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陣魔術師と傀儡師 ―故意に落ちてきた美少年と恋に落ちました!?―  作者: 一花カナウ
 * 3 * 真夜中の攻防戦
11/32

(3)

「それとこれとは話は別ですよ、アンジェリカさん。ごまかして言いくるめようとしてもダメです。――あなたの目的はなんですか? それを正直に話して下さるなら考えてもいいですよ」

「そんなこと言いつつ、いかに断って煙に巻くか考えているんでしょう?」

 拗ねている気持ち全開で口を尖らせる。――どんなことを言っても、どうせこの人は断るんだわ。なんて意地悪な人なのかしら。

 自分のことを棚に上げ、心の中で批難していると彼は首を横に振った。

「真摯な気持ちでお聞きするつもりです。あなたが必死であることは伝わりましたからね」

「え?」

 思わず聞き返す。

「困っている人を助けるのも傀儡師アストラリストのお仕事ですよ。ご存知でしょう?」

 確かに彼の言う通りだ。

 傀儡師アストラリストが活躍する場所は様々であるが、その仕事には人の力だけでは困難な出来事に対処するという考え方が根底にある。人々の足になったり、誰かを楽しませたり、などなどその仕事は幅広い。

「……えっと……どう話せば良いのかわからないんだけど……」

 ダメ元で話してみようと決意する。ついていくことを認めてくれなくとも、なんらかの手掛かりを得られるかもしれないし。あの人形マシンに描かれていた魔法陣はあたしの目的が達せられる一つの過程だと信じているから。

 アベルは真面目に耳を傾けているらしかった。黙って真っ直ぐあたしを見つめている。

「あたし、お母さんを捜しているの。今は旅をしているって説明したけど、あれは半分ウソ。連絡が取れなくなってからそろそろ二年になるわ。お父さんが死んだことを伝えたいし、あたしのことも報告したいから。――お母さんは急に行方を眩ませるような人じゃないわ。きっと何か事情があって戻れないのよ。だから、そのために」

「――その話、協会には伝えたんですか?」

 真剣な表情でアベルは訊ねる。

「何度か情報を得るために訪ねたけど、全く……」

 行方不明者の捜索などはエーテロイド協会に頼めば、各地にいる傀儡師アストラリストを通じてやってくれる。もちろんお金がかかる。あたしは充分なお金が払えなかったので大掛かりな調査が行えず、仕方ないので人形パペット屋の仕事やエーテロイド職人の仕事で町を離れる度に各地の協会支部に寄って情報を得ていたのだ。あんまり芳しい情報は得られなかったんだけどね。

「……なるほど。――でも何故私を選んだんです?」

 さすがに今の話だけじゃ納得してもらえないわよね。黙っていたかったけどしょうがない。

「あなたの人形マシンにお母さんが考案した魔法陣があったの。研究中のもので、まだ公表されていないはずのものよ。だから、それを描いた人物を捜せばお母さんにたどり着けるって思うの。連れてってくれないなら、誰にその陣を描いてもらったのかだけでも教えてくれない?」

「……すみません」

 アベルは表情を曇らせた。

「あの人形マシンは兄から譲ってもらったものでして、そのときにはすでにあの陣があったものですから……」

 心から申し訳なく思っているらしく、残念そうに謝ってくれる。

「じゃあ、アベルのお兄さんに聞いてみればわかるかもしれないわね」

「――さぁ、どうでしょう。わからないんじゃないかな……」

 思考する時間がわずかにあって、あたしの意見にアベルは答える。

「だけど、人形マシンはお兄さんのものだったんでしょ?」

 あたしが首をかしげて問うと、彼はまた少し考えてから返事をした。

「――実は私はあの陣を描いた人物を捜しているのです」

 突然の告白にあたしは目をぱちくりさせる。

 彼は続ける。

「ここへ来たのも、その陣を知る人物を捜すためでした。……結果的に、こうしてあなたに会うことができたわけですが――知らないなら仕方がありません」

 そしてため息。よほどその人物に会いたいのだろう。会ってどうしたいのかはわからないけど、かすかに浮かぶ切実な想いをあたしは感じ取っていた。

「――ねぇ、目的が一緒なんだから手を組まない?」

 今度は彼が目をしばたたかせた。

「やっぱり駄目かしら?」

 あたしは再度提案する。

 少なくともあたしにはメリットがある。移動する手段を持たないあたしにとって、彼についていくのは悪くない。あの人形マシンの性能を考えると、町から町への移動はどの交通機関を用いても優るものはないだろう。

