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陣魔術師と傀儡師 ―故意に落ちてきた美少年と恋に落ちました!?―  作者: 一花カナウ
 * 2 * 人形と魔法陣
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(2)

 再びあたしは店内に足を踏み入れる。室内の片付けはだいぶ進んでいた。アベルの移動用人形エーテロイド・マシンは魔術で隠しておいたし、その他のあまり見られたくない場所も同様に目隠しをしておいた。万が一荒らされたとしてもすぐにわかるように仕掛けもしておいたから大丈夫。そしてその仕掛けは作動していなかった。

「さて……」

 あたしは自分の部屋から引っ張り出してきた数冊の本とノートをバッグから取り出す。これらを取りに戻るために家に帰ったようなものだ。それに、今はまだアベルにこのことを知られたくないからね。

 瓦礫のほとんどは撤去したものの、移動用人形エーテロイド・マシンは全体の半分近くが地面にめり込んだ状態だ。掛けておいた術を部分的に解いて――始めに使った魔法陣を調節して、部分ごとに操作出来るようにしてみた――あたしはもう一度翼の付け根に描かれた陣を確認し、それを見ながら本とノートをめくる。見覚えのあるその魔法陣が何の効果を目的としたものなのかを知りたかったのだ。これを見たときの第一印象が不釣り合いな違和感だったから、記憶のどこかはこの陣の効果を知っているのだろう。ということは、あたしは家にある魔法陣に関したいずれかの書物でこの陣を見たことがあるわけだ。だから……。

「あった!」

 めくられた一冊の分厚い本の後半部分、そして注釈として書き込まれた数字。その数字をもとに探し出したノートの該当箇所。

 あたしは何度も翼の魔法陣とノートに描かれた魔法陣のサンプルとを見比べる。――間違いない。

 文章を指でなぞりながら読み進める。次第にそれが何を意味しているのかわかってきた。

「これ……作動したのかしら?」

 文章の最後の一文字を指したまま、あたしは翼の魔法陣を見つめる。

 現在はどう考えても作動しているはずがない。その魔法陣の効果、それは……。

「――疑似霊魂アストラルの機能停止」

 呟いて、そして小さく頭を振る。

 そんなはずがない、そう思いたくて。

 たとえお母さんがその方法を知っていたとしても、それを使うなんてことはしないはずだもの。何かの勘違い。――そう、これはただのいたずら描きで、あたしが知りたいこととは全く関係ないのよ。

 そんな気持ちの一方で、全く別の思いが心を満たす。

 これまで全くなにも見い出せなかったのだ。行方不明になったお母さんの手掛かりとなるものは。それが今、目の前にあるように感じられる。あたしの直感が告げている。なにがなんでもアベルについてゆくべきだと。ここで彼を見失ったら絶対に後悔すると。

 どっちにしても店がこんな状態では仕事を再開するまでに時間とお金が必要だ。そして現在、時間はあれどお金はない。生活するには足りるだろうが、この修理費を工面するのは少々厳しい。正直、アベルから費用をもらえるとしても、今日明日で用意してくれるくらいの早さがないと死活問題となる。商売はタイミングも大事なんだから。

「……とにかく、まずはしっかり直さないとね」

 人形マシンの胴体部分を優しく撫でる。硬質でひんやりとした感触。見慣れた演芸用人形エーテロイド・パペットのそれとはまた違う。だけとそこにも同じ温もりを感じていた。

 ――傀儡師アストラリストによって与えられた疑似霊魂アストラルの温もり……。あたしは何故かそこに懐かしさを覚える。だからかもしれない。エーテロイド職人でありながら人形パペット屋をやる気になったのは。

 どのくらいそうしていたのかはよく覚えていない。ふいに意識が現実に戻り、他の目的のためにごそごそと作業を始める。もちろん、明日の準備だ。アベルには材料や道具を仕入れに行くと言ったものの、そのほとんどは家にそろっていたから買いに行く必要は実のところ全くなかった。人形マシンに描かれた魔法陣を一人でゆっくりと調べるための口実である。しかし全然準備がいらないわけもなく、こうして物を移動させたり陣を描き足したりする作業は欠かせない。それに完璧に直してアベルに認めてもらわなきゃいけないんだもの。なおさら気合いを入れないとね。

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