知ってる?
ガタガタと揺れる馬車。椅子はスプリングがきいていて、それほどの揺れは感じない。さすがアイヤス家の馬車ね。
私はつむっていた眼をあけ、借りていた肩からゆっくりと身を起こした。
「やはり、起きておられましたか」
「まあね。というか、気づいてたんだ」
私は体を預けていたロドスタさんを見上げた。窓から差し込む月明かりの下で、濃紺の瞳が私を見下ろしている。その瞳がおかしげに細まった。
「それは、まあ……気づかないほうがどうかしているというか。バン王子も気づいておいででしたよ。騙されたのは」
「バラク様だけか」
ため息とともにその名を口にする。
黒髪に茶色の瞳の私の婚約者。相変わらずというか、やはりというか抜けている。騎士としてしっかりしているけれど、どこかおとぼけキャラなのよね、バラク様って。
天然なのかしら。それとも、天然を装って実はいろいろと凄いとか。
…………ないな。バラク様に限って、それはない。
実直さがそのまま伝わる瞳を思い出して私は一人笑みを浮かべた。
さて、何があったか。
簡単に言ってしまえば狸寝入りをした。いや、半分は本気だったんだけど、声をかけられた時点で目が覚めていた。眠っていた時間は数分ってところだと思う。けれど、本気で寝たおかげで気力は復活。ぼやけた頭も復活した。だけど、面倒だったのでそのまま狸寝入りを決め込んだ。
年末の夜会で王宮に正面切って乗り込むところまでは決めたんだけど、その先がなかなか決まらない。私が奥深くまで乗り込んでふん捕まえると言ったんだけど、あっさり却下されましたね。
ダイツはなぜかわからないけど私の命を狙っている。私が王宮内で一人でいれば、ホイホイ姿を現すんじゃないかと思うのよね。そこをうまく捕まえる!
そう言ったら即座に三者三様の言葉で却下されました。特にバラク様は絶対絶対、ぜーったい駄目だと念押しまでしてきた。で、どうしようか考えて目をつむったら、速攻眠りに落ちた。
疲れてたのよ。いろいろあったし、ロドスタさんのこともあったしでほとんど眠ってなかったからね。
で、目が覚めたけどそのまま狸寝入りを決め込んで、三人の話を聞いていた。けれど結局いい案は浮かばず夜も更けたので解散となった。バン様はバラク様が城まで送ることになり、私はロドスタさんと一緒に馬車で帰宅の途についた。
その馬車内で狸寝入りがばれた。いや、ばれたというか私が起きたというか。
「私考えたんだけど……」
「駄目です」
狸寝入りをしていた時に、ぼーっと話を聞いていただけじゃない。話を聞きながらいろいろと作戦を立てて練りこんでいた。それを話そうと口を開いたら、ロドスタさんがいつにも増して厳しい目で私を見下ろしてきた。
「私、まだ何も言ってないんだけど」
「ミナお嬢様の行動力は称賛に値します。しかし、その行動力が私は怖い。バラク殿にはこれ以上大切なものを失ってほしくない。あなたを失えば、バラク殿は今度こそ立ち上がれなくなってしまう」
ふむ、と私は目線を下げた。私の命を守るために私を攫おうとしたロドスタさん。それはすべてバラク様のためだ。バラク様のためなら、きっとこの人は命までかけてしまうだろう。奥さんが人質に取られていてなお、バラク様のために私の命を守ろうとしている。
知ってる? 関西人はね、情にもろいのよ。さらにね、日本人はこんな風な健気な人が大好きで応援したくなっちゃう気質なの。
うん。何が何でも助けるわよ! バラク様も、ロドスタさんも、奥さんも、そして私の命も。
そのためにはどうしても協力してもらわなければならない人がいる。
私はにんまりと笑みを浮かべてロドスタさんを見上げた。瞬間、ロドスタさんの横顔がひきつった。
知ってる?
私はね、結構行動力があって、こうと決めたら止まらない性格なのよ。
お久しぶりです。物語がなかなか思うように進まなくて、短い話でつなげてみました。
狸寝入り中にどんな話があったかはバラク君にて書こうかと。まだ、書きかけですが、できるだけ早くお届けできるといいなと思います。




