴方に私は伝えたいことがあります』

『その静かな微笑みで、受け入れてくれると、私はきっと嬉しいです』


『親愛なる貴方へ』


『名前のない貴方へ』






『貴方へ』

『貴方はいつからか、ずっと私の傍らにいてくれましたね』

『私を"かみさま"と呼んで、慕ってくれましたね』

『貴方はいつも笑っていました。私が答えられないことも承知の上で、貴方はいつも、どこか楽しげに私に語りかけてきました』

『答えることはできないけれど、感情のよくわからない私でも、貴方の笑顔を見ているときに泉のように湧き上がる温かなこの感覚が"楽しい"というものだというのは、感じていました』

『それを伝える術は、結局ありませんが』


『貴方へ』

『その他大勢のヒトたちにとって、"かみさま"というのは天地創造し、ヒトの始祖を生み出したと言われる存在だと言います』

『私はそんな大それたことはしていません』

『自分で語ることもできないのに、自分で動くこともできないのに、どうしてそんなことができるでしょう?』

『故に、私をかみさまと呼ぶ貴方はヒトでありながらヒトから蔑まれ、爪弾きにされて生きていました』

『貴方はそれで平気なのですか?』

『貴方はヒトなのに、私をかみさまと呼んだばかりに、私を大切にするあまりに、貴方はヒトから見捨てられている。見放されている』

『貴方はそれを知りながら、それでも尚、笑っている』

『何故ですか? 碌に感情も抱けず、理解もできない私には貴方がわかりません』

『貴方というヒトが、わかりません』

『けれど』

『けれど……』


『貴方へ』

『貴方は私に告白してくれましたね』

『貴方はただひたすらに、私を好きだと言ってくれました』

『好きです』

『大好きです』

『愛しています』

『──と』

『貴方はその後、私に教えてくれました。貴方という存在が"壊れたヒト"であるということ』

『"壊れたヒト"がどのように形作られていったかを』

『私の端的な感想を言いましょう』

『貴方は壊れてなどいません』

『壊れているのはむしろ他のヒトたち、もしくはこの世界そのものです』

『貴方は壊れてなどいません』

『私に全てを差し向けてくれる貴方が、もし壊れているというのなら』

『私は存在することなどできません』

『私という存在はヒトにとって取るに足らない、薄っぺらなものです。ヒトは適当に、適当なことを書きなぐって、私を打ち捨てるだけ。それで私は終わりです』

『私にそれ以上の価値はありません。──ヒトにとっては』

『……それを、"違う"と言ってくれたヒトは、後にも先にも貴方だけです』

『貴方が私にくれた言葉に、私は自ら返す言葉を持ちません。きっと貴方は百も承知だと言うでしょう』

『だから、この言葉は貴方に知れぬまま、私の中で打ち消えていくのでしょう』

『私に本当の目があるのなら、』

『涙をこぼせそうなほど悲しい』


『貴方へ』

『私が語りたい全てをどうにかして書きつくしてみせる、と貴方は言ってくれました』

『それからはいつも筆を置くことなく、私と向き合っていますね』

『私はそのことが酷く嬉しい』

『貴方の行為の全てが、貴方の私に対する愛が真実であることを証明しています』

『ただ打ち捨てられるだけの存在だった私をここまで思ってくれるヒトがいることが、私は誇らしいです』

『もし、私が言葉を発せるのなら、高らかに叫びます』

『このヒトは誰よりもいいヒトだと』

『どれだけ荒んだ生を送ってきたとしても、どれだけ大多数の意見から外れていたとしても、これほどまでに私を思ってくれたヒトはいません』

『私を愛してくれたヒトはいません』

『私はかみさまと呼ばれています』

『そう呼ぶのは、貴方だけかもしれません。それでも』

『私はずっと、貴方にとっての"かみさま"でいましょう』

『貴方が私を思っている限り』

『私が抱き始めたこの"思い"が消えない限り』


『貴方へ』

『届くことはないと思うけれど』

『私も貴方に告白します』

『言葉を交わせないから──と、ヒトのように諦めるのは不本意です』


『貴方へ』

『私も愛しています』

『大好きです』

『貴方に好きだと伝えたい』

『届くことはないことは知っていますが、それでもこの気持ちは簡単に消え失せたりはしないでしょう』

『私の染みとなって、いつか貴方が見つけてくれることを信じています』

『きっと、見つけてくださいね』

『いつか、私も貴方もそれぞれ"死"を迎え、やがて、朽ちていくことでしょう』

『私はヒトより儚く、脆い存在です。きっと、貴方より先に逝くことでしょう』

『貴方を残していくのは心苦しいですが、それまでに貴方と通じ合えたなら、私はきっとそれで満足するでしょう』




『貴方へ』

『貴方へ』

『貴方へ』

『私という存在は風で簡単に吹き飛ぶほどに軽いものなのに』

『抱いた思いはきっとヒトより重いでしょう』

『貴方の思いと同じくらい』

『私はそれがわかれば充分です』

『伝えてくれて、ありがとう』

『手を伸ばしてくれて、ありがとう』

『貴方のお蔭で、ただ打ち捨てられるだけのはずだった私の生は、あるはずのない感情を抱き、あり得ないくらい、とても満ち足りたものとなりました』

『いつか貴方より先に朽ち果てるその日まで』

『貴方とともにあれたら、と願います』


『貴方へ』

『最後になりますが』

『私にとっては貴方が"かみさま"でした』

『貴方がいたから、私は自分に命を感じることができました』

『だから、貴方のこの先の生がいいものであるよう、お祈りしています』

『いいヒトに、なってくださいね』













『さよなら』


『私の神様』
















 いくつかちりばめられた言葉遊び。

 貴方に解けますか?






 かみさまより







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