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家族

 吹っ切れた。

 この世界にやってきて一年近くたった。カリナに泣きながら自分の思いをぶちまけた次の日からの私は凄かった。


 まず文字を教わった。ソロバンは二段の腕前。計算はお手の物だった。簿記の資格も持っていた私は、文字を覚えて数字を覚えればすぐに帳簿を付けられるようになった。で、無駄を徹底的に見直して省いた。次に仕入れと卸しの値段交渉。家電量販店で鬼の値引きと言わしめた交渉術。仕入れの際には鬼のように値引きさせた。そして卸すときにはふっかける。

 関西人の商人根性をなめてもらっては困る。使えるものは何でも使った。子供の外見も利用して、ウルウル瞳に押せ押せ攻撃。言葉巧みに自分の土俵に導いて、最後は極上営業スマイル。


 良い子はマネしちゃ駄目です。


 振袖の生地に興味を持った夫妻のために、私の持っている知識はすべて吐き出した。縮緬ちりめんという文字の意味を夫妻に教えたら、縮れさせる、つまり織るときに糸にりをかけることをベゼルさんが思いついた。試しに織ってもらったら驚くほどうまくいった。従来の絹よりも光沢は控えめで、しなやかな手触り。皺になりにくく染めるときにもよく染まる。さらにあの首に巻くふわふわもこもこも研究した。羽毛を使っていることはすぐに分かったので、そこからドレスに流用できないかと模索。デザインはもちろんカリナが担当した。


 第一号のドレスは、レリアさんに贈った。振袖からヒントを得て織り上げた新しい生地と、カリナがデザインした斬新なアイデアのドレス。レリアさんはとても喜んでくれた。私たち二人も手を叩いて喜んだ。



 その夜、私はエルディック夫妻に呼び出された。


「養女!?」

 私は突然の申し出に驚いた。幼女の間違いじゃないよね。

「私たち夫婦には子供がいないの。それでね、良ければ考えてもらえないかしら?」

「あの、でも私には……」

 私は言葉を濁した。エルディック夫妻には私が異世界から落ちてきたことを話していた。日本に家族がいること。喧嘩をしたことを後悔していること。本当は帰りたいと思っていること。すべてを理解したかどうかはわからないけれど、私が帰りたいけど帰れない迷子だとはわかってもらっていた。

「元の世界のご両親に遠慮する気持ちはわかる。だけど、私たちも真剣なんだ。今すぐの返事じゃなくても構わない。考えてほしい」

 二人に頼まれて、私はとりあえずうなずくしかなかった。



 部屋に戻った私は、カリナに問われてそのまま答えた。

「いいじゃない、養女になっちゃえば」

「いや、それは……」

 私はやはり言いよどむ。

「お二人には子供ができないの。レリア様が病気になったことがあって、もうできないみたい。だからミナが子供になってくれたらうれしいと思うな」

「でも、元の家族がいるし……」

「馬鹿ねえ。ここで新しい両親が出来たら、元の国の両親が消えちゃうと思ってる? 違うでしょ。元の家族は消えない。そうじゃなくて、増えるんだよ。ミナの大好きな家族が増えるの」

 私は目を瞬いた。そんな考え方があったのかと思った。


 消えない。私の日本の家族。消えずに心に残ってる。そしてまた新しい家族ができる。いいんだろうか、本当に。家族を裏切ることにならないだろうか。

「ミナは頭の回転が速い割に馬鹿で固い考えをするわよね。ん~、例えばミナが結婚するとするでしょ。そうすると、旦那と一緒に新しい両親ができる。でも自分の両親は消えない。増えるだけ。でしょ?」

 言われればその通りのような気もする。私は腕を組んで考え込んだ。

「あんたの家族は遠いところにいるけど、血の絆があるでしょ。エルディック夫妻とは血の絆がないけど、養父母っていう新しい絆で結ばれる。でもあんたの中の血の絆は消えない。父さんと母さんと兄ちゃんの血が流れてる」



『お前の中には肝っ玉のお袋と優しい親父、それに強い兄ちゃんと同じ血が流れてるんだぞ。お前ならどこででもちゃんとやっていける。大丈夫だ。兄ちゃんが保証する』



 ああ、そうだ。同じ血が流れてる。だから私はどこでもやっていける自信がついた。カリナの導きもあったけど、私には大切な家族の血が流れてると思ったからやってこれた。


 日本の家族に胸を張って紹介できる家族を作る。それが私の小さな願い。第一歩目は旦那じゃなくて養父母から。今度は大切にしよう。いっぱい思いを伝えよう。


「気持ち、固まった?」

「うん」

「じゃあ、あんたはこれからミナ・エルディックになるのね」

 あ、そうか。養女になるってことは名前も変わるんだ。新堂美菜じゃなくなる。でも新堂家の血は私の中に。


 私は笑顔でうなずいた。



 未来の地球には、異世界との通信が可能になる電話が出来るかもしれない。その時に子供がいたら、お父さんとお母さんの孫だよって紹介してあげよう。あんなに将来の旦那と孫を楽しみにしていたんだもの。きっと喜ぶ。


