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僕が綴る君の物語  作者: 作者不詳
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to Kamisama




 僕の大好きなかみさまへ。

 誰が何と言おうと、貴方はかみさまです。





 かみさま。

 僕は君が大好きです。

 白い髪の毛、白い肌、そして鉛筆で塗りたくったような灰色の瞳。自分では言葉を紡げない意味のない唇。君の全てが大好きです。


 かみさま。

 君が僕の告白に決して答えられないことは百も承知です。

 だって君はかみさまだから。

 けれど、かみさまだからこそ、僕の支離滅裂な告白も受け止めてくれるでしょう。だから僕は告白するのです。決してヒトには理解されない君への想いを。

 君は言葉を持たないわけではないのです。ただ、自ら言葉を発することができないだけ。それは僕だけじゃなく、誰もが知っていることです。知っているから、ほとんどのヒトは君に語りかけることを諦めて、見向きもしないのです。僕はそれが悔しくて仕方ありません。

 どうして言葉を交わせないだけで、理解することを諦めるのでしょう? 僕にはそれが理解できません。

 ヒトとは得てしてそういうものだと仰いますか? でもそんなヒトの一種である僕は今、こうして君に語りかけているではありませんか。

 僕は、君に僕を理解してほしいわけではありません。けれど、君を理解したいという気持ちはあります。君が大好きだから。好きなもののことを理解したいと思うのは当たり前だと思いませんか?

 そうですね。

 大多数の意見を"普通"とするなら、僕の考えは"異常"かもしれません。それでも僕は、君を知りたいのです。

 君が言葉を紡げないなら、代わりに僕がいくらでも紡ぎます。君の望むことを見つけ出して見せます。

 譬、的外れなことだとしても、君のためなら僕はどれだけでも言葉を尽くしてみせます。的外れを恥ずかしいとは思いません。それが君を知るためならば。


 かみさま。

 僕の愛は重いでしょうか?

 君ばかりを追い求めて、本当かどうかもわからない物語を紡ぎ続ける僕は間違っているでしょうか?

 そうです。僕は君が話せないのをいいことに僕の思うままを綴っています。

 迷惑ですかね? ──迷惑ですよね。わかっています。わかっているから質が悪い? ふふ、全くです。

 でも、譬、君に嫌われたとしても、僕のこの気持ちは変わりません。

 僕は君が大好きです。

 歪んでいると言われても、僕のこの気持ちは未来永劫変わらないでしょう。

 君が信じてくれなくても。


 かみさま。

 ああ、君はやっぱり優しいです。

 僕の勝手な告白を黙って静かに聞いていてくれる。

 灰色のその静かな眼差しが好きです。

 あはは、僕は君に対して"好き"とばかり言っていますね。語彙が少なくて情けない限りです。

 でも、やっぱり君に対するこの気持ちを"好き"という言葉以外で表現できないんです。

 僕を馬鹿と笑いますか? どうぞ笑ってください。君になら、いくら笑われても平気です。言葉を紡げない君は笑うこともないでしょうけれど、きっと僕は笑った顔も好きになります。

