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両親

更新しない予定でしたが、ブックマークが1000件を超えていたのが嬉しくて、思わず書ききってしまいました。


本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ブックマークしてくださった方、立ち寄って読んでくださった方、お気に入りに私を登録してくださっている方。本当にありがとうございます。ここまで書けたのも、ひとえに皆様のお陰だと思っております。


皆様に自分の活躍を見てもらおうと、脳内で主人公たちが暴れております。これからも邁進していきますので、どうかよろしくお願いします。




 バラク様の屋敷に行く。


 日本だとご両親に紹介っていう段階だよね。お父様同士が合意して決めた結婚だとしても、やっぱり初めて会うのだから緊張する。


 私は部屋でバラク様が来るのを悶々としながら待った。日中のうちにお母様と相談しながら手土産を買って準備はした。服装はどう頑張っても子供用のドレスが似合わないので、やはりワンピース。一番いい生地の、薄い紫のワンピースだ。色が上品だし、光沢もあって余所行きにはぴったり。サラサラの髪はそのままにして、上から白の上着を着て準備完了。


 それにしても、バラク様のご両親ってどんな人なんだろうか。バラク様を見てる限り、父上様は厳格で体格の大きな無骨な戦士タイプ。だけどお母様は全く想像もつかない。某アニメの教育係みたいに厳しい人だったらどうしよう。

 窓のサンに指をツーとして『ミナさん。これは?』なんて言われたら、私普通に埃ですって答えちゃいそう。あ、いやいや、そうか。家にはメイドさんがいるんだっけ。そんなことにはならないだろうけど、やはり女同士というのはいろいろ面倒がありそうで怖い。


 とりあえず、家からあの紅茶だけは持っていくことにした。肌にも良いし、気分も落ち着く。私が淹れるのは良くないだろうから、向こうに着いたらメイドさんに渡して食後に淹れてもらおう。ゆったりした気分になって、話も弾むかもしれない。


 そういえば、バラク様もうちの両親に会うのは初めて。やっぱり「お嬢さんをください」みたいなことを言うのかな。こっちでは言わないかなあ。言ってほしいような、いらないような変な気分。


 ノッカーの音が響いた。部屋の扉を開けていたからすぐに気付いた。この時間に来るということはバラク様以外考えにくい。


 私はもう一度姿見の前で自分の格好をチェックする。

 服装OK。髪型OK。笑顔、うんOK。


 部屋を出て階段に差し掛かる。お父様とバラク様が握手してるのが見えた。何を話しているのかはわからないけど、バラク様はとても真剣な表情。声をかけるのがためらわれて、私は二人が手を離してから話しかけた。


「バラク様」

 三人の視線が一斉に私に向く。緊張していたように見えたバラク様の表情が少しだけ和らいだ。

「お待たせしました」


 階段を急いで降りて、バラク様に駆け寄る。

 私の後ろに両親が、前にバラク様。背の高い人たちに囲まれて、私はカゴメカゴメ状態。こうしてみると本当に私の背丈ってちっちゃいなあ。少しだけ不安になっていると後ろからお母様が、私の肩をポンポンとしてくれる。見上げるといつもの優しい瞳。


 うん。大丈夫。私は二人のためにこの話を受けた。二人のために子供を産みたい。ほかにもいろいろと思いはあるけれど、これだけは私の中で変わらない思いだ。

 バラク様ももう断れない状態だろう。騎士団内で言いふらしたし、この間はおでこにチューまでもらった。たぶん断らない………はず。


 やはり既成事実は行っとくべきか。相手の屋敷だから無理かもしれないが、とりあえずアタックチャンスがあれば行っとけ!



「では、行ってきます。お父様、お母様」

 気を取り直してそう声をかける。

「気をつけてな」

「はい」


 玄関のドアをバラク様が開き、右手を差し出してくるので手を重ねた。最初はボディタッチに必死でぎこちなかったけど、今は自然と手を重ねられるようになった。私もエスコートされるのに慣れてきたのかもしれない。この間は本物の王子様にエスコートしてもらっちゃったし。慣れってすごい!


