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武官のお仕事


 戦争やら内乱だのとはとんと縁のない、なんだかありえないくらい平和で豊かなこの国も、2年前にはちょっとした危機を経験している。

 2年前の春先、季節外れの嵐がこの国を襲ったのだ。

 そんな大災害もここ数十年起きていなかったからか、国中が荒れた。川は氾濫し家は壊れ、作物も台無しになったから食糧もなくなりかけた。

 途方に暮れた国民たちを助けたのは、当然のことなのかもしれないけれど、王族をはじめとする富裕層の人々だった。

 率先して国庫を開き王城を開放した国王ヴァージヴァル4世の功績は大きい。そのおかげで次々に貴族や聖職者たちも動いたのだから。


 その時わたしは、薬師院でてんてこ舞いになりながら毎日運ばれてくる人々の傷の手当てと薬の調合をしていた。

 そこで出会ったのだ。

 わたしの、運命の人に。


 橋の修復作業中、落ちてきた土砂の下敷きになりかけた作業員を助けて怪我をした王国軍の武官さんがいるらしい、という噂は聞いていた。町の復興のため、王国軍に属する武官の皆さんが町で働いてくれているのは、患者さんの噂から知っていた。でも患者さんを選ぶようなことはしないし、あくまで噂であってだから?なんて薬師たちは皆そう思っていたと思うのだけれど。

 大忙しの薬師院、わたしの担当として運ばれてきたのが、その例の武官さん、グラウチカ・ショー様だった。


 彼が肩に負った傷は、命まで脅かすようなものではなかったけれど、それでも卒業して3年、まだまだ新人のわたしにはちょっと大変な傷で。


 一生懸命治療したつもりではあるけど、慌ただしいなかの作業だったし、きっとグラウチカ様には痛い思いをさせたと思う。何度か薬草の配合を多めにしてしまったこともあったから、傷に沁みたのだって1度や2度じゃないかもしれない。なのにグラウチカ様は一度も痛いと言わなかった。顔をゆがませることもなかった。

 ただただ慈しむように、町の人々や、薬師院ではたらくわたし達のことを見守ってくれた。


 そして1週間ほど彼が通院し、その必要もなくなった時。

 彼は、はじめて、たった一言、口にした。

 

「ありがとう」


 低く、甘く、ゆったりとした響くような声。鋭くとがった黒曜石のような瞳が、やわらかく弧を描いて。

 単純なことかもしれないけれど、わたしは完璧にノックアウトされた。心臓を射抜かれた。当時18歳。薬師になるため青春の全てを捧げてきたわたしの、初めての恋だった。


 そしてその恋心は日々膨らみながら、今に至る。

 なぜ王宮付の薬師になったのかって?

 そんなの、武官であるグラウチカ様の少しでも近くにいたいからに決まってる。



 

 

初めての恋であるがゆえにちょっぴり暴走気味な彼女のお話です。

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