 アベルは考えているらしい。うーん、と小さく唸っている。もう一押し。

「あなたにだって充分な利点があるわ。――協会に顔を出せないなら、あたしが訊きに行くから丁度いいでしょ? ちゃんと情報は伝えるし。あたしが協会で調査する代わりに、あなたは町から町へと連れてってくれればいいわ。

 ――あなたには人形エーテロイド以外のパートナーが絶対に必要になる。あたしじゃ不足かしら?」

 いまだかつてここまで自分を売り出したことがあったかしら。ここであっさり振られたら、潔く縁がなかったのだと諦めよう。アベルだって迷惑だろうからね。聞き分けることぐらいできるわよ。

「……不足かどうかと訊かれると、私には勿体無いくらいのかただと思いますよ。あなたのことを評価しているつもりですし」

 ――あら、意外な答え。

「……ですが、だからこそあなたを巻き込みたくないんですよね……。護りきる自信がないから」

 台詞の後半は聞き取りにくいくらいぼそぼそとした呟きになっていた。

「まるで命を狙われているみたいな言い方ね。追いかけてくるのは協会でしょ? さすがに命のやり取りはしないと思うけど」

 大袈裟だなぁという気持ちを込めて言うと、アベルは何か言いかけてそのまま口をつぐんだ。そのあとに微笑む。

「そうですね。まさか協会もそこまでしないでしょうよ。たかが連れ戻すためのことに、攻撃してくるわけがない。もっと平和的手段を用いるでしょうね」

「でしょ? 考えすぎよ」

 アベルが言いかけた台詞がなんだったのか気になるが、それをあえて訊ねるのは野暮というものだろう。明らかに何か隠しているようだが、あたしには関係のないことなのだと思い込むことにする。アベルのそばでお母さんの消息を調査できるならそれで充分だわ。

「ですね。――わかりました。事情も話してくださったことですし、あなたに協力しましょう。確かに、協会に聞きにいけないという私の立場ではあなたの存在は必要不可欠。期待していますよ」

にっこりとスマイル。

 ――やったあ! あたし、やったわ! アベルの首を縦に振らせることに成功したのよ!

 心の中でぎゅっと拳を握る。

「はいっ! あたし、頑張るから!」

 アベルのため、自分自身のため。

 ――待っててね、お母さん。あたし、必ずたどり着いてみせるから。

「――そうと決まれば、きちんと休みますか」

 アベルは小さく欠伸をして一言。

 今は真夜中だ。明日発つのであれば休むべきである。しかし……。

 あたしの疑う視線に気付いたのだろう。アベルは優しく微笑んだ。

「心配しないでください。もう逃げたりしませんよ」

「だってあなた、人形マシンの修理を依頼しておいて出ていこうとしたじゃない」

 また同じ手を使うかもしれない。そう考えるのは自然でしょ?

「じゃああなたは朝までそこにいるつもりですか? ――あ、そこまで心配なんでしたら一緒に寝ますか?」

「なっ!」

 真面目な顔でアベルが言うものだから、あたしはかなり焦った。――だってそれってさ、そういうことだよね? アベルがあたしに手を出すとは想像もつかないけど。

 あたしの慌てっぷりが伝わったのだろう。アベルは大笑いした。

「冗談ですよ。からかってみただけです」

 ――がーんっ! アベルにからかわれた……。

 ショックを受けてしばし呆然とする。

「私としてはどっちでも構わないんですよ? あなたが好きなようにすればいい」

「わかったわよ! あなたを信じて部屋に戻ればいいんでしょっ!」

 まだ笑い続けるアベルを背にしてあたしは膨れる。――そんなに笑わなくたっていいじゃないっ! あたしは本気で焦ったのよっ!

「きっとぐっすり眠れると思いますよ」

 ようやく落ち着いたのか、彼は笑うのをやめるとあたしの背中に声を掛けた。

「ん?」

「私があなたに盛った薬は睡眠薬です。通常の使用量ですからご安心を」

「致死量を盛られたら冗談にならないわ」

 あたしが自分の肩越しにアベルを見ながら答えると、彼は大袈裟に肩を竦めてみせた。

「全くそのとおりです。――良い夢を」

 アベルは部屋に戻り、戸を閉める。あたしはしばらくそこに残って中の様子を窺っていた。だけどあたしの心配は余計だったみたいで、中からすぐに寝息が聞こえてきた。――本当に眠ってしまったみたいね。

 廊下で待ち伏せしているのも馬鹿らしくなってきて、あたしも部屋に戻り、ベッドに潜り込んだ。

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