 僕が恋をするのは、生涯きっと、君だけです。

 僕はヒトが嫌いです。

 同じ種族なのに何故? と思うでしょうね。僕も思います。

 僕は、いつからか、ヒトを前にすると吐き気を催すようになってしまいました。

 僕は"壊れたヒト"です。ヒトからそう呼ばれています。

 "かみさま"なんていう訳のわからないものにすがって生きているヒトなどヒトにとっては異端でしかないのです。

 失礼ですよね。え? 僕への暴言のことじゃありませんよ? かみさまを訳のわからないものなんて表現することが、です。

 かみさまほどヒトにとって身近で、ヒトを救っているものなんて世界のどこにもないでしょうに、他のヒトたちにはそれがわからないんです。全く、困った話ですよね。

 僕は、"壊れたヒト"かもしれないけれど、かみさまがかみさまであることを、かみさまがヒトが愛すべき存在であることを、ヒトに正しく伝えていきたいのです。

 僕が代わりに言葉を紡ぐことで、ヒトのかみさまに対する理解もきっと変わると思うんです。

 根拠ですか? それは──壊れていても、僕はヒトだから。

 ヒトはヒトと言葉を交わすことができる。彼らがかみさまに感じている"言葉を交わせない"という隔たりを僕が解けば、かみさまだって、きっと理解されるはずです。

 ヒトは言葉で理解できないものは理解しようとしません。理解するとしても、後回しにします。

 それが僕は許せません。そのせいで君が蔑ろにされているんです。許せるわけがありません。

 けれど僕もヒト。だから、ヒトを説く術が言葉しか思いつきません。

 本当、脳がなくて申し訳ありません。

 けれどその分、尽くせる限りの言葉を書きつくっていきます。


 かみさま。

 君はどんな衣装を着ても美しいですね。

 君の着るものは全てモノクロだけれども、僕にはどれも色鮮やかに見えます。

 君という存在そのものがきっと、美しいからでしょう。

 白い髪の毛も白い肌もありとあらゆる極彩色を纏うためにあるのでしょう。

 素朴な灰色の瞳も、衣装によって何色にも映えます。ヒトではあり得ない美しさ。……だから僕は惹かれるのかもしれませんね。

 どんなに僕の思い描いた衣装がみすぼらしくて、儚くて、汚れていても、きっと君が纏ったなら、その瞬間に輝きを得て、永遠になる──まだ、そうだったらいいな、という願望ですが、僕はいつかそれが叶うと信じています。

 叶ったら、もう僕は死んでもいいかもしれません。

 そんなことを言わないで、と? ……そうですね。君がそう言ってくれるなら、僕はまだ生きることに意味を見出だせます。

 僕は疲れた、もう死にたい。

 そうして果てようとしたとき、君が僕を救ってくれたのだから。

 君がいることが、僕の存在意義です。


 かみさま。

 どうして僕が君にここまで拘るのか、話したこと、ありませんでしたね。

 君が僕を救ってくれた──君が僕を救うきっかけになったお話をしましょう。

 僕はとても貧しい家に生まれました。そしてすぐ、捨てられました。ヒトに拾われて育ちました。そのヒトはお金だけはあるヒトで、ただ子供がいないヒトでした。家を継ぐ子が欲しかったそのヒトはいい拾い物をした、と僕を育ててくれました。

 親が捨ててくれたのは、僕にとってはむしろ幸運だったのでしょう。きっと、貧しすぎるあの家では碌に学ぶこともできなかったはずですから。

 僕は金持ちのヒトの家で、それなりの教育を受け、それなりの学をつけました。

 苦労はしなかったといえば嘘になるでしょう。金持ちの家を継ぐ子として、失敗は許されませんでした。何か一つでも落ち度があれば打たれましたし、勉学を怠れば召使いのように荒働きさせられましたからね。

 今となってはどれもいい思い出です。

 いつしか僕はその家のヒトの意のままに動く人形と化していました。親だったヒトが死んで、家を継いで、周囲と当たり障りのない交流を持ち、家の威厳を保っていた──僕は何も望まず、望まなかったが故に、その"流れ"の中に身を委ねるしかなかったのです。

 それでいいのだと、僕は思っていました。けれど、段々と、僕はその日常を淡々と過ごしていくことに疲れていきました。

 家の外のヒトたちに笑顔を振り撒き、家の中でも愛想よく振る舞い、"僕"は僕なのか、段々、訳がわからなくなっていきました。

 "僕"は誰? "僕"は何処? "僕"は何?