 エルディック夫妻にも子供を抱っこさせてあげたい。私みたいな子供っぽい大人じゃなくて、ちゃんとした赤ちゃん。養女の子供でも孫だもの。きっと喜んでくれる。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



 新しい生地の製法は、カリナの生まれ故郷の町にだけ伝えた。そこで生地を大量生産。ドレスのデザイン、染めの工程、縫製に至るまでのルートを一括してエルディック家が取り仕切った。新しい生地のドレスはそのなめらかな肌触りと上品な光沢から瞬く間に噂が広がり国中から問い合わせが殺到した。


 生産性を上げるための技術向上研究、新規顧客開拓。ドレスだけではなく、京友禅に似せたデザインの布で洋服から小物までも取り扱った。毎日走り回った。町から町へと駆け巡った。


 そのお陰でエルディック商会の名前は国中に知れ渡り、それが国王の元へも届いた。




 五年後、王都に夫妻の念願だった店を開くことになった。

 夫妻と私とカリナで築いたエルディック商会のドレスブランドが、王室御用達となったのだ。


 王都に構えた店とは別に自宅も購入した。お父様とお母様と私の三人で住む。カリナは店の裏に建てた屋敷に住むことになった。一緒にと懇願したけど、突っぱねられた。家族水入らずで暮らせと言われては反対もできない。

 その建てたばかりの家の自室。目の前には目を丸めたカリナ。


「二十五歳!?」

 十七歳になったカリナの背丈は私よりもずいぶんと高くなった。百六十センチは越えている。掴み合いの喧嘩をしたら、私が負けることが多くなった。いつまでたっても大きくならない私にようやく気付いたのか、カリナが問いかけ私も重い口を開いて正直に答えた。

「黙っててごめんなさい」

 謝った途端、カリナが大爆笑した。

「あんた、そんななりで二十五歳!? じゃあ、出会った時は二十歳? 妹じゃなくて姉ちゃんだったの? 嘘みたい。笑えるっ」

 自分の膝をバシバシ叩きながらお腹を抱えている。ちょっと笑いすぎじゃない? いくら遠慮のない間柄だからって酷い。私は唇を尖らせた。


「でも、困ったわね」

 ようやく笑いを収めたカリナが私を見つめてそう言った。

「何が?」

「この国に来て五年しかたってないから知らないだろうけど、ここでの結婚適齢期は十八。ミナは五年以上過ぎてる。つまり行き遅れってこと」

「げっ! 嘘」

「本当。そんななりだし、求婚してくれる人がいるかどうか」

「ど、どうしよう。カリナ」

 私の素敵な家族をつくろう計画がガラガラと音を立てて崩れていく。


「ま、なるようになるんじゃない?」

「また適当なこと言って」

「焦っても仕方ないでしょ。求婚されるかお見合いか。とにかくチャンスが来たら絶対に逃さないこと。何が何でも手に入れることね」

「そんな話、私に来ると思う?」

 カリナがちらっとこちらを見る。ぶふっとまた吹き出した。

「まあ、頑張れ」


 頭を撫でられる。私が年上でお姉ちゃんなのに、カリナはやっぱり私を妹扱い。でもその目がとても優しくて、私は嬉しくなる。





 私にはお父さんとお母さんとお兄ちゃんがいる。血の繋がった大切な家族。

 私にはお父様とお母様と姉みたいな妹がいる。血は繋がってないけど大切な家族。


 日本の家族に自慢できる、胸を張って紹介できる家族をつくろう。伝えられなかった想いを、この国の大切な人たちに伝えていこう。









 子供のためには旦那が必要不可欠。

 チャンスは絶対に逃さない。未来の旦那よ、私の餌食となれ!






4章、完結でございます。


自分の中では納得できた話でしたが、皆様の中ではいかがでしたでしょう。頭の中のものをバンバン書き出したのでおかしな点はあるカモなあ。


次話以降、少し頭の中が錯乱しております。こんがらがった思考がほどけ次第、順次投稿していきたいと思いますので、待っていていただけると幸いです。

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