 門の向こうに大きな馬車が止められている。見た目がかなりしっかりしていて、きらびやかでないものの落ち着いた雰囲気の装飾もしてある。

「馬車!? 今日は馬車で来たんですか?」

 ここから店も歩いていける距離だし、街中で馬車に乗ったことはなかった。久しぶりの馬車に興奮する。

「俺の屋敷までは遠い。歩いている間に夜になってしまうからな」

 バラク様の屋敷は王都の真ん中にあるお城を挟んで反対側。貴族たちの住む区画から外れた場所にあるらしい。私の足で歩くと一時間はかかる。確かに馬車のほうがいい。


 栗毛の馬は毛艶が良くて二頭立て。御者席には黒い帽子をかぶった紳士然とした人が座っている。私たちが近づくと、御者さんがドアを開けてくれた。足置きも置いてくれて、大股を開かずに馬車に乗り込めた。

 バラク様が乗り込むと馬車が軋んだ。なるほど、大きくてしっかりしているのはバラク様仕様か。

 大きめのシートに腰を下ろす。内装はシンプルで落ち着くデザイン。バラク様が向かいのシートに腰を下ろして御者さんが扉を閉める。ほどなくして動き出した。


 後ろに流れていく街並みを眺める。太陽は西に傾いたばかりでまだまだ明るい。

「馬車なんて久しぶりです」

 行商していたころは良く乗っていた。こんなにしっかりしたものではなく、乗り合いや幌馬車だったけど、それはそれで楽しかった。



「あ!」

 私は思い出して叫んだ。バラク様のほうへ座り直し頭を下げる。

「今日はお誘いいただき、ありがとうございます」

 本性モロバレでも、一応淑女ですから。

「いや。こちらこそ、誘いを受けてくれてうれしい。自宅だからそんな大したもてなしはできないかもしれないが」

「とんでもないです。楽しみにしてたんですよ。でも、ちょっとだけ心配事が」

 私は声を落とした。嫁姑に発展しそうな課題はマナー問題。

 私の家は貴族じゃない。大富豪といったって家ではメイドさんも雇っていないので、食事は基本的に私かお母様が作る。そうすると当然家庭料理が出てくる。お箸がないのでナイフとフォークで食べるんだけど使うのはいつも二本だけ。テレビなんか見る限り、メイドさんのいる家ではナイフもフォークもたくさん並んでいた。外側から使うのは知っていても、きっちりとした使い方ができるとは言いがたい。つまり、テーブルマナーに自信がないのだ。


「何だ?」

「行儀作法とか、一応はできるんですけど不安で。毎日の食事は家族三人だから、あまりそういうの気にしてなくて。大丈夫かなって」

「行儀作法か。俺もできない」

「え!?」

 意外すぎて声が裏返ってしまった。

 バラク様は騎士様でしたよね? 騎士がスマートでレディーファーストでダンスもできてマナーもばっちりっていう設定は、この世界には通用しないのかしら。でもバン様ならそつなくこなしそう。反対にバラク様だから通用しないんだろうか。


「騎士団に入った時に覚えさせられたが、家では一度もしたことがない。親父殿は気にする人ではないし、母上殿も平民の出だからあまり気にしていない。だから、俺も気にしない」

 流石元傭兵の父上様だ。おおらかというか大雑把な人なんだ。それに母上様が平民の出っていうのも初耳。私は脳内で母上様の想像図の某アニメ教育係に×印を付けた。

「城での会食はともかく、家でそんな堅苦しいことをしたら逆に親父殿が怒る。飯くらい自由にさせろってな。親父殿の友人も元傭兵が多いから、屋敷に招いたときはその客人とフォーク片手に肉の取り合いとかもやった」

「バラク様って、本当に規格外なんですね」


 私は感心してバラク様の顔を見上げた。バラク様が規格外すぎて、逆に何が規格だったのかを思い出せなくなるくらい。

「これで安心したか?」

「はい」

 バラク様の笑みを見て、私も微笑んだ。



 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆



「ミナ・エルディックと申します。今晩はお招きいただきありがとうございます」

 いただき、のあたりで私は母上様に抱き付かれた。最後までちゃんと言えた私をほめてもらいたい。

「かわいいっ。なんてかわいらしいの! お人形さん? お人形さんね」

 いいえ、私は人間です。


 首元の詰まった紺色のドレスを着ているけれど、その体型はお母様と張り合えるくらいのボッキュボン。抱き着かれて胸が顔に当たってます、母上様。

 茶色の髪を上部でまとめて淑女然としているんだけど、その行動は少女みたい。抱き着いてきたのがその証拠。


 屋敷に到着後、食堂に案内されてバラク様が両親を紹介。私が名乗ったらこの状態となった。

 父上様は隣で柔らかな笑みを浮かべている。黒い髪だけど全体的に白いものが混じっていて灰色みたいに見える。それがまたかっこいい。ロマンスグレーっていうんだっけ? 口元の髭は立派で、体つきはやはり騎士であったためかしっかりしている。それでもバラク様と比べれば一回りほど小さめ。やはりバラク様は規格外。母上様の身長もやはりというか高い。私を基準にしちゃいけないのはわかってるんだけどね。