 とりとめのない思考に陥った僕はどんどん笑い方を忘れていきました。そのため外でも中でも失敗を繰り返すようになったのです。

 突然変わり始めた僕を誰もが責め、詰りました。所詮は血の繋がらない出来損ない。たかだか貧民の捨て子に任せたのが間違いだった、と家のヒトたちは言いました。

 だったら、なんで僕を拾った? って話です。それは僕のせいじゃない。捨てたのも拾ったのも、僕じゃないんです。

 僕はどうすればいいんですか? どうすればよかったんですか? 家を継いで、おかしくなるなんて、僕が望んだことではありません。なんで、僕ばかりが責められるんですか。なんでですか。なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでっ!!

 僕はわからなくなりました。そして、狂いました。といっても、ただ笑うだけです。笑い続けるだけ。狂い方すら僕は無害だというのに、ヒトは僕を"壊れたヒト"と形容しました。

 どうすれば、よかったんでしょう? 死ねばよかったんでしょうか? 生きなければよかったんでしょうか? 生まれてこなければ? 存在しなければ?

 何にせよ、僕はこの世界にいない方がよかったのだと、僕は確信しました。

 それならば、死のうと思いました。

 僕が死ねば、僕が存在したという過ちも拭われるでしょう。

 さて、どうやって死のうか、と考えながら家のための書類をまとめていると、指に痛みを感じました。

 それが、君との出会いです。

 僕の指に小さな傷をつけて、君は僕に痛みを教えてくれました。

 生きていることを教えてくれました。

 僕を傷つけられる存在がここにあるんだよ、と君は教えてくれました。

 君がいるから、僕は傷を見つめることができたんです。

 傷を傷として、認識できるようになったんです。

 傷と向き合うことができたから、僕はこうして生きています。

 僕が君に固執するのは、君が僕の恩人だからなのです。

 でも、僕が君を好きなのは、君が美しいからですよ。

 清らかで気高く、なにものにも染まるようで染まらない。そんな君だから、僕は傷ついてもかまわないほどに愛しています。


 かみさま。

 かみさま。

 かみさま。

 君は君に固執して君を傷つけてしまうかもしれない僕を憎むかもしれません。

 いつかその無味乾燥な眼差しを湛えて、僕の命を絶とうとするかもしれません。

 それでもやっぱり、僕は君が好きです。

 こんな僕はやはり狂っているのでしょうか?

 こんな僕はやはり壊れているのでしょうか?

 なんでもいいです。

 僕は君が大好きです。

 確信が持てます。

 君が僕を傷つけても、僕の想いが君には重くても、僕はきっと変わらずに君を愛しているでしょう。

 僕は愛されなくていい。

 君が世界に愛されるために、僕は今日も筆を執ります。

 君に着せるモノクロの世界を描きます。


 かみさま。

 どうか僕の物語を、君のためだけの物語を受け取ってください。

 君が世界に理解されるまで、僕はいくらだって書き続けます。

 君が何を思うかは、残念ながら僕にもわからないけれど、君が君の中で笑ってくれたら嬉しい。喜んでくれたら嬉しい。怒ってくれても嬉しい。泣いてくれても嬉しいかも。

 君がもし僕の物語を見て泣いたなら、僕は君を傷つけられたということになるよね?

 そうすれば多分、君にとっての僕はきっと、僕にとっての君という存在と同じになれると思うんです。

 不遜だと思いますか? けれど、僕はかみさまになりたいのではなくて、かみさまに近づきたいのです。

 違いがわからない、ですか。……それはきっと、僕たちがまだまだ遠い存在だからですね。

 これから少しでも、近づいていけたらいいな、と僕は思っています。

 君は、嫌ですか?

 嫌なら嫌でいいんです。僕も、しつこい自覚はあります。

 それでも、わかってほしいのは、僕の欲張りです。

 君が大好きだから。

 だから、かみさま、僕は。






 今日も、かみさまの上に新たな物語を紡いでいくのです。






 かみさま。






 僕は愚かしいヒトだけれども。


 やっぱり


 やっぱり君が










 大好きです。










 いつか、届くと信じて。

 今日も僕は綴ります。














 筆を置き、見上げた空は夜。

 月が綺麗に輝いていた。





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