「リリア、それくらいにしなさい。ミナ殿が困っておられる」

「あら、ごめんなさい。本当にかわいかったから思わず、ね? ほら、うちって武骨ものが多いでしょ。可愛いものに飢えてるの」

 リリア様は私から離れてにこやかにそう言った。

 確かに体の大きな旦那と、それ以上に大きな息子に囲まれたら、かわいいものに目がなくなるのも仕方ないのかもしれない。

 このリリア様となら嫁姑問題は起きなさそう。というか、かわいいもの好きのお母様と仲良くなれそうな感じ。


 バラク様の父上様――マダレイ・アイヤス様がリリア様に手を差し出す。リリア様はマダレイ様の手をとった。その行動がまるで映画みたいで見とれてしまう。けれど、歩き出したリリア様は右足を引きずっていた。足がお悪いみたいだ。ほんの少しの距離だけど、ゆっくりゆっくりと歩く。それを急かすこともなく、マダレイ様もゆっくりと歩く。二人の絆がしっかりと結びついているのが見ていてわかった。

「ミナ嬢」

 二人に見とれていた私は、バラク様に促されて席に着いた。


 映画とかで見るような長い机の端に四人で掛ける。机が長いのはお客様が来たとき用だそうで、いつもこの位置だとバラク様が教えてくれた。



 食事は本当に楽しかった。それに味もとても上品でおいしかった。テーブルマナーを心配していた私だけど、たくさんのナイフもフォークも出てくることなくいつもと同じ二本だけ。


 食事も終わって一息ついた後、私が持ってきた紅茶を淹れてもらうことにした。


「まあ、いい香り」

 リリア様が紅茶の香りに手を合わせて喜んでくれる。この飛び切り甘い香りは女性好み。お母様もそうだし私も大好き。リリア様ももれなく喜んでくれてうれしい限りだ。


 私たちが紅茶を飲みながらキャッキャ話している間に、バラク様とマダレイ様は紅茶を一気飲みしていた。この親にしてこの子あり。家にきて紅茶を飲みほしたのは、喉が渇いていたわけでも早く帰りたかったわけでもなかったんだ。




「ミナさんは、年末の夜会に出席するの?」


 そう聞かれたのは、紅茶を飲みながらの話がひと段落した時だった。

「いえ、私はそういう立場ではありませんので」

 私は首を振る。

 王家御用達のドレスを作っているからといって、国外からも来賓を招くような国王主催の夜会に出れるほどの立場ではない。

「どうして? バラクの婚約者でしょ?」

 私は言われて押し黙った。

 師団長ともなれば夜会に警護を兼ねて出席する。その婚約者という立場なら出席できるかもしれない。けれど、私に似合うドレスがないのはよくわかっている。

「私は……」

「ミナさんが出席するなら、私も出ようかしら」

「え?」

「母上殿!?」

「私は足が悪いし、やめておこうと思っていたんだけれど、ミナさんがいてくれるなら安心して出席することができるわ。駄目かしら?」

 首をかしげて聞かれても、私は何とも言えずバラク様とマダレイ様に視線を送った。


「ミナ殿。勝手な願いだが、リリアのために出席してもらえないか? リリアは足のためにもうずいぶんとそういった場所に足を運んでいない。この年末の夜会くらいは出席させてやりたい」


 マダレイ様からそういわれて、嫌ですなんて言えるわけがない。私はバラク様に視線をやった。バラク様は嬉しそうに微笑んでうなずいた。


「では、両親に相談して、それからお返事ということでも構いませんか? おそらく大丈夫とは思うんですけど」

「そうね。ご両親とも相談しなきゃいけないものね。わかったわ。良い返事を待ってる」

 そう言いながらも、もうリリア様の頭の中は夜会でいっぱいのようで、どのドレスを着ていくかどんな髪型にしようかとマダレイ様に嬉しそうに相談している。


「こんなかわいい子が私の娘になるんだって皆に自慢しなくちゃね」


 私に向けて満面の笑みを浮かべ、頬を赤く染めて話しているリリア様は、私が言うのもなんだけど、子供みたいだった。








ご両親へのあいさつって緊張しますよね。ミナには緊張している姿が似合わないので、リリア殿はああいったちょっとかわいらしい人になりました。意外な両親の姿ですが、貴族ではないのでそこはご容赦ください。


ミナの両親は控えめなのであまり活躍する場を考えていませんが、リリア殿はミナと同じで破天荒です。今後の活躍にご期待ください。


※9/2 リリアのドレスにいての表現を変更